ギーゼルヘア

登録日:2012/07/03(火) 20:59:58
更新日:2022/06/08 Wed 09:52:36
所要時間:約 7 分で読めます




ギーゼルヘアとは、ニーベルンゲンの歌に登場する勇士である。



【概説】
ブルグント国の3人の国王の1人で、兄に同じく国王のグンターとゲールノート、そして姉にクリームヒルトがいる。
ちなみに3人の国王と言っても実質的に権力があるのは長男のグンターだけ。

非常に好感の持てる性格の若武者であり、前半だと悪い部分が目立つグンター、短気なゲールノート
国の為とはいえ平然と悪事を行うハーゲン、直ぐに人を挑発するフォルカーと違い、彼が悪く書かれる場面は殆ど無い。
ジークフリートの事でグンターやハーゲンを恨み、後にブルグントの一族を滅ぼさんとしたクリームヒルトすら彼の事は憎まなかったほど
エッツェルの国で一族郎党を皆殺しにしようとしたクリームヒルトを彼が非難した時には、復讐に燃えていた彼女も心を動かした。
これで「麗しい」と表現されるイケメンで尚且つ武勇にも優れているのだから非の打ちようが無い。
現在のRPG作品やファンタジー漫画、ラノベなら主役を張れる逸材である。


【劇中】

ジークフリートが主役の前半では、まず最初にブルグントの一族のことが語られるので、彼の名前もそこで出る。
しかしそこでは名前と身分に少し触れられる程度で、実際に登場するのは話が少し進んでからのこと
ジークフリートがクリームヒルトの愛を求めブルグントの国を訪れる時の事になる。


ジークフリートがグンターの下に訪れて開口一番ジャイアニズムを展開し喧嘩を売ったことで皆がキレている中
1人冷静にジークフリートと家来を歓迎し、ワインを勧めて場を和ませるといったコミュニケーション能力を発揮。

彼の取りなしでジークフリートとグンター達は打ち解け、気づけば単純なジークフリートは彼らの最も誠実な友人となったのだった。

おかげでブルグントの一族は直後に起きたザクセン国の侵攻の際には、ジークフリートの協力を得て見事に勝利することができた。

ちなみにこの時のギーゼルヘアはさすがにまだ若すぎたか、戦には出ていなかったようである。
しかし勝利を祝う饗宴の時には多くの勇士達を出迎える為に忙しく働いたという。

そして宴が終わり、ジークフリートがヘタレてクリームヒルトへの求婚を諦め帰ろうとした時には国の恩人である彼に留まるよう懇願した。
この頼みでクリームヒルトの側に留まれる口実ができたジークフリートは喜んでブルグント国に留まった。

そしてそれはグンターのブリュンヒルトへの求婚に繋がり、またジークフリート自身のクリームヒルトへの求婚へと繋がっていくのだった。

このように彼はジークフリートという優れた勇士とブルグントを友情で結びつけ、ブルグントに様々な利益をもたらすのに一役買った。

しかしそのジークフリートとの結びつきが最後にはブルグントに大きな悲しみをもたらすことになり、彼自身もその運命からは逃れられないのだった。


事の発端はクリームヒルトとブリュンヒルトの諍い。

「お前の旦那とかグンターの下僕のクセに何偉そうにしてんのwww」というブリュンヒルトの勘違いによる煽りに
キレたクリームヒルトが「お前こそウチの旦那の妾だろwww」とこれまた煽り返し、結果ブリュンヒルトが泣き出した事が原因である。


泣かされたブリュンヒルトは忠臣であるハーゲンに泣きついて、ジークフリートを殺すように指示。
そしてハーゲンはグンターに「ジークフリートを殺ればヤツの持ってるニーベルンゲンの財宝が手に入る」
とジークフリートの暗殺を進言するのだった。

この事はゲールノートやギーゼルヘアの耳にも入り、真面目な二人は「馬鹿なことは止せ」と反対するのだが……
当のジークフリートに忠告するのを忘れるという大ポカをやらかしてしまったのだった。
まあジークフリートも完全にグンターを信用しており、クリームヒルトが「ハーゲンが怪しい」と言っても取り合わなかったから
忠告しても話をマジメに聞いたかは定かではないが…結果、ジークフリートは多くの伝説が語るように背中の弱点を刺され死んでしまう。
そして詩人はこの時のミスが原因でゲールノートとギーゼルヘアは後に命を落とすのだと語るのだった。

さて、ジークフリートの死を知ったギーゼルヘアとゲールノートは殺害反対派だった為に彼の死を悲しみ
何としても暗殺を阻止すべきだったと後悔した。そして未亡人となった姉クリームヒルトを保護する事を決めるのだった。
クリームヒルトも弟を愛していたので彼の頼みを聞き入れ、ブルグントの国に戻ることを決めた。

