Pimpmobile Pushers

ピンプモービル・プッシャーズ(Pimpmobile Pushers)は、1974年に公開された「ブラックスプロイテーションの最高傑作」と評される作品。

キャッチコピーは「全員売人」。

公開当時、知名度に対して公の場にほとんど姿を見せない事で「実在しない」とまで噂された名監督アラン・スミシー(Alan Smithee)の名を冠して設立された映画レーベル「アランスミシーピクチャーズ(Alan Smithee Pictures)」による記念すべき第一作という事でも注目を集めた。


概要


1970年初頭のハーレムを舞台にした麻薬ディーラー達の抗争を、シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』を下敷きにしたストーリーで描いたモキュメンタリー映画。戯曲『ジュリアス・シーザー』がシーザーではなくブルータスが主人公となっているのと同様に、本作もブルータスにあたる人物(ピンプ牧師)を中心人物として描かれている。

モキュメンタリーはドキュメンタリーに見せかける風表現手法であるため、作品のリアリティが重要となるが、この作品においても様々な試みでリアリティが追及されている。
  • 実際に舞台となるハーレムで実際の売人を中心にした素人オーディションを敢行、演技訓練を施し、一部の役柄を除き主要キャスト含めてすべて素人によるアドリブ主体の演技を撮影した。
  • 作中では売人の屋敷が重要なロケーションとなるが、撮影は本物の売人であるKing Georgeが所有する実際の売人御殿を借りて撮影した。(King George本人もポンペイ役でカメオ出演してる。)
  • キーアイテムであるピンプモービル(Pimpmobile)は、主演のYoungblood Priest(彼もまた本物の売人)が実際の麻薬取引でも使用していた愛車をベースにシャンデリアなどのデコレーションを追加したもの。

ストーリーはシェイクスピア作品『ジュリアス・シーザー』をベースとしてはいるものの、時代設定のみならず、登場人物やキーアイテム、その結末は大幅にアレンジされており、特に、ファム・ファタール(男を破滅させる魔性の女)やホンキー(腐敗警官などネガティブな白人への蔑称が"Honky")といった典型的な映画キャラクターを確信犯的に盛り込んでいるあたりには、「映画賛美」をレーベル・コンセプトとするアランスミシーピクチャーズらしさが垣間見える。


プロット


冒頭はハンマーがポンペイを破って凱旋してくるシーン。
ハーレムに君臨していたポンペイは、元々自分の愛車であった"Throne"(スローン=玉座)と呼ばれるド派手なピンプモービルに引きずり回され絶命。それは、後部座席で優雅に葉巻を燻らすハンマーが、地位も愛車も縄張りも、麻薬王ポンペイの持っていた全てを手に入れた事を意味していた。新王となったハンマー、ハンドルを握る側近のジャガー、そして、助手席から外を眺める親友のピンプ牧師。この出来事は、車中の3人の売人を中心にした新たな抗争のプロローグでもあった。

巨大な権力を手に入れ横暴になっていくハンマーに不満を抱くジャガーは、再三再四、ピンプにハンマー殺害をそそのかす。当初はジャガーを諌めていたものの、8歳の子供にまで売人稼業や殺しまでもさせるハンマーの凶荒にピンプの気持ちが揺れ始め、ジャマイカから来た高級娼婦ミスティックとの出会いが決定打となり、ついにピンプはハンマー殺害を決意する。ピンプは自分の教会に組織の幹部達を集め、親友を殺害しようという自己の正当化と権力闘争による殺しの連鎖を止めるべく、「I Have a Dream」で始まるキング牧師の演説を引用して決起演説を披露。理想のハーレムのための聖なる儀式の生贄としてハンマーを殺害すると説く。

ハンマーはジャガーの一撃に始まり、ピンプのとどめに至るまで、いくつもの銃弾を受け、「Et tu, Pimp(ピンプ、お前もか)」と言い残し息絶える。

事前準備にもぬかりなく、計画を完璧に成し遂げたはずのピンプであったが、その全てはポンペイの情婦であったミスティックによる復讐劇の一部でしかなっかった。用心深く最も接触が困難であったハンマーを周辺の人間達に殺させるという最大の難関をクリアしたミスティックは、ポンペイの組織のNo.2であったウィリアムスと共謀し「ハンマーの亡霊」と見せかける事で自分の正体を隠したままピンプとジャガーを追い詰めていく。

かつてピンプが演説した同じ教会で、今度は彼の亡骸を背にその理想を讃えるミスティック。参列者達に組織の後継者である事を認めさせる儀式も滞りなく終わり、復讐は果たされ殺しの連鎖もこれにて終了した、かに思われた。

