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アム(SC53年~SC149年)

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アム(SC53年~SC149年)
所属勢力:アスラン→アブター→アグデッパ→ララウィン→ブラウン→プロベット→在野→ショーン・プロベット連合→銀河政府(ソース恒星系政府)

アブターの妃。夫の亡き後はブラウンに脅迫されその妻となる。
それぞれの夫の間に授かった子は、良くも悪くも世界を変え
そして、それぞれ殺しあった。
ラブ曰く「彼女を見ていると運命など無ければいいと思う」
「運が無いの一言では片付けられない」
「私が彼女の立場なら、私の精神では耐えられなかっただろう」
と親しかった事もあり比較的、好意的・同情的に評している。

地球の辺境を治めるとある辺境伯の娘として生まれる。
北の広大な地を治める辺境伯と言えば聞こえはいいが、実態はアラブ連合北部の雪が多く土地が痩せた貧しい地方であった。
ア族宗家からの予算援助は無いに等しく、唯一足を運び便宜を図っていた人物こそ
後にアムの最初の夫となるナレッソ太守アブターであった。
アブターは地球へ上洛する度に、北の地方に足を運び、アスランに予算を回すよう取り計らっていた。
そんな彼を『髭の叔父さま』と慕い懐いて居た少女こそアムであった。
やがて、成長したアムは父にアブターと結婚したい旨を告げる。
余りの歳の差に最初こそ反対した父の辺境伯だが、根負けし結婚を了承。
16歳でアブターの許へ嫁いだ。
その美貌は地球政府内でも評判となり、ブラウンもその存在に驚いたと言う
(地方に足を運ぶ気の無いブラウンが、存在に気付くはずもない)。

SC70年、覇王アスランが死ぬと故郷のナレッソで挙兵を決めたアブターに同行し地球を後にする。
数年後には息子アルビオンを授かり、苦しいながらも幸せな日を送っていた。
SC71年、イーズ恒星系への侵攻を開始したアグデッパの最初の標的となり、
徹底的に抗戦するも地球帝国の打つ力の前に大敗。
秘密裏にアルビオンを逃がしたアブターは降伏を決めアムも夫と共に地球へ降った。
だが、降伏した地球で待っていたのは地獄であった。
降伏早々アブターは殺され、アムは牢につながれた。
「儂の妻となれば生かしてやるぞ」
アムに一目見た時から気に入っていたブラウンは、アムを手に入れ様と色々と策を巡らせていた。
「誰が敵将に許しを請うものか」
夫を殺されたアムはアブターに殉じ死のうとしていた。
だが、アムの前に連れてこられたのは、事前に敗走した筈のアルビオンだった。
やはり、地球の包囲網の突破は容易では無かったのである。
アルビオンを人質に取られたアムは止む無くブラウンの要求を了承。
彼の妻となった。

アムが敵将の妻となった。
この報にナレッソの民衆・アブターの旧臣達は絶句した。
ある者は絶望し、ある者は命惜しさに寝返ったと軽蔑した。
父の側近の一人だった知将バラジャラもその一人だった。
だが、ある時を境にしてアムへと誹謗はピタリとやんだと言う。
そして、バラジャラから言われる。
「私は目先の事に囚われ、アム様の深い考えを理解できませんでした。
 アム様、願わくばブラウンの子を産んでください。
 そして、その子と共にこの国を変えるのです」
バラジャラ曰く地球軍のバッカスから言われたそうである
「アムがブラウンの要求を飲まなければ、お前を含め家臣領民は皆殺しにされただろう。
 アムはブラウンから辱めを受けることで、お前達を助けたのだ。そんな事も解らないのか?
 やはり、お前らは三流だな」
バッカスと言えば、アグデッパ側近の知将である。謀略に長けた卑怯で傲慢な人間と言うのが世間での認識である。
これを知ったアムはバッカスを呼んで礼を言った。
「アブダーの旧臣どもを手なずける為に好意的に解釈しただけだ。
 その方が、お前らや我々にとっても良いと判断したに過ぎない」
とバッカスは返答し部屋を後にした。アムはバッカスの事が好きになれなかった。

アルビオンを人質に取られたアムは、ブラウンの妻として自らもアブター旧臣達の人質として生かされた。
ブラウンは横暴な男だった。だが、従うものには寛大であると言う、トップに着く人間のとしての
最低限の素質は持っていた。
「この才能がもっと良い方法で生かさていれば、アスラン王にも認められたであろう」
アムと後世の歴史家達の共通認識でもある。
ともあれ正妻となったアムだが、ブラウンは大変な女好きであった。
愛人や妾の数は数知れず、隠し子もかなりの数に上った。
釣った魚には餌はやらない主義なのか?アム自身思った事もあるらしい。
アムも何度かブラウンに女遊びを控えるよう文句を言ったこともあるが、
ブラウンは開き直る(良くて平謝り)だけであった。
「あぁ、もしアブターが生きていたら、王妃としても女としても充実した日を送っていたであろう」
アムは自らの境遇を嘆いた。
ある日、アルビオンの屋敷が完成したと告げられる。
屋敷が与えられる… 実際は軟禁する場所が完成したと言う意味であった。
「それでもアルビオンが生きていてくれれば…」
だが、アルビオンを乗せた護送部隊が海賊の襲撃を受け壊滅。アルビオンは消息を絶った。
アムはアルビオンを失った悲しみから三日三晩泣き続け、4日目ブラウンに捜索を要請した。
渋ったブラウンだったが、アブダー旧臣からの突き上げもあり、形だけの捜索が行われ
早々に『海賊の襲撃を受け死亡』と結論付けられた。

