小説 仮面ライダー響鬼

登録日:2013/06/25 Tue 18:43:43
更新日:2023/07/13 Thu 13:12:03
所要時間:約 10 分で読めます




「なんていうか……鍛えたらこうなった?」

【基本】
講談社キャラクター文庫刊、著:きだつよし
仮面ライダー響鬼』の小説版。

『響鬼』の小説としては二作目にあたり、
2005年7月にソノラマ文庫から発売された『仮面ライダー響鬼 明日への指針(コンパス)』(著:稲元おさむ)がテレビシリーズ序盤(明日夢の高校受験時)のノベライズだったのに対して、
今作は江戸時代初頭を舞台にテレビシリーズとも劇場版作品『仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼』ともまったく異なる物語が描かれる。

過去に活躍した鬼達の物語を描くという点は劇場版の『7人の戦鬼』を彷彿させるが、一部の設定に食い違いがあるため劇場版とはパラレルワールドだと思われる。
また本作最大の特徴として、響鬼の元ネタである変身忍者 嵐』との共演が描かれている。作者の公式ブログ曰く「響鬼版まんがまつり*1」。
単なる共演に留まらず、鬼と化身忍者の共通点等、設定面から濃密なクロスオーバーが描かれており、実質響鬼と嵐のダブル主役で物語は進行していく。
テーマは「受け継がれる意思」。

余談だが、トライアングルとかシンバルとか出てきた劇場版と違い、鬼たちの武器は太鼓(音撃鼓。いつものアレ)、横笛、鈴などと全て当時の日本にあってもおかしくない楽器をモチーフにしている。


【物語】
幕府からの勅命を受けた伊賀忍者、名張のタツマキは吉野の晴明寺に住むというある者達に出会うべく険しい山中を進んでいたが、巨大な怪生物「魔化魍」の一種であるヤマアラシに襲われる。
窮地に陥るタツマキの前に、謎の若者ヒビキが現れた。
ヒビキが音叉を翳した瞬間、彼の肉体は炎に包まれ、鋼のような肉体を誇る異形の戦士「響鬼」へと変身を遂げた。
圧倒的な強さでヤマアラシを倒した響鬼は、タツマキを伴って吉野の里へ帰還する。
吉野の重鎮を前にしてタツマキの口から伝えられたのは、かつて吉野の里にいた男、谷の鬼十が天下泰平の世を再び戦乱の世に変えようとしているという噂だった。


【登場人物】
ヒビキ / 響鬼
ご存知、我らが主人公の音撃戦士……なのだが、時代から分かるように本編主人公の日高仁志や戦国のヒビキとは別人である。
22、3歳の若者。
別人ながら項目冒頭のすっとぼけたセリフや飄然とした態度、師匠や弟子を持つ事を苦手とする等、若い頃のヒビキさんといった感じの人物として描かれている。
赤子の頃に両親を魔化魍に殺されてしまい、その現場を救った鬼達に引き取られたという過去を持つ。
前述のように師匠を持つ事を嫌った為、鬼への変身や音撃を独学で会得したという凄まじい才の持ち主。
音撃打は「音撃は遠くから放つより直に叩きこんだ方が強いに決まってる」という彼の持論によって編み出された。
しかし、その危険度の高い戦法や師匠を持たない変わり者な気質故、吉野でも屈指の実力者でありながら彼を煙たがる者は多い。
本作では鬼十絡みの事件から、自身の出生に関わる秘密に迫る事となる。
ちなみに本作では紅や装甲等の所謂フォームチェンジはしない。両方とも設定上仕方ない*2のだが。
その代りと言っては何だが、技名こそ出てこないが魔化魍以外の敵用の武器として鬼棒術 烈火剣を活用している。

