ゼロ・グラビティ(映画)

登録日:2014/02/01 Sat 15:20:02
更新日:2023/03/02 Thu 19:27:09
所要時間:約 6 分で読めます






地球の上空60万メートル

音のない世界

気圧もなく

酸素もない




宇宙で生命は存続できない





G R A V I T Y





ゼロ・グラビティは、2013年公開のSF映画。
監督は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『トゥモロー・ワールド』を手がけたアルフォンソ・キュアロン。
日本での公開日は2013年12月13日。

宇宙空間にたった一人取り残された主人公が、宇宙そのものと闘いながら地球への帰還を目指す様子を描くSFサスペンス。


ストーリー

あるスペースシャトルの周囲で行われる船外活動から、物語は幕を開ける。

医療技師のライアン・ストーン博士は、ミッションの指揮を務めるマット・コワルスキーとシャリフと共に船外活動を行っていた。
ライアンは初の船外活動、そして機材の予想外のトラブルに苦戦するものの、ベテランであるマットとシャリフはオペレーターと軽口を叩くなど余裕を見せ、ミッションは進んでいた。
そんな彼らに、オペレーターから一報が入る。

「大量の衛星の破片が、こちらに接近している。至急シャトルへ退避せよ」

なんでもロシアが宇宙衛星をミサイルで破壊したところ、その破片が連鎖的に周囲の衛星をも破壊し、デブリとなってこちらに接近してきているという*1
三人は作業を切り上げ避難を試みるが、避難は間に合わずデブリの大群はシャトルに激突。
シャトルの乗員とシャリフは死亡し、ライアンもまた自身を固定していたアームからの離脱が遅れ、宇宙へと飛び出してしまう。

マットの助けにより事なきを得たライアンだったが、パニックで過呼吸に陥ったライアンの宇宙服には僅かな酸素しか残されていなかった。
マットとライアンは破損したスペースシャトルを諦め、マットの宇宙服に装備された推進機で国際宇宙ステーション…ISSへの移動を試みる。
ISSには宇宙船ソユーズが装備されており、ソユーズを使うことができれば地球へ帰還することができるはずだった。
彼らはソユーズに一縷の望みを託し、ISSへの長距離移動を開始した。
果たして、彼らは地球へと帰還できるのか…。


概要

単純にまとめると、この作品は


宇 宙 超 怖 い


ということを嫌というほど教えてくれる作品である。




…以下は真面目な解説。
まず語るべきは「圧倒的な無重力表現」である。
本作は宇宙を舞台にした作品であり、冒頭の船外活動を筆頭に宇宙空間、宇宙ステーションと無重力の中で物語は進行する。もちろん過去にも『2001年宇宙の旅』『アポロ13』など無重力シーンを様々な方法で撮影した映画はあったが、本作はそれらを凌駕する圧倒的な無重力表現を実現している。
勿論それらはCGやグリーンバック、巧みなワイヤーによる宙吊りなどによるものではあるが、そんなことを忘れさせるぐらい本作の「無重力のリアル感」は桁違い。「本当に宇宙に行って撮影したのではないか」というくらいのリアルさが、この映画にはある。
特に、中盤でサンドラ・ブロックが宇宙服を脱ぎ捨て、無重力の中で浮遊するワンシーンは圧巻。
さすがに本物の宇宙飛行士から賞賛されただけのことはある。

そして、それに華を添えるのが「3D」
「3D映画は『アバター』で完成した」と言う映画評論家も多いが、本作は宇宙を表現するのに効果的に3Dを使用しており、その技術力は非常に高い。
宇宙ステーションの奥行き、手前側に飛んでくるデブリ、くるくると回転しながら宇宙飛行士の手を離れていくボルト、船内に浮き上がるペンや水…宇宙空間を演出することに、3Dは非常に貢献している。
「3Dは目が疲れる」という人も、本作は是非3Dで鑑賞して欲しい。

さらに、「音」が本作独特の雰囲気を作っている。
多くの宇宙モノ作品では音が伝わらないはずの宇宙空間でも当たり前のように効果音が使われるが、本作では一貫して「飛行士に聞こえている音」「空気のある宇宙船内の音」「BGM」以外の効果音は一切ない。
目の前をデブリが横切ろうが後ろでステーションが木っ端微塵になろうがひたすら無音である。