そして、それから間もなくアムは懐妊。ブラウンの子を出産する。
これはブラウン派ばかりか、アブター旧臣達にも希望の拠り所として喜ばれた。
その子にはブラウンの冠名が名付けられプロベットと命名された。
彼こそ、後に連合政府副盟主にして銀河政府初代国家元首(名誉)となる男である。
そして、悲劇の始まりを告げる王子であった。

覇王アグデッパが亡くなり、その第2皇子ララウィンが即位する頃には
ブラウン派は第1党となり、覇王と言えども逆らう事が出来ないほど強大なものとなった。
アムは、心を痛めていたがどうする事も出来無かった。
旧アブター家臣達もブラウンにゴマをすり、唯一対抗できると思われたバッカスもブラウンに協力し
名義変更が行われていないだけで事実上ブラウン王朝と言って差し支えなかった。
遂に増長したブラウンは元アグデッパ王妃の太后キャサリンを毒殺。
そして、ララウィンの妹で自らの姪に当たるジュリアを凌辱したのである。
「こうやって、義理の姪が取っとに犯されているのに何も出来無い
 私には力が無い…」
王族とは名ばかりのブラウンの性奴隷にされたジュリアはとうとう孕み
相談されたアムはジュリアに謝るだけだった。
「陛下に相談しましょう」だが、その考えが不味かった。
事実を聞かされたララウィンは逆上。アムも制止するがララウィンを止める事が出来ず
ブラウンを問い詰めたララウィンは背後から撃たれ亡くなってしまう。

アムは2度目の王妃となった。
「1度目は希望があったが、2度目は虚しさしかない」
そんなアムの元にジュリアが訪れる。
「叔母様、私ブラウンの子を産みます」
ララウィンの死後、アムはブラウンに猛抗議した。
「姪との近親相姦など、世間が許すはずが無く、何より王家名に傷が付く。ジュリアに堕胎する権利を与えるべき」
流石もブラウンも王族としての面子は大事だったらしく、ジュリアに堕胎する権利を認めた。
これがアムがジュリアにできる最大限の償いだった。
だが、ジュリアはブラウンの子を敢えて産む事を決めたのである。
「どう言う形であれ、授かった命。お腹の子に罪はありません」
この言葉にアムもジュリアの覚悟を認めブラウンに許可を求めた。
「堕胎を認めたにも拘らず、お前が勝手に産むと言うのだから儂は認知しない。
 もし産んだら自分が育てるか里親に出す」
と言う条件でブラウンはジュリアの出産を了承した。
しかし、ジュリアの願いむなしくお腹の子は死産。
落ち込むジュリアをアムは励ます事しか出来無かった。

ブラウンが帝位を継いでからは悪政の弊害が至る所に出ていた。
若者が徴兵された事で働き手が減り、税収が減少。
回す予算が無く、非常徴収を行うが、それでも賄い切れない。
インフラにも支障を来たし、異議を申し立てた経済担当のバッカスが解任され
それを担う者を失い、国として末期症状であった。
そこをアキ軍の軍師ラーに付け入れられ、最大派閥のアイタペが独立。
イーズ恒星系の大部分を喪失した。
焦ったブラウンは、海賊に援軍を求める。
この時代、海賊に傭兵を頼むなど大した事では無かった。
ただ、アムはバッカスが上機嫌だったのが気掛かりだった。
その日、アムは王宮でプロベットの御守をしていた。
やけに外が騒がしい。そして、侍女の悲鳴に危機感を覚えたアムはプロベットを奥の部屋に下がらせた。
そこへ入って来たのはサングラスを掛けた海賊。
声も見た目も変わってしまったがアムは一目で彼が誰だか解った。
「アルビオン?」
それはマカーフィと名を変え海賊となったアルビオンの姿だった
その問いかけに彼は嬉しそうに答えた。
「母上、助けに参りました。ブラウンは私が倒しました」
ブラウンが死んだ。夫を殺し、私を手籠めにしたブラウンが死んだ。
アムは驚きのあまり声が出せなかった。
「さぁ、逃げましょう」
アムはその手を取ろうとした。すると
「母上…?」
奥の部屋からプロベットが出てきてアムを呼んだ。この時、アムは我に帰り冷静さを取り戻した。
この子を見捨てる訳にはいかない。そうなれば彼は1人になってしまう。
プロベットがブラウンの子だと知ったマカーフィは彼を殺そうとする。
だが、アムは「お前の弟なのですよ」と身を挺して庇った。
「これでお別れです母上…」
失意のマカーフィはアムに逃げるよう促され王宮を後にした(同日、ジュリアも消息を絶つ)。
「ごめんなさいアルビオン。私はこの子を… この国捨てる事は出来ません」
ラブは言う「これが今生の別れであったら、どれだけ幸せだったか」

ブラウンの死が確認されると、バッカス、八卦衆、アブター旧臣達の支持を受けたプロベットが即位。
まだ、あどけなさの残る幼帝であった。
旧ブラウン派がプロベットを背後から操ろうと計画している事を知ったバッカスと八卦衆は
旧ブラウン派の粛清を開始し、ハンらを追放処分にした。
バッカスの下に居たアブター旧臣バラジャラも率先して協力。
これによりプロベット王朝の規律は一新された。
アムは太后として実権を握り、幼いプロベットの補佐を行った。
アモスからラーとの同盟を進言されるとこれを承認。だが、ラーはテンオウと同盟を組む事を選び
同盟締結とは成らなかった。
ラブは言う「もし、婿とプロベットが同盟を組んでいたら、プロベットが名君として後世に名を残す事は無かっただろう」

