大艦巨砲主義

登録日:2011/12/22(木) 21:23:35
更新日:2023/11/04 Sat 16:56:36
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面白いから軍備を続ける者はいない。恐ろしいから軍備を続けるのだ。
ウィンストン・チャーチル

大艦巨砲主義とは、20世紀前半に主流であった軍艦設計思想。また同思想に基づいて行われた複数国家間による軍拡競争により建造した軍艦が巨大化していく状態を指す言葉である。
転じて他を蔑ろにしてでも巨大・堅牢・大火力を偏愛し極めんとする愛すべき変態共の浪漫を指す。
軍艦と言う長大な行動範囲を持つ兵器の特性と建造に膨大なコストを要する事実、そして当時の国際情勢も相まって外交力学や経済学にも密接に繋がる結構な思想であるが、解りやすく要約すると海軍の相手よりデカい艦にデカい砲を乗せて最強戦艦持ってる俺TUEEEEEEEプレイスタイルである。


~大艦巨砲主義以前の海戦~


ガレー船「白兵戦と言うものを教えてやる!」
戦列艦「砲は数だよ兄貴」
黎明期装甲艦「小口径砲ではなぁ!」
上記一同「砲撃で軍艦が沈むものかよwww」

↑これが大艦巨砲主義以前の海戦の常識。というか19世紀までの軍艦は技術力の限界により敵艦を撃沈できる砲力を持っていなかった。
なんでかと言ったら
1.そもそも大砲が低性能。装填が遅い・射程が短い・破壊力が低いの三重苦。
2.敵船を沈められる巨砲を積もうとすると重量過多でトップヘビーとなり転覆し易くなる。
3.ってか距離を置いて砲戦するより敵船に突っ込んで接舷切り込み混じりの超近距離乱戦に持ち込む方が早くて強力で確実。紀元前生まれの戦術だけどな!
と技術力が色々未熟過ぎた。
産業革命以前、及び同初期では敵艦を撃沈できる大砲を載せられないし載せる利点もなかったのである。
一応は単縦陣や丁字戦法に代表される砲戦戦術は既に生まれていたが、最終的に木造帆船の中では砲戦特化の設計な筈の戦列艦時代ですら、
3の乱戦戦術の優位が証明されちゃった。ネルソン提督お前のせいだよ

そんなこんなで当時の海戦では大砲による撃沈はほとんど考慮されておらず、運よく撃沈に持ち込めた場合を除けば撤退や降伏が殆どであった。
…なに?装甲艦?
むしろ固い・速い・風で航行が制限されない。と三拍子揃った蒸気機関の装甲艦こそ衝角攻撃以外で撃沈できない時代でしたが何か?
なお装甲艦が出現し始める時期になると、木造絶対燃やすマンこと焼夷弾が開発された上に、
リッサ海戦において非装甲艦が装甲艦に衝角攻撃しても沈められないと実戦で証明されたせいで流石に木造戦列艦はオワコン化した。

しかし海戦の主役が帆船から大型化への発展が見込める蒸気機関の装甲艦に移り、そして技術力の向上により大口径化と精度を向上させた艦載砲が登場。
急速に進化する造艦技術は海軍戦術を砲戦主義に変質させるの十分だった。
イギリスで41.3cm砲搭載艦、イタリアで 45cm砲搭載艦 とかいうビック7も驚愕の装甲艦が生まれるなど、既に大艦巨砲主義出現の下地は完成していた。
リッサ海戦の勘違いから一時期は衝角が流行るものの、黄海海戦によって砲戦の優位性と衝角の非実用性が浮き彫りになった。
衝突事故が起きると相手が確実に沈むせいで割と嫌われてた衝角は急速に数を減らし、反して砲撃による敵艦撃沈を目的とした建造思想が拡大した。
しかし大艦巨砲主義の到来には更なる革新の出現が必要だった。


~大艦巨砲時代の幕開けと発展~


黄海海戦に続き日本海海戦により全砲統制による射撃観測・修正を行う斉射戦術が未完成ながらも成果を上げた。
しかしこれ、兵器の優位ではなく水兵の訓練の賜物。
「だったらハードウェアレベルで斉射戦術使えるようにしちまおうぜ!」
と考えた我らが英国面紳士は早くも翌年の1906年に戦艦ドレッドノートを建造。
『長距離砲戦に圧倒的に優位』を目的に設計し、同世代艦に倍する主砲門数と蒸気タービンによる戦艦として破格の速力による『距離の支配者』として生まれた本艦は、
各国が保有する従来艦は愚か現在建造中の新鋭艦ですら一気に"過去の遺物"としてしまったドレットノート・ショックを引き起こした。
そして最多の艦船を有していた開発元のイギリスを最多の旧式艦保有海軍にしてしまった。皮肉を忘れない英国紳士の鑑