●ハヤテ / 嵐
もう一人の主人公。
鬼十の事を探るヒビキ達の前に現れた忍びで、谷の鬼十の息子。
年はヒビキより二つ程度下。
鬼のメカニズムを参考に造られた化身忍術により、異形の戦士「嵐」になる力を持っている。
ヒビキとは対照的に生真面目な性格で、対面当初はお互いの誤解もあり、ヒビキと死闘を繰り広げた。
死を看取ったハズの谷の鬼十の反乱の噂を聞き、父の名を騙る者の調査とその野望を砕く為に行動していた。
本作ではヒビキとの意外な接点を知る事となる。

言うまでもなく『変身忍者 嵐』の主人公である青年。『仮面ライダーディケイド』以降お馴染みとなったリイマジではなく、テレビ本編に登場したハヤテ本人。
但し、血車党壊滅後に西洋妖怪が登場せず数年経過したというif展開になっている(作中で明示されてる訳では無いが)*3
そのため、衣装は本編初期に着用していた原色の忍者服のままであり、変身の際にも本編中盤以降カットされた変身ポーズ&掛け声を使用する。
また、作中で使う技も「影写し」や「羽根手裏剣」など、全て本編初期に多用された技ばかりである。
テレビ本編では中盤から姿を消した忍馬ハヤブサオーも健在。

イブキ / 威吹鬼
吉野の里の若き頭目である少年。
年は15、6歳。
年若い性格ながら常に冷静沈着で毅然とした態度の持ち主で、タツマキから幕府に鬼の力を貸すように要請された時も鬼の力の恐ろしさを知る故に話を断ったり、鬼十絡みの事件にも裏がある事を真っ先に感づいたりと本編よりも泰然としている。
鬼としての才能も凄まじく、10歳の頃には既に変身術を身につけたり、八体のヤマビコを秒殺する等、実力は高い。
頭目の息子だからといって分け隔てしないヒビキの人柄を気に入っており、煙たがられている彼の数少ない理解者の一人でもある。
戦闘時には音撃笛という横笛型の武器を使用する。この時代の日本(しかも外界との接触を避けていた吉野)にトランペットがあるとは思えないので、音撃管が出てこないのは仕方がないだろう。
なお著者は『響鬼』本放送後、イブキの演者を自分が主宰する劇団の公演(著者も役者として出演)にゲスト出演させ初舞台を経験させたことがあり、それが今回イブキを続投(?)させた理由なのかもしれない。

●サキ / 佐鬼
本作ヒロイン。
ヒビキやイブキの幼馴染である少女。
年は18、9歳。
女性ながら厳しい修行に耐えて、鬼に変身する力を身に付けた。
基本、お転婆な性格だが、独断行動が多いヒビキの姉貴分を気取ったり、彼の事を気遣ったりと世話焼きな娘でもある。
その身体能力の高さと頭の回転の良さは吉野でもトップクラスで、ドロタボウの群れを単独で撃破するなど戦闘能力は高い。しかし戦場に立つ事はなく、普段はフットワークの軽さを活かして吉野随一の密偵として働いている。だがその真意は、戦場から女を遠ざけたいという吉野側の意向によるものである。
あと鬼の変身の性質上、変身時には衣服を脱ぎ捨て全裸になる。
全裸になる
大事な事なので(ry。
変身時には鈴を鳴らして肉体を桜色の炎で包み、「佐鬼」に変身する。
神楽鈴に似た「音撃鈴」を武器として戦い、鈴についた五色布で対象を絡め取り、布を通して音撃を叩きこむ戦法を得意とする。
当たり前だが変身を強制的に解除させられるとやはり全裸になる。
全裸になる
全 裸 に な る
大事すぎる事なので(ry。

●タツマキ
吉野にやってきた初老の伊賀忍者。
通称「名張のタツマキ」。
かつてハヤテと共に血車党や化身忍者と戦った男。
本作では鬼十の噂を吉野に届け、ヒビキ達が事件に関わるきっかけとなった。
一方で彼らに何かを隠している素振りを見せ……?