成人したプロベットは国権の全権を掌握し、遂に正式な覇王として君臨した。
「私は、この子と共に国を変える義務がある。それが我々の為に死んでいった者達への償いである」
アムはプロベットに様々な策を提案した。
母を慕っていたプロベットは、母に逆らわず策を次々に受け入れていった。
だが、そんなプロベットが1度だけ母に逆らったことがあった。
プロベットが18歳になった時の事だった。
「お前も私も明日を解らぬ身。そろそろ妃を娶ってみてはどうか?」
するとプロベットは「エセラと結婚させてほしい」と言った。
エセラと言うのは、以前王宮前で行き倒れていた所を人事長官に助けられ
侍女として配属されていた女であった。
アムは最初反対した。だが、プロベットは
「今まで母上の言う事には従ってまいりました。ですから私の我儘も聞いてください」
反抗期も無く、母の言う事に一切逆らわなかったプロベットの最初の我儘であった。
これに、アムも折れてエセラとの結婚を了承。
王宮前では盛大な結婚式が行われ、バッカスを始め家臣領民も祝福した。
「アルビオンを幸せに出来無かった。プロベットには幸せになって欲しい」
そう願うアムだが、プロベットとエセラの結婚生活は早々に終わりを継げた。
『タイタン陥落』
ソース恒星系の防衛の要と言われていた鎮守府・土星衛星タイタンがテンオウ軍の猛攻の前に陥落。
遂にア族抹殺を唱えるテンオウ軍がソース恒星系へ侵入を開始した。
家臣達も必死に抵抗するが、圧倒的なテンオウ軍艦隊の前に、ある者は降伏し、ある者は逃げ出した。
そして、瞬く間に資源惑星として地球を支えていた木星府首都ガニメデも陥落。
テンオウ軍が地球目前へと迫った。

「プロベットに告ぐ!!直ちに武装解除し降伏せよ。さもなくば圧倒的な武力を用いて殲滅する!!」
木星を失ったプロベット軍に勝ち目はなかった。
「最早これまでか…」
プロベットは、家臣領民の身の安全を保障することを条件に降伏する事を決める。
チョーやバラジャラは敗走か徹底抗戦を主張するが、プロベットの決意は固かった。
「プロベット…」
アムは悲しかった。アルビオンばかりかプロベットも不幸にしてしまった。
そう思っていたアムを尻目にバッカスが聞いた
「もし、陛下と私が再度会い見えた場合、どうしてくれますか?」
こんな時に何を言っているんだと多くの者が思う中、
「もし、卿が余と会い見える事があれば、今の官位と身分を保証しよう」
とプロベットが返答するその瞬間。
プロベットの腹部に強烈なパンチがめり込んだ。
「ぐふぅ…」
腹を押さえ悶絶するプロベットにバッカスは言う。
「ならば、約束を守ってください。君たる者、約定を違える事があってはなりません
 早く、陛下の脱出準備を、残った艦隊をあるめろ。テンオウ軍の注意を引き付けるのだ」
気絶したプロベットを船に乗せ、アムは船に乗る際、バッカスに礼を言った。
「ありがとう、バッカス将軍」
「約束を守ってもらうだけです。まぁ、陛下が帰るまでの留守番はしますよ」
この前と一緒である。アムはバッカスの事は相変わらず好きになれなかった。
その後、テンオウ軍の包囲網の突破は困難を極め、伴の船は全て撃沈。
最終的に脱出に成功したのは八卦衆、エセラ、アムら150名ばかりであった。

各地を放浪していたプロベット残存艦隊はとある惑星に潜伏していた。
物資の調達。そして、エセラの薬を探すためである。
この時、エセラはプロベットの子を身籠っていた。
だが、元々体が丈夫では無かったエセラは病を患い床に伏していた。
アムはそんなエセラを賢明に看病した。
「エセラ、元気になってあの子を支えてあげて」
「ありがとうございます、義母上様…」
薬が手に入らず気落ちして帰って来たプロベット、それを笑顔で励ますエセラ。
アムは心が痛くなった。
だが、ヒップの提案で事態が好転する。
海賊の助力を進言したヒップは、海賊女帝バイアグラに助力を要請。
これを受け入れたバイアグラの働きでアズマ、マクレイが合流する。
「アズマ王子…」
協力を申し出た海賊の1人が、行方不明だったアグデッパ皇太子アズマだった事にアムは驚いた。
「叔母上、ジュリアは?」
「解りません。ブラウンが死ぬのと時を同じくして行方知れずに…」
「そうですか…」
流石のアズマも唯一生き残っている肉親であるジュリアを心配しているのだろう。
後に解った事だが、バイアグラがブラウン暗殺直後のマカーフィと遭遇した際、
傍にいた女性がジュリアであり、アズマの実の妹だとは知らなかったそうである。
海賊艦隊の協力と時を同じくして、バッカスら地上残存艦隊の生存が判明。
更にテンオウの死亡が発覚し分裂、同軍は内戦を起こした。

