翔べ!必殺うらごろし

登録日:2010/04/03(土) 20:25:27
更新日:2024/01/13 Sat 17:12:39
所要時間:約 7 分で読めます






必殺シリーズ
最大の異色作





二つの眼を閉じてはならぬ
この世のものとは思われぬ
この世の出来事見るがいい
神の怒りか仏の慈悲か
怨みが呼んだか摩訶不思議
泣き顔見捨てておかりょうか
一太刀浴びせて一供養
二太刀浴びせて二供養
合点承知の必殺供養


『翔べ!必殺うらごろし』は必殺シリーズ第14作目として1978年12月〜79年5月にABC・テレビ朝日系列で放送された時代劇。全23話。

【概要】

作品の主題として当時流行していたオカルトが取り上げられ、先生ら一行の当てのない旅先で起こる超常現象の原因の怨みを晴らすという、金を貰い殺しを行って来た今までの必殺シリーズのコンセプトから明らかに外れた勧善懲悪的な路線で作られていた。
殺しは主に明け方から昼に行い、悪人が被害者にしたのと同じような殺し方で仕返しをする。
溶鉱炉に突き落とす等、惨殺とも言える形で。
しかし、先生達が金を貰わず己が正義に則ってやっている分、悪人たちの所業は非常に悪辣で、必殺シリーズの中でも屈指の下衆揃い。
惨殺されてもしょうがないレベルのゴミどもではある。

殺しのシーンは先生が旗で串刺しにしたり、若がぶん殴って血みどろにしたり、おばさん役の市原悦子が日本昔話の声で近付いて来たら声色を変えて襲いかかって来たりと、悪人たちが屑を極めている分だけかなりリアルかつ凄惨なことになっている。
特に市原氏の演技はスタッフの一部が怖がって泣いてたらしい(必見)。

オープニングもカオスで、中村敦夫が禅を組み、朝日目掛けて無音で印を結んでいる。

そして話の内容もかなり陰惨かつ悲惨。
作品の主題上、登場人物は非業の最後を遂げることがとても多く、たまたま生きているうちに恨みを晴らして貰える人がいても、その後に報われない結末を辿ってしまうことも多い。
邪悪を極めた悪人たちを容赦なく惨殺するカタルシスは非常に大きかったが、ドラマとしては全体的に暗すぎた。
その結果残念すぎるほど視聴率が低く、必殺シリーズ最低の視聴率だった。
そりゃ夜10時に明るいとこでの殺しなんて。

※後述の撮影の超常現象はたぶんテレビ朝日の怨みが原因なんだろう。

本来なら26話制作される予定だったのだが、あまりに低迷した視聴率のため、最終エピソードを3話分早める形を取り、23話で打ち切られてしまった。
そして次作をもって必殺シリーズ自体の打ち切りが決定。
有終の美を飾るべく原点回帰を図られたのが『必殺仕事人』であり、皮肉にも爆発的人気を獲得して打ち切り取りやめ、という偉業を成した。



【登場人物】


◆先生

演:中村敦夫
座禅を組み、印を結び、立ち上ぼる朝日を浴びることで事件の被害者の最期と恨みを知り、その魂と一体化することで身体に超人的な能力が宿る霊能・超能力者。
馬と同じかそれ以上の速さで悪人の元へ駆け着け、大日如来の梵字の書かれた旗と旗竿を武器に悪人を処刑する。
主に悪人に突き刺し、悪人を壁や大地に串刺しにしたり槍投げのように仕留める。
また、旗竿で刀を受け止めることも。おそらく先生の超能力の効果で旗竿は硬くなっているのだと思われる。
その他念力も使い素手で刀を掴み止め、未来や過去を霊視したり悪人を振り回し木に叩き付けて撲殺する怪力を発揮したりもする。
ジャンプ力は作中描写から推定15mで、しかもバーチャロイドよろしくジャンプの頂点で回転しながら索敵する事も可能。
挙句の果てには、沈んだ太陽を呼び戻して朝に変えたことも。でも本人曰く「俺はまだ修行が足りない」「未熟者」らしい。

仕掛けて仕損じ無し。必殺シリーズマニアの誰もが認める、最強候補の一人ではある。
ただし基礎設定の時点で完全にオカルト属性の存在なので「番外」扱いされる事も少なくない。
ちなみに本名は不明。童貞である。

普段は自然天然のものしか口にせず、雑草や木の皮、野鳥の卵などを擦って作った汁を飲んでいる。
味はとても不味いらしく、おばさんが一度だけ口にした際は思い切り顔をしかめて吐き出したが、先生にとっては美味しいらしい。
唯一の弱点は「酒にとても弱い」更に「薬や毒が効きやすい」ことか。
一度だけ悪ふざけで正十が酒を飲ませた所、卒倒した。
演じた中村敦夫は制作にも積極的にアイディアを出していた。