教会の外に止めてたあった"Throne"に乗り込むミスティックとウィリアムス。教会から離れるにしたがい笑いのこみ上げる二人。突然、少年が飛び出し停車する"Throne"。歩み寄る少年は、ハンマーに重用されていたあの8歳の子供リトルダイス。本物の「ハンマーの亡霊」。何発かの銃声が鳴り響き、踵を返して駆け出すリトルダイス。その後ろ姿がハーレムの闇に飲み込まれると、主題歌の「Alea jacta est.(賽は投げられた)」が流れはじめる。


キャスト


ピンプ牧師(Pimp Brutus):Youngblood Priest
牧師でありながらハーレム屈指の麻薬ディーラー兼ポン引き。また、ハーレムの麻薬王ハンマーの親友。
演じたYoungblood Priestは元々、本物の売人だった。また、作中のキーアイテムである"Throne"は彼の愛車だったピンプモービルに更にデコレーションを加えたもの。役名も恐らくそれが由来。

ハンマー(Hammer Caesar):Tommy Gibbs
若きハーレムの麻薬王。シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』におけるシーザーの位置付け。
演じたTommy Gibbsも本物の売人。しかもかなりの大物で、奇遇にも「Black Caesar」と呼ばれていたらしい。役名はフットボール選手フレッド・ウィリアムソンのニックネームから頂戴。

ジャガー(Cassius Jaguar):Johe Shaft
ハンマーのボディガードでもある麻薬ディーラー。相当なタフガイであり、野心家でもあり。
演じたJohe Shaftの本業は私立探偵。役名は彼の通り名が「黒いジャガー」だった事に由来する。

ミスティック(Mystic Antonius):Nurse Coffin
ファム・ファタール(魔性の女)。ジャマイカから来た高級娼婦を装うが、その正体はポンペイの情婦でもあった麻薬ディーラー。
演じたNurse Coffinの本業は看護婦だが、実際に娼婦をやっていた経験もあるらしく役名はその時の源氏名を使ったらしい。

ウィリアムス(Williams Lepidus):B.B.Jones
ポンペイの右腕であった大物麻薬ディーラー。格闘技はピンプとジャガーの二人相手にひけをとらない腕前。
役名は当時、香港の武術トーナメント「ENTER THE DRAGON」に参戦したアメリカ人空手家から拝借。

リトルダイス(Little Dice Octavianus):Li'l Dadinho
若干8歳にして麻薬の運び屋であり、殺し屋でもある。どちらにしても警戒されないという利点によりハンマーが重用。
役名は「賽は投げられた(今度はこの少年を中心とした新たな抗争の始まり)」というラストメッセージにひっかけて名付けられたと思われる。

ポンペイ(Pompeii):King George
冒頭で処刑されている先代の麻薬王。演じたKing Georgeも本物の売人。役名はシーザーが破った国名から。

チノ警部補(Police Lt. Chino):Chino Hollister
警官という立場を利用して麻薬ビジネスから金銭的な恩恵を受けている。狡猾にして強欲。”Honky”(=白人の別称)の手本のような人物。麻薬ディーラー達の権力闘争にはほとんど介入しないが、結果、権力を握った人物に接触をする事で、いかなる状況下でも上手に利益を搾取する。


解説


原題の一部であるピンプモービルは"Throne"を指すが、全編に渡って「その所有者=その時点での最高権力者」である事を明確にしており、まさに「玉座」と呼ぶにふさわしいキーアイテムであった。あまりに見事に権力を象徴として描かれた事で、撮影後には購入希望者が殺到したとか。ちなみに、1997年の時点ではニューヨーク公爵(Duke of New York)が所有している事が『Escape from New York(1981)』により確認されている。


(その他)


本作と映画『アウトレイジ(2010)』とには奇妙な類似点が散見される。
  • キャッチコピーが「全員売人」と「全員悪人」である点。
  • 撮影現場の提供者が共に「ジョージ」という人物である点。
アウトレイジにおいて、監督の北野武は友人である所ジョージが所有する別荘を、作中の暴力団組織の会長邸宅として使用した。その際、北野は冗談か本気かは定かではないが「この家を爆破するシーンを撮りたい」とジョージに言ったが、さすがにそれは許可されなかった。ちなみに、King Georgeの売人御殿は、クライマックスの抗争シーンにおいて実際に爆破されている。

シェイクスピア悲劇『コリオレイナス』の現代に舞台を置いた映画化作品に『英雄の証明(2011)』がある。こちらはほぼ全面的にシェイクスピアのストーリーを踏襲している。第39回ベオグラード国際映画祭でオープニング作品として上映された。


関連リンク





※当コンテンツは「Alan Smithee Pictures」の設定資料です。


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最終更新:2012年09月10日 22:27