人斬り抜刀斎

登録日:2011/06/29 Wed 03:43:53
更新日:2024/01/05 Fri 10:23:59
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…巴の幸せは俺が守る。


昨日誓ったばかりなんだよ。


人斬(ひとき)抜刀斎(ばっとうさい)とは『るろうに剣心』の主人公、緋村剣心のかつての呼び名である。


■人物

幕末の京都において桂小五郎の求めに応じ、長州派維新志士として幕府方の要人暗殺を行う下手人、所謂人斬りとして暗躍した当時の緋村剣心の姿。
当時まだ14歳と若年だが、元々剣才が優れていた上比古清十郎の下で修業し奥義(ともう一つ)以外の技を全て習得しすでに達人クラスの強さを持っており、その力をフル活用し人斬りとして暗躍を続けた。

人斬り抜刀斎という名もその「抜刀術を極めたような強さと冷徹さ」からいつしか付けられた異名である。
ちなみにこの名が京都界隈で囁かれるようになってからは当人も暗殺時に「緋村抜刀斎」を名乗るようになっているが、流石に大っぴらには使えない呼び名のため、仲間の志士たちからは基本的に「緋村」と苗字呼びされている。


本編の常にニコニコしている優男な剣心と比べ、若く正義感はあるものの精神的な余裕に乏しいうえ人斬りとしての生活にはかなりのストレスを抱えている。
そのため目付きも悪く、無口で根暗で無愛想。一人称も「拙者」ではなく「」。
無論、「おろ?」とか「ござる」とか言わない。ヒロインに殴られたんこぶ作って目を回す?…問答無用で斬られます。とにかくシリアスなキャラクター。
…お陰で周りのボケに振り回されてるが。

この頃はまだ"不殺"の信念を掲げていないため、なんの躊躇いもなく人を斬る(志々雄とは違い斬りたくて斬っているわけではないが)。刀も逆刃刀ではなく普通の日本刀。
上記の陰のある表情に加えて着物も黒っぽいものを使っており、全体的にダークヒーロー的な要素が強く、その強さも相まって剣心とは別のキャラとして人気が高い。


以下この項目では、「剣心」と「抜刀斎」とで区別して表記する。


■来歴

貧農の生まれであり、本当の名前は「心太(しんた)」。幼いころに両親をコレラで亡くし、人買いに拉致られた。
そんな中、一行が山賊に襲われ絶体絶命の所を比古清十郎に助けられる。
最初は近くの村に身を寄せるよう言われたが村には行かず、 山賊含めた犠牲者全員の墓を作っていた ところを話を聞いた比古清十郎と再会。
墓を作っていた真意を尋ねられ、同じく人買いに連れられていた数人の女性を指して「命をかけても守らなくてはと思った」と答え、感銘を受けた比古清十郎に「心太では剣客にしては優し過ぎる」という理由で「剣心」という名を貰い、以後彼の下で飛天御剣流の修行を行い成長していった。

だが、14歳の頃に世間は維新の動乱に呑まれ混乱の渦中にある事を知り、「飛天御剣流を以ってすれば、動乱を終わらせられるはず」と考え、京都の町に下りることを決意する。
「飛天御剣流は特定の勢力に属さない自由の剣であるべき」という流派の在り方を守る比古とは当然意見が合わず、奥義天翔龍閃(と九頭龍閃)の伝授を残して喧嘩別れしてしまう。


その後長州藩に訪れて奇兵隊への入隊を希望し、入隊試験の際に双龍閃を披露しその存在感を示した。
そしてこれが試験会場に同席し配下の人斬りを欲していた桂小五郎の目に留まることになる。
試験後、桂との面談で彼から「飛天御剣流で、人を斬れると思うか?」と訊ねられた際には



「…自分の汚れた血刀と犠牲になった命の向こうに、誰もが安心して暮らせる「新時代」があるんだったら…」


と、血と犠牲にまみれる覚悟を語り、彼の配下として動くことを承諾。

以降、要人暗殺を請け持つ人斬りとして幕末の京都で暗躍を始め、抜刀術の全てを極めているその強さと冷徹さから

人斬り抜刀斎

と恐れられるようになる。


そしてある晩には京都所司代を暗殺しその従者の青年とも手合わせしたが、この時に左頬に一筋の切り傷をつけられる
この青年は、抜刀斎と比べると大した腕前ではなかったが、生きようとする意志は抜刀斎よりも強かった。
かすり傷とはいえ抜刀斎に一太刀入れられたのは、このためである。
抜刀斎はこの青年を容赦なく斬りトドメを刺したが、死ぬ間際まで生きようと懸命にもがくその姿に来世での幸せを願わずにいられぬほどの罪悪感を抱くことになった。