おばさん

演:市原悦子
あるところで記憶を無くし、本名すら忘れた女。普段は木綿針を売る行商として行動する。
先生によって記憶の一部を蘇らせてもらい、完全に記憶を取り戻すため同行するように。
金のことなど顧みない一行の財布係も兼ねており、皆のおふくろさんみたいな立ち位置でもあった。
どうしてもお金が必要な時に、先生の法力を売り込む時の宣伝文句を唸るのも、たいていおばさんの役目である。

昔はくノ一の様な扮装で殺し屋をしていた。
得物は匕首で、まんが日本昔話の声で悪人をおびき寄せて一太刀。急所をデュクシ!である。
殺害時の所作が何時も鬼気迫り過ぎで、加えて終わった後に毎回違う印象的な一言を呟くため、インパクトは絶大。

最後は記憶を取り戻し、悪人達からとある子供とその家族を守るために死者の怨みを晴らす「うらごろし」ではない殺しを敢行し、悪人に立ち向かうが……


◆若

演:和田アキ子
怪力とその長身故に男として生きて行かなければならなくなった女。
というか中の人そのまま。
謎が多い人物であるが、幼い頃から長身の容姿にコンプレックスを持っており、過去に病気で弟を亡くした経験がある、ということは分かっている。
そのため、自殺願望のある女性にあった時には「生きたいと思っても生きられなかった奴だっているんだぞ!」と激しい怒りを見せた。
割合バクチ好き(正十と一緒に行くこともあれば、一人で行くこともある)なようだが運は弱く、たいていは有り金全部スッて帰ってくる。
一方裁縫や料理が得意(下手な主婦よりよっぽど上手)という、女性的・繊細な部分も持ちあわせる。
女性に対しては特に同情的に振る舞うことが多く、女であることの意義・喜び・苦悩などを尋ねることも多い。
男扱いされることは冗談でもタブーであり、ひどく傷つく。
若のことを男だと思っていたある女から「男には私の気持ちなど分かりません!」と酷い言葉を叩きつけられた時は、目に涙を浮かべながら悔しがり、立ち去った。

得物は無く、殺し技としてとにかく相手を死ぬまで殴り続ける
のちのスタープラチナである
やっぱり中の人そのまんま。
相手が刀持っててもお構いなし。

主なフィニッシュパターンは……。
  • 殴って相手の頭を司馬懿状態に(頭270度回転)
  • 倒れた山伏の背中にジャンプして足から着地し背骨折り
  • ボコボコにした後悪人を担ぎ上げ、意識のあるまま溶鉱炉に叩き落とし焼却
  • 悪人を穴に叩き込み、デかい石を投げ付ける
  • ボコった後に命乞いをする悪人を樽に叩き込み、樽の上から渾身の肘打ちでトドメを刺す
  • 樽を使いロードローラーの要領で轢き殺す
  • 馬に乗った悪人に走って追い付き、飛び付いて引きずり下ろし殴りまくり、斜面に投げ落として首の骨を折る
  • 悪人を屋根に放り投げて落下させる
  • 相手が捕縛のために出した縄を逆利用、吊し上げ人間サンドバッグにして殴り殺す
  • ボコボコに殴り、坂を転がる悪人に先回りしてさらに殴る
  • 廊下で人間ボーリングして首の骨を折る(相手は仮面ライダー2号こと佐々木剛氏)
  • 水溜まりに悪人の顔面を突っ込み溺死させる
  • 階段からでんぐり返しの要領で悪人を転がす
  • 悪人にブレーンバスターをふっかけて頭を石にぶつける
  • 悪人を庭石に数度叩き付け、止めに己の拳で命を砕く
と多彩。極悪人をぐうの音も出ないほどにボコボコにし、息の根を止める様はとても痛快である。


なお、中の人は「必殺シリーズ」に出られると聞いて喜んだが、このような役柄にショックを受け、涙まで流したそうな……まだ若かった頃の話である。
なお、歴代の女性仕事人で飛び道具を使わないのはこの人が唯一。
ちなみに和田アキ子はこれ以降時代劇には出ていない(流石に似たような役をやらされることを懸念したのだろう…)。
殺陣はかなり苦労して演じたらしく、撮影中は身体に生傷が絶えなかったのだとか。
もっともスタッフ、キャストとの相性は良くキレイに撮ってくれたというコメントが残っている(この番組がきっかけで中村敦夫から「空飛ぶケチャップの歌」を送られている)。
終盤は和田アキ子自身が体調を崩していたために若の出番が激減。
最終決戦にも参加しなかったのは残念である(劇中設定ではひどい風邪を引き、熱にうなされていたため)。


