年をとったワニの話

登録日:2016/10/27 (木) 18:49:00
更新日:2024/04/14 Sun 11:42:00
所要時間:約 8 分で読めます




「年をとったワニの話」とは、フランスの作家レオポルド・ショヴォーによる創作童話である。

レオポルド・ショヴォー(1870-1940)はフランスの作家・彫刻家・画家で、もともとは医師だったが、再婚を期に創作活動に専念するようになる。
戦前から戦中にかけて活躍し、第二次世界大戦の際のドイツ軍侵攻からの避難の途中で客死した。
多くの童話が日本語に翻訳されている。
(ちなみに、名前は「レオポール」と発音するのが正しいのではなどと言われることもあるが、福音館の大判版のリーフレットの中で次男がはっきり
「父の名はレオポルドと発音します」と述べているため、レオポルドで正しいと思われる)

「年をとったワニの話」はおそらく最も知名度が高い作品で、1986年に福音館書店から大判版として出版された「ショヴォー氏とルノー君のお話集1」に収録されている。
のちに2002年に福音館書店から文庫版が出版されており、こちらは新刊書店でも入手可能。
ちなみに、彼の童話は全て四男のルノー(早逝)に語って聞かせた話を収録したものであるという。

2005年に山村浩二氏によりアニメ化されている(語りはピーター・バラカン氏)。



さて、ここまでであれば少し古い時代に書かれた童話の1つ……と思われるかもしれないが、この話、冷静になって読んでみると




とにかく「変」




なのである。





以下、ネタバレ注意













あらすじ


アフリカの奥地、ナイル川のほとりに、とても年を取ったワニが住んでいました。
ピラミッドが建設されるのを直接見たこともあるくらい、とにかく長年生きてきたワニです。

しかし寄る年波には勝てず、最近は満足に狩りもできずにいました。
仕方ないので、とりあえず家族の中から誰かを食べることにしました(ええー……)。


昼寝していたひこ孫を首尾よく丸のみにしたワニでしたが、その現場をその子の親に押さえられました。
一族の中でも尊敬されていたワニでしたが、流石にこれはひどいということで処刑されることに決まります。
しかし、年をとったワニのウロコはかなり分厚くなっていたため、若いワニたちの歯も爪も貫通できませんでした。


仕方ないので、一族はワニを放逐しました。
ワニは故郷を追われ、ナイル川を下って海にまで行きました。

そこでワニは見たこともない生き物に出会いました。
それは巨大なメスのタコでした。
二匹はすっかり意気投合し、タコはワニのために魚を沢山捕まえてきて食べさせてあげました。
そして二人は海の上の岩場で仲良く並んで眠りにつきました。




その晩のこと。
夜中に目が覚めたワニは、
「こんだけたくさんあるんだから、一本くらいいいだろ」
と自分に言い訳をしてタコの足を勝手に食べました

タコもタコで数の概念がイマイチ備わっていないので、目が覚めても自分の足が減っていることに気が付きませんでした。
そして二人はスエズ運河を通って紅海にまで出かけました。
それからというもの、ワニは昼間はタコに魚を捕ってもらってそれを食べるというヒモ生活を送り、夜になると毎晩一本ずつタコの足を食べました。
ちなみにこのタコは特別なタコで足が12本ありました。


足の数が減ってくると流石にタコも自分の身に異変を感じますが、それでも献身的にワニに魚を捕ってきてあげます。
まさか夜な夜なワニが自分をちょっとずつ食べてるとは夢にも思っていません。
11日目ともなるともう泳ぐだけでクタクタでしたが、ワニはそんなタコに「魚を捕ってきてくれ」と頼みます。
鬼ですか。

そして12日目。
いつものように足を動かそうとしても全然体が動かない、ということでタコはパニックに陥ります。
タコの足を一本残らず食べたワニは、
「きっとリウマチにかかったんだよ」
などと白々しいことを言い、
「今日はワシが魚を捕ってきてやろう」
と恩着せがましいことを言って狩りに出かけました。

タコはワニの愛情を感じ、とても幸せな気分で眠りにつきました。
全ての元凶がワニだとも知らず……


で、ここまででタコの味をしめてしまったワニが我慢できるわけはなく、幸せな気分で眠りについたタコはその晩のうちにワニに残った全身を食われました

タコは美味しかったけど、ワニは後悔の涙を流しました。
ちなみに作者の国のフランスでは「ワニの涙」は「ウソ泣き」という意味の俗語です。


こうして自ら食事調達係を食べてしまったワニは、やることが無いので悪びれもせず故郷に戻ることにしました。

故郷にワニが姿を現すと、ワニたちはみんな逃げていきました。

さらに上流のほうまで行きましたが、新しく出会うワニたちも彼を見るなり逃げていきます。
彼らとは一面識もないはずなのになあ、などと訝しんだワニでしたが、疲れたので川辺で眠りにつきました。


辺りが騒がしくなったので目を覚ましてみると、人間たちが彼の周りに集まって音楽を演奏し、踊っていました。
その中の一人、若い少女が彼に近づいてきたので、彼は空腹だったのもあって彼女を食べました。
人間たちはますます喜び、彼を担ぎ上げて神殿にまで連れて行きました。


それ以来、ワニは現地の人間たちに神として崇められることになりました。
毎日年頃の娘が生贄として連れてこられるので、食べ物の心配もありません。
彼はとても謙虚なワニだったので(原文ママ)なんで自分がこんなに崇められるのか不思議でありませんでした。


それは実は、彼が紅海でゆっくりしている間に、体色が真っ赤になっていたからなのです。



めでたしめでたし







……そう、この話、ハッピーエンドである。

自分のひこ孫を食べ、あれだけ献身的に尽くしてくれたタコも食べた挙句、毎日若い娘を食べることができる身分になったというオチである。



とりあえずタコがあまりに報われない






なお、同じ1巻に収録されている「メンドリとアヒルの話」はこれに輪をかけて不条理な話である。


簡単なあらすじ


色々あって、メンドリとアヒルとコウノトリは一緒に暮らし始めました。
メンドリは181羽のヒヨコを生みましたが、かわいがったのは生まれた直後だけで、後はどうでもよくなってアヒルとコウノトリに押し付けました。
アヒルはヒヨコたちに泳ぎを教えようとしましたが全員溺死し、コウノトリは飛ぶことを教えようとしましたが全員墜落死しました。

その後コウノトリはアヒルとメンドリを両足に持って旅に出ますが、海の上を飛んでいた時に重くなったのでアヒルを離しました。
アヒルはサメに食われました。
コウノトリとメンドリもほどなく墜落死しました。



……子供が読んだらトラウマものである。





断っておくと、ショヴォーの童話がどれもみんなこんな感じなわけではない。
普通の冒険譚やほのぼのした話もある。
特に「なめくじの話」は、個性的なキャラクターが織り成す愉快なドタバタ劇である。




追記・修正はワニと一緒に寝てからお願いします。




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最終更新:2024年04月14日 11:42