ヤマアラシ

登録日:2011/09/26(月) 02:42:57
更新日:2023/08/30 Wed 05:11:38
所要時間:約 8 分で読めます







ある語り部が言った。

「その矛(牙)はどんな盾でも突き破る事が出来る」と。

そして語り部はこうも言った。

「その盾はどんな矛でも突き破る事は出来ない」と。

その話を両方聞いた篭りは尋ねた。


その問いに語り部はこう返したという……。



「蓮コラを知っているか?」





ヤマアラシとは哺乳綱・ネズミ目(齧歯(げっし)目)・ヤマアラシ科、及びアメリカヤマアラシ科に属する荒らしの総称である。


◆名称

和名ヤマアラシ、英名は「Porcupine(ポーキュパイン)」。漢字表記だと「山荒」もしくは「豪猪」となる。
勘違いしやすいが山の嵐と書いて山嵐ではなく、山を荒らすと書いて山荒である。(山嵐だと柔道の投げ技のことか、日本人ロックバンドのことになる)


◆分類

皆さんはTVなどで“ヤマアラシ”を見たことがあるだろうか? ある方はどんな姿で、どの国に棲息していたか覚えているだろうか?
実は現生している“ヤマアラシ”に該当する生物の半分は、厳密にはヤマアラシと同じヤマアラシではないのである。


……何を言ってるのか分からないだろうが、大丈夫。こっちも何言ってるのか分からない。


面倒なので端的に説明すると、

①昔々、旧世界(ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オーストララシア)にはヤマアラシと呼ばれる針毛だらけの生物がいた。

②世は大航海時代に。コロちゃんら欧州人開拓者は西へ渡り、新世界(南北アメリカ)を発見。

③開拓者は新世界でヤマアラシのような針毛を纏う生物を見つけ、「へーこの地にもヤマアラシっていたんだ」と発言。旧知のヤマアラシと混同した。
※生物学の分野では、新世界と旧世界の生物はどんなに似ていても基本的には全くの別物である。

④案の定双方は針毛で齧歯目という共通点(収斂進化)以外に被る特徴がなく、下目レベルで別物であることが判明。
だがヤマアラシという呼称は新旧どちらに対しても変わることなく使われ、そのまま現在に至ってしまった……というワケである(本当はもっとややこしい)。


他の動物でこのような話はないので例が出しにくいが、ニュアンス的にはヤモリしか知らない人がイモリを見て、
「ヤモリって水中にもいるんだ」と言うような感じである(ヤモリは爬虫類、イモリは両生類)。

他には一般人でガンダムを知っている人が中国の天郷2号を見て「この地にもガンダムは立ったんだ」とか、
ゴジラを知る人がGODZILLAを見て「アメリカにもゴジラはいたんだね」とか言うのに近いかもしれない。


まあ今更呼称が変わることはないので、以下に説明するヤマアラシはどれもヤマアラシである。



◇ヤマアラシ科

旧世界組は11種のヤマアラシから成り立っており、いずれの種も地上生。
夜行性で、基本的に植物食。たまに動物の骨をかじりカルシウムと塩分を補給する。
昼間は穴蔵で寝ているため、野生のヤマアラシを探すのは大変な作業だったりする。
そして棲息地の猛獣や気候の影響を受けているためか、比較的針毛が長く、毛の短い種が多い。


ヤマアラシの中でもポピュラーな種はインドタテガミヤマアラシ。
分布はインド、西アジアなど。体長は60~80cm程で、体重は15kg前後。長く太い針毛(最長30cmくらい)を持つ。

また日本で最も飼育数が多いのはアフリカタテガミヤマアラシ。
インドタテガミと体色や体格は似ているが、タテガミの色(白)で区別可能。
寿命は野生で10~15年、飼育下では28年生きた例がある。

似ていると言えばマレーヤマアラシもそう。
棲息域もインド、中国、マレーシアなどと被っていて、体格もほぼ同じ。
しかし2種とは違って鬣がない。



◇アメリカヤマアラシ科

新世界組も同じく11種から成る。
ヤマアラシ科との決定的な違いは前述の棲息地に加え、主に樹上生活をしている点が挙げられる。
……というかそれ以外の生活(習性や食性)は基本的に同じ。
姿や身体機能は樹上生活に合わせたものとなっており、尾と毛が長く手が器用で針毛は短め。


カナダヤマアラシはこの科の代表と言える種。
ヤマアラシの中で最も大きくなる(約1m)上、針毛の数は何と3万本を超える。
そのずんぐり体型を維持するために毎日大量の餌(木の皮など)を摂取する。
被害者数的な意味ではおそらく最も危険。

オマキヤマアラシはケツみてぇな口(鼻)してやがるのが特徴。
分布は南アメリカ北東部、サイズは体長・尾長ともに40~50cmくらい。
本種は他と違ってほぼ全身が短い針毛に覆われている特殊な種である。


