黒/Black(MTG)

登録日:2011/11/15 Tue 05:06:27
更新日:2023/12/09 Sat 02:11:23
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マジック:ザ・ギャザリングの項目へようこそ!

唐突だが、悪のカリスマに惹かれた経験はあるだろうか?
世界征服を企み、平和を乱し、争いを仕掛け、秩序を破壊し、正義のヒーローをあざ笑う──

『悪』はどうして人を惹き付けるのか? どう考えても悪いことなのに。
誰が見ても反社会的なのに。他人を傷つけるのに。



万人が納得する答えは無いのかもしれない。
それでもここで宣言しよう。

『悪』の魅力の真髄が、この項目には確かにある、と。


──マジック:ザ・ギャザリングの、黒の項目へようこそ。




黒のイメージ

MtGのデザイナー達は、カラーパイという理念の下に、
「色が設定上持つイメージと、その色がゲーム内で持つ機能との合致」
を鉄則としてカードをデザインしている。

マンガやアニメに例えれば、
「キャラ設定と、そのキャラの作品内での行動との合致」と言える。
かなり重要なポイントだということが分かってもらえるだろうか。

現在、MtGのデザイナー達は黒の性格をこう定義している。

「自分の意思を貫け。自分の渇望を追え。心のままに動け。道徳? 常識? 他人? 関係ない。無視しろ」

素晴らしく自己中。現実に居たら迷惑極まりない。だが……。
そこにあるのは、強烈な精神力だ。圧倒的な自己主張だ。孤独をものともしない自立心だ。

秩序や道徳を破壊したくて無視するのではない。
自分が持つ自分の秩序だけが、唯一従うべきルールだと、黒は雄弁に語っている。


話が逸れた。この性格は根幹であり、これだけではゲーム内での機能を設定しきれない。

そこで、更に細分化すると以下のようになる。


1.「利用出来るものは良識を無視して利用する」
黒にとって万物の価値は全て、自分に利益をもたらすか否かで決まる。
黒は常に自分の周囲を観察し続け、自分に利益・不利益をもたらす可能性があるものを見極めようとしている。
自分に利益をもたらす可能性があるものはそれを他人が持っているならば力づくででも奪い取り、
自分に不利益をもたらす可能性があるものは全力でそれを排除しようとする。
だがそれは見方を変えれば、他のどの色よりも全てのものが持つ価値・可能性を信じているとも言える。
ジャイアン「お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの」


2.「代償はいくらでも支払う」
黒にとって大切なのは、自分の望みを叶えること、ただ一つ。腕の一本や二本? 悪魔に魂を捧げる? 友人に見離される?
お安い御用。望みが叶うのだろう? それ以上の対価など存在するだろうか?
黒は痛みを恐れない。故に抑止は一切効かない。
ディオ・ブランドー「おれは人間をやめるぞジョジョーッ!」


3.「他者への無関心、社会からの孤立」
個人の利益よりも優先するものがある、と考える人々を、黒はまったく理解出来ない。
何故己の利を投げ打ってまで他人を優先する理由がある?
良心? 信頼? 絆? 馬鹿げている。傲慢こそ強者の特権ではないか。
イプセン「この世で一番強い人間とは孤独でただ一人で立つ者だ」


4.「邪魔者は速やかに排除する」
黒は他人の意見を否定しない。だが誰かが黒の行く手を阻んだら?
黒は黙って実力行使に出る。手段は一切問わずに。
踏み潰してでも進まねばならぬ。成し得ねばならぬ。
ネーナ・トリニティ「死んじゃえばいいよ♪」


5.「力への欲求」
しかし、全ての邪魔者が排除できるとは限らない。邪魔者が自分より強かったらどうする?
黒は強さをストレートに求める色だ。弱い奴の言葉に価値など無い。何をやるにもまず力だ。
ニコル・ボーラス「罪なき者は罪ある者の犯罪の報いを受けるのか?もちろんその通り。それこそが弱者の運命と言うものだ」


6.「現実主義」
他の色との明確な違いがある。他四色がどうしても自分の理想の実現・達成に躍起となるロマンティシストである一方、黒のみは他人を、世界をあるがままに見つめるリアリストなのだ。
黒は自分の周りがどうなのかを分析し、どうやれば利用できるか、どうすれば排除できるのか。それのみを関心事とする。
常に弱点や矛盾を模索し徹底的に突く、という兵法の基本である。そして黒はそれを最優先に行える行動力と、なり振り構わない超道徳を併せ持つ、この上ないマキャベリアンでもあるのだ。
ニッコロ・マキャベリ「君主にはフォルトゥナ(外的幸運)を引き寄せるヴィルトゥ(内的技量)が必須である」「終わりよければ全て良し」