ギーゼルヘアのみが彼女の心を慰めることができたのだ。


そう、つまりゲールノートは彼女の心を慰めることができなかったのだ。やっぱ妹なんかに希望をもっちゃいけないね。


ところでハーゲンは憎まれながらも彼らの一族の1人だったために殺されることはなかった。これが後に災いを呼んだのは言うまでもない。
さてギーゼルヘアがクリームヒルトの保護者となり、いくらかの時が流れた。

ある日、フン族の王のエッツェルがクリームヒルトに求婚の使者に辺境伯のリューディガーを送ってくるという事が起きた。

これは良縁であるとして、一族の者はハーゲンを除いて皆「クリームヒルトが承諾するなら」と賛成した。
ギーゼルヘアは立場上、国を離れることができなかったが、別れ際には「何かあった時にはエッツェルの国に駆けつけて、姉上のために尽くす」と伝えたのだった。


ちなみにエッツェルの国に渡ったクリームヒルトは、故郷で母親と弟が自分の手を取って散歩してくれる夢を見たそうな。
そしてクリームヒルトはその夢の中でギーゼルヘアに口づけをしたという。
彼女が愛しく思った家族は母であるウーテと弟のギーゼルヘアのみであり、ハーゲンとグンターのことは恨みさえした

……ちなみにゲールノートに関してはスルーされている。



まあそんなこんなでクリームヒルトがエッツェルの国に嫁いで数年後
クリームヒルトはいよいよハーゲンへの復讐を思い立ち、一族の者を呼び寄せることにした。

表面的には友好的な彼女の連絡に、素直なギーゼルヘアと兄弟は喜んでエッツェルの国を訪れることを決めた。
ハーゲンの忠告にも耳をかさず、むしろ彼をジークフリートを殺した事でクリームヒルトに恨まれているから尻込みしているのだと兄弟揃って罵った。
実際、この時点ではクリームヒルトの狙いはハーゲンのみなので間違ってはいないのだが…
この非難がハーゲンのプライドを傷つけ、彼をエッツェルの国へ向かわせてしまうことになってしまうのだった。

さてエッツェルの国への旅の途中、彼らはかつてエッツェルの使者としてクリームヒルトに求婚を申し込みにきたリューディガーの領地にたどり着く。

この辺境伯の領地でのことはギーゼルヘアにとってまたと無い喜びとなった。
彼は辺境伯の娘と婚約することになったのだ。ちなみに婚約を提案したのはハーゲンとその友のフォルカー。
突然の事態に若き2人は戸惑いながらも互いを認め、ギーゼルヘアはこの愛らしい姫を抱きしめたのだった…チッ

だが詩人はこの描写の後に「のちにそれを楽しむことはできなかった」という言葉を差し込む。
つまりギーゼルヘアがリューディガーの領地に立ち寄ることはなく、二度と彼女には出会えないというわけである。
「俺、帰ったら結婚するんだ…」というのが死亡フラグなのは何時の時代も変わらないらしい。実に良いことである。

さて、彼らはリューディガーの案内でエッツェルの国を訪れる。

多くの客人と共に楽しい宴会が開かれたのだが、クリームヒルトが密かに放った刺客とハーゲンの弟ダンクヴァルトが交戦した。
そしてそれを知ったハーゲンが、エッツェルとクリームヒルトの幼い息子を首チョンパした為に楽しい宴会場は一気に血で血を洗う修羅場と化したのだった。
しかしエッツェルの宮廷に居候している勇士ディートリヒとその配下、そして今や親族であるリューディガーの一族の間には調停がなされ彼らは会場から避難する。
だがブルグントは彼らによって滅ぼされるのだ。

フン族との戦いの中、ギーゼルヘアはその剛勇を見せつけ、ハーゲンからも「このような主君を持てるのは幸せだ」と賞賛される。
さて、フン族の家来をあらかた始末した時、彼らの前にリューディガーが現れる。
ギーゼルヘアは「義父が調停に来てくれた」と喜ぶが、彼の期待も虚しく、義父はクリームヒルトをエッツェルの国に連れてきた際に誓った言葉に従い涙ながらに彼らと敵対する。
そして義父は彼の兄、ゲールノートと戦いで相打ちになるのだった。
義父と兄を失い悲しむギーゼルヘア。
だが彼の命も長くはない。
次いで現れたディートリヒの配下との戦いで彼は命を落とすのだ。

ディートリヒの家臣、気性の荒いヴォルフハルトが多くのブルグント族を切り殺すのを見たギーゼルヘアは彼に戦いを挑む。
互いに深手を負う激闘の最中、ついにヴォルフハルトの鎧を貫き致命傷を与えたギーゼルヘア。
しかし、彼もまたヴォルフハルトの捨て身の一撃を受けて致命傷を負う。
こうして2人の勇士は共に息絶えた。しかし詩人はギーゼルヘアのことを「これ以上勇敢な者は誰もいなかった」と讃えたたのだった。





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最終更新:2022年06月08日 09:52