事態が好転した。
だが、好転したのはプロベット帰還の目途でありエセラの症状は好転せず
寧ろ悪くなるばかりだった。
そんな中、エセラが産気づき、母似の女児を出産した。
彼女にはプロベットの冠名が与えられプリアと命名された。
後に姫将軍として敵に畏怖され、ソース恒星系政府艦隊司令長官となり女傑と恐れられる女である。
だが、エセラには生きる力は残っていなかった。
プロベットの子を産む。その為に命を気合で繋いでいた状態であった。
エセラの命が燃え尽きたその瞬間、プロベットは悲鳴とも雄叫びとも言えない奇声を上げ泣き喚いた。
アムは、プロベットの元へ歩み寄ろうとしたが躊躇した。
「私に出来る事はプロベットを慰める事だけ。でも、それがあの子の為になるのか…?」
一瞬の躊躇。その選択肢は正しかった。泣きわめくプロベットを見たバイアグラは
プロベットの胸ぐらを掴み上げると「歯ぁ食いしばれ!!」と思いっきりぶん殴った。
吹っ飛ばされ嗚咽を上げるプロベットにバイアグラは続ける。
「この乱世の時世、貴方の感傷など鉛玉1発の価値もないわ
 ここで立ち止まるつもり?皆を助けたいと言ったのは嘘なの!?」
これにはアムも驚いたが、頬を摩りながら起き上がったプロベットは冷静さを取り戻していた
プロベットの必要なのは慰めでは無く、突き放して現実を受け入れさせる事であった。
「あ…あぁ、余が悪かった… すまなかったな」
エセラは潜伏場所近くの丘の上に葬られた。
「これからと言う時に…」
アムは彼女の死を悲しんだ。もし、彼女にあと数ヵ月の寿命があれば…
帰還が間に合わなかった事が悔やまれた。
だが、プロベットは前を見ていた。
「この世界は間違っている…」
「プロベット…?」
そして、プロベットは家臣達に宣言する。
「余はこの宇宙を… この世界を全て破壊する!!」
幼帝プロベットは死に、覇王皇帝プロベットが誕生した。

テンオウ分分裂の隙を突き、プロベットは火星で再起した。
アムも太后として復帰。
そして、瞬く間に地球を奪還。再度、宇宙に覇を唱えた。
「母はもう何も言いません。立派に王としての務めを果たしなさい」
アムは、立派になったプロベットの背中を押した。嬉しさの半面、悲しかった。
この時期、アムに友人が出来た。
名前をラブ。名将カルハーンの次女でアキの妻だった女性である。
プロベット軍再興直後、亡命を求めてきた所を拿捕したのである。
彼女らは当初、ドーラ軍への亡命を要請した。
だが、優秀な彼女らを見す見す敵に渡す訳には行かない、
「我が軍に協力してもらおう」そう考えたプロベットはバッカスに
彼女らを懐柔し召し抱える様に命じた。
すると、“翌日”バッカスはジェニファとの婚姻を発表。
驚くプロベットにバッカスは「我が妻なのだから厚遇を」と要求し、
プロベットは呆れつつも、彼女らを厚ぐ遇した。
この時、アムはラブと知りあう。
「結婚を道具の様に扱うとは理解できない…」
ラブは愚痴をこぼしアムはお茶を飲みながらそれを聞いていた。
当時、ラブは精神的に相当まいっていた。
ある時、茶会にラブを誘った時も「夫の幻聴が聞こえる」と言ったそうである。
「私は夫の死を悲しむ間も与えられなかった。本当は彼女の様に夫の死を悲しむものなのだろう
 アブターが死んだ時も悲しかったのかすら覚えていない。
 ブラウンが死んだ時も、それを考える余裕すらなかった」とアムは思った。
ラブはアムに問うた「如何すれば、夫の声が聞こえなくなるのか?如何すれば貴方の様に強くなれるのか?」
アムは夫の死を悲しむ余裕が無かったが、夫の死を悲しむラブは苦しんでいた。
この2人はある意味、対局であった。
「受け入れたら良いのではありませんか?」
これがアムが出したラブへの答えだった。
「アキ殿は『ここに居る』と言っているのでしょう?貴方をずっと見守っていてくれるのですよ。
 彼を受け入れてあげればいいじゃないのですか?」
これを聞いたラブは「ごめんなさい」とひたすらアキに謝っていたと言う。
翌日、ラブの幻聴は治っていたと言う。
以降、互いを「アムさん」「ラブさん」と呼び合う茶飲み友達となった。

SC120年、時代は4強鼎立の時代。
ソース恒星系を制覇しイーズ進出を図っていたプロベット軍だが、事件が起こる。
SC121年、最大勢力率いるドーラが何者かの襲撃を受け急死。
これにより、銀河史上3度目と言われる大分裂を起こした。
ショーン、ワード、ブロディン、そして独立した国の覇王に見覚えのある人間が居た。
『覇王マカーフィ、惑星ナレッソにて挙兵す…』
このニュースはプロベット王朝においてドーラの死よりも衝撃が走った。
「アルビオン… 貴方なのね…」我が子が、我が子の敵となった。
覇王プロベットの義兄が、バイアグラの嘗て愛した男が、アズマの妹がその妻に…
それらが敵となった諸将の動揺は凄まじかった。
唯一、嬉しそうに笑っていたのがバッカスであった。

時を同じくして、ドーラから独立したショーンが、各国に大連合構想を提案する。
だが、応じる勢力は皆無であった。
これにプロベットは応じる姿勢を見せた。
「本当に良いのですねプロベット。これに応じれば事実上、貴方の王位は無くなるのですよ」
連合に参加すれば、プロベットの王位は事実上停止させられる。
それを敢えて手放すと言うプロベットにアムは問いかけた。
だが、プロベットは清々しい笑顔で答えた
「母上、王になれば何でも出来ると言うのはまやかしですよ。
 我が祖父アスランも争いを止める事が出来ず、叔父アグデッパも銀河制覇する事叶わず、
 従兄ララウィンも横暴な我が父に殺され、その我が父も国を潰し、そして余も国を滅ぼし最愛の人を守れなかった。
 王と言う存在が害悪になり始めている。民はもう覇王を求めていないのですよ」
「プロベット… 解りました。それが貴方の意思なのですね。
 地球の覇王皇帝として最後の責務を務めなさい」
アムはプロベットの意思を尊重した。
そして、プロベットは惑星ジパングに上洛。アムもそれに同行した。
プロベットとショーンは首脳会談を行いア族、日本民族、平民解放家の和解と会い成った。
プロベットは連合政府副盟主(建前は盟主と対等)となり王族位は保証されたものの
ア族正統覇王皇帝の座を事実上放棄した。
連合政府設立文章への調印、これが事実上の退位宣言書だった。
「多くの王族が欲し、夫ブラウンが渇望した地球覇王の身分が
 こうも呆気なく無くなる日が来るなんて」
アムは少々信じられない気持ちになった。

