文責:きょうよ

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記号を読む

記号はつまずく

すこし高度な数学を扱うような書籍を読もうとした場合、どうしても任意や存在を表す記号の羅列と向き合わなければならなくなります。多くの人は、ここで大変苦労をしてしまうかもしれません。
しかしながら、数理論理を扱うのでなければ、出てくる記号は「∀」「∃」あるいは「⇒」がほとんどで、そこまで複雑なものではないはずです。ごちゃごちゃと書いてありますが、見た目に騙されてはいけません。「丁寧に書こうとすれば説明が長くなる」ように「記号で書くと長くなる」という程度のことで、言っていることはそんなに難しくないはずです。
みんながつまずくここを突破できれば、だいぶ楽になるとおもいます。がんばって理解していきましょう!

基本の記号

記号列の解読の鍵は、まずは、上にあげた三つの記号を理解することです。ひとつひつつ見ていきましょう
「∀」、これは「任意の」を表す記号です。「任意」という言葉自体、日常の会話では合間り使わないかもしれませんが、意味としては「どのような」とか「~を満たす全ての」だと思っておけば大丈夫でしょう。
例えば「∀x>0 式1が成り立つ」とあれば、0より大きな「どのような」数xに関して式1が成立するとなります。簡単な例で言えば

\forall x>0 ,x+1>1

のような感じです。これは「どのような正数xにたいしてもx+1>1(が成り立つ)」ことを意味しています。むずかしくないですね。
ここで注意ですが、上のxがどのような数であるかは上の記号列からはわかりません。有理数であるかもしれませんし、実数であるかもしれません。しかし、たいていの本では、文脈から分かるため省略されています。逆に、わかりにくい場合には省略されていないので読んでいくのに障害にはならないはずです。
つぎに「∃」は「存在する」を意味しています。こちらは、日常の会話でも普通に使うのでわかりやすいですね。「100以上の偶数が存在する」とか「3で割り切れる偶数が無限に存在する」とかです。ある関数fが与えれるとして

\exists x>0 ,f(x)=3

とあれば、「正数のなかで、f(x)=3を満たすようなxが存在する」ということを意味しています。
「⇒」は「ならば」を意味します。これだけではわかりにくいですが通常「A⇒B」と書いて「AならばB」とよみ「Aが成立すればBも成立する」とか「Aが正しければBも正しい」ということを意味します。高校で必要十分条件をならったかたなら簡単に理解できますね。

「または」と「かつ」

ほかにも出てくるかもしれない記号として「∨」と「∧」があります。ただ、これらは記号で用いられるようりも日本語でそのまま「または」あうるいは「かつ」と表記されることが多いようです。あまり気にする必要もありませんが、もし出てきた場合には「または」と「かつ」だと思っておけば良いでしょう。(このwikiでは数学モードで日本語を打ち込めないので頻繁に用いるかもしれません。ご了承ください。)
これらの意味も少し説明します。
「または(∨)」は、「AまたはBが成立する」のように用いて、「Aが成立する」あるいは「Bが成立する」あるいは「AとB両方が成立する」という意味です。最後の「AとB両方が成立する」場合も表していることに注意しましょう。
「かつ(∧)」も同様に「AかつBが成立する」のように用いて「AとB両方が成立する」ことを意味します。

範囲に気を付けよう

基本的な記号の意味に関しては上のようになりますが、記号の(作用)範囲に関しても気をつける必要があります。記号の範囲というのは、「その記号はどこに効果があるのか」ということを意味しています。厳密にやると少々骨がおれるので、簡単な例を見てりかいすることに致しましょう。次の記号列をみてください。

\forall x>0 ,\exists y>100 ,x>y \Rightarrow x>100

これには二通りの読み方があります。まず一つは「∃y>100」の範囲を「x>y」と考える読み方です。この読み方では「どんな正数xに対しても100より大きな数yでxよりも大きな数が存在していればxは100より大きくなる」と読みます。
一方「∃y>100」よ作用範囲を「x>y⇒x>100」と読むと「どんなxに対しても、ある100よりも大きな数yでx>yならばx>100となるような、そのようなyが存在する」と読みます。
違いがわかりましたか?前者の読み方ではどのようなyが存在するかというと(100よりも大きくて)「x>y」となるような数yが存在するといってますが、後者の場合は(100よりも大きくて)「x>y⇒x>100」となるような数yが存在すると行っています。
この例では実質的な意味はあまり変わりませんが、大きな違いが出てくる場合もあります。ただし、たいていの場合は上のような紛らわしい書き方はされることはあまりありませんし、紛らわしい場合には括弧で範囲をわかりやすく書いてあるはずです。しかし、ごくまれに筆者が「これは勘違いしないだろう」と書いたものでわかりにくいばあいがでてくるかもしれません。そのようなときには、この「範囲」というものを注意深く意識してみましょう。

問題

ここまでに書いた例文でだいぶ読めるようになっていると思いますが、最後にすこし複雑な問題をだしてこの回は終わりたいと思います。次の記号列を見てください。

\exists x(\phi(x)\wedge \forall y(\phi(y) \Rightarrow x=y))

ここでxやyは数で、φ(x)やφ(y)というのはxあるいはyに関する、何らかの条件や(不)等式だと思ってください。
いきなり読むのは大変かもしれませんがひとつひとつ見ていきます。
まず、「∃x」とありますので「なんらかの条件を満たすxが存在する」と言っています。「なんらかの条件」というのは、後ろに続く「(φ(x)∧∀y(φ(y)⇒x=y))」です。
では、条件は何を言っているのでしょうか?まず「φ(x)をみたす」と言っています。「∧(かつ)」の記号がありますので、それにくわえて「∀y(φ(y)⇒x=y)」も満たすと言っています。
上で注意したとおり、「∀y」の範囲には気をつけてください。この場合後ろは丸々カッコでおおわれていますので、「∀y」の範囲は「(φ(y)⇒x=y)」ということになります。
これは、φ(y)がなりたてばx=yになるという意味でしたね。つまり「∀y(φ(y)⇒x=y)」というのは「どんなyに対してもφ(y)がなりたてばx=yになる」ということです。
ですので、「(φ(x)∧∀y(φ(y)⇒x=y))」は「φ(x)をみたす」かつ「どんなyに対してもφ(y)がなりたてばx=yになる」であると言っています。これが、存在するxの条件です。
つまり、どのようなxが存在するかというと「(φ(x)をみたし)かつ(どんなyに対してもφ(y)がなりたてばx=yになる)」ようなxです。

解釈

記号の読み取りはこれで完璧なのですが、ときに、もっとわかいりやすい形で「解釈」する必要が出てきます。うえの意味をそのまま理解して、うまくつかいこなせるような頭の良い方にはそのようなことは必要ありませんが、大抵は自分なりにわかりやすい言葉に変換したほうが便利かと思います。
この「解釈」には特定のやり方はありません。それぞれが経験によって自分なりの読み方を鍛えていくしかありません。それははっきり言って「慣れ」ということになります。
たとえば、私であれば上の記号列は「なにかわからんけどφ(なんとか)っていう条件を満たすのはxしか存在しない」と読みます。つまり、まずxはφ(x)をみたすし、ほかにφ(y)をみたすようなのがあればそれはxと同じ数だと書いてあるようによめるからです。
これは私なりの読み方なので、もちろん答えは一つではないし人それぞれ異なっているかもしれません。うまくあたまに入らない場合には、このように「自分にとって理解しやすい形」に解釈しなおすことをオススメいたします。


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最終更新:2013年02月16日 15:01