また丁度この頃、人斬りとしての仕事を重ねる中で「平和な世を作るという理想」と「大義のために他者を殺め続ける現実」、矛盾する自分の姿に激しい落差を感じ始め抜刀斎の精神は不安定になっており、その陰は一層濃くなっていった。

こういった部分は桂が抜刀斎を勧誘した時居合わせた高杉晋作から指摘されていたことであったが、桂も抜刀斎の中に渦巻く葛藤に気付きながらもそれを消す術を見出せぬまま人斬りをさせ続けることになっていた。


頬に傷を付けられてからしばらく後、謎の刺客に襲われたところを返り討ちにし殺害するが、その現場を通りかかった見知らぬ女性・雪代巴に見られてしまう。
直後に酔いつぶれて昏倒した巴をとりあえず自分の宿に連れ帰る抜刀斎だったが、以後居着かれてしまう。
殺害現場を見られたとはいえ、抜刀斎は「刀を持たない人は、たとえ敵であっても斬らない」と決めていたため、巴には手を出さなかったが、巴本人から「では私が刀を手にしたら、あなたは私を斬りますか?」と問われる。
抜刀斎はこの問いに即答できなかった。

それからしばらくして、抜刀斎はうたた寝していたところに毛布をかけてくれた巴を「寝込みを襲いにきた刺客」と勘違いし、刃を向けてしまう。
すんでのところで思い止まった抜刀斎は「刀を持たない人は斬らないと言っておきながらこの様」「いつか本当に斬ってしまうかもしれないから、早く出ていってくれ」と告げるも、
巴は「あなたには鞘となる人が必要だから」と言って、殺されそうになったにもかかわらず抜刀斎のそばにいることを選んだ。
この言葉を聞いた抜刀斎は「巴だけは何があっても絶対に斬らない」という答えを出し、この頃から半ば恋人同士となった。

一方、長州内では宮部鼎蔵による藩勢を立て直すため京都に火を放ちその混乱に乗じて帝を連れ出す計画が立てられていた。
が、その矢先内通者により長州内の情報が漏れ、新選組が長州藩による京都大火を阻止するべく動いたため池田屋事件が起こる。
長州藩の志士の多くが斬殺され、さらに禁門の変が勃発し長州藩は敗北。各地で幕府による志士狩りが始まり、長州派の旗色が悪くなる一方だった。
ちなみにこの時抜刀斎は戦いに間に合わなかった*1が、凱旋中の新選組を一目見ようと現場に赴き、そこで斎藤一と目が合い互いの存在を認識した。


この一件を機に桂は自身が持っていた全ての勢力を失うこととなり、同時に抜刀斎も居場所がなくなった。
そこで抜刀斎は、桂が用意した滋賀の大津の里山にある家屋にて、世間から怪しまれることのないように巴と夫婦として暮らすこととなる。
本来形だけのものであったが、本当の夫婦になる事を望み巴もそれを受け入れる。この時抜刀斎は15歳、巴は18歳だった。

15歳で所帯持ちの主人公。掲載紙は週刊少年ジャンプである。
まぁ、作中の時代ではさほどおかしくはないのだが。

左之助(19歳)「女も18歳って言ったら当時は結婚適齢期後半だったし、なあ」
(22歳)「……何が言いたいの?」


その後は薬売りの「検心」を名乗りつつ巴とささやかながらも幸せな日々を送るが、ある日巴の弟である雪代縁が現れ、束の間の幸せは終わりを告げる。
巴に弟がいたことを初めて知った抜刀斎は、それ以前に巴のことをほとんど何も知らなかったということに気付く。
ある晩抜刀斎と巴はお互いの想いの丈を打ち明け、そこで抜刀斎は、巴には京都で斬殺された許嫁がいたこと、
その許婚が翌月の祝言を前にして動乱に巻き込まれて死んだことを知ることとなる。
巴が過去に愛しい人と死別したことを知った抜刀斎は、巴の幸せは自分が守ると決意。ここで初めて、巴は抜刀斎に笑顔を見せた。


