海外特派員

01.海外特派員 (ForeignCorrespondent 1940年 アメリカ   モノクロ )

海外特派員は、巨匠アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)監督の「レベッカ」に続いてハリウッドで制作した2本目の作品です。主演は、ジョエル・マクリー(Joel McCrea)で、西部劇に出てくる姿はよく見ましたが、スーツ姿の役は珍しいのではないでしょうか。役柄は、アメリカからオランダへ派遣された通信員なので、海外特派員(Foreign Correspondent)となります。しかしヨーロッパの人には珍しい言葉らしく、通信員(Correspondent)でしょうと問われて、いや海外特派員だと訂正する場面が2回も出てくるのはなんという念の入れようだろうと思います。

ヒッチコック監督について、私がここで話すまでもないですが、この映画の制作当時はまだ名前が売れてなかったらしい。また、ハリウッドではスリラー映画はB級作品とみられているため、主演依頼を受けたゲーリー・クーパーが出演を断り、出来上がった映画をみて、何故出演を断ったんだろうと、地団駄を踏んで悔しがったという話があります。

映画のあらすじは、第二次世界大戦直前のヨーロッパのオランダを舞台に、大物政治家の暗殺現場に居合わせて、犯人を追跡するアメリカの特派員の冒険を描くものです。


写真を撮らしてもらっていいですかと断り、カメラを構えた暗殺者の右手から、引き蓋らしきものがひらりと落ちるのです。引き蓋で拳銃を隠していたのです。ひらりと書きましたが、静止画像の悲しさ、この写真だけでは非常に表現不足です。後の動画をみて頂きましょう。ヒッチコック監督はここはが一つの見せ場と考えていたと思います。


引き蓋が落ちて、大写しになった暗殺者の右手になんと拳銃が見えるではありませんか。 あっと驚く映画観賞者の声が伝わりようもありませんが、前の写真に示すように、レインコートを着てこっちをみている海外特派員には、カメラの陰で全く見えないのです。


カメラを構えた暗殺者は、レリーズを押さず、拳銃の引き金を引いたのです。
暗殺者が 持ってるプレスカメラこそ、この映画の主人公スピードグラフイック(Speed Graphic)なのです。


暗殺者に拳銃で撃たれた大物政治家は、その場に無残にも血を流し倒れたのです。暗殺者は、拳銃は持って、最高のプレスカメラ、スピグラをその場に放り出し逃げ出したのです。後を追いかける海外特派員。


ヒッチコック監督は、この映画で面白い、珍しい場面を見せてくれます。上の写真は、暗殺者が傘を差した人々の間を逃げるんですが、雨傘がまるで波をうつようにみえるのです。静止画像ではぽっかり穴があいてるようにしかみえません。しかし次に動画をいれました。



上の写真は、後ろの風車が他の風車と回転方向が異なる事から、暗殺者がこの風車に逃げ込んだ判断する前の場面です。警察官もこの時点では気がついていません。


コックピットにカメラを据えっぱなしにして、とらえた飛行機の墜落シーンです。


第二次世界大戦は、 1939年にドイツが、フランス・イギリスに宣戦し勃発。アメリカは1941年に参戦し、1945年に終焉を迎えます。この映画は勃発直後に作られ、最後の場面が非常に感動的であり、イギリス出身のヒッチコック監督の感情がこめられています。マクリー扮する海外特派員は、空襲下のロンドンから、アメリカ国民に電話で次のように訴えるのです。

「欧州はもはや暗闇に立ち尽くすのみ」「明りが残っているのはアメリカだけです」「その明りを銃で守ってほしい」「世界に残された最後の明かりをどうか消さないで」と。ゲーリー・クーパーは、最後のこの場面をみて、マクリーに代わり、自分がその言葉を言いたかったと、悔しがったのではないでしょうか。


最後に、ヒッチコック監督は自分の作品の中に必ず出演するので有名です。ちょっとだけのため、どこに出てくるか気を使っていると、本来の映画の意味がおろそかになるというので、なるべく前の部分に出るようにしてるとのことです。上の写真は、主演のマクリーがホテルから外へ出た所で、新聞を読んでる通りすがりの人の役で出演しています。若いですね。ヒッチコックは1899年生まれですから、この時41歳です。帽子を被ってるのでわかりませんが、頭髪は十分あったと思われます。

もう一つ、妙に興味を持った所があったので記します。スコット・フォリオットという人が出てきますが、その人の名は、SCOTT・ffOLLIOTTと頭文字が小文字で綴ります。読み方は、「フフ」でなくて「フ」でいいとのことです。理由は、先祖が王様に首を切られて以来頭文字が小文字になったという事です。まさに雑談になりました。


(未完成)


  • 「カメラを構えた暗殺者はレリーズを押さず、拳銃の引き金を引いた」息詰まるシーンですね。このスピードグラフィックスというのはずいぶん重厚なカメラですね。 -- inada (2013-03-23 15:41:09)


  • スピードグラフィックは、通称スピグラといい、報道写真用プレスカメラの代表者でした。画面寸法が大きく引き伸ばしに耐える。
    蛇腹を繰り出し接写が可能。レンズ交換可能。フイルムパック交換可能。距離計つけて焦点調節。フラシュガンつけて暗い所でも
    撮影可能等なんでもござれのカメラです。重いのがたまにきずですか。 -- (kojirou4) 2013-10-02 16:42:06
  • 新年おめでとうございます。
    年賀状は5年前からやめていますので、失礼しました。

    ブログ拝見しました。面白いですね。
    私は「写真家とカメラたち」(彩流社)という単行本を
    出しました。その中で、スピグラは何度か出てきますが、
    メインはやはりウィージーですね。

    ブックマークしましたので、ときどき拝見します。

    よろしくお願いいたします。 -- (那和秀峻) 2014-01-06 12:38:44
  • 那和秀峻先生,私のブログみていただき、またコメントもいただきありがとうございます。早速「写真家とカメラたち」を買って見させて
    いただきます。「カメラたち」なんですね?私の題名と似てますね。 -- (kojirou4) 2014-01-06 14:10:02
  • 那和秀峻先生著書の「写真家と名機たち」を、すぐ注文しましたら、今日手元に届きました。素晴らしく、面白い本です。
    特に、映画「ガンジー」で書いたマーガレット・バーク=ホワイトと「毛皮のエロスダイアン・アーバス幻想のポートレイト」
    のダイアン・バースの話しが出てきて、非常に嬉しく感じました。 -- (kojirou4) 2014-01-08 16:47:59
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最終更新:2015年06月25日 05:22