アムも連合政府では王族に封ぜられプロベットを支える派閥の一員となった。
因みに王位を認められたのはプロベット、アム。そしてジェニファ、ラブ。テンオウの娘リヨンヒの5人である。
アズマとアイアワは王位を辞退した。
連合政府設立後もショーンは各国に参加を打診していた。
だが、応じる国は相変わらず無かった。
それどころか、地球のア族宗家が参加した事にケチを付けだしたのである。
後世の歴史家は、元々参加する勢力が無かった事を考慮し「参加を断るための方便」とし
ラブも「理由の後付け」「参加してない(する気の無い)連中に言われる筋合いは無い」と述べている。
この結果、特に話が拗れたのが、プロベットの義兄でショーンの元盟友マカーフィであった。
ショーン本人によると「マカーフィは共に戦った戦友であり、理想を共にした盟友」だそうである。
所が、ドーラ王朝に参加直後から方針の違いで意見がすれ違うようになり、
道を割ったのである。
アムは、マカーフィがショーンの盟友であったと言う事実に希望を見出していた。
ショーンが両者の仲を取り持ってくれたら、共に手を取りあえればどんなに素晴らしい事か…
ショーンもマカーフィが帰ってくる事を望み、マカーフィもショーンが頭を下げたら戻るつもりでいたが
プロベットの連合参加でマカーフィが完全にへそを曲げてしまう
(そもそもショーンには何の落ち度はなく、本人も頭を下げる気は無い)
マカーフィは連合政府にプロベットを招いたことを痛烈に批判。
プロベットもこれに応戦する形で互いを中傷し合った
(ラブ曰く「性質の悪い兄弟喧嘩」「内容も低俗で、王族同士とは思えない程に質が低い」)
「2人とも止めて、この母を悲しませないで…」
アムの声は届かず、2人の罵り合いは続く。これには流石のアムも我慢の限界だった。
突如、2人の間に割り込んだかと思ったら自分のドレスの腹を引き裂いた。
「互いに手を取れぬと言うのならば、この母も分けるがいい!!貴方達の産まれたここから!!」
晒された自らの腹を指さし声を荒げた。
これには、流石の2人も凍り付いた。これで終わる思われたが、後の祭りであった。
母を侮辱されたと解釈したプロベットの怒りに油を注ぐ結果となり、
さっきよりも酷い罵詈雑言が飛び交い、交渉は決裂した。
もう、この2人は手を取り合う事は出来無いだろう。
アムは自責の念に駆られ、ひたすら泣いて居た。
そして、マカーフィはジュリアの膝に、プロベットはリヨンヒの膝に顔をうずめ泣いたと言う。

連合政府参加は兄弟対立の悲劇を生んだが、悪い事ばかりでは無かった。
連合政府設立から数ヵ月後、プロベットが屋敷に一人の女性を連れてくる。
金髪で気品漂う美しい婦人であった。彼女を見たアムは心底驚いた。
「お初に御目に掛かります。リヨンヒと申します」
それは、テンオウの内親王で嘗ての敵対国の姫であった。
「母上、実は彼女と付き合っています」
アムは更に驚いた。ア族と日本民族は和解したと言えど、互いに心の底から許した訳では無い。
あくまでも利害の一致で連合を組んでいるに過ぎなかった。
嘗ての敵国の姫と付き合っていると言うだけでも嫌な顔をする家臣もいるだろう。
恐らく向こうも、倒すべき敵であった国の王と付き合ってるなんて面白い筈が無い。
両者もその事で悩んでいる様だった。
それからも、度々リヨンヒはプロベットの屋敷を訪れ夕食を共にした。
孫のプリアもリヨンヒに懐いた様だった。そして…
「母上、余はリヨンヒ殿と結婚します」
プロベットはリヨンヒとの結婚を決めた。そして、リヨンヒのお腹にプロベットの子が居る事を知る。
「2人で決めた事です。互いに手を取りあい前へ進みなさい」アムは2人を応援した。
結婚を発表した両者だが、互いの家臣からは案の定、猛反対される。
だが、2人はそれを押し切り入籍した。
この時、2人を応援した人物が盟主ショーンとその妃アーメイであった。
「彼らを支え、守る立場である貴方達が、2人の気高い考えを理解できないとは嘆かわしい。
 互いに手を取りあえぬと言うのなら、この国にいる資格はない。即刻立ち去りなさい!!」
アーメイの鶴の一声であった。これに、流石のそれぞれの家臣達も折れ、両者の結婚を祝福した
そして数ヵ月後、リヨンヒは男児を出産する。
リヨンヒの国の言葉で『憲法政治』を意味するケンセイ(ケンセイ)と名付けられた。
後にプロベットの家督を継ぎソース恒星系政府元首、銀河政府第4代国家元首となる男である。