◆正十

演:火野正平
先生達の後方支援担当。情報収集などを行うため殺しはせず、人を殺したことはない。
過去の記憶が無いおばさんは「江戸で殺し屋の斡旋をしていた」と何故か彼を覚えていた(記憶を失った後で面識ができた可能性も)。
演者を含め共通点が多過ぎる為、『新必殺仕置人』や『江戸プロフェッショナル 必殺商売人』で中村主水と組んでいた正八と同一人物と噂されているが、一部設定に食い違いが生じる謎がある。
金にがめつい面も見せ、博打好きな上に弱くお調子者…と、ろくでなしなところもあるが、
なんだかんだで人情に厚いところもあり、極悪人達と比べればはるかにマシ。


◆おねむ

演:鮎川いづみ
眠ることと食べることが大好きな、熊野権現の守り札を売り歩くものぐさ巫女。
常にあくびをしており、眠たげ。
細い見た目によらずかなりの大食漢で、食べ始めたらご飯数杯ぐらいはペロリと平らげる。
アンニュイで、やや貞操観念が低いっぽい発言が多い。
「なんでも屋」ではまだない。
正十に惚れられていたっぽいが、結局は結ばれなかった。
最後は「また一人ぼっちか」と言い残し、何処かへと消えて行った。この発言から、旅先でよく出会っていたのは偶然ではなく、一行の後を追いかけていたことが分かる。
彼女にとってこの奇妙な一団は、紛れもなく家族みたいなものであったのだ。



【主な超常現象一覧】

各回で取り扱う超常現象にはナレーターによる解説が入るのだが、例として「ソビエトではテレパシーの研究が行われていた」など時系列を無視した解説が入る事もある。

  • 第1話→血の涙
  • 第2話→憑依
  • 第3話→人面疽
  • 第4話→トッペルゲンガー
  • 第5話→ラップ現象
  • 第6話→憑依
  • 第7話→赤い雪
  • 第8話→生き写し
  • 第9話→ポルターガイスト
  • 第10話→テレポート
  • 第11話→憑依
  • 第12話→自縛霊
  • 第13話→オートマティスム:オートライティング
  • 第14話→予知
  • 第15話→テレパシー
  • 第16話→幽体離脱:複体
  • 第17話→エクトプラズム
  • 第18話→魔剣
  • 第19話→霊感
  • 第20話→ダウジング
  • 第21話→空中浮遊
  • 第22話→テレパシー
  • 第23話→催眠術
  • マジモノ? ※撮影中→中村敦夫が事故で怪我、市原悦子と和田アキ子が病気(長期の風邪程度らしいが、和田の方は死にかけたとも)。




【主題歌】

和田アキ子「愛して」
浜田省吾の「愛を眠らせて」のアレンジ曲で聴き比べるのも一興(名曲)。

殺しのテーマは上記の曲をアレンジした「一太刀浴びせて一供養!」
これが流れた時、悪人は凄惨な最期を迎えて死ぬ。
元々時代劇の殺陣のテーマは基本的にそうであるとは言え、更に作風として特化している必殺シリーズの中でもそのまた屈指の処刑用BGMである。




【余談】

  • 今作のBGMは比呂公一が担当になったので前作までのBGMは使われなかった。なので平尾昌晃が担当したおなじみのBGMは存在しない。似たような状況は第29作目の『必殺剣劇人』などがある。
  • オープニングナレーションは中村主水役でおなじみの藤田まことが担当した。
  • この作品以降、必殺シリーズの主題歌は出演者の誰かが歌うのがお約束になる。





超自然現象
それを証明する多くの伝承が
古来より東西に渡って受け継がれている
この一行はこれからも
このような未知の世界への旅を続けるであろう
たとえあなたが信じようと信じまいと






翔べ!必殺うらごろし
必殺シリーズ第14作目
←前作:
第13作 必殺からくり人・富嶽百景殺し旅
:次作→
第15作 必殺仕事人


追記・修正は先生に恨みを晴らしてもらってからお願いします

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 翔べ!必殺うらごろし
  • 必殺シリーズ
  • ABC
  • テレビ朝日
  • うらごろし
  • 先生
  • おばさん
  • トラウマ
  • 和田アキ子
  • たまらないよー!!
  • 仕掛けて仕損じなし
  • まんが日本昔ばなし
  • 処刑
  • オカルト
  • 超常現象
  • オカルトブーム
  • 不遇
  • 隠れた名作
  • 異色作
  • スタープラチナ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月13日 17:12