薬売りのメソメソ

登録日:2012/06/25(月) 08:56:11
更新日:2022/10/26 Wed 23:13:17
所要時間:約 5 分で読めます




薬売りのメソメソは、十日野鬼久が月刊コロコロコミック1999年8月号(No.256)に載せた読み切り漫画である。

第44回小学館新人コミック大賞で佳作を授賞した十日野の作品。コロコロでは読み切りから連載へつながるパターンが多いのだが、十日野の漫画が連載されることはなく、後にも先にもこれっきりであった。

そもそもこの掲載自体、映画「スターウォーズ エピソード1 ファントム・メナス」のコミカライズ版のページ不足分(「急病のため」としてラスト16ページ分が未掲載であったが、単に「原稿を落とした」可能性もあり)の穴埋めであったとみられるが。

コロコロは知っての通りギャグや下ネタ、かっこいいマシンやホビーが幅を利かす雑誌である。

しかしこの薬売りのメソメソは、そのどれにも当てはまらないような話であった。

そのためコロコロ読者の支持は得られなかったが、わずか16Pである意味とてつもないインパクトを残した(内容は後述)。



登場人物
メソメソ
薬売りの行商をしている女の子。本名なのか知らないが、怖くなると名前通りめそめそと泣く。しかし普段は明るく元気で優しい性格。本人は裁縫が得意じゃないというが、なかなか上手である。大好きな父親がいる。


魔女のおばあさん
道に迷ったメソメソを泊めてくれた魔女のおばあさん。いかにも昔話に出てきそうな人相風体なので、メソメソに警戒される。

魔法の力が弱ってきているらしく、「若返りの薬」、「時間を長く感じない薬」、「ひとりでも楽しい気分になる薬」をほしがっている。普段あまり料理をしないようである。



話の内容
薬売りの行商をしていたメソメソは、迷子になって森で夜を迎えてしまう。めそめそと座りこんでいると、そこは魔女の家のドアの前だった。


「薬売りか…。若返りの薬はあるかい?」


泊めてもらうことになったメソメソ。昔話に出てきそうな風体の魔女に、太らされた挙句、眠りについたところを食べられるのではないか、と心配する。ところがコーヒーにミルクを入れられた時


「あ、そんなにミルク入れないで…。」


「なまいきだねメソメソ。ねむれなくなるよ。」


「!!」


もう眠りにつく心配をされているということは、すでに自分は美味しそうに太っていると思われているということ…!?、と思ったメソメソ。次第に瞳が潤み始め、おばあさんが売ってほしい薬の話をしだしても、そんな薬持っていないし、めそめそと泣くばかり。

耐えかねた魔女は相手にしてられなくなり、


「あたしの友だちだったら、こんなめそめそ泣きゃしないってのに。」


と言って部屋に戻ってしまう。


不思議に思うメソメソ。こんな森の魔女に友達などいるのだろうか?

するとおばあさんの部屋から話声が。


「…あの歳で行商なんてえらいねェ、ヒイラギ。」


「―でもあの子はいいさ。ひとりのようでひとりじゃない。」


「たびさきで友だちをこしらえて…なお、あの子の帰りをまってくれているひとがいる。」


「あの子のころからあたしゃ―」


一体誰と喋っているのだろうか。不思議に思ったメソメソがドアの穴から中を覗いてみると…











そこには目いっぱいのぬいぐるみを相手に、寂しそうに話しかけているおばあさんがいた。



メソメソはおばあさんがなぜ「若返りの薬」、「時間を長く感じない薬」、「ひとりでも楽しい気分になる薬」をほしがっていたのか、理解したのだった。


その夜、なにかを決心したメソメソはスコップと袋を持って外に出る……。






翌朝おばあさんのぬいぐるみを直してあげることにしたメソメソ。おばあさんも大喜びする。そして父親から聞かされた言葉を語り出す。


「薬はただのませてもきかないって。たすけたい…きもちに神さまが力をかしてくださるんだって。」


「おまえの薬でたすかったひとの笑顔で、おまえのこころもすくわれる……。」


「にんげんはひとりでは生きていけないようにできている。神さまはそこまでなさけぶかいから――…。」


昨夜の外出のせいか、そこまで語ってうたたねをしてしまうメソメソ。その言葉とメソメソの優しさに涙を流すおばあさん。


「…メソメソの神さまは、こんなおいぼれ魔女の…この子を早くぶじに村へ帰してやりたいってきもちにも、力をかしてくださるかしら……?」


そして寝ているメソメソの靴に精一杯の魔法をかけるのであった。



日が高くなり、帰ることにしたメソメソ。

おばあさんは魔法でメソメソの靴を「空とぶくつ」にしていたのだった。目的地を思って歩き出せば、体が浮いて飛んで行ける靴だというのである。

驚き喜ぶメソメソ。


「…そんじゃあ帰りまぁぁっす!」


「二度とこんな森とおるんじゃないよ。」


「……」


「……」


「ひとついいわすれてたんだけど、あたしゆうべこっそりね」


「おばあさんの足もとあたりに、薬草のタネまいといたから。」


「ちゃんッとおせわしてね!」


メソメソは昨晩、薬草の種を植えていたのだった。


おばあさんに薬草を育ててもらうことで、若返り、時間を長く感じず、ひとりでも楽しい気分になるだろう、と考えたのである。


そして最後に一言












「実がなるころにまた来るわ!」



笑顔で手をふるおばあさん。




その後森には、忙しそうに、しかし楽しそうに薬草の手入れをするおばあさんの姿があったのである。


メソメソが渡したのは「心の傷に塗る薬」だったのだろう。




以上が話の内容である。心温まる話、ファンタジーな絵のタッチは、コロコロでの浮きっぷりが凄まじかった。


しかしコロコロ読み切りものの中でも、その完成度の高さは強いインパクトを残している。




作者は自分のHPでこの漫画を公開しており、複製・転載・加工・翻案・配布などの二次利用を認めている

現在作者HPが消えているため読むのは困難であるが、上述のように転載などの二次利用を認めているため、有志がどこかへアップロードしてくれるのを待つか、当時のコロコロを押入れから探してくるしかない。うまく手に入れたら、ここのサイトにアップロードしてもらえると、助かります。

運よく見つけた際は、明らかにコロコロでは場違いなその作風を感じていただきたい。


※余談
作者の十日野鬼久はゲド戦記(小説)の大ファンらしく、自分のサイトもゲド戦記のファンクラブ的な位置で作っており、イラストを描きまくっていた。薬売りのメソメソはついでに載せていたようで、原稿も残っていないらしい。もったいない……







おばあさん「追記・修正の薬はあるかい?」
メソメソ「そんなのないよぉ…」メソメソ

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最終更新:2022年10月26日 23:13