SC124年、遂にマカーフィ討伐部隊が出兵する。
艦隊総司令はプロベット、兄弟での殺し合いが始まったしまったのである。
アムは、両者の勝利を祈っていた。叶わない事など知っていたが、
祈らずにはいられなかった。
SC125年連合政府はマカーフィ軍の首都ナーハンを攻略、旧ドーラ領を平定した。
「あぁ、アルビオン… 貴方はどうなってしまうの?」
そこへ来客が訪れる。
「マクレイ殿… 帰っておられたのですね」
プロベットの帰還を助け、現在はその家臣として活躍する元海賊マクレイであった。
部屋へ招き入れられたマクレイは紅茶を啜りながら話し始めた。
「太后様の紅茶は、いつ飲んでも美味しいですね」
「そんなお世辞を言っても何も出ませんよ。所でプロベット… 陛下のご帰還は?アル… マカーフィは?」
「陛下は、諸々の手続きがあるため少々帰還が遅れております、数日中には帰ってくるでしょう
 今日は、その事もありましてね。太后様の元を訪ねた訳です」
そう言ってカップを置いたマクレイの手に傷があるのにアムは気付いた。
「マクレイ殿、その傷は?」
「あぁ… バイアグラに怒られましてね。グラスを投げつけられました」
マクレイはプロベット家臣の中でも好色で有名で、自ら『女好きの変態』と公言している程である。
アムも度々、女を口説いているマクレイを目撃しているが、軽くあしらわれたり、殴られたりなどしょっちゅうである。
それでも、めげずに女に声を掛け続けている彼を、アムは呆れつつも色々な意味で感心していた。
そんな彼だが、不思議と女性に嫌われる事は無く、周囲からも『恒例行事』と評されていた。
「また、何かやらかしたのでしょう?」
「まぁ、そんな所です。危うく顔面ズル剥けにされる所でした」
アムのそ問いマクレイは笑いながら頬をボリボリと掻き出した。
そして、言いにくそうに本題に入った。
「実は、マカーフィの事なのですが…」
アムは思わずスプーンを落としてしまった。マクレイは続ける
「マカーフィは捕縛されました。現在、人事院の捕虜収容所に収監されています」
「よかった。処刑はされずに済んだのですね…」
マカーフィが生きている。アムは希望を見出していた。だが…
「いや… それが、そう言う訳にもいかないのです」
「どう言う事です?生きて捕らえられたのでしょう?」
マクレイは言いにくそうに答えた。
「確かに、処刑されると決まった訳ではありません。
 マカーフィの処刑を回避するべく、ショーンと陛下が恭順する様に説得を続けていますが
 マカーフィに応じる気は無い様です… このままだと処刑される可能性が高いです」
「…!?」
アムはお菓子の準備を放り出し屋敷を飛び出した。
「全く… 陛下も嫌な仕事を押し付けやがって…」
残されたマクレイは文句を言いながら、お茶を飲んでメイドを口説いていた。

人事院を訪れたアムはマカーフィの元へ訪れた。
「アルビオン、私です」
「母上…!?」
牢の中でマカーフィは驚いた様に振り向いた。
「アルビオン、お前は賢明に戦いました。もう良いでしょう。帰ってきて…」
「母上の願いでも、断ります!!」
その後もアムはマカーフィを説得し続けた。だが、マカーフィは頑なに応じなかった。
それでもアムは諦めずに説得を続けたが、アルビオンは首を縦に振らなかった。
「…また、来ますね。アルビオン…」
アムが立ち去った後、マカーフィは鼻を啜りながら泣いていた。
だが、これを遠目に見ていた男が居た。バッカスであった。
バッカスは「チッ」と舌打ちをするとマカーフィの牢の前に立った。
そして…
「うそだぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!うわぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁっ!!」
満面の笑みを浮かべるバッカスの言葉に、マカーフィは絶望の咆哮を挙げた。
数十分後、同じくバイアグラが面会に訪れた時、マカーフィは理性を失い獣と化していた。
その日の夜、アムの元にマカーフィの処刑が決定した旨の連絡が入る。
これを聞いたアムはその場に崩れ落ち、アルビオンの名を叫びながら泣き叫んだ。
翌日、マカーフィは廃人となり腑抜けと化していた。
「アルビオン!!」
「…」
アムの問いかけに一切反応しなかった。
処刑台に固定されても抵抗せず、完全に生きる事を諦めていた。
そして、バイアグラは涙ながらにその首を跳ねた…
転がり落ちた首は笑みを浮かべている様だった。

後日、口を滑らした立会人から、マカーフィが廃人化した理由がバッカスである事を知らされる。
呼び出したバッカスにアムは聞いた。
「何故、アルビオンを追い詰めたのか?貴方には血も涙もないのか?」
この問いにバッカスは
「マカーフィが生きる事で死ぬ命と、マカーフィが死ぬ事で助かる命が有ります
 小官はマカーフィの命と助かる命を天秤に掛け、助かる命を選んだだけです」と返答。
これを聞いたアムはバッカスに強烈なビンタをお見舞いした。
この男は夫アブターを殺すよう仕向け、息子アルビオンをもそうした。
殺したいほど憎いが、プロベットの家臣としては大変有能であった。
以前、ラブとお茶した時もラブは
「婿は性格と人格に問題があるが、本当は心優しい男だ。
 汚れ役を引き受けすぎて、寿命を縮めないか心配だ」
とバッカスを高く評価していた。
故にアムはバッカスを憎んでいたが殺す事は無かった。
「バッカス将軍、貴方の事は殺したいほど憎い。
 ですが、私は貴方の悪い噂は全く聞きません。
 彼等、彼女ら貴方を信頼している者達に免じて、貴方を許します」
アムは冷静さを装いながらバッカスに言った。
バッカスは「有難うございます」と一礼すると部屋から出ていった。
バッカスが出ていった後、アムは花瓶を掴むと思いっきり壁に叩きつけた。
翌日、ジェニファとラブが態々謝りに来たが、アムは彼女らを責めず
茶会を開いて持て成した。