そして何と言っても本作を語る上で外せないのは「宇宙の恐ろしさ」
「デブリ」「限られた酸素」「無重力の中での漂流」といった宇宙の恐ろしさが冒頭の時点で凝縮・表現されており、宇宙という場所でいかに人間がちっぽけな存在であるかを教えてくれる。

その上で、その宇宙に極限の状況下で抗うライアンの孤軍奮闘もまた見所。次々と、間髪入れずに襲い来る窮地を前に、ライアンは幾度と無く折れそうになりながらも立ち向かっていく。
ライアンには特別な力もなく、宇宙に関しての知識も本職の宇宙飛行士に比べれば心もとない。そんな彼女が迷い、挫けそうになりながら進んだ果てにあるラストは感動の一言。
原題「GRAVITY」と見事にマッチしたラストは、是非その目で見届けて欲しい。

「プラネテス」「宇宙兄弟」などで宇宙に夢を抱いた者の夢をぶっ潰すこと請け合いの映画である。
あと鑑賞後に足元がふらつくのもよくあることである。


登場人物

  • ライアン・ストーン(演:サンドラ・ブロック、日本語吹き替え:深見梨加)
医療技師。本来宇宙飛行士ではないが、半年の訓練期間を経てスペースミッションに参加。
宇宙には不慣れであり、「吐きそう」などと愚痴を漏らしていたが、幸か不幸か、デブリの雨がシャトルを襲った際にマットとともに唯一の生存者となる。
その後はベテランのマットに従い、少ない空気を温存しつつISSへ向かおうとするが…。
4歳の娘を亡くした過去があり、今でもそのトラウマに囚われている。

  • マット・コワルスキー(演:ジョージ・クルーニー、日本語吹き替え:小山力也)
本職の宇宙飛行士であり、何度もミッションに参加したベテラン。今回のフライトで引退の予定だった。
死と隣り合わせの非常時でも宇宙空間で冗談を飛ばし、雑談に花を咲かせるなどベテランの余裕を見せる。
シャトル大破の際ライアンとともに唯一の生存者となり、動揺し、混乱するライアンをフォローしつつISSを目指す。
宇宙遊泳時間のギネス記録を狙っていたが(スケジュールの関係で達成されない予定だった)、奇しくも非公式ながら達成することになる…

  • シャリフ(演:ファルダット・シャーマ、日本語吹き替え:河本邦弘)
本職の宇宙飛行士。マットの同僚。
序盤で死亡フラグを立て、画面の端っこで断末魔もなくデブリに貫通されて死亡した。

  • ミッション・コントロール(演:エド・ハリス*2、日本語吹き替え:岩崎ひろし)
声のみ出演。序盤で通信が不調となり、以降登場しない。


メカニック

ご存知アメリカが所有する宇宙往還機。ライアンたちが搭乗していたもの。ミッションナンバーはSTS-157*3
回収する間もなくデブリに襲われたため、なすすべもなく大破し、避難所として使うことも不可能な状態となってしまった。

  • ハッブル宇宙望遠鏡
冒頭でライアンたちが修理していた。

  • 有人操縦ユニット(MMU)
マットが装備していた独立ユニット。改良型のテストとしてハッブルの周りでスラスターを吹かしていた。
唯一自力で移動できたためISS行きに使われるが、スラスターのテストで燃料を使っていたため到達寸前でガス欠を起こし、減速できなくなってしまう。
実際には「ロボットアームに足場付けるか命綱付きのEVAスーツでよくね?」としてたった3回で使われなくなったブツである。

  • 国際宇宙ステーション(ISS)
ご存知、日本も参加している実験基地。
ライアン達が着いた時には一部損傷してもぬけの殻で、その上一部の配線がスパークしており(ライアンはそこを通過したが気づかなかった)日本実験棟「きぼう」から出火、ノード2「ハーモニー」から一気に広がってしまった。
セリフにあった通り2機のソユーズ宇宙船が脱出艇兼スラスターとして常にドッキングしているが、6人いるはずの乗組員がどうやって3人乗りのソユーズ1機で脱出したのかは謎

