箕島対星稜

登録日:2010/08/16(月) 13:50:23
更新日:2023/06/16 Fri 11:57:00
所要時間:約 5 分で読めます




たったの「一球」が人生を変えてしまうことなんてありうるのだろうか。「一瞬」といいかえてもいい。
それは真夏の出来事だった。
夏でなければ起きなかったかもしれない。夏は時々、何かを狂わせてみたりするのだから。
八月十六日。晴れ。気温は30度をこえるはずだとウェザー・キャスターは言っていた。





箕島対星稜は1979年8月16日に行われた和歌山県代表・箕島高校と石川県代表・星稜高校の試合。第61回夏の甲子園の3回戦。

テレビ中継における視聴率の高さや関連書籍の多さなどから、30年の歳月が経過した現在までこの試合を高校野球史上最高の試合とする声もある。




【試合の背景】

箕島はこの年春の第51回センバツ甲子園で優勝し史上3校目、公立高校としては初の春夏連覇がかかっていた。
戦力も石井毅と嶋田宗彦のバッテリーに箕島自慢の機動力を生かした打線が充実。

対する星稜も、エースの堅田(かただ)外司昭(としあき)(おと)重鎮(しげき)らの打線が充実していた。

【試合の流れ】

先攻星稜、後攻箕島で16時06分試合開始。

両投手の好投で、3回まで両校共に無得点。

4回表、堅田の適時打で星稜が先制。

すると、すかさずその裏に森川の適時打で箕島が1-1の同点に追いつく。


しかしその後はランナーこそ出るものの盗塁失敗などでチャンスを生かせず、スコアボードに0が並ぶ。


9回を終えてもスコアは1-1。
試合は延長に入り、甲子園球場の照明灯のスイッチが入れられ、ナイターとなる。


12回表、星稜が1死1,2塁のチャンスを作ると、石黒が打ったゴロをなんと二塁手の上野山がトンネル。星稜が1点勝ち越す。
(上野山は試合当日38度の熱があったが、キャプテンだったので無理をおして出場していた。エラーとの関係は無いと本人は言っているが……)
12回裏、2死。追い詰められた箕島の次打者、嶋田が尾藤監督にこう言ったのは有名な話である。



「監督、ホームランを狙ってきます」


シュアなバッティングを旨とする尾藤監督も思わず頷いてしまったらしい。


そして彼は、本当にホームランを打ってしまう。


レフトラッキーゾーンへのホームラン。
当の本人は思い出作りのために言ったらしいが、あまりにもヒロイックである。
皮肉なことにマウンド上の堅田投手は「ヒットは打たれるかもしれない、でもホームランはないだろう」と思っていたという。


2-2、同点。



14回裏、箕島は1死3塁のサヨナラのチャンスを作るが、星稜の三塁手若狭のかくし球によって潰される。
若狭はここまで5三振とまったく良い所がなかったので、ここらで何かやってやろうと狙っていたらしい。


16回表、星稜は山下の適時打で勝ち越し。この試合三度目のリードを奪う。

星稜の山下監督は「これで勝てる」と、この試合で初めて思ったという。

そして16回裏、この試合の最大の山場がやってくる。
堅田は簡単に2アウトをとる。迎えたバッターは森川。

初球を森川は打ち上げる。力無い打球が一塁側ファールグラウンドに上がる。一塁手の加藤が打球を追いかけ――




そして転ぶ。



まさかの落球である。
原因はこの年からファールグラウンドに設置された人工芝、それに16回まで闘った疲労・緊張もあるだろう。

とにかく、これで箕島は息を吹き返した。



そして、森川はカウント2-1から起死回生の同点ホームランを左中間に打ってしまうのである。



何という劇的な展開だろうか。

実況の植草アナはこの時


「甲子園球場に奇跡は生きています!」

という名言を残した。



3-3、三度同点。
その後、星稜は18回表に満塁のチャンスを作るが無得点。
規定で延長戦は18回までと決まっているので、この時点で星稜の勝ちが消滅。(引き分けの場合は翌日再試合)

堅田はガクッと力が抜けていくようだった。


18回裏、堅田は先頭打者を四球で歩かせる。
次打者の上野山はマウンドから分かるぐらい憔悴しきっていた。バント失敗で三振。

その次の北野にも四球を与えた時、星稜ベンチから伝令が飛んだ。
そこには山下監督の走り書きが見える。


「悔いのないボールを、思い切り投げろ」

しかし、すでにボールは死んでいた――。



続く上野が打ったのはボール球だった。
打球が左中間に転がる。二塁ランナーの辻内がヘッドスライディングでホームに帰ってくる。




ゲーム・セット。




4-3、箕島のサヨナラ勝ち。

試合時間3時間50分。19時56分試合終了。

堅田は208球、石井は257球を一人で投げ抜いた。

【試合の後日談】

  • この試合を制した箕島は、勢いをそのままに春夏連覇を成し遂げた。
    結果、箕島を最も苦しめた星稜の健闘ぶりが世間に認識されることになる。

  • NHK教育テレビ史上最高の29.4%という高視聴率を叩き出した。
    また、昭和のスポーツ名勝負特集を組んだ際にこの試合を完全再放送した。

  • 両校は1994年から当時のメンバーで再試合をするなど、交流が続いている。

  • よく書籍の題材に取り上げられる。項目の最初の文は山際淳司の「八月のカクテル光線」による。

  • この試合を含めて8月16日には球史に残る劇的な試合が多い。
    例)江川卓の雨中サヨナラ押し出し四球
    松井秀喜5打席連続敬遠
    豊田大谷対宇部商業延長15回など

    これらは8・16現象と言われている。

    今年はどうだろうか。


追記・修正は人工芝に足を取られた事のない人へお願いします

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最終更新:2023年06月16日 11:57