あきづき型護衛艦

登録日:2012/09/20 Thu 10:03:54
更新日:2024/01/03 Wed 20:29:05
所要時間:約 5 分で読めます




あきづき型護衛艦は、海上自衛隊の護衛艦。


【スペック】

諸元
基準排水量 5000t
満載排水量 6800t
全長 150.5m
全幅 18.3m
深さ 10.9m
喫水 5.4m
最高出力 64000馬力
航続距離 不明
最大速力 30ノット+
乗員 約200名

機関 COGAG方式 SM1Cガスタービンエンジン 4基

兵装
Mk.45 62口径5インチ単装砲 1基
高性能20mm機関砲(CIWS) 2基
4連装対艦誘導弾発射管 2基
Mk.41VLS 32セル
3連装魚雷発射管 2基
艦載機 SH-60K哨戒ヘリコプター 1/2機

レーダー及び電子装備類
FCS-3A 多機能レーダー(捜索用、FC用アンテナ各4面) 1基
OPS-20Cレーダー (航海)1基
OQQ-22 統合ソナー・システム(バウ・ソナー+OQR-3 TACTASS)
NOLQ-3D 統合電子戦システム
Mk 36 SRBOC 対抗手段システム
(Mk.137 チャフ・フレア発射機×4基)

【概要】

あきづき型護衛艦は、海上自衛隊が建造中の第5世代汎用護衛艦である。
なお、あきづきのネームシップを持つ艦型は、海上自衛隊では1960年就役の初代あきづき型護衛艦に続いて2代目で、漢字表記である旧海軍の秋月型駆逐艦を含めれば3代目になる。
本艦型は、秋月型が防空駆逐艦という性格を同じくするところから、艦名を継承したと思われる。

前回建造されたたかなみ型がむらさめ型のマイナーチェンジ版と位置付けられるため、あきづき型は実に16年ぶりに新規設計された護衛艦である。
しかし計画当初は欧米の最新鋭艦と同等のステルス性の艦体を持つはずだったが、自衛隊最大の敵こと財務省の横槍により予算が削減され、艦体はたかなみ型の流用となった。
そのため一概に新規設計とは言い難くなった。実際両者が並んで停泊する姿を見ると船体は酷似している。

【特徴】

あきづき型護衛艦最大の特徴は汎用護衛艦として始めてFCS-3を登載した事である。(護衛艦全体で見るとひゅうが型の方が先にFCS-3を登載している。)

FCS-3とは日本きっての変態技術者集団防衛庁技術研究本部が開発した射撃管制装置(FCS)や艦載対空レーダーを統合した艦載対空戦闘システムである。

その性能は最大探知距離は200キロ以上、最大追尾目標数は300程度とされている。

更にあきづき型に登載されたのはFCS-3Aと呼称された改良型で、レーダーに窒化ガリウム(ガリウム・ナイトライド)素子を採用。
モジュールの出力はひゅうが型の搭載システムの3倍以上に増強されている。
これにより探知距離拡張や同時追尾能力向上は言うまでもなく、電子妨害への耐久性も相当に改善されたといわれる。

このFCS-3が採用されたことにより、あきづき型では対空迎撃能力が格段に向上し、限定的な艦隊防空能力(僚艦防空能力)が付与された。

えっ良く解らない?
まぁぶっちゃけて言うとやってることは中近距離版イージス・システムだと思ってくれればいいよ。

この他にあきづき型は主砲をたかなみ型の54口径OTO・メララ127mm単装砲からあたご型に採用された62口径Mk.45 5インチ単装砲に変更。
僚艦防空のため、最新型対空ミサイルESSM(発展型シースパロー)を採用。これは従来のシースパローに比べ射程で倍以上、そしてVLS1つに4発装填可能な優れものである。
あきづき型は最大でVLS32セルの半分。16セルに64発のESSMを搭載すると言われ、射程圏内の同時迎撃可能目標は最良条件で32目標とさえ言われている。

現行のフルスペックイージス艦が最良条件で12から18目標同時迎撃と比較すると、その凄まじさが分かりやすい。
もちろんイージス艦はあきづき型より数倍長い距離から迎撃できるため一概に優劣は論じ得ない。
しかし両者を組み合わせるとそれはエゲつない防空網となるのは間違いないであろう。