しかし翌朝目を覚ました時には、巴の姿はなかった。
縁が寄越した文により巴が家屋の先にある、「闇乃武」の一味が待ち受ける山奥の御堂に向かっていることを知る。
抜刀斎は巴を追うべく、久しく握っていなかった刀を持ち、すぐさま闇乃武が待ち受ける山へと向かった。

森の中で3人の刺客と戦い、第六感、聴覚、視覚を潰されて行きながら満身創痍になる抜刀斎。しかし巴を守るという一心で、闇乃武の頭領である辰巳のもとまでたどり着いた。
ボロボロの身体で戦うも、極寒のために触覚も潰され、普通に戦って勝ち目がないことを悟る抜刀斎。
普通に戦って勝てないのなら、せめて相打ちをすれば巴は助かる……そう考え、目を閉じて役に立たない視覚を完全に封じ、死を覚悟して向かってくる辰巳へ全力で斬りかかった。
しかし刀を振り下ろした瞬間に、潰されていなかった嗅覚によって巴が愛用していた白梅香の匂いに気づき、目を開けた抜刀斎の前にいたのは外ならぬ巴だった。*2
巴は抜刀斎を助けようと、二人の間に割って入り、辰巳を押さえ付けていたのだ。
その結果、抜刀斎は辰巳諸共に、巴を斬ってしまい、この時巴が持っていた短刀が抜刀斎の左頬に二つ目の傷をつけた

巴を斬ってしまったことに抜刀斎は激しく動揺し、彼女の最期の言葉と共にその亡骸を抱きしめ涙を流し続けた。


――そしてその光景を縁が見ていた……



守るべき最愛の妻を自らの手に掛けてしまった悲しみに暮れる中で、抜刀斎はふと巴の日記を開く。


…清里…

巴の許嫁の名前か…

…どこかで聞いたことがある…

確か…あれは


俺が殺した!!!


そこに記されていたのはかつて自分が斬り殺した京都所司代従者・清里明良こそが巴の許嫁だったという事実であり、彼女の運命を狂わせた自らの罪を悟り、さらに深い傷を負った。

そして丁度人伝に一連の出来事を聞き家屋に訪れた桂から、暗殺稼業を志々雄真実に譲ることを告げられる。
これは巴とその許婚を斬殺してしまった抜刀斎のことを考えてのことだった。
自分が隠居生活を送っていた間にも新選組と京都見廻組が競って志士狩りを強化されたため、影の「人斬り」ではなく先陣を切って幕臣達と戦う「遊撃剣士」として再び京都で働いてほしいと依頼する桂。
抜刀斎はこの桂の依頼に「今自分が戦うことをやめてしまえば、これまで殺めた命がすべて無駄になってしまう」「巴との生活で知った幸福な生活を人々が享受できる新時代がくるまで自分は戦い続ける」と答え、遊撃剣士の任を引き受ける。
しかし同時に、「新時代が来たら、もう二度と人を殺さない」と宣言。
桂は抜刀斎を人斬りの道に引きずり込み、その人生を狂わせた事を深く悔やんだのであった。


それから間もなく、京都に一人の剣客が姿を現すようになった。
左頬に十字傷を持つ赤い髪のその剣客「人斬り抜刀斎」は、新選組の隊士にすら恐れ慄かれ、「最強」と呼ばれる伝説を築き上げる事になった。
「左頬に十字傷」の人斬り抜刀斎が有名になったのも、この頃の活躍からである。


数年後、鳥羽伏見の戦いの終焉を見届けた抜刀斎は桂の許可を得た上で維新志士側から離脱。
京都の巴の墓がある寺に彼女の日記を預け、傷付いた心を抱えながら戦場に刀を捨て、刀を持たずに京都を去ろうとした。
しかし幕末の刀匠である新井赤空に諭されて、逆刃刀を携えて旅をすることに。
その日から"不殺"の信念を掲げ、「抜刀斎」ではなく「緋村剣心」として、流浪人となり放浪の旅をしながら人々を守る為に剣を振るうことを決意した。

+ 作中の行動の略歴
元治元年(1864年)
2月頃…清里(巴の許婚)斬殺
4月4日…巴が清里の死を知る
5月半ば…剣心と巴が出会う
6月5日…池田屋事件
6月20日…剣心15歳の誕生日
7月18日…禁門の変
7月下旬…剣心と巴が祝言をあげる、以降里山で慎ましい生活を送る
12月30日…縁来訪
12月31日…巴斬殺
翌年
1月15日…桂が迎えに来る