7.「悲哀」
死が黒の領域なら、それが齎す悲しみも黒の領域。
それらの誰よりも深き理解者もまた黒である。
もっとも、誰かの死を嘆くと同時にそれを自分の利害関係にどう利用するかを冷静に考えているのが黒という色なのだが。
「死人に口なし」っていうしね!
マクギリス・ファリド「彼女の幸せは、保障しよう」「ガエリオ。お前に語った言葉に嘘はない。ギャラルホルンを正しい方向に導くには、お前とアインが必要だった。そして、お前は。私の生涯、ただ一人の友人だったよ……」


少し抽象的な話になってきた。ここで黒のイメージが分かりやすい具体例を挙げる。

「所詮この世は弱肉強食」という彼の言葉は強烈なまでの黒の思想の体現である。
力こそが全てであり世界の真理、弱者救済など戯言でしかないと切って捨てる彼の生き方はまごうことなき黒であろう。

良心のタガのない邪悪の化身。『勝利して』『支配』する!
それだけが満足感であり過程や方法を気にすることなど
便所のネズミのクソにも匹敵する下らぬ考えと断じる圧倒的悪の大気!
他にも黒と共通点が多い。

あらゆる権謀と教唆の力を駆使し、ジェダイを壊滅させ銀河帝国皇帝にまでなった名高き巨悪。本質的にはフォースの財産とシスの教義を何より追い求める皇帝らしからぬ個人主義、ストイックさも併せ持っている。
シス自体、「欲するもののためなら感情を抑えて冷静にも、解き放って激情的にもなる」「光明・暗黒の面を問わず、自分の感情の赴くままにフォースを探求し、使う」と、単なる闇に留まらず手段を択ばないものであり、MTGにおける黒の主義と共鳴するところが多い。仲間割れで滅亡の危機にさらされつつも淘汰を経て少数精鋭になっていった点も含めて。

手段を選ばず、金にならない仕事はしない傭兵である点に加えて
「独りで生きてみせろッ!! ソレができない内はオレにでかい口をきくンじゃねえッ!!」
彼を象徴するこの台詞はとても黒らしい。ガフガリオンはまさしく独立独歩の人と言える。

目的のために20年もの期間の潜伏、強大な海賊や海軍への敵対行為、囚人の開放などのあらゆる手段をとる海賊。
力への渇望、死体の活用、人質を利用した交渉など、利己主義に基づいた狡猾さを見せている。
一方で「人の夢は!!! 終わらねェ!!!!」という台詞に始まり、夢やロマンといったものを大事にしており、自分を嫌う相手すら否定しないあたりも黒らしい。友好色である青(狡猾・遠謀)と赤(刹那主義)の要素を同居させている、と捉えることもできるだろう。

先に述べたように、黒は弱肉強食が「世界の真理」であるとする。
勝者が全てを得て敗者が全てを失うことこそがこの世の道理なのだ。
自らが敗者となって死の間際にあってもなお、悪足掻きをしようとした部下を咎め、「敗者が勝者の行く手を遮るでないわーっ!」と叫んだ彼は、最後まで黒の理念に殉じた人物であると言えよう。

黒の機能

以上5つの性格づけから、黒はゲーム上で以下のような機能を持つことになった。()内は対応する性格の番号。

  • 汚れた沼からマナを引き出す(1)
  • 悪魔との契約(1,2,5)
  • 精神攻撃=手札破壊、デッキ破壊(1,4)
  • 死体の利用=リアニメイト、サルベージ(1)
  • 代償を払ってのドロー、サーチ、自殺的(スーサイド)な能力(2,5)
  • マナ加速(5)
  • クリーチャー、プレインズウォーカー、土地(とエンチャント)以外に干渉しない(3,6)
  • クリーチャーが召喚者に無関心=ブロックに参加できない能力(3)
  • 対戦相手への直接打撃(4)
  • クリーチャーの除去(4,6)
  • 相手クリーチャーや相手プレイヤーを利用する=相手のカード・ターンの奪取(1,4,6)
  • 回復するにも相手を利用する=ライフ吸収(1,4,6)
  • ペナルティ能力(2)