  • ソユーズ
旧式ながら今なお現役で使われているロシア製の宇宙船。
ステーションに残っていた機体はISSを襲ったデブリの影響でパラシュートが開いてしまっていたため地球への帰還には使えなかったが、宇宙空間の航行には問題がなかったため、最後の希望である天宮への移動に使われた。
パラシュートの取付ボルトを外している最中にデブリ群が到達し、崩壊するISSから放り出された上片側のソーラーパネルをもぎ取られてしまい途中で電源が切れたため、やむなく船体を分離し帰還船のみで残りの距離を進む羽目になる

  • 天宮(ティアンゴン)
ISSへの参加を拒否された中国の宇宙ステーション。
損傷してそのまま放置されていたISSと違って無傷だったが、ライアンが目視した時点で既に大気圏へ降下し始めていた*4
実物は2021年に建設が開始されたので公開時点ではまだ計画段階のものだった。なお、「天宮」という名称は現在公式には用いられておらずもっぱら「中国宇宙ステーション(CSS)」と呼ばれる。

  • 神舟(シェンヅー)
中国の宇宙ステーション「天宮」に残されていた宇宙船。
もともとソユーズを参考にして作られているため、コンソールが中国語ばかりということを除けば非常にソユーズに似ている。
こっちはこっちで離脱する間もなくステーションごと分解したため再突入しながら帰還船を切り離した


余談

原題は先述した通り「GRAVITY」
一見作品の内容と矛盾しているように思えるが、ラストを見ると原題の真の意味がわかる構造になっており、むしろ「何で原題を変えた」と多くの人に言われている。
いつもは原題まんまのくせに、いじる時はセンスゼロなのは最近の日本映画界の悪い癖

主演となるライアン・マットのキャストは製作までにコロコロと変わっている。
当初、それぞれアンジェリーナ・ジョリーとロバート・ダウニーJrが務めるはずがアンジェリーナが降り、その後マリオン・コティヤール、スカーレット・ヨハンソン、ブレイク・ライヴリーなどが候補に上がり、紆余曲折を経てナタリー・ポートマンに決定しかけるがナタリーもスケジュールの都合でプロジェクトを去り、最終的にサンドラ・ブロックに決っている。
ロバート・ダウニーJrも別の映画への出演が決定してプロジェクトを降板。ジョージ・クルーニーがマットを演ずることに決まった。

第86回アカデミー賞において、アルフォンソ・キュアロンが監督賞に、サンドラ・ブロックが主演女優賞に、エマニュエル・ルベツキが撮影賞にノミネートされている。
更にハリウッド映画祭ではサンドラ・ブロックが主演女優賞を受賞、同年発表された日本のキネマ旬報ベスト・テンでは、アルフォンソ・キュアロンが本作で外国映画監督賞を受賞した。
第37回日本アカデミー賞では、 優秀外国作品賞にノミネート。第56回ブルーリボン賞でも、外国作品賞に選ばれた。
映画情報誌「映画秘宝」のベスト&トホホ10においてもベスト2に食い込んでおり(ちなみにベスト1はパシフィック・リム)、国内外においてその評価は非常に高い。

本作のスピンオフとして、『Aningaaq』(アニンガ)という動画がYouTubeで公開されている。監督はアルフォンソ・キュアロン監督の息子ホナス。
これは一見何気ない映像なのだが、実は作中のとあるシーンを切り取ったものとなっている。
ネタバレになるので詳細は記述しないが、中盤辺りの「あの無線」がどこにどうつながっていたのかを知ることができる。
残念ながら英語のみで字幕もないが、映画を見た人は是非この動画もチェックしておこう。
(なお、本作のBlu-ray / DVDにも「 アニンガ:地球との交信 」のタイトルで映像特典として収録されている)



劇場を出た後、息苦しくなった人は追記・修正お願いします。

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最終更新:2023年03月02日 19:27

*1 衝突カスケード、またはケスラーシンドロームと呼ばれる現象。エースコンバット7でミサイルが起こした現象と言えば分かる人もいるだろう。空間内のスペースデブリがある程度の密度を超えると発生するとされるが、今のところはシミュレーションモデル。しかしニアミスや衝突事故は頻繁に起きている。

*2 余談だが、ハリスは「アポロ13」でアポロ13号のフライト・ディレクター(管制チームのリーダー)だったジーン・クランツを演じたことがある。

*3 機体名、ナンバーともに実在しない。

*4 おそらく、(直前のISSのような)デブリの衝突によるさらなるデブリの発生を防ぐための措置として意図的に落とされたものと思われる。