まさに激動の一年である。

なお本来ならば志々雄と同様に影の存在だったのだが、上記のとおり維新志士を守る遊撃剣士となって表に出るようになったため
明治の世にも名前が残るようになり、詳細不明なのをいいことに偽物も出てしまっている。
一方で遊撃剣士としての活動で多くの志士たちを身を挺して守っていたことで抜刀斎に恩を感じる志士達も多く出ており*3
結果元ネタの河上彦斎のように謀殺しようという動きは殆ど出ていない。井上馨が剣心暗殺を依頼した疑惑はあるけど

遊撃剣士になった後の活動については劇場版『維新志士への鎮魂歌』において、桂と西郷隆盛、坂本龍馬が薩長同盟のために会談していた際に護衛として居合わせていた事がわかっている。


■他

『再筆』

原作本編の抜刀斎よりも荒っぽい感じになっており、使っている刀が「全刃刀」という殺人奇剣になっている。
よく「これじゃ龍翔閃できねぇwww」とか言われるが、これで龍翔閃が出来ないような抜刀斎は逆刃刀でも龍翔閃できないであろう*4
また特徴的な赤毛は染めて黒髪にしている設定が追加された。

キネマ版

回想で登場しキネマ版本編時点の剣心同様マフラーのようなもので口元を隠している。
抜刀斎時代は非常に目つきが悪く無茶苦茶口が悪いなど全体的に荒々しい性格になっており、本編中の剣心も抜刀するとこれに近い性格に変わる。

飛天御剣流の技は全て習得済。
ただし天翔龍閃は奥義ではなく「飛天御剣流最速抜刀術」という扱いになり、読みも「てんしょうりゅうせん」になっている。
ラストで剣心が飛天御剣流奥義として「九頭龍閃」を使ったので、比古との喧嘩別れ前に奥義を伝授された事になる。*5


■余談

14歳という若さで人斬りをやっていたのには、
「本当は剣心は30代半ばくらいの設定だったのだが、担当に『少年漫画の主人公の歳が30代半ばってどうよ?』と言われたため、ギリ20代にした」
という理由からである。


よくネット上などで「剣心と抜刀斎、どちらのほうが強いのか」という話題が出ることがあるが、
剣心は東京編での斎藤や京都編での修行の際の比古から「腕が鈍っている」と指摘されていることから、流浪人としての十年で多少実力は落ちていたようである。
ただし「生きようとする意志」を見出し奥義を習得してからは「抜刀斎を超えた緋村剣心」と評されるまでになっており、京都編以後は殺傷能力はさておき技量面では剣心のほうが上になっていたようである。






昔…幕末の動乱期 京都に「人斬り抜刀斎」と呼ばれる志士が居た…

修羅さながらに人を斬ったその男は、やがて動乱の終焉と共に姿を消した―


そして時代は流れ、明治十一年―――――





構わん。どんな追記でも好きなだけ使え。
だが、俺が修正すると言った以上お前の編集は絶対だ。

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最終更新:2024年01月05日 10:23

*1 当初は桂から志士の一人として池田屋の会合に参加する事を打診されていたが、これは抜刀斎の方から「人斬りは表に出るべきではない」と参加を固辞しており、その後長州藩の志士の中に内通者がいる事が判明した際に抜刀斎から桂の護衛として参加する事を提案したが、これは桂の方が断っていたため、結果的に池田屋事件に居合わせなかった。

*2 令和アニメ版では第零幕の時点で剣心は嗅覚障害に陥っていた事が明かされたが、そのきっかけはこの出来事で「匂い」にトラウマを持ってしまったためと思われる。

*3 その事が作中の描写から暗示されているのが山県有朋で、彼は追憶編では抜刀斎を忌み嫌っているような言動を取っているが、明治に入った本編では剣心を政府の要職に迎えようと奔走し、要職に就く事を断られても剣心の廃刀令違反を黙認するよう浦村署長に頼むなど便宜を図っている。

*4 逆刃刀の場合は刀を横向きにして支えている……全刃刀でも同様にすれば良いだけだが 相手に刃は向けられない

*5 ちなみに剣心自身の口から比古は存命である事が語られているのでキネマ版の奥義伝授は本編とは違い、師の命と引き換えになるものではない模様。