文責:きょうよ

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第四章 平和主義の原理

・日本国憲法は、第二次世界大戦の悲惨な体験を踏まえ、戦争についての深い反省に基づいて、平和主義を基本的原理として採用し、戦争と戦力の放棄を宣言した。
→日本国憲法は、第一に、侵略戦争を含めた一切の戦争と武力の行使及び武力による威嚇を放棄したこと、第二に、それを徹底するために戦力の不保持を宣言したこと、第三に、国の交戦権を否認したことの三点において、比類のない徹底した戦争否定の態度を打ち出している。

一 憲法九条成立の経緯

1.平和主義の起源

・平和主義原理が日本国憲法に採用された背景には、大西洋検証、ポツダム宣言、マッカーサーノートなど、国際的な動向があるが、それに加えて、日本側の意向も反映されているとみることができる。
→特に、幣原首相の平和主義思想がマッカーサーノートのひとつのきっかけになったと考えられる。

・幣原は戦争放棄という考えが天皇制を護持するために必要不可欠だと考えたのである。
→日本国憲法の平和主義の規定は日本国民の平和への希求と幣原首相の平和主義思想を前提としたうえで、最終的にはマッカーサーノートの決断によってつくられたと解される。

2.平和主義の意図

・憲法は前文で、「平和を愛する諸国民の公平と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と述べ、国際的に中立の立場から平和外交、および国際連合による安全保障を考えていると解される。

・日本国憲法の平和主義は単に時刻の安全を他国に守ってもらうという消極的なものではない。
→それは、平和構想を提示したり、国際的な紛争・対立の緩和に向けて低減を行ったりして、平和を実現するために積極的行動をとるべきことを要請している。

二 戦争の放棄

・九条一項は、まず、「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」と述べて、戦争放棄の動機を一般的に表明したのち、「国権の発動たる戦争」、「武力による威嚇」、および「武力の行使」の三つを放棄する。

1.戦争の放棄の内容

(1)戦争の意味
・「国権の発動たる戦争」とは、単に戦争と同じ意味。
・「戦争」は、宣戦布告または最後通牒によって繊維が表明された戦時国際放棄の適用を受けるものをいう。
→広く、国家間における武力闘争のことをいう場合もある。

・「武力の行使」とは、宣戦布告なしで行われる、実質的意味の戦争のことである。

・「武力による威嚇」とは、武力を背景にして自国の主張を相手国に強要することである。

(2)九条一項の意味
・以上の戦争の放棄には、「国際紛争を解決する手段としては」という留保が付されている。

・(甲説)「国際紛争を解決する手段としての戦争」とは。「国家の政策の手段としての戦争」を意味し、具体的には侵略戦争を意味し、自衛戦争は放棄されていないと解される。
・(乙説)およそ戦争とはすべて国際紛争を解決する手段としてなされるのであるから、一項において自衛戦争も含めてすべての戦争が放棄されていると介すべきである。

2.自衛戦争の放棄

(1)九条二項の意味
・甲説をとっても、二項について、「前項の目的」とは戦争を放棄するに至った動機を一般的に指すにとどまると解し、二項では、一切の戦力の保持が禁止され、交戦権も否認されていると解釈すれば、自衛のための戦争を行うことはできず、乙説と結論は異ならなくなる。(通説)

・ただし、甲説の解釈をとる一方で、二項については、「侵略戦争を放棄するという目的を達成するため」と解する説もある。

(2)自衛戦争豪建設の問題点
・しかし、この節には次のような問題がある
①日本国憲法には、66条2項の文民条項以外は、戦争ないし軍隊を予定下規定が全く存在しないこと
②憲法前文は、日本の安全保障の基本的あり方として、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」するという、具体的には国際連合による安全保障方式を想定していたと解されること
③仮に侵略戦争のみが放棄され、自衛戦争は放棄されていないとすれば、それは、前文の平和主義の精神に適合しなくなる
④自衛のための戦力と侵略のための戦力を区別することは実際に不可能に近いこと
⑤自衛戦争を認めているとすれば、なぜ「交戦権」を放棄したのか合理的に説明できないのではないか

三 戦力の不保持

・憲法九条二項前段は、「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めている。ここにいう「戦力」とは何か。

1.自衛権の意味

・自衛権とは通常、外国からの急迫または現実の違法な侵害に対して、時刻を防衛するために必要な一定の実力を行使する権利と説かれる。
・自衛権の発動には次が必要
①防衛行動以外に手段がなく、やむをえないという必要性の要件
②外国から加えられた侵害が急迫不正であるという違法性の要件
③自衛権の発動としてとられた措置が加えられた侵害を排除するのに必要な限度のものであるとい均衡性の要件

・自衛権は独立国家であれば当然有する権利である。しかし、自衛権が認められているとしても、それにともなう自衛のための防衛力・自衛力の保持が認められるかどうかは重大な争いのあるところである。