特にクリーチャーの除去、死体の利用については五色中随一。
また、サーチカードも、黒は代償を必要とするかわりに、サーチ先のカードの制限が緩い。

これらの機能を組み合わせた黒単色のデッキは、大別して二通りになる。

  • 小型クリーチャーの攻撃を除去、手札破壊で補助する速攻型

  • 大量の手札破壊と除去で相手の動きを止め、ライフを払ってドローを行いつつ、時間稼ぎを兼ねるライフ吸収でとどめをさす低速型

速攻型は青に強く、低速型は赤に強いが、どちらの型でもアーティファクト、次いでエンチャントの破壊が大の苦手。というか黒はそういう色。
手札破壊で対処するか、潔く諦めよう。……ダメ?
とはいえ最近は一応だがエンチャントの破壊もできるようにはなってきた。それでも自分のエンチャントは除去できず、除去効率は緑や白より遥かに悪い。フレーバーから言えば「契約の踏み倒し」を防ぐためである。悪魔との契約からは逃れられない。

マナ加速については当初は一時的なマナ加速の代表色だったが、赤にその役割を一旦は奪われた。しかし、その後赤に次ぐ色という扱いで呪文の追加効果でマナ加速したり宝物・トークンを絡める形でのマナ加速カードがまた登場するようになっている。また、沼から出すマナを増やすという形のカードはその間にも何枚か登場している。


他の色との関係

  • は、法を軽視し個人主義な黒が気に入らない。
黒からすれば、白の法の共有とはそれの手前勝手な順守と押し付けであり、迷惑でしかない。そして白が気に入らない相手へ黒以上の残酷さを見せることにも、黒は気づいている。
ゼブラ、オルゾフ

  • は、黒の超道徳思考と利益優先な論理的行動を好む。
黒から見た青は、個を磨く自立心と自分の価値観を理解してくれる数少ない友人。行動力が欠けているのが勿体ない。もっと狡猾に自分勝手に生きたら最高なのに……、とも感じている。
サイカカラー、ディミーア、シルムガル

  • は、黒のなりふり構わない決断力と反社会的な性格を良しとする。
黒は、赤の欲求に素直なところで世の中が弱肉強食だと理解していることを好む。ただし、おつむが足りないとも思っている。あと自分以外の為にも命をかける理解できない面もあったり。
……という設定なのだが、このニ色のデッキ同士の対峙では(特に速攻型が)黒が不利なことで知られる。
有名な話では初手沼儀式抹殺者返し山ショック(またはフェッチ切ってショックインからの思考囲いで相手手札が本体火力と山でびっしり)で投了、など。他にもスーサイド戦略に対して火力が有利というのもある。
ラクドス、コラガン

  • は、黒が生命と死を道具として利用しているのが気に入らない。
黒は、利用できるものを利用しない緑を蔑む。宝の持ち腐れの容認など、黒なら絶対にしないからだ。
……が、この二色は何気に共通点が多く(接死、再生、墓地利用)、互いの弱点を見事にカバーしあっている。でも死儀礼のシャーマンはちょっとやりすぎ
なので上記の通り友好色のはずの赤との相性が悪いことも合わせて、「黒の真の友好色は緑」「幼馴染が犬(生)と猫(死)どっちが可愛いかで喧嘩している感じ」とか言われることも稀によくある。
ゴルガリ、新ファイレクシア

  • は、他の黒を蹴落とし出し抜く。
白は調和をもって社会を築く、赤は親愛をもって友情を結ぶ、緑は共生をもって群れを成す、青すら損得勘定でもって打算的な関係を繋ぐことができる。
しかし黒は個人主義であり、他者の利益を吸い上げ己の利益とすること、またそうできる弱肉強食の世界こそを是とする。
必然、黒にとって「他の黒」とは自分の利益を奪おうとする敵としかなり得ない。ファイレクシアの抹消者に対する四肢切断のように
ちなみに公式の読み物でも「ある意味では、黒の最大の敵は他の色ではなく黒自身」と言われたりしている。


代表的なカード

黒のスーサイドスタイルを表すクリーチャー。詳しくは項目で。

上記の抹殺者の上位種、こちらも詳しくは項目で。

黒を代表する壊れドローソース。
いくらかリメイクを作られているが、どれも非常に強力。
かの「ネクロの夏」の元凶。――まああまりにも強すぎて、全力で対策した白に優勝をもっていかれたのだが。