時が流れSC131年。そのバッカスがアブターの故地ナレッソを視察中に
「マカーフィ軍残党」を名乗る抵抗軍の襲撃を受け亡くなる。
憎き夫と息子の仇が死んだと言うのにアムはスッキリしなかった。
葬儀が行われアムも参列したが、彼の死を悼む者は多かった。
妻ジェニファは気丈に振る舞いつつも、最後は泣き崩れ
ラブもただ呆然と立ち尽くしている有様だった。
その後、アキ・ラー家の家督を継いだダラムから、ナレッソに潜む抵抗軍への報復が求められ、
盟主ショーンはこれを承認し惑星ナレッソへの大規模な取り締まりが行われた。
マカーフィ軍残党… もしかしたらマカーフィの子。つまり私の孫かもしれない。
そう思い複雑な気持ちになったアムであった。
この取り締まりにより大小数十組織が摘発され、数千が逮捕処刑された。
だが、肝心のマカーフィ残党を名乗る組織は影も形も無かったと言う。

SC140年。孫達も大きくなり、それぞれ役職を得て活躍するようになった。
だが、長年プロベットを支えてくれていた八卦衆長官チョーが、
元アグデッパ王子で重鎮の一人であった海賊艦隊司令アズマと
プロベットを長年支えてくれていた家臣達が相次いで亡くなる。
すると、プロベットは「全ての役職を辞する」と言い出し連合政府は大騒ぎになる。
「プロベット、これは貴方の王として最後の務めでしょう。それを放棄するつもりなの?」
アムの反対にプロベットは
「最後だからです。最後の務めだからこそ余は退かなければならない。
 このまま、ズルズルと全てを押し付けられ再び覇王になるなど真っ平です!!」
と声を荒げ返答した。
プロベットは民の成熟を望んでいたが、民は支配される事に慣れ、成熟など程遠かった。
当初は気長に待つつもりでいたプロベットだが、重鎮たちの相次ぐ死に
時間は限られたものであり、一刻の猶予も無いとの結論に至ったのである。
最終的にバイアグラらの説得により思いとどまったプロベットだが…

SC144年、「頭が痛い… 風邪でもひいたか?」
その日、プロベットは朝から頭痛を訴えていた。
「大丈夫ですか貴方?今日の議会は休まれた方がよろしいのでは?」
妻のリヨンヒも心配していた。
「長引く風邪は体には悪いですよプロベット。一度、病院で診てもらった方が」
リヨンヒとアムの心配に流石のプロベットも
「そうですね。今日は早めに帰って病院に行ってみます母上」
そう言って、屋敷を出た。 たかが風邪… 帰ったら病院へ行く… それが命取りとなった。

その日の正午前であった。
屋敷に電話が掛かってきた。
体調が悪そうだったプロベットから早退してくるとの連絡だろう。
そう思っていたアムだったが、電話を受けたリヨンヒが真っ青な顔をして戻って来た。
その手は痙攣を起こし、目は焦点が定まらず泳いでいた。
「どうしたのです?」
「夫が… プロベットが…」
リヨンヒも話そうとするが、嗚咽と過呼吸で声にならない。
「落ち着いて!!何があったの?」
アムはリヨンヒの背中を摩り落ち着かせると再度問いかけた。
「夫が… 夫が、会議中に… た、倒れたと… 」
「プロベットが!?」
やっと言葉になったそれを聞いたアムも、心臓が一瞬止まったのではないかと錯覚する程にショックを受けた。
「重篤だと… 意識がないと… 」
「落ち着いてリヨンヒさん。一先ず病院へ行きましょう」
再度、リヨンヒを落ち着かせるアムだが、自らも頭の中は真っ白になり
本当はどうして良いか解らなくなっていた。
病院へ駆けつけたアムら家族の目前には、管だらけになったプロベットが寝ていた。
急性くも膜下出血。それがプロベットが倒れた理由だった。
「ドクター、陛下を… プロベットを助ける方法は!?手術は!? 」
だが、医者は首を横に振った。
病巣が動脈の近くで手の施し様が無いと言う。
「血管が破裂する前であったら手の施し様はあったのですが…」
医者の言葉にリヨンヒはその場に崩れ落ち、
アムは無理やりでもプロベットを病院へ連れて行かなかった事を後悔した。
「お父様!!」「父上!!」
子供たちの問いかけにもプロベットは一切反応を示さなかった。
「プロベット… まさか貴方までこの母を置いて逝くのですか?」
アムの問いにも返事は無く、プロベットの呼吸音だけが病室に木霊した。
そして10日後、プロベットは息を引き取った。

プロベットの国葬が営まれる。
ア族宗家最後の覇王の死…それはア族による支配の死を意味していた。
「彼は民を心の底から愛しておられた」弔辞を述べたショーンはプロベットに
『連合政府国父』『連合政府初代国家元首』の称号を過去に遡って追贈した。
「死んで送られる称号は、唯々虚しかった…」
この時の事をアムはこう振り返る。
そして、悲しみが癒えず数ヵ月…

銀河の半分を手中に収めていたショーンは新体制の設立を発表する。
『銀河政府設立宣言』その演説中の最中であった。
演説をしていた連合政府盟主ショーンのマイクが『ドン』と言う鈍い音の後に『キィーン』と言う耳障りな音を拾った。
驚いてアムがショーンの方を向くと、ショーンは胸を押さえ倒れていた。
その後治療の甲斐なくショーンの心臓は再び動く事は無かった。
死因は急性心筋梗塞であった。
僅か数ヵ月の間に連合政府は、プロベットとショーンと言う双頭を失ったのである。

すると、これまで手を取りあってきた者達がお互いにいがみ合い争いを始めた。
「何と言う事… プロベットの努力は無駄だったの?」
屋敷でアムが嘆いていると屋敷のドアが勢いよく開いた
「お婆様!!お婆様、ご無事ですか?」
入ってきたのは末の孫ミライであった。血相を変え大慌てで入ってきた。
「どうしたのです?そんなに慌てて…」
「ショーン様の息子ウエラーが即位を宣言しました。
 お兄様がそれに異を唱え地球で挙兵したのです」
「何ですって…?」
「ウエラーは反乱分子としてお婆様の捕縛を命じました。ここは危険です」
「ちょっと待って… リヨンヒさんは?」
「お母様は先に脱出ポイントに向かいました。お婆様も急いで」
ミライの手引きでアムはリヨンヒと共にジパングを脱出。
途中でプリアとバイアグラの艦隊と合流した。