この軍艦開発史に残る自爆劇により各国の海軍軍拡競争は激化。挙ってドレットノートと同等の性能の艦「弩級戦艦」の建造を開始。
この弩級艦の出現が大艦巨砲主義の始まりと言われている。
そしてイギリスは僅か6年後、主砲口径で従来の弩級を上回る超弩級戦艦オライオンを建造。性能の追及に応じて艦も巨大化した。

因みに装甲艦時代にも上述のように幾つかの国で巨砲を搭載する装甲艦で軍拡競争が行われたが、こちらは一般的に大艦巨砲主義とは呼ばれない。
上記の通り当たり屋マンセー戦術である上、そもそも軍艦が巨大化する傾向も無かったからである。しかし一方で軍艦の売買により技術流失が激しかった時代でもあり、軍事技術の投げ売りにより競争国が増大したとも言える。

第一次世界大戦が始まる9年に始まった大艦巨砲主義は戦艦を急激に肥大化。
質はもちろん数においても優位性を確保する為にかなりの数の艦が建造され、 過渡期である1910~1916の7年間に全世界で100隻超の戦艦が建造された
特に熱心だったのは植民地政策で対立、大戦時に一大海戦を行ったイギリスとドイツ。あと何故かモンロー主義アメリカ。この三国だけで80隻を越えている。頭おかしい。
ドレットノート時は1万8千トンだった基準排水量も戦時中就役したクイーンエリザベス級戦艦では3万弱にまで増大。
しかも戦後の日米英は挙って5万トン級艦の建造を構想。巨砲轟くまでもなく大蔵省の胃は穴だらけ。
コストパフォーマンスを無視してでも止めどなく肥大化する大艦巨砲主義の娘たちは外交上の優位を約束しながらも戦後復興にも逆行する存在だった。
ワシントン海軍軍縮会議の開催は(条約内容はともかく)多くの人間に受け入れられた。

~大艦巨砲主義の極致と終焉~


1922年ワシントン海軍軍縮条約の締結により海軍休日時代を迎え、大艦巨砲主義は一時停滞する事となる。
しかし日本海軍は1930年ロンドン海軍軍縮条約で主力艦に次いで重視していた重巡洋艦の保有枠対米七割が達成出来なかった事もあり、
大艦巨砲主義を更に先鋭化させ、個艦一隻にあたりの性能を追求していく。
その後、日本は国際連盟より脱退。
ワシントン条約の縛りから解放された日本海軍はその総力を結集し来たる対米戦争の切り札として、かの有名な大和型戦艦を建造する。
しかし、太平洋戦争以降戦争の主力は既に航空機に移っており、
大和型も、大和武蔵共に航空機により撃沈されその身をもって大艦巨砲時代の終焉を表すことになった。
尚、大艦巨砲主義に幕引きをもたらしたのは真珠湾攻撃での空母機動艦隊の攻勢作戦での有用性、
竣工後1年も満たない英条約型戦艦のプリンス・オブ・ウェールズを撃沈した攻撃力が主な要因として考えられている。

そのどちらも日本側が行っていること、また、その日本が最大の戦艦である大和型を作り出したことは歴史の皮肉としか言えないであろう。
ただし戦艦の命運を真に絶ってしまったのは対抗手段の確立ではなく、核兵器の実用化と空母航空団の戦力投射能力強化で、
抑止力の機能や砲艦外交に不可欠な軍事的プレゼンスが通用しなくなり、戦略兵器としての価値を完全に喪失してしまったせいである。
「時代遅れの大艦巨砲主義」の代表格であるクッソ情けない大和だが、旧帝国海軍が大艦巨砲主義に傾倒していたという説には一応反論はあり、


