文責:きょうよ

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第三章 国民主権の原理

一 日本国憲法の基本原理

・前文とは、法律の最初に付され、その法律の目的や精神を述べる文章である。
・日本国憲法の前文は、国民が憲法制定権力の保持者であることを宣言しており、また、近代憲法に内在する、価値・原理を確認している点で、極めて重要な意義を有する。

・前文一項前段には、国民主権の原理及び、国民の憲法制定の意思を表明している。ついで人権と平和の二原理をうたいっている。

・前文一項後段は、国民主権とせれに基づく代表民主制の原理を宣言し、それらを「人類普遍の原理」とし、それらの原理が憲法改正によっても否定することができない旨を明らかにしている。

・二項は平和主義への希求を宣言し、三項では「政治道徳の法則」として確認し、四項は、日本国憲法の「崇高な理想と目的を達成すること」を誓約している。

・前文に盛られた、国民主権主義と人権尊重主義、平和主義の原理は次のように相互に不可分に関連している。
・人権と主権
→人権の保障は専制政治の下では完全なものとはなりえない。前文1項の文章は国民主権及びそれに基づく代表民主制の原理が基本的人権の尊重と確立を目的としていることを示している。
→国民主権も基本的人権も、ともに「人間の尊厳」という最も基本的な原理に由来しているのである。

・国内の民主と国際の平和
→人間の自由と生存は平和なくして確保されないという意味で、平和主義の原理もまた人権・国民主権に結びついている。

・日本国憲法の前文は、本文と同じ法的性質もつと解される。
→しかし、全文に裁判規範としての性格まで認められることを意味しない。
→裁判規範とは広い意味では、裁判所が具体的な争訟を裁判する際に判断基準として用いることのできる、法規範をいうが、狭い意味では、当該規定を直接根拠として裁判所に救済を求めることのできる法規範をいう。

・前文二項の「平和的生存権」に関して問題となる。
→学説では、この規定の狭い意味での裁判規範性を認めることはできるとし、新しい人権のひとつとして認めるべきであるという見解も有力である。
→しかしながら、平和的生存権は、人権の基礎にあってそれを支える理念的権利ということはできるが、具体的な法的権利性を認めることは難しい。

[注釈]平和的生存権</span>→自衛隊違憲訴訟において主張されたもので、平和を享受する権利を意味している。判例では長沼事件第一審判決は、訴えの利益の根拠として認めたが、二審ではこれを否定し最高裁でも実質的に認めなられなかった。

二 国民主権

・国民主権の原理は、絶対主義時代の君主の専制的支配に対抗して、国民こそが政治の主役であると主張する場合に、その理論的支柱とされた観念である。

・主権の概念は多義的であるが、一般に、
①国家権力そのもの(統治権)
②国家権力の属性としての最高独立性
③国政についての最高の決定権
という三つの異なる意味に用いられる。

・主権という概念は、君主の権力が領主に対して最高であること、法王・皇帝に対して独立であることを基礎づける政治理論であった。
→専制君主制国家では君主の権力という形で統一的に理解されていたが、その後、君主の権力と国家権力とは区別して考えられるようになり、主権の概念が三つに分解した。

・統治権
→立法権・行政権・司法権を総称する統治権とほぼ同じ意味で、日本国憲法41条に言う国権がそれにあたる。

・最高独立性
→主権概念の生成過程からいえば、本来の意味の主権。前文3項の場合の主権がその例であるが、そこでは国家の独立性に重点が置かれる。

・最高決定権
→国の政治のあり方を最終的に決定する力または権威という意味である。

・君主主権と国民主権は相反する関係にあり、主権は国家にあるとか、主権は天皇を含む全体にあるとか、という趣旨の説明は理論的には正当とはいい難い。
・国家法人説は、国家は法的に考えると法人であり、君主主権か国民主権かは、国家の最高意思決定機関の地位に君主がつくか国民がつくかの違いに過ぎないと主張した。
→急激な民主化を好まない19世紀ドイツの立憲君主制に見合った理論であった。

・国民主権の原理には二つの要素が含まれている。
→ひとつは、政治のあり方を最終的に決定する権力を国民自身が行使しるという権力的契機
→ひとつは、国家の権力行使を正当づける究極的な権威は国民に存するという正当性の契機

・主権の権力性の側面においては、「国民」は有権者(選挙民団)を意味する。これは直接民主制と密接に結びつくことになる。
→もっとも、権力的契機に関しては、憲法の明文上の根拠はない。
→主権の権力性とは具体的には憲法改正を決定する権能を言う。

・主権の正当性の側面においては、「国民」は全国民であるとされる。このような国民主権の原理は代表民主制、とくに議会制と結びつくことになる。
(ナシオン主権とプープル主権)