上記5種は日本の動物園で見られるので、興味を持った方は足を運んでみるといいだろう。



◆針毛と交尾と板挟み

ヤマアラシと言えばやはりその鋭い針毛(Quills)。
これは毛が変容(硬化)したもので、その威力たるや、
タテガミヤマアラシの針毛ならゴム長靴やアルミ缶程度はあっさり貫通する。剛毛ってレベルじゃねーぞ!
しかもヤマアラシの体からは簡単に抜けるくせに、刺さった側は針毛の反しのせいで容易には抜けないのだ。
(昔は抜ける針毛があまりに多いため、背中から飛ばすものだと考えられていた)

ちなみに抜けてもすぐ生える。
サメかお前は。


各地のヤマアラシはこの針毛を武器に生き残ってきた。
敵が現れると針毛を逆立て地を蹴り相手を威嚇。
彼らはどの種も攻撃的な性格なので、専守防衛ではなく華麗なバックステッポで突撃する。
その姿はまさに半身凶器。ここまで攻防一体を地で行く生物が他にいるだろうか。


そんな彼らを用いた哲学用語が『ヤマアラシのジレンマ』。

「自己の自立」と「他者との共存」を望む感情の板挟み状態を指す言葉で、
元は「寒空の下の2匹のヤマアラシが、互いの身体を寄せて暖をとりたいが針のせいで近寄れない」というショーペンハウアーの寓話からきている。
(ただ心理学の分野では「このような経験から互いにとってベストな距離に気付く」という肯定的な意味を持つ場合もある)
まあ実際は彼らもバカじゃないので、ちゃんと互いの針が当たらないように生活してるのだが。


「でも交尾するとき針毛当たるんじゃね?」
こう思った方もいるだろう。確かに彼らの交尾は他の動物同様、後背位で行われる。
ただ雌は背と尾の針毛を上向きに立て邪魔にならないようにするので、雄は安心して自慢の一本トゲ♂を♀に突き込めるのだ。

……まあ雌は満足出来なければ針毛を突き立てられる位置にいるワケで。

♂「あの……と……トゲがあたってるんですけど……」
♀「あててんのよ」

雄が優位な体位なのに雌が優位という妙。バックの上手いヤマアラシは後背位も上手かった。



◆余談

◎似たような生物にハリネズミやハリモグラがいるが、彼らはハリネズミ目と単孔目。それぞれに分類学的関係性はない。
ちなみに英名PorcupineにFishをつけるとハリセンボンのことになる。


◎日本の妖怪には「山あらし」と山颪(やまおろし)というものがいる。
両者は別々の妖怪絵巻に描かれているが、山あらしはその姿(針だらけの化物)から、
山颪は人型だが豪猪(イノシシのようで背に針のある獣)をイメージして描いたとのことから、
どちらもヤマアラシがモデルなのではないかという説がある。


◎フロリダ州は性交に関する法律が多数あるが、その中に「ヤマアラシとのセックス禁止」というものがある。
さらにこの法律を破り、コトに及んで(及ぼうとして?)病院行きになったロシア人がいる。


◎特撮では悪役のモデルとなっているが、平成ライダーシリーズではボッコボコにされたりフルボッコにされたりと不遇である。
また妖怪の山あらしがモデルとなったこともある。


◎上でもチラッと触れた通り、柔道の投げ技には「山嵐」というものが存在する。
両手で受の同側の右(左)襟と右(左)袖を握って釣り込み、受の体をその右(左)前隅へ浮かし崩しながら、右(左)脚で受の右(左)脚を払い上げて倒す技…とされる。
正面から後ろへ、相手を背中が下になるように投げる感じである。
Sa・Ga2 秘宝伝説』にも登場。


PCエンジンのシミュレーションゲーム『ネクタリス』シリーズには「M-77 ヤマアラシ」というユニットが登場する。
固定式地雷という区分だが本質的にはバリアー発生装置であり、攻撃力は無いものの、とてつもなく硬い防御特化ユニットとして敵の進行を妨害する。
このゲームのキモである包囲効果*1においても活躍するし、突破の際にもうまく何ユニットか隣接できないと手間取る。


◎最後に、ヤマアラシに喧嘩を売っちゃった犬を紹介。

とあるブルテリアは獣医がヤマアラシに対して手遅れ宣告する程殺り合ったらしいが、代償も大きかった模様。顔中が針だらけになってしまった。
※蓮コラレベルでグロいので「ヤマアラシ/画像」でググる際には細心の注意が必要。

ちなみにヤマアラシにが刺されるという事例は北アメリカでは珍しくないそう。
致命傷を受けることもあり、また野生のヤマアラシは狂犬病を持つこともあるので飼い主さんは気をつけよう。

お前らヤマアラシさんに盾突いて無傷でいられると思うなよ!
盾で突いてるのはヤマアラシさんの方だけどな!




追記・修正はヤマアラシに歯向かってからお願いします。


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最終更新:2023年08月30日 05:11

*1 相手ユニットの周囲を囲むことで相手の攻撃力・防御力を下げる。具体的にはZOCがどうこうという話になるのだがここでは割愛。