  • 再活性
リアニメイト=蘇生カードや墓地利用デッキの俗称はこのカード(名)が由来。

  • 強迫
代表的な軽量ハンデス。1マナの手札破壊カードはこのカードにならって「デュレス」と呼ばれている。
まあ下環境ではヴィンテージでもなければ2点ロスと引き換えにクリーチャーも落とせる《思考囲い》の方が人気だが。

最強のサーチカード。ライフさえ払えば何でも手に入れられる、まさに黒イズムだが2点なんて掠り傷でしかない。しかも1マナインスタント。

旧枠時代の黒を支え続けたマナ加速カード。これを中継して抹消者、ネクロ等々の強力カードを高速展開するのがかつての黒のお家芸だった。

  • 冥界のスピリット
何回死んでも帰ってくるウザい奴。
ネザー・ゴーという専用デッキがあるほど。

  • 恐怖
黒を代表するクリーチャー破壊呪文……だった。
クリーチャーを「恐怖」という精神攻撃で殺す。
恐怖を糧とする黒のクリーチャーと、心を持たない機械のアーティファクト・クリーチャーは破壊できない。
苦労して出したデカブツさえたった2マナで死に曝されるため、プレイヤーが恐怖する。
昔のルールブックには
Q「なんで壁が恐怖で死ぬんですか」
A「イメージ的にはおかしいですがそういうルールです」
なんてのが書いてあったとか。
なお、現在は先述の通り、「黒は同族だろうが手段と目的次第で躊躇なく潰す」色と定義されたので、黒は対象外の除去はめっきり収録されなくなっている。

  • 悪魔の布告
黒を代表するクリーチャー除去その2。相手にクリーチャー1体の生贄を強要する。
恐怖と同じマナコストで、プロテクションや破壊不能を貫通出来るという点で勝るが、数を並べる相手には無力という点で劣る。
最初期は「クリーチャー1体を生贄に捧げる」というテキストから何をするか読み取れなかったプレイヤーが多かったそうな。

墓地と場のクリーチャーを逆転させる鬼カード。墓地利用なんて黒のお家芸。場を死者と不死者で埋めつくすなど造作もない。

黒を代表するプレインズウォーカー。屍術師と吸血鬼といういかにもな方々。
と言っても後者は色々あって代表から一歩下がった位置にいるが。

  • ヤヘンニ
チャンドラの故郷であるカラデシュに住んでいた霊基体という生命体の大富豪。
彼の望む”利益”とは”他者と喜びを分かち合うこと”であり、自分に他者の命を吸い取って寿命を延ばす能力があると知った後もそれによる悲痛が前述の”利益”と相反するために無暗に使おうとはしなかった。
ストーリーでは領事府の圧政に義憤を感じゲートウォッチの所属する改革派に加勢し勝利に貢献。その後に待ち望んだ最後のパーティーでみんなと楽しく語らいあったあとに霊基体としての命を終えた。
黒でありながら他者の笑顔の為につくし人生を駆け抜けたそのぐう聖な生きざまはファンの心をがっしりと掴んだ。テーロスの某太陽の神は彼の爪の垢(?)を煎じて飲むべき

シェオルドレッド
新ファイレクシアの黒の法務官。もともと旧ファイレクシアが黒だったためか、思想は彼女の派閥が最も旧ファイレクシアに近いらしい。
カードとして最も活躍したのは「黙示録、シェオルドレッド」。接死とカードを引くたびに引いたプレイヤーに応じて疑似ドレインが誘発する代物だが、構築であっても除去できなければダメージレースが崩壊するのでかなり暴れた。


一時期、黒は四肢切断等によって存在意義が疑われ、「MtGは4色になる」という嘘記事「一人去るとき」ができる程不遇な色であった。

しかし、レガシーやヴィンテージ等で禁止や制限が多いのは間違いなく黒である(まぁサーチカードばかりだが……)

ちなみに黒の一番の敵は公式。


黒は嫌われ者だ。
だが、それを黒自身が覚悟しているという点は他のどの色にもない。
蛇蝎の如く嫌われ、偶像のように崇拝される──これが強烈な個性のなせる技というものである。



追記・修正 (B)(B)(B)
エンチャント
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最終更新:2023年12月09日 02:11