御嶽山


 3/8(火)新宿7:00あずさ。しゃれたデザインの木曽福島駅からバスに乗る。深い木曾谷を木曾川、王滝川と遡って王滝村から御嶽の山麓を走り、神社の雰囲気色濃くなる中、八海山荘バス終点に着いた。登山口でカレーライスを食べる。

 出発は13時。スキー場は若い人達でおお賑わい。リフト券八〇〇円支払ってスキーヤーの後に並ぶ。二つ三つとリフトを乗り継いで三笠山頂上直下まで。リフトの番人に雪の状況を聞き、なかば脅かされて、それでも赤いリボンを追って登り始める。確かに凄い雪で、いきなり腰までもぐって急な坂がなかなか登れない。幸い昨日登ったらしい、わずかのトレースをなぞって少しずつ前進することができた。

 やっとのことで田の原に着き、雪原に下り立つと風が非常に強い。その厳しさにあらためて大変な所にきたという緊張感で体が震える思い。山