  • 開戦時の日本の保有艦艇数の内訳を見ると、戦艦10、重巡18、軽巡20、駆逐艦111、潜水艦64、空母10という記録がある。
    戦艦・駆逐艦・潜水艦はアメリカの半分程度なのに対し、重巡・軽巡はアメリカと同数、空母に至ってはアメリカより多い。
  • さらに古い戦艦を航空戦艦にしたり、建造中の大和型三番艦も空母に転用されるなど、航空戦力強化にいち早く舵を切っている。
    大鳳や雲龍型航空母艦(一番艦の雲龍のみだが)などは開戦時には計画にゴーサインが出されており、
    ミッドウェー敗戦を期に超大和型戦艦の計画を撤回するなどの対処も行った。
  • 戦艦が本当に(当時としても)時代遅れかと言えばそうでもなく、金剛型戦艦は型落ちでありながらそれなりに活躍していたほか、
    航空攻撃で沈んだ戦艦はそれほど多くなく(先述のプリンス・オブ・ウェールズを含めて4隻)、
    そのいずれもが多くのマイナス要素を背負っていた(戦闘機の護衛が無いなど)。
  • そもそも大和武蔵の両艦は戦艦戦力の陳腐化を避けるためと、老朽艦の後継という切実な用兵上の都合で造られたにすぎない。
    (開戦当時一番新しい戦艦の陸奥でさえ、就役から20年が経過していた)
  • 大和型一隻と当時の最新鋭駆逐艦の雪風×30では、実は大和型を造る方がコスト的にお得。
    完成率で言えば開戦時すでに大和は99%、武蔵も50%を超えており、そこから解体するよりもそのまま作ったほうが安い。
    (よく仮想戦記で挙げられる『大和型を没にする、あるいは解体して、空母機動部隊なり水雷戦隊を充実させる』という行為は、
    _実際には国家の財政を破綻させかねない)
  • 航空母艦とパイロットを拡大しても、1944年のマリアナ沖海戦までに間に合わなければ、
    史実の雲龍型のように軍港に放置されるのが関の山。
  • 当時の日本の工業力は品質管理の概念すらないお粗末なもので、あのイタリアにも劣るほどのもの。
    数が限られるのであれば、一隻あたりの質を高めようとするのは当然。
  • というか「日本海軍のバカの象徴」と言う論調そのものが戦前から戦艦不要論を唱えていた過激派航空論者の源田実大佐(戦後は航空自衛隊将官や代議士となっている)の発言の引用で、発言者の時点でかなりバイアスがかかっている。

アメリカは後年のベトナム戦争、1990年代の湾岸戦争に至るまで、大戦の遺物であるアイオワ級戦艦を戦役ごとに復帰させて運用しており、
イギリスやフランスに至っては大戦後も戦艦を建造し続けているが、多くのメディアでは引き合いにすら出されない。

このように、日本と列強諸国に横たわっていた根本的な国力差や生産力差*1
そもそもの立地的資源不足(太平洋戦争の原因も資源不足が主因)などの要因が、大和という分かりやすい象徴があるのをいいことに、
大艦巨砲主義という"叩きやすい言葉"にすり替えられていないか?
という「大艦巨砲主義批判への批判」があることも、留意しておくべきだろう。

~アニオタ的大艦巨砲主義~

このように現実では過去の遺物となった思想だが、アニメやゲームの世界ではたびたびその思想を受け継いだメカが描かれる。
その理由としてはやはり浪漫!としかいえないだろう。
想像して欲しい。敵の攻撃にビクともせず、その大火力を持って敵を殲滅するその姿を!
まさしく浪漫!以下浪漫を撃ち出す機体群(作品)

MSに単体でどれだけ武器を積めるかを追求……殆どMAやん!!って、またアナハイムか!!いいかげんにしろ!


凄まじいまでの巨体、そしてそれに伴う重力制限下における移動問題を解消するべく、異常なまでに高められたメガ粒子砲の火力と、核をも防ぐ装甲を持つ……と大艦巨砲主義をこれでもかと体現した歩く陸地戦艦のようなモビルアーマー。(実際火力も戦艦並である)


物理装甲に特化したガチタンに両肩を占有する巨大グレネードO☆I☆GA☆MIを装備した機体。
正面から相手を吹っ飛ばす正しく大艦巨砲主義。


分厚い装甲と大火力を誇る重戦闘バーチャロイド。
最大の特徴は巡洋艦の主砲を流用したレーザーユニットである、バイナリーロータス。


艦種が戦艦及びその他に分類される艦船の一部が該当する(例:グランヘイム級,ダウグルフ級,グランカイアス級等)。
ゲームシステム的には後半艦載機戦法の方が有効になるが、艦その物の強さは本物であり、
ハイストリームブラスター等の超大型砲もロマン砲でしかないが、
イベントでは一撃で巨大艦多数の大艦隊の15%を撃沈したりと大活躍する。


