文責:きょうよ

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まずは数列

ここからはじめよう!

高校の数学教育の流れをみると、「数列→極限→微積」という流れになっていますね。これは多分、極限操作に慣れ親しんでから微積に入ろうということでしょう。私も例に習って、数列から話をはじめることにいたします。
ただし、数列からはじめるのは上とはちょっと違った意図もありまして、それは実数を構成するということ。
実数という言葉は何度も聞いたことありますね?「小数を使って表せる数」というイメージでおおよそあってますが、実はこれがなかなか厄介で、昔の偉い数学者も頭を悩ませた問題と関連しています。

どうですか?単純に理解していた実数が厄介なものだと聞いて、ワクワクしてきませんか?笑

そんな方はごく一部かもしれませんが(笑)、どちらにせよ、まずはじめに実数を倒さなければ前に進めないのでそのためのツールとして数列からはじめたいと思います。
(ペアノの自然数の構成には触れません。自然数、整数、有理数に関しては素朴な理解で十分です。このあたりは、集合論を取り扱った講座を見てください。)

数列の基礎

数列はもう既にご存知ですね。読んで字のごとく、「数の列」です。
もう少し丁寧に言うと、全ての正の整数nに対して数s n が与えられているときこれを(無限)数列といい

{s_n}={s_1,s_2,s_3,s_4\dots}

と書きます。さらに、数s n 一般項といいます。このあたりは高校で習っているはずなので特に説明はいらないでしょう。等差数列、等比数列なんていう言葉も、説明を省いて用いさせていただきます。

数列の収束

なにか数列{s n }があったとします。この数列の項s n が十分に大きなnに対して、ある数sに任意の近さに近づくときこの数sを数列{s n }の極限といいます。・・・というのは、高校までの言い方です。これでは「十分に大きな」とか、「任意の近さに」など何を言っているのか厳密ではありません。
早速、難しいポイントですね。

近いと大きい

まずは、「任意の近さに」という点を正確にしていきましょう。
「任意の近さに」というのは「どんな正数よりも近く」ということです。ある正数(ここではεとしましょう)より近いというのは絶対値の記号を使って、

\mid s_n-s\mid<\varepsilon

という状況です。εを距離だとおもうと、数列と極限が距離ε未満になっていると読めますね。
つぎに「十分に大きなnに対して」というのを考えます。これは、すべてのn≧Nに対して上の絶対値の大小関係が成り立つような数Nが必ずあるということです。

A君とB君の会話

今申し上げたことをもうすこしくだけた感じで説明しましょう。
ある数列{s n }と数sがあって、この数列に対してsが極限であるかどうか考えてみます。これをチェックするのにsは極限だと主張するA君と極限じゃないと主張するB君の会話を想像してみましょう。
A君「sは絶対に極限だね!」
B君「いいや、極限じゃない!極限だって言うなら、100より近くなるようなNを言ってみろよ」
A君「ふんっ!それなら、Nを20にすれば、第20項よりあとの項はsとの差は100未満になる!」
B君「100じゃ大きすぎたか。じゃあ0.1より近くなるなだどうだ?」
A君「0.1でも大丈夫!Nを10000にすれば第10000項よりあとの項は全部sとの距離は0.1未満だ!」
この言い争いで、Bくんが提示した数(イプシロンのこと。上の会話では100とか0.1)がどんな数であっても、A君がそれに対してn≧Nならsとs n の距離がB君のいった数よりも近くなるというような、そんなNがいうことができれば、A君の主張は正しく「sは極限である」ということができます。逆に、そういうNが存在しないくらい小さい数を一個でもB君が探し当てれば、B君の主張が正しく、「sは極限ではない」ということができます。

具体的な数をあてはめてみよう

{s n }を具体的にs n =1/n、s=0とおいて考えてみましょう。
B君が0.003を提示したとします。
この時、A君はNを1000とすれば、s 1000 =1/10000=0.001で|s 1000 -0|<0.003ですし、これよりも大きなn(≧N)はどのnをとっても|s n -0|<0.003を満たすことは簡単にわかります。
これだけでなく、B君が0.003であろうがもっと小さい数(ただし、0は正数には含まれない)を言ってきてもn≧Nに上の大小関係を満たさせるようなNを探し出すことができます。つまりs=0はこの数列の極限であると言えます。
一方で、sが0ではない数を考えるとこの場合はB君の勝ち!B君は簡単にどうやっても上の大小関係を満たさせるようなNが存在しないような小さい数字をいうことができます。
例えば、A君がs=0.01を極限だと主張したなら、B君はεをそれよりも小さい数、例えば0.001を提示すればA君は上の大小関係をみたさせるようなNをいうことができなくなります。なぜならこの場合はnが10000の時s 1000 は0.0001でこのn=10000よりも大きなnはいずれも0.0001より小さい数です。つまり|0.0001(s 10000 )-0.01(=s)|=0.0999≧0.001(=ε)で、nが10000より大きければこのような関係が続きます。A君が極限だと主張するためにはあるNをとってn≧Nをみたす'すべてのn'に対して|s n -0.01|<0.001が成り立たないといけませんが、どんなNをとっても第10000項以降には条件をみたさないnが存在してしまうというわけです。

記号を使った表現

今、説明で「すべてのn」「任意の」あるいは「存在して」「存在しない」というような言葉を使いましたが、これらを数学の記号で表すことができます。
まず「任意の」というのは「∀」この記号で表します。任意のnは「∀n」となります。また、「存在する」は「∃」という記号を使って表します。上の例で言えば正数Nが存在するですから「∃N≧1」と書きます。
これらを使って今述べたことを書くと

\forall\varepsilon >0 , \exists N\geq 1 ,\forall n\geq N ,\mid s_n-s\mid < \varepsilon

となります。訳がわからないですね(笑)いきなりこれ以上やると頭をパンクさせてしまいそうなので今回はここまでとし、次回この記号をつかった表現の説明からはいることといたします。
いきなり、不等号や任意あるいはイプシロンだとかいろいろな記号がでてきて混乱しているかもしれませんが、読み進めまた読み返すことによってだんだんと理解ができるようになるはずです。いきなり全部を理解しようとせずに、部分的な文章の理解を丁寧におこなうことが理解のコツだとおもいます。



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最終更新:2013年02月27日 12:54