三 天皇制

・天皇制はGHQの意向もあり、象徴天皇制という形で存置された。しかし、明治憲法と日本国憲法の天皇制では大きな違いがある。

・明治憲法においては、天皇の地位は神勅に基づくとされていたが、日本国憲法においては国民の総意に基づくとされ、絶対的なもの、不可変更的なものではなく、可変的なものとなった。

・明治憲法においては、天皇の尊厳を犯す行為は不敬罪として処罰されたが、日本国憲法では特別視する態度は取られていない。

・明治憲法における天皇は国家の全ての作用を統括する権限を有するとされていたが、日本国憲法では形式的・儀礼的な行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。

・象徴天皇
→日本国憲法は、天皇の地位について、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であ」る(1条)と定める。
→象徴とは、抽象的・無形的・非感覚的なものを具体的・有形的・感覚的なものによって具象化する作用ないしはその媒介物を意味する。日本国憲法の場合、人間である天皇が国の象徴とされるてん特異である。
→憲法第一条の主眼は、天皇が国の象徴たる役割をもつことを強調することにあるというよりも、それ以外の役割を持たせないことを強調することにあると考えなければならない。

・天皇の地位の継承については、「皇位は、世襲のものであ」ると規定する。
→世襲制は、平等原則にはんするものであるが、日本国憲法は天皇制を存置するためには必要であると考えて世襲制を規定した。
→皇室典範は明治憲法の下では、憲法と対等の地位にあったが、日本国憲法においては、法律の一形式となり、その性格は大きく変わっている。

・憲法は天皇は、国政に関する権能を有しないと定め(4条)具体的な行為を6条7条に列挙している。
→ここで言う、告示に関する行為と国政に関する権能の区別は必ずしも明らかではない。
→象徴天皇制の趣旨等から勘案すると、国事行為とは政治に関係のない形式的・儀礼的行為を言うと解される。
→この点で、天皇は君主といえるか、元首であるかどうか、争われている。

・天皇の全ての国事行為に対して内閣の「助言と承認」が必要とされるから、その行為の結果について、天皇は無答責とされることになる。
→内閣の「助言と承認」と行為の実質的決定権との関係がもっとも議論されている。
→国事行為のうち国会の召集、衆議院の解散はそれ自体政治性の強い行為であるにも関わらず、憲法上実質的決定権の所在が明確でないからである。
→二つ考え方がある

・第一は、天皇の国事行為は本来すべて形式的・儀礼的行為であり、「助言と承認」は実質的決定権を含まないととく見解である。この見解では、いかなる機関が衆議院の解散を実質的に決定するかの根拠を7条以外のほかの条項に求めなければならない。
→69条に根拠をもつ説(A説)と全体的な構造に根拠を求める説(B説)がある。

・第二は、「助言と承認」は実質的決定権を含む場合もあると解する見解である(C説)。この説は、内閣が「助言と承認」を行う前提として行為の実質的決定を行っても、その結果として天皇の国事行為が形式的・儀礼的なものになるならば、憲法の精神に反しないと主張する。

・A説については、69条は内閣に解散権があることを定めた規定ではないが、論理は一貫する。しかし、政党内閣制のもとでは解散権を行使できる場合が著しく限定されてしまう。

・B説は明快で有力説であるが、その根拠となる権力分立制・議院内閣制がそれほど一義的なものではない。

・C説では、七条にいう「助言と承認」は内閣による実質的決定を含まない場合と含む場合が存在することになり、その点で問題もあるが、解散権の所在を憲法上確実に根拠付けるためには他の説より有力であり、実際の運用でもそう解されている。

・天皇を象徴として認めている以上、天皇の行う国事行為以外の行為が多かれ少なかれ公的な意味をもつことは否定できない。
→したがって、天皇の国事行為以外の公的行為を象徴としての地位に基づくものとして認める説は相当の合理性がある(象徴行為説)。
→しかし、この説は公的行為の範囲が明確でない。

・公的行為は公人としての地位にともなう当然の社交的・儀礼的行為である、と解する説(公人行為説)も有力である。
→ただし、この説も公的行為の範囲が明確でないという問題がある。

・天皇は国事行為を行うほか、私的行為も行ういことが出来るにすぎないと説く学説が注目されている(国事行為説)。
→文理上かなり難点がある。

・そこで、国事行為に密接に関連する公的行為のみが認められるという説(準国事行為説)もある。
→「密接に関連する」の意味が必ずしも明確ではない。

・天皇・皇族の財産は「国に属する」ことになったので、活動に要する費用は、予算に計上して、国会の議決を経なければならない(88条)。
→皇室に再び大きな財産が集中することを防止するため。


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最終更新:2013年01月27日 17:20