時そば(古典落語)

登録日 :2012/09/15(土) 13:10:51
更新日 : 2017/04/16 Sun 12:49:16
所要時間 :約 3 分で読めます




いやあ寒い寒い、寒いなあ。こんなときは蕎麦に限るねえ大将。

おっ!こりゃ良い蕎麦だ。どんぶりも良いもの使ってるし割り箸も新品と来たもんだ!


時そば(刻そば、時蕎麦とも)とは古典落語の1つ。もともとは時うどんという上方落語を元にした江戸落語である。

割とポピュラーな落語であり、知っている人も多いと思われる。


大抵は最初に当時の蕎麦の知識等を教える事が多いので基礎知識が無くても――と言う人がいるが、
一番大切であるオチの理解には基礎知識が必要である。
噺家が蕎麦を手繰る描写が魅せ場という人もいれば、ひたすら褒めちぎる調子の良さこそ真骨頂と語る人もいる、単純なギャグながら奥深い演目。


【内容】
男Aが深夜に屋台で煮込み蕎麦を注文した。Aは蕎麦の味だけでなく器や箸なども巧みに褒め称えて食べ終わり会計となる。

値段は16文というが生憎小銭しか無い上に夜である。相変わらず調子よく並び立てながら、銭が落ちないように1つずつ手渡しで勘定を始めた。

A「1、2、3、4、5、6、7、8…今何時だい?」
親父「9つだね」 *1
A「10、11、12――16、じゃあご馳走さん」


これを見たBという男は、Aが1文をごまかした事に気付き感心。真似しようとする。
当時の法律を考えると、たった1文の為にスリリングな話である。


だがBはいささか世渡り下手らしく、時間が来るより早く蕎麦屋へ凸ってしまった。
Aを真似て煮込み蕎麦を頼み、食べながら誉めようとするが如何せん上手く行かない。しかも蕎麦は不味いし店も汚い。
だが最後の会計さえ成功させればBは勝ちなのだ、意を決してAと同じように手渡しで1文ずつ勘定を始めた。


B「1、2、3、4、5、6、7、8…今何時だい?」
親父「4つだね」
B「5、6、7、8……」



【解説】
Bは勘定まで多く取られて踏んだり蹴ったりである。では何故こうなったか?

当時の時法では深夜に「夜4つ(午後10時頃)」の次が「暁9つ(午前0時頃)」だったのでこの話が成り立つ。
あと2時間待てば、Bも成功したかもしれないが、そもそも立派な詐欺行為であるので成功しない方が幸せなのかもしれない。



舞台は蕎麦が屋台で食えるというので、おそらく江戸時代後期。
麺状の蕎麦(蕎麦切り)が登場したのは中期、小麦粉を蕎麦粉に混ぜる技術が伝わってからである。
それまでの蕎麦は串焼きにした蕎麦団子や蕎麦がきなどを指す。
蕎麦がきは蕎麦粉をお湯で混ぜたもので、醤油やそばつゆに入れたり
茹でてすいとん状にして食べる。おやつとして作られてたらしい。

江戸中期以前の話にズルズルとうどんを食べる話が多いのは、我々の知る蕎麦が無かったからなのだ。

作中には花巻、しっぽくと聞き慣れない蕎麦が出てきたりする。
花巻はかけそばに刻み海苔を載せたもの。
現在の海苔の生産量一位は佐賀だが、当時は浅草の「浅草海苔」が主流。
紙のような海苔はこれが発端とされる。
しっぽく(卓袱)は、かまぼこ、卵焼き、しいたけなどが載った蕎麦のこと。
卓袱は中国語でテーブル掛けを意味し、中国料理のように円卓で大皿を囲う長崎の
「卓袱料理」から沢山の具材を載せた関西の「しっぽくうどん」を経たとされる。
上記のように麺の蕎麦はうどんより後なので伝わるなら西の影響を受けるということ。
作中で食べたのはしっぽくの方。
なお卓袱に台を付けると「卓袱台」となり、昭和でおなじみの「ちゃぶ台」となる。
中国語の卓袱(チャフ)や「飯を食べる」が意味の吃飯が変化したとされる。


さて、もともとが非常にナンセンスな話だが、
仮にあなたが江戸時代に住んでいたとしても 時そばは決して成功しない といっても過言ではない。


何故なら当時は、 料金前払い制 だからである。

街道の茶屋で団子を食べ、「勘定置いとくよ」なんてのを暴れん坊将軍などで見たかもしれないが、それはおかしいのだ。
もちろんツケなんて有り得ない。


つまり時代的に時そばは成立しない。

まあ、もともとうどんの話だし、何より「大衆娯楽でなに糞真面目な事言ってんの?」と言われるので、飲みの席での蘊蓄程度に止めておこう。

現在においては落語芸術協会副会長、三遊亭小遊三師匠の十八番。

現代風にアレンジする場合は時間を「~つ」と数えるのがわかりづらいため、あらかじめ店主の子供の話を振っておき「ところで子供はいくつだっけ?」「9つだね」と繋ぐアレンジをされたりする。


追記・修正は銀杏の数を誤魔化さずにお願いします

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