  • レオパルド(宇宙をかける少女)
なんと、全長15キロのスペースコロニー自体が砲身というトンデモ反物質砲、黄金のソウルシャウトをぶっぱなす。
婉曲的に卑猥な表現が多いのは気にするな。
ついでに『冠』装備でエネルギーは無尽蔵、『剣』で接近戦のも対応。


膠着するニュード戦争を打開するために投入された(設定的な意味でもゲーム上の意味でも)大型飛行兵器。
ブラスト・ランナー三機が搭乗可能な巨体に標準的なブラスト20機分の耐久力
フルチャージ直撃でHGだろうがロージーだろうが問答無用で消し炭にする主砲、
GAXダイナソア二倍の秒間火力で高精度かつ無反動の機銃席、
多装~強化型Gランチャー相当の爆風範囲に連射式並のマガジン火力の爆撃席、
そしてそれらが弾数無限……というトンデモ兵器。
最近では前方にシールドを展開できるようになった。


大艦巨砲主義の信奉者、ヴァンダーカムの切り札。
人型兵器ギアの普及以前に開発された機動兵器で、火力を偏重した結果ギアによる高速戦闘には対応できなくなり、量産は見送られた。
が、作中ではグラーフによって大幅に能力を引き上げられた結果、ミロク小隊を殲滅している。


  • バラウール(ACECOMBAT X2 JOINT ASSAULT)
テロ組織「ヴァラヒア」が生み出した最強の鈍器。
…じゃなくて巨大なレールガン。
一つの要塞並みの巨大さを誇り、各地のレーダーシステムと連携することで超長距離狙撃を可能としている。
また、接近されるとその巨大な砲塔を以て主人公をホームランするという近接戦闘にも優れた性能を発揮する。
流石にホームランするのはゲーム上の仕様なだけなのでご安心を。


  • MJ号(マイティジャック)
海を渡り空を飛ぶ、円谷プロダクションが誇るチート戦艦。「マイティ号」と呼ばれることも。
艦内では戦闘機がバラバラになった状態で格納されており、有事の際には自動で組み立てられて発進する。
作中では基本的にコイツを持ち出せば勝てない敵はほぼ存在しなかったが、その一方で、本艦を擁するマイティジャックは些細なミスが目立つスパイらしからぬ組織であった。
登場作品である「マイティジャック」自体が、割と物量ゴリ押し(予算、技術力、キャスティング、音楽etc)が目立つ作品でもある。



大艦巨砲主義は往々にして、既に古臭くなった思想であるとして否定的に見做される事も多いが、一概にそう断言出来ない部分もある。
そもそも兵器の進化のベクトルが、「より強力な破壊力をより遠くへ」と言うものであったのは疑いようがなく、
大艦巨砲を否定するのは極論すれば兵器その物の進化の否定であるとも言えるからだ。
勿論、現代では戦艦同士が撃ち合う戦闘などありえないが、
大艦巨砲主義は大陸間弾道ミサイルや長距離爆撃機に形を変え、存続し続けるだろうと思われる。
ミサイルに大部の役割を譲り渡した冷戦期以降の艦砲は、個艦防空・対地砲撃用の速射砲としてのみ生き残っている。
大規模な海兵隊を擁する米軍は対地砲撃を重視していて、Mk 45(5インチ)以外にMk 71(8インチ)やAGS(6.1インチ)を開発したものの、
Mk 71は失敗に終わり、AGSもズムウォルト級の大量建艦計画が頓挫してアーレイ・バーク級への搭載も見送られたことで中途半端な存在と化してしまった。
冷戦終結から四半世紀が過ぎると対地・対艦攻撃手段としてスタンド・オフ・ミサイルが持て囃されるようになっており、艦砲の復権は困難となっている。


大艦巨砲主義とは、つまるところ、より強大な攻撃力と、より強靭な防御力を求める思想であり、いわば軍隊の本能とでも呼ぶべきものです。
大艦巨砲主義思想の否定は、軍隊をより強くしようとする考え方――いや、軍隊そのものの否定に他なりません。



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最終更新:2023年11月04日 16:56

*1 戦艦に限れば、軍縮条約が失効した後日本は大和型2隻を建造。これに対してアメリカは10隻、イギリスは6隻を建造している。文字通り桁が違う。