文責:きょうよ

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極限・収束といくつかの例

極限と収束

講義を理解した方であれば、第2回の講義の最後に触れた記号列に関して理解できるものと思います。今、改めてそれを書いてみましょう。
ある数列{s n }が与えられているとき、数sが{s n }の極限であるとは

\forall \varepsilon > 0 ,\exists N \geq 1, \forall n \geq N \mid s_n - s \mid < \varepsilon

を満たすときに言います(式1)。また、このようなsが存在するとき数列{s n }は収束すると言います。
また、どんなsに対しても収束しない場合その数列は発散するといいます。
では、具体的な例を見ていくことにしましょう。

最も単純な数列

今、数列{s n }が任意のnに対してs n =0であるようなものを考えます。

0(=s_1),0(=s_2),0(=s_3),0(=s_4),\dots,0(=s_n),\dots

というような数列です。ずーーっと、0ばかりの数列で大変単純なものです。
これが収束するかどうか、、、いかがでしょうか?すこし考えてみてください。



そこまでもったいぶるほどのものではありませんね。答えは収束します
問題はここからです。収束するからには、それを証明しなければなりません。今、収束するかどうかは上の定義で出てきた式1を満たすような数sが存在しなければなりません。このsは直感からみて0であることは間違いなさそうです。では、次にやらなければならないことはs=0が式1を満たすことを示すことです。
つまり、収束するというためには、数列{s n }が「収束する」という定義を満たすことを示す。そのために極限(この例の場合は0)を見つけそれが定義の条件(式1)を満たすものであると示す必要があるわけです。
では、証明に入ります。

収束の証明

式1は任意のε(>0)に対してある条件を満たすようなNが存在すると言っています。ですので、任意のε>0に対してそのようなNが存在することを示していきます。今ある数ε(>0)が与えられています。ここで、Nが満たすべき条件は任意の自然数nに対して|s$sub(){n}-s|<εであることです。sは0であると考えていますので、これは|s n -0|<εをみたすという要請です。
どんな自然数Nをとったらいいですか?


答えは、この場合はどんな自然数Nをとっても成り立ちます(しかもεの値によらず!)。今、そのようなNが存在することを示せばいいので、たった一つでもあればいいわけです。ですので、Nとして1をとった場合を考えます。
すると、n≧N=1をみたす任意のnに対しても|s n -0|<εです。だって、s n は常に0ですから|0-0|=0となりε>0の条件から|s n -0|=0<εとなります。簡単ですね。
つまり{s n }は収束し、しかも、極限が0(=s)であることまで証明されました。

きちんとした証明

これを、きちんと数学屋さん式の文章に直したものが以下のものです。

今、ε>0が与えられているとする。この時、N=1に対し条件式(式1)が成立することを示す。
任意のnに対してs n =0であるので、n≧N=0を満たすnに対してもs n =0
よって、任意のn≧Nに対し

\mid s_n -0 \mid = \mid 0 - 0 \mid =0

であるが、ε>0よりこれはεより真に小さい。
よって、Nが式1を満たすものであることが示された。
これより、数列{s&ub}は収束する。

実際は、もう少し省いたり(あるいは丁寧に書いたり)と、それを読む側のレベルによって変えていきますが、だいたいこんな感じで証明を行います。
かたい文章かもしれませんが、数学書ではなこのような形式で証明が書かれていることが多くなれておく必要があります。
上の例は極限sもすぐ思い浮かび、しかも、Nのとりかたがεによらないというかなり簡単な例です。次にもう少し複雑なものを考えて行きましょう。

少し複雑な例

ではs n がn/(n+1)が与えられている数列に関してはどうでしょうか??

\frac{1}{2},\frac{2}{3},\frac{3}{4},\dots,\frac{n}{n+1},\dots

どうも、だんだん1に近づいていくような感じがありますね。試しに、極限sは1であると想定して証明できるか考えてみます。
今、1が極限だとすると、あるε>0が与えられた時にs=1として収束の条件(式1)をみたすようなNが存在するはずです。ここで、n/(n++1)が常に1よりも小さな値であることを考えると|s n -1|=|1/(n+1)-1|は1-n/(n+1)と一致し、さらにnが大きくなればなるほどこの値は小さくなっていきます。
つまりある自然数tで1-t/(t+1)<εをみたせばu>tであるようなuに対しても1-u/(u+1)<εがなりたつということです。少し計算してみると

1-\frac{t}{t+1}<\varepsilon
t+1-t<(t+1)\varepsilon
1< t \varepsilon+\varepsilon
\frac{1-\varepsilon}{\varepsilon}<n

となり,これが1-t/(t+1)<εとなる条件であることがわかります。Nとしてこのtより大きな自然数をとれば,n>Nを満たす自然数nに対してもこの大小関係はなりたちますから|s n -1|<εとなるわけです。今回は、先ほどの例とちがい、与えられたεによって、Nの値を考えないといけなかったことに注意してください。

きちんとした証明2

今の場合の証明を書いてみましょう。

あるε>0が与えられたときNをN>(1-ε)/εを満たす数だとする。この数は存在する。
このとき任意のn≧Nに対して、

\mid s_n-1 \mid = 1-\frac{n}{n+1} \geq 1-\frac{N}{N+1}<\varepsilon

となる。よってこの数列{s n }は1に収束することがしめされた。

この証明において、でてきた式の二つ目の不等式は省略されています。この部分に関して証明を書いてもいいのですが、少し考えれば分かるもの、明らかなもの(自明なもの)に関しては証明中で省略する場合があります。書籍などにおいても同じです。
実際、n≧Nですから

nN+N \geq nN+n

N(n+1) \geq n(N+1)

となり

\frac{N}{N+1} \geq \frac{n}{n+1}

つまり

1- \frac{n}{n+1} \geq 1-\frac{N}{N+1}

で簡単に示すことができます。ただ、ぱっとみて直ぐにわからない場合には必ず手を動かして確認してみてください。もしかするとわからない原因は、前提知識の欠如や理解不足にあるばあいもあります。そのまま読みすすめてしまうと、浅い理解になってしまいますのでこのような「行間を埋める」作業を行うことも数学書をよみすすめるうえで大変重要となってきます。

第4回のおわりに

今回の講義は以上です。記号の列を理解し、それにそった証明をおこなうという基本的であるが難しく重要な作業を紹介いたしました。今回取り上げた例は簡単なものであり、本講義の趣旨からあまり入り組んだモノを取り上げるのは妥当でないため、このような例をとりあげました。しかし、次回以降も今回行ったことに類似の作業は多々でてきますのでその都度その都度丁寧に理解するということを積み上げることによって力が身につくものと信じています。


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最終更新:2013年02月27日 18:31