対潜ソナーや戦闘システムも最新型のものに換装されている。
試験艦あすかで長年実験された艤装、そして民生電子部品の多用により大幅な高性能化を遂げた。
直接的な攻撃手段以外にも自走式・浮遊式対魚雷デコイなども搭載。勿論電子戦システムもNQLQ-3系列の最新改良型が搭載されている。

また艦体にこそ従来の流用に妥協したが、あたご型と同じく日本独自設計のステルス性能を高めた平面構成の塔型マストを採用。
艦橋から格納庫に至る構造物のステルス化。短魚雷発射管を船内収容式にするなど、従来型護衛艦に比べれば大きく進歩はしている。
従来の流用と言われる船体も凌波性や航洋性に優れた実績あるもので、一概に劣っているとはいえない。

寧ろ残念なことになったのは主機、つまりエンジン回りである。
海自としては本来満載7000トン近い護衛艦を疾駆させるためには、イージス艦と同じLM2500ガスタービン4基2軸8万馬力を望んでいた。
しかし山田洋行事件の影響などから採用を自粛。敢えて1世代古いスペイSM-1Cガスタービン4基を64000馬力へ増力して用いている。

船体喫水線下にフラップさえ装備するなどの工夫で十分な機動力を得ているが、この点は運用側も開発側も未だに惜しんでいると言われる。
但しスペイ自体は世代的に古いものの、幾度もの改良を経て長年運用されてきたため、信頼性や実用性に問題のないガスタービンではある。


【任務】

あきづき型の任務というか基本的な運用方法は限定的艦隊防空能力をもってイージス艦を護衛することと言われる。


えっなんで世界最強の防空能力を持つイージス艦を守るかって?
これはまぁ日本独自の事情のせいである。

ご存知の通り日本の周辺某国は弾道ミサイルとか巡航ミサイルとか核とか物騒なモンを持っている。

で専守防衛を掲げる我が国自衛隊はこれら発射基地に発射の兆候があっても先制攻撃が出来ない。そのため、現在アメリカと共同でTMB(弾道ミサイル迎撃システム)を開発している。

このTMBの第一段階ではイージス艦がSM-3という迎撃ミサイルを発射する。

イージス艦は弾道ミサイル追尾のためAN/SPY-1対空レーダーの能力を弾道ミサイルに集中させることになる。
それによりイージス艦は艦隊全体はおろか、単艦での防空にも支障をきたすと言われる。
つまりイージス艦が無防備になる…とされている。

アーレイ・バーク級がワークホースのアメリカ海軍ならば、イージス艦それぞれに任務を割り当てることが出来る。
しかし本級導入時は6隻。2023年でも8隻保有、更に近い将来では10隻保有*1が限界の海上自衛隊としては文字通り虎の子であり、イージスのためのイージスといえなくもない。
(というか80隻以上ものイージス艦を持っている海軍などアメリカ以外に存在しないが。むしろ日本は保有数世界2位である)

まぁ実際のとこ弾道ミサイルにAN/SPY-1レーダーを集中させても艦隊防空出来るらしい。
イージス艦ってスゲー。*2

イージス単独で全てこなせるのか、あきづきの本来コンセプトは何かは諸説あって正直ハッキリしない。
何しろFCS-3からして開発は四半世紀に渡りその間にコンセプトが幾度も変わっている。
イージスシステムもベースラインにより処理能力が全く異なる事も影響している(初期型を1とすると現行型は数十倍以上)。


まあ諸説さておき敵さんがこんなチャンスを逃すはずがなく、ここぞとばかりにイージス艦へ攻撃を行う可能性は極めて高い。
そして貴重なイージス艦やイージスのカバーを外れた僚艦を簡単に失うわけにはいかないから、一時的とはいえイージスを代替する艦が必要になる。

それまでの汎用護衛艦むらさめ型、たかなみ型は自身や近隣の僚艦を防衛することは出来ても、
護衛隊群まるごとカバーするのは能力的に不可能であるため、あきづき型がその任務を引き受けるのである。
但しあきづき型の指揮下に入る事を想定して既存護衛艦もLink16やESSM対応など近代化改装を受け、共同交戦能力(CEC)向上に努めている。