本作のタツマキは白髪があると描写されているが、テレビ本編のタツマキの髪は真っ黒である。
タツマキを演じた牧冬吉が『変身忍者 嵐』出演の五年前に、髪に白いメッシュを入れて白いマフラーを着用し、白い凧に乗る忍者を演じていたため、中の人ネタである可能性が高い。

●カスミ
タツマキの娘。
嘗て父タツマキ、弟ツムジと共に親子三人でハヤテの旅に同行していたくのいち。
現在は忍びを辞め、医者を志し勉学に励んでいる。
この設定は、テレビ本編の途中でカスミが急に降板した事の辻褄合わせだと思われる(カスミ役の林寛子が当時売れっ子でスケジュールの都合がつかなくなったため)。
ちなみにテレビ本編では毎回ムチムチの太ももを披露していた。一見の価値あり。

●ツムジ
タツマキの息子。
テレビ本編では独断で行動して痛い目に遭うなど、足手まといなキャラだったが、本作ではとっくに元服して立派な青年になっている。

●キドウ / 鬼堂
吉野の重鎮の一人である男性。
破戒僧といった感の大柄な外見だが、鬼の規律を重んじる真面目な気質の持ち主。
故に奔放なヒビキとはソリが合わず、彼の事を厄介者扱いしており、ヒビキの方も影で「荒くれ者の破壊僧」呼ばわりしている程。
かつて鬼十とは親友関係だったが、諸事情で彼に「鬼祓い」を施し、吉野の里から追放した過去を持つ。
鬼としての姿は「鬼堂」と呼ばれ、巨大なホラ貝を使った音撃を得意とする。
鬼十の事件には何か思う所があるらしく、それに関係するヒビキの秘密も知っているようなのだが……。

●キリュウ / 鬼龍
キドウと同じく吉野の重鎮の一人である男性。
キドウとは対照的に穏やかな雰囲気だが、静かな中に有無を言わせない威圧感を込める時もある。
かつては名うての音撃戦士だったが、戦いの中で深い傷を負い引退。
戦いの経験を生かして、今では諜報部門の長を務めており、サキにあらゆる密偵の技能を叩きこんだのも彼である。
キドウと同じく鬼十の親友であり、今回の事件に思う所がある様子だが……?

●鬼十
通称「谷の鬼十」。
かつて吉野の里に住んでいた男性で、キドウやキリュウとは親友関係。
幼年期に魔化魍に両親を殺され、吉野に引き取られたというヒビキに近い過去の持ち主。
元々、体が弱かった為、鬼の修行で辛い思いをしていた様子。
そんな思いから「弱き者でも持てる強い力」を欲するようになり、素質の無い者でも鬼と同等の力を振るえる「鬼の鎧」を開発する等、技術者としての方向を見出す。
しかし、これが鬼の力を重んじる吉野の頭目の逆鱗に触れてしまい、鬼の力を剥奪されてしまう。ちなみに剥奪する役目を引き受けたのはキドウである。
吉野を去った後、下界で一般の女性と出会い、ハヤテを授かる。
自分の技術を生かせる場として「弱き者を守る」事を信条として掲げていた血車党に技術提供し、同時に鬼のメカニズムをベースに多彩な獣の力を人の身に宿す異形の戦士「化身忍者」を作り上げる。
しかし、血車党の下劣な本性を知り、己の所業を悔いる。
ハヤテの進言により、彼を血車党と対等に戦える戦士「嵐」に改造し、同時に己は血車党から全ての資料を破棄しようとするも察知され討ち死。
吉野では弾かれ、血車党には利用された挙句殺されるという悲運の人であった。
だが彼が残したある物が、吉野の窮地を救う切り札となる。

●服部半蔵
三代目伊賀忍頭目の男性。
タツマキにとっては上司である。
血車党の暗躍を知り、事態解決の為にヒビキやハヤテ達と接触する。
常人にしてはかなりの実力者であり、圧倒されたとはいえ、化身忍者数体を相手にそれなりに渡り合う程。
忍者にしては性格も気さくな所があり、ヒビキ達にも冗談を言うほどである。
一方で鬼や化身忍者の力にも興味を示しているが……。

