文責:きょうよ

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第Ⅱ章 学際的パラダイムとしてのシステム理論

・システム理論というラベルの背後にはたしにわたる異質な学際的枠組みがかくされており、そのいずれもがシステムという概念を基本概念として用いられている。
・一般システム理論について若干の説明をしておくことにしよう。

1.一般システム理論

システム理論によるパラダイムの転換

・システムという概念は、もともと、要素的なものとの対比において合成されたもののことを意味している。
→この概念はいつでも、部分の単なる総和以上のものである統一体という意味での全体を指し示している。

・(フィヒテやヘーゲルの)これらの例が今日システム理論と呼ばれるものと共通なのは、システムという概念が、互いにある一定の関係にある要素をもつひとつの全体を表すという点だけである。

・科学の革新は古典的な分析的研究とは根本的に異なる種類の科学的世界観を生み出したが、システム理論はそうした科学の革新のひとつの指標になっている。
→観察の仕方のこの転換は、特に生物学が物理学に向けた批判を出発点としていた。

・物理学は世界を演繹的方法で数学的に記述しうるものと考えていた。
→このような科学的世界像と論理的に対応するのが、世界を解剖しようとする企てである。

・生物学は、その研究対象を観察するにあたって、それとは全く異なる要求を提出した。
→生物学者の主張するところによると、生命は有機体の物理的過程や科学的過程には還元されえない。
→生物学の内部では、こうした批判は個別現象からシステムへのパラダイムの転換、すなわち個別現象のネットワーク化に導いた。

フォン・ベルタランフィの一般システム理論

・こうしたパラダイム転換にとってとくに重要な位置に立っているのが、動物生理学者ルートヴィッヒ・フォン・ベルタランフィである。
・ベルタランフィ「システムの一般的性格から生じる相同関係がそれ(厳密な合法則性)である。こうした、理由から形式的に同じ種類の関係が様々に異なる現象領域に当てはまり、そうした関係が様々な学問の並列的な発展を条件付けるのである」

・システム理論的思考様式は、極めて多様な学問分野に見出されるが、「精密な合法則性」の学際的発展に関する彼の予想はますます懐疑的な評価を受けざるをえない。
→けれども、システム理論的であることを標榜するすべての研究方向は、ある構造上の共通性をもっている。
→その共通性は、システムと呼ばれる全体のなかにある各要素間の相互関係を扱うという点にある。

・システムの特徴は、それがある要素と別の要素とのたんなる関係を通じて表現されうるという点にあるのではない。システムは相互関係の総体としてのみ表現されうるのである。
→そればかりではなく、それぞれのシステムは、システムに属する要素や関係とシステムに属さないものとの間に、一義的な境界を生み出す。

有機的複合体の理論としてのシステム理論

・ベルタランフィ「古典科学は・・非有機的複合体の理論の展開においてはすぐれた成功を収めた。今日我々の主要な問題は有機的複合体の理論である。」

・システム理論の本質的対象は、個別要素間の複雑な相互関係の有機的組織化の形態なのである。

閉鎖システムと開放システム

・有機的複合体と被有機的複合体との区別とならんで、われわれが、フォン・ベルタランフィに負うているのは、広い範囲にわたる差異化が認識を主導するという考えである。
→ここで問題になるのは、開放的なシステムと閉鎖的なシステムとの区別である。

・閉鎖システムの特徴は、ホメオスタシス的に、すなわち内部的に安定した仕方で維持され、平衡状態に到達したあとは変化しないという点にある。そのようなシステムの中には、厳密な意味では、いかなる有機的複合体は存在しない。
→それに対して、開放システムは必ずしもそうした平衡状態に到達しない。開放システムはホメオスタシスという停止状態に達することができるが、この状態はそれ自体再び変化し解消されうる一時的な状態である。

・システムとその環境との交換過程と諸要素相互間の内的関係の変化能力は、状態の変化にもかかわらず、開放システムが維持することを可能にする。
→したがって、システムに属する諸要素のレベルでも、要素間の関係の有機的組織化様式のレベルでも観察されうるようなダイナミクスが成立する。
→フォン・ベルタランフィは、こうした事態を記述するために、流動的平衡という概念を用いることを提案している。

システムと環境

・開放システムの特徴は、その内的組織の配置が環境が変化するのと同時にみずから転換させるのであって、外から因果的に条件づけられて単線的に規定されるのではないという点である。
→こうした事態を正確に記述するために、システム理論にはブラック・ボックスという概念が導入されている。

・我々は開放システムにインプットされるものを見ることができるし、アウトプットされるものも見ることができる。
→しかし、システムがインプットとアウトプットの関係をどのように組織化しているのかを見ることはできない。

自己組織化-サイバネティクス研究の発展

・(開放システムの環境に対する)適応と変化の過程で常に問題となるのはシステムの内的なはたらきなのだから、開放システムの理論は一般的に自己組織化というパラダイムのもとに包摂される。
→そのような理論は、さまざまな要素をひとつのシステムにまとめるネット化の関連を環境因子との連関のなかで記述しなければならない。

・数学の領域では、自己組織的システムの理論はサイバネティクスの思考モデルをさかんに利用する。
→サイバネティクスは制御するものと制御されうものとの関係を記述する。

・グランヴィルによる定式化(「<制御される>ものは、同時に<制御する>ものを制御する」)は、制御の交互性が古典的な因果説をもってしては表現されえないことを明らかにしている。
→むしろ、自己組織的システムは、自分自信を志向し、個別的な現象や過程を生じさせるエコロジー的諸条件を自ら作り出す傾向を持っている。

・古典物理学によって表現されうる過程は、常に、同じエコロジー的諸条件を前提としている。これらの条件は自然法則という形式で記述されうるから、それに対応する諸課程は予見可能であり、計算可能であり、従って計画可能である。
→それに対して、自分自信を組織する処過程はそれぞれ初期条件を自分の過程そのものをつううじて作り出すのである。

・ハインツ・フォン・フェルスターは、回帰的過程について語っている。
→サイバネティクス的思考モデルは、自分自身を強化していくダイナミックな過程を精確に表現しようとするものであって、過程全体を個々の現象の互いに孤立した因果関係に還元しようとはいないのである。

・一般システム理論の第一世代の問題はなお依然として有機的に組織された複雑性の問題であったが、今日では、自己組織化という概念に表現されるような、有機的組織体の特にオートロジー的な局面に、ますます強く関心が向けられている。

・自己組織化という構想と、自分をみずからシステムとして維持し、自分の固有なダイナミクスと自分の内的な状態に準拠して自分の内的な過程を制御するという根本思想は、チリの生物学者フンベルト・R・マトゥラーナとフランシスコ・ヴァレラが展開したオートポイエーシスという構想の中に極めて明瞭に示されている。




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最終更新:2013年01月24日 18:19