【同型艦】

DD-115 あきづき
2009年7月21日起工。2012年3月14日竣工。
第1護衛隊群第5護衛隊*3所属。

DD-116 てるづき(本艦より07式新アスロック運用能力付与)
2010年6月2日起工。2013年3月7日竣工。
第2護衛隊群第6護衛隊*4所属。

DD-117 すずつき
2011年5月18日起工。2014年3月12日竣工。
第4護衛隊群第8護衛隊*5所属。

DD-118 ふゆづき
2011年6月14日起工。2014年3月13日竣工。
第3護衛隊群第3護衛隊*6所属。


なお25DDと呼ばれるあきづき型を原型とした次期護衛艦(2018~19年就役予定)が2隻建造中だった。
これは2016年10月19日に一番艦「あさひ」が就役、これによりあさひ型護衛艦となった。
実はこちらもあきづき同様護衛艦としては二代目(初代は米軍貸与艦)、旧海軍から数えると三代目の襲名である。

能力的には対潜重視の汎用護衛艦へ回帰しており、コスト低減もありVLSは半数に削減された(ただし追加搭載のスペースは確保されている)。
……と就役前は噂されていたが、結局初めからあきづき型と同じ32セルとなっている。
対空能力も個艦防御に留められた一方、ソナーを含む対潜システムは更に刷新され対潜能力は大幅に向上した模様。
特に上述の対潜システムの中にはP-1哨戒機搭載のアクティブフェイズドアレイレーダ4基を搭載した「潜望鏡探知レーダ」さえ実装。

更に向上したソーナーシステムや対潜トマホークとも言える07式新アスロック搭載もあり、潜水艦絶対殺すマンと化している。
本級2隻が完成すると海上自衛隊の汎用護衛艦枠20隻は完全に埋まり(むらさめ型9隻、たかなみ型5隻、あきづき型4隻、あさひ型2隻)、
以後小型の新型護衛艦(3,000t程度?)が量産されると言われている。これらは10番代護衛隊の旧式護衛艦の代替枠と言われる。*7


【コスト削減のための苦渋の決断】

上述の通り防衛予算の不足からあきづき型は随所で従来技術を流用し、建造費と維持費の低減を図っている。
19DDと呼ばれていた頃はコスト重視案でも艦対艦ミサイルをVLSへ収納。CIWSはファランクスBlock1Bであった。

しかし現実には更に財政全般が逼迫、SSMはむらさめ・たかなみ同様の90式艦対艦誘導弾を採用。
CIWSも除籍された護衛艦より転用されたBlock1/1Aである。
肝心の対潜装備もネームシップあきづきは従来の垂直発射アスロックに甘んじた(この辺りはDDHいずもも同様)。

とはいえ近年の周辺情勢逼迫に伴い流石に順次、これまで不足とされた能力の補填が施されている。
まずあきづきに対する07式新アスロック運用能力の付与。
そして他の汎用護衛艦と合わせCIWSを順次Block1Bに改修、C4Iも換装が容易な民生品故モジュール交換が盛んな模様である。

無論、無い袖は振れない以上今あるもので何とかする他はない。
特に護衛艦でもっとも重要な船体に関してはむらさめ・たかなみ系列が安定性と冗長性を十分持っていたことが幸いした。
しかし元開発隊群司令・自衛艦隊司令などからは新型船体研究の遅延を危惧されているのも事実である。




僚艦防空能力を持つ方追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 海上自衛隊
  • 海軍
  • 自衛隊
  • 日本
  • 軍事
  • 軍艦
  • 護衛艦
  • 僚艦防空能力
  • あきづき型

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月03日 20:29

*1 最後の2隻は様々な政治的ゴタゴタの末に導入が決定しており、既存のイージス艦と同等の能力を備えているかはわからない…

*2 対空戦とミサイル防衛を同時に行う機能をIAMD(Integrated Air and Missile Defense)という。海自イージス艦のうち、あたご型とまや型は対応しているが、こんごう型は対応していない。そのため、あきづき型は主にこんごう型と組まされることになる

*3 こんごう型1番艦「こんごう」が所属

*4 こんごう型2番艦「きりしま」が所属

*5 こんごう型3番艦「みょうこう」が所属

*6 こんごう型4番艦「ちょうかい」が所属

*7 もがみ型FFMとして結実した