乗鞍岳

肩の小屋は快適だった 1988年7月

 何と青空の新宿!! 松本も雲は多いが晴れ。梅雨時で思いもよらなかった晴天である。今回は頂上近くまでバスが入る楽々山行だが、その上眺望が得られるなんて贅沢すぎてもったいない。しかしバスは畳平まで行かず位ガ原止りだった。道路補修によるストップだった。新島々からのバスの車内はにぎやかなお年寄り数人一組。今日は鈴蘭の民宿泊りで明日畳平まで行くつもりだったらしい。車内で不通なのを知って、明日は上高地経由で畳平に向かうことにしたようだ。

 位ガ原山荘は無人で入り口はカギがかかっていた。半袖から長袖のシャツに着替えて、さて出発は一四時。昨日はこちらも雨だったようで沢の水は量が多い。少し行くと残雪が早くも現れる。尚もゆくと登山道は沢そのものとなり石を拾って飛び飛びに進んで行く。所々ハイマツの下をくぐり抜けたりでようやく大雪渓の下まで到着した。時刻は三時丁度。車道ぞいにコンクリートの避難小屋が立っていた。

 大雪渓では夏スキーの若い人たちでにぎやかである。登山ルートは大雪渓を通らず、その右サイドにつけられている。肩の小屋には一五時四〇分に着いた。水道の冷たい水で渇きをいやすと、そのまますぐに剣ケ峰めざして出発。富士山の登山道のようなザレ道を、ようやく疲労を覚えた体をなおもいじめて一六時二三分山頂に到着した。六一番目の百名山達成である。残念ながら穂高方面は見えない。魔利支天のコロナ観測所が眼前に迫る。その向こう側が畳平だ。先程の大雪渓はここから見下ろすとわずかの面積しかない。気が付くと若い人の姿は既になかった。


 頂上休憩舎は閉ざされていた。直下で背負子を背にした小屋番らしい人、二人が降りてくるところに出会ったが、この時間で店じまいのようだ。休憩小屋からほんのわずかで剣ケ峰山頂に立つ。南側の大日岳の勇姿がこちらの剣ケ峰を圧倒する位、決して低くはない。 名残惜しいが既に時刻は遅い。肩の小屋に戻ることにする。肩の小屋は全室が個室だった。素泊まり三五〇〇円也。食堂で持ち込みの食事をとる。部屋に戻ると窓から二人連れが上って行くのが見えた。もう遅い夕刻である。風もない良い天気なので適当な所にテントでも張るのだろうか?

 六時少し前に小屋を出た。朝まだきガスが覆っていたが、だんだん引いてきた。コロナ観測所のある魔利支天にのぼる。のぼると言っても、広い車道が頂上まで通じていて、それをたどっただけだ。しかし頂上まで来ると眺望は素晴らしい。きのう見えなかった槍穂の連なりがよく見える。そのシルエットはいつまで見ていてもあきない。次に登る予定の黒部五郎はどの辺りか、笠ケ岳は・・・?

 畳平にそびえる恵比須岳にも登りたいが今回は割愛して、不動岳に向かう。魔利支天からの尾根をしばらく進むと頂上は間もなくである。更に西に里見岳がゆるやかに横たわっており、これにも足を向けることにした。五の池を見下ろしながら楽しい散策である。里見岳にはキバナシャクナゲ、コイワカガミ、アオノツガザクラ等が咲いていた。剣ケ峰や朝日岳の方向右側遠くない所に、頂上が赤茶けていてどっしりした岩山が見える。最初焼岳だろうと思っていたら方角からして違っていた。実は御嶽山だったのだ。ここ乗鞍山稜に立つと、さすがの御嶽山もさほど大きくは見えない。

 五の池へ下って宇宙観測所のある魔利支天と朝日岳の鞍部に向かう。途中雪の斜面で雷鳥を見つけた。オス一羽。用心している様子だが逃げようとはしない。カメラを取り出し静かに近付いてシャッターを切る。ほんの一メートルまで接近できた。おどかさないようにソッとその場を離れた。


 肩の小屋に戻り水を補給して、いよいよ下山である。雪渓上では二組みだけがスキーを楽しんでいた。きのうの大勢の若者達は合宿に来ていたのだろう。小屋前で帰りの準備をしていた。位ケ原山荘手前の雪渓を下り、そのまま沢を下ってみた。ちょっとした冒険である。結構スリルを楽しんで車道におり立った。しばらく車道を行き冷泉小屋を過ぎると、すぐ左側に白骨方面の矢印があった。鈴蘭経由だろうと躊躇することなくこの山道に入ってしまった。旧くからの登山道らしくしっかりした道だが、最近はあまり歩かれていないようだ。一時間あまりも展望のない樹林帯を行くと、とうとう道が分からなくなってしまった。ルートは笹藪の中にあることは分かったが、この先長い時間ヤブに苦しむのはいやなので、結局戻ることにした。そのまま突き進んでいたら、あるいは深い山中で迷いに迷って取り返しがつかないことになったかも知れない。一時間半も同じ道を戻って登り返すのは辛いが、その方が安全である。時間もまだ余裕がある。

 おかげで乗鞍高原の散策はできなくなったが鈴蘭尾根経由でバス停に午後二時に着いた。少し車道を下ったところに露天風呂を見つけたのはラッキーだった。バスを待つ間一浴。少し温度は低いが清潔な良い温泉だった。

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最終更新:2013年09月03日 09:57