2.戦力の意味

・憲法で保持を禁止されている戦力とは何かについて、学説は一般に厳格に解釈しているが、政府はそれをゆるやかに解する立場をとる。

・最も厳格な解釈は、戦争に役立つ可能性のある一切の潜在的能力を「戦力」だという説である。戦力の範囲が広がりすぎるきらいがある。

・通説は、戦力とは、軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊であると解している。
→なお、この点にかんして、軍隊と警察力の違いが問題となるが、両者の相違点としては目的と実力内容の違いを上げることができる。
→この解釈を一貫させていけば、現在の自衛隊は「戦力」に該当すると言わざるを得ないだろう。

・政府は憲法制定当初は学説の通説と同じ解釈にたっていた。
→警察予備隊が保安隊と警備隊に改組・増強されたことにともなって、政府の解釈が変更され、「戦力」とは、近代戦争遂行に役立つ程度の装備・編成をそなえたものであるとされるに至った。
→その後、MSA協定がむすばれ、日本は防衛力を増強する法的義務を負うことになり、それを受け手自衛隊法が制定された。自衛隊は軍隊ではないかが国会で激しく議論された。
→このような動きを受け手、政府はより積極的な解釈をとるようになり、それがその後の政府の公定解釈となっている。

・それによると、自衛権は、憲法九条の下でも否定されず、自衛権を行使するための実力を保持することは憲法上ゆるされる。つまり、自衛のための必要最小限度の実力は、憲法で禁じられている「戦力」に当たらない。
→「自衛のための必要最小限度の実力」とは明確ではないが、政府は、他国に侵略的な脅威を与えるような攻撃的武器を保持できないと説明してきてりる。

3.自衛力・自衛権の限界

・以上のような解釈はいくつかの問題がある。

・第一は自衛力の限界は具体的にどこにあるかという問題である。
→兵器の目的やせいのうによって 攻撃的兵器と防衛的兵器を区別することは非常に難しくなっている。

・第二に、自衛権がどこまで及ぶかが問題となる。
→政府は、わが国に急迫不正の侵害がおこなわれた場合に、他にヤムを得ない措置として、相手国の基地を攻撃することは、合理的な自衛の範囲に含まれるとしてきた。

・第三に、自衛隊の海外出動の問題がある。とくに、国連軍に参加できるかということが問題となる。
→正規の国連軍は、戦闘・武力行使を任務としているので、自衛隊の参加は許されない。またPKOはもとより、停戦監視団についても、武力行使とは無縁とは言い切れないので、政府は、憲法上許されるわけではないとしつつ、自衛隊にこのような任務はあたえられていないとして、派遣要請を拒否しつつ、経済援助ないし選挙監視団への文民参加などで協力してきた。
→しかし、中東湾岸危機、湾岸戦争を契機として、人員による国際貢献の必要性が強調され、PKO協力法が成立し、また何回か海外に出動している。
→いかに国際貢献という目的であっても、憲法九条の改正なくして、現状のまま自衛隊が部隊として参加する出動をみとめることは法的に極めて難しい。

四 交戦権の否認

・憲法九条二項にいう交戦権の意味について
①交戦状態に入った場合に交戦国に国際法上認められる権利と解される説
②文字通り、戦いをする権利と解する説
③両者を含む説
がある。

・国際法上の用法に従うと①説が妥当であろう。

五 安保体制

・日本国憲法の平和主義の原理は、日米安全保障条約を中心とする安保体制との関係においても大きな問題を抱えている。

1.安保条約の内容

・安保条約はサンフランシスコ平和条約が締結されたとき、それと同時にアメリカとの間で締結された。
→その後、MSA協定を経て、新安保条約が締結された。

・その主要な内容は、第一に、日米の相互防衛の体制を確立し、一方の当事国への武力攻撃に共同して対処することを約している。
→ただし、そこでの相互防衛は、日本国の施政下にある領域における武力攻撃に対するものに限られている。
・第二に、アメリカ軍を日本国内に配布する権利をアメリカに認めている。
→その駐留の目的は、一つは、極東における平和と安全の維持であり、もう一つは、相互防衛の一環としてである。

2.安保条約の問題点

・相互防衛は、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」(5条)に対して取られることになっているが、日本の領土におけるアメリカの基地が攻撃を受けた場合、共同防衛行動がとられることをどのように説明するかという問題がある。
→政府は、そのような攻撃は日本の領土侵犯であり、日本に対する攻撃にほかならないので、それに対処する行動は個別的自衛権の行使であると、説明してきた。
→しかし、自衛権の発動のためには、必要性・違法性・均衡性の三要件がみたされなければならないので、日本の領域内のアメリカ艦隊への攻撃の場合など、三要件が満たされるか疑問である。
→しかも、そのような場合にいかなる行動をとるかの決定権はアメリカにある。

・そのほか日本が思いもよらない紛争に巻き込まれるおそれがある場合として、
①在日アメリカ軍が極東の平和のために活動した場合に「極東」の範囲が必ずしも明確ではないこと
②国際連合憲章51条の「武力攻撃が発生した場合」とは現実に武力攻撃が発生した場合のみ自衛権の発動がゆるされる意なのか、あるいは、武力攻撃の脅威が認められれば自衛権を発動してよいという意なのか、日米間の見解に相違があること
などの問題が指摘されている。

3.駐留軍の合憲性

・安保条約自体が、法的にみて、それが憲法に反していないかどうかという基本的な問題点がある。
→砂川事件




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最終更新:2013年01月27日 17:30