「折角平和になったと言うのに… あの子の、プロベットの死は無駄だったと言うの?」
「私も信じらせません、お義母様。
 この間まで確かに夫は生きていたのに… 皆で手を取りあって頑張ってきたのに…
 こんなに呆気なく終わってしまうなんて…」
「そうね… ラブさんも言っていたわ。終わる時は呆気ないものだって
 あの子は、こうなる事を見越していたのね。だからあの時…」
アムはプロベットが全ての役職を辞すると言った時の事を思いだした。
あの時、プロベットが役職を辞し、後任人事を確りとしていれば、
恐らく今のような事態にはならなかったであろう。
そこへ…
「義母上にお婆様、よくご無事で…」
「プリア、貴女も無事だった様ね。よかった…」
この身一つでジパングから脱出したアムとリヨンヒをプリアは出迎えた。
何処となくプロベットの最初の妻エセラに面影があるプリアだが
『もし、男であったらプロベットの後継者になったであろう』
と後世に評されるほど立派な軍人となっていた。
「ミライ、お前も無事で安心したぞ」
「有難う、お姉様」
ミライは末っ子である為かプロベットに一番かわいがられ、本人も一番懐いていた。
プロベットが倒れた時も最も心配し、最も悲しんだのもこの子であった。
その為、我儘で気まぐれな所があるが、争いが嫌いであった。
それ故、後にプロベットの子供達の中で唯一王族の身分を捨て
孤児院の保育士となって子供たちにその生涯を捧げた。
「太后様… 我々は現体制の連合政府の指揮下を離れます…」
「バイアグラ殿!?その傷、大丈夫なのですか」
奥からバイアグラが部下に担がれて出てきた。
今回の決戦で重傷を負い体調を崩していた。
「指揮下を離れるって… どう言う事なの?」
「我々はショーン殿の命令で、プリア様と共にマイス宙域に布陣しておりました。
 今回の争い、我々連合政府直轄艦隊は中立の立場を貫くつもりでしたが、
 ウエラー軍から攻撃を受けました。
 争う意思のない我々への攻撃は連合政府への背信行為と判断。
 故にウエラーの掌握する連合政府を僭称する現体制の指揮下から離れ、
 ケンセイ様の指揮下に入る事を決めました」
誰が敵で、誰が味方か解らない。事態は思っているより深刻であった。
そして、プリア、バイアグラの艦隊の護衛の元アムは地球へと帰還した。

「母上にお婆様、ご無事で何よりです」
「ケンセイ…」
到着した一行を地球政府元首となったケンセイが出迎えた。
プロベットの息子で唯一の男児。両親、特に母リヨンヒに特に甘やかされたせいか
ミライ以上に我儘であった。
武闘派であった為かプリアとは仲が良かったが、同じく我儘な性格のミライとは喧嘩が多く
後に彼女の王籍離脱の原因となるのだが、一種の同族嫌悪であろう。
「争いは、もう止められないのですね」
「王制廃止を謳いながら、ショーンの息子と言うだけで王位継承を主張するウエラーは
 排除しなければいけません」
ケンセイの周りには、ア族と日本民族を中心に多くの者が集まった。
嘗ての仇敵同士が徒党を組む。プロベットとリヨンヒは嘗てそれを望んで
民族の垣根を越え結婚した。
それは、叶えられた。ケンセイを次期王位に据えるため手を取りあった。
「プロベットが見たら悲しむでしょうね…」 
「えぇ… 私達は和解を望んでいました。でも…」
プロベットとリヨンヒが望んだのは、互いに手を取りあい平和に尽力して暮れる事であった。
だが実際は、互いに手を取りあい内戦を勝ち残るためであった。

宇宙は分裂した連動政府と同じく分裂したバニアウ王朝による6つどもえの戦争へと発展した。
だが、これを憂いたマクガイバやサジェムの努力の甲斐がありSC146年、内戦は終結した。
そして翌年。プロベットの妻であるリヨンヒが息を引き取った。
「貴女にも先を越されてしまいましたね…」
プロベットと同じ墓に葬られたリヨンヒに呟いた。
精神的に疲れたアムは銀河政府とケンセイに王籍離脱を表明。
惑星ナレッソの王宮跡に屋敷を建て隠居した。
隠居生活は意外と充実したものであった。
内戦が終わった事により、各国の国境封鎖が解除されお茶仲間だったラブと再会。
再び、一緒に茶会を開いて残りの人生を楽しんだ。
夫の話、子供の話、孫の話、と言った他愛もない話や
お互い何時になったら死ねるのかと言う笑い話などで盛り上がった。
そして、SC149年アムは家族、友人に看取られこの世を去った。享年96歳。
死ぬ直前、「ラブさん、ごめんなさい。先に息子たちの許へ逝かせてもらうわ…」
と言ったアムにラブは
「アキ様に会ったら『早く迎えを寄越す様』宜しくね」
と返し、それを聞いたアムは笑いながら息を引き取ったと言う。
遺骨は地球のアスラン廟に葬られ、ナレッソの王宮跡に記念碑が建てられた。

彼女の死後、親友のラブは政治犯として収監され、本人も獄死を覚悟したが死なず
釈放後も死ぬ気配は無く、最終的に109歳の大往生を遂げたのだが、
一向に迎えが来ない事をラブは「きっと夫が渋って、アムさんが説得に苦戦しているのだろう」
と笑っていたと言う。






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