安倍晴明
言わずと知れた最も有名な陰陽師。
直接の登場はないが、鬼への変身術は本作では彼が開発したものとされている。
彼も鬼に変身できたかは不明。




【用語】
●鬼
歴代で言う所の仮面ライダー。
凄まじいまでの荒行をこなし、特別な術を身に付けた者のみが変身できる異形の戦士。
総じて魔化魍の巨体相手に真っ向から互角に渡り合う凄まじい剛力と瞬発力を誇る。
清めの音を霊気と共に送り込み魔を清めて土塊に還す音撃を使う。
これに関してサキは「厳しい修行に耐えられるなら誰でも変身できる」的な発言をしているが、作中修行についていけない者達の存在が多々示唆されており、やはりある意味で素質が無ければ至れない領域にいる存在であると言える。

魔化魍
お馴染みの怪物の総称。
本作では童子や姫は出てこず、悪気によって変異した土塊が変貌する怪物として出てくる。

●化身忍者
『変身忍者 嵐』本編における怪人の総称。
体の細胞配列を変化させ、動物の力を持った異形へと姿を変える。
ハヤテが変身する嵐も鷹の化身忍者であり、変身には特殊な音波を浴びる必要があるが、本編に登場した他の化身忍者が音波を用いて化身する描写は見られなかった。
本作に登場する化身忍者は、全てテレビ本編に登場した化身忍者と同じモチーフが採用されている。


【余談】
著者であるきだつよしはTV版『響鬼』前半のメインライターであり、前半のノリを期待するファンも少なくなかった。
ところが、蓋を開けてみればTV版後半や劇場版を彷彿とさせるような設定と世界観であり、これには多くのファンが驚いた。

ただし、きだ氏はブログにてTV版後半の路線について好意的な意見を残しており、また元々響鬼は『変身忍者 嵐』が原型の一つであった事、TV版後半に『嵐』のデザインリメイクである「鬼の鎧」というものも出てくる事などを考えるとなかなか興味深いノベライズになったとも言える。
実際、きだ氏は本作を「前半でも後半でもない、もしくはその二つをきだ的に咀嚼し再構築した「第三の響鬼」として解釈して頂ければ幸いです」と評している。
きだ氏自身も剣劇系の舞台を手掛けたり、本作が発売された日に芝居仲間と共に和風ファンタジー舞台を上演して自分もメインで出演したり*4
仮面ライダー電王』のヒーローショーで信長を出したり、舞台版『SAMURAI7』(2008年版)でヘイハチ役を演じたりしていたため時代劇背景の方がやりやすかったのかもしれない。

ちなみに本小説発売の一月ほど前まで、東映特撮Youtubeにて『変身忍者 嵐』が公式配信されていた。
当然ながらそこで初めて『嵐』に触れた読者も少なくはないと思われ、小説における競演はもしかしたらそれを見据えての事なのかもしれない。



追記・修正
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 仮面ライダー響鬼
  • 小説版
  • きだつよし
  • 小説版仮面ライダーリンク
  • 講談社キャラクター文庫
  • キャラクター文庫
  • 小説
  • 変身忍者嵐
  • 響鬼
  • 仮面ライダー
  • 平成ライダー
  • 伝奇
  • 江戸時代
  • 初代響鬼?
  • 服部半蔵
  • 感慨深いラスト
  • クロスオーバー
  • 講談社

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年07月13日 13:12

*1 ちなみに作者のきだは、自身の劇団の解散時のライブイベントを「春の発砲まんがまつり」と名付けていた。

*2 紅はある程度慣らし期間を挟まないと使えない。装甲はフォームチェンジに使う道具がまだ存在しない。

*3 西洋妖怪との闘い云々だけなら「単に作中で触れてないだけ」と解釈できなくもないが、小説終盤で明らかになる「とあるキャラクターとの関連性」を顧みる限り、やはりTVシリーズ後半の戦いが起きなかった(むしろ『小説 仮面ライダー響鬼』の物語がそれに相当)と考えるべきだろう。

*4 出版社側が発売と上演初日を合わせてくれたそうな。なおその舞台のグッズ販売では、本作のきだ氏サイン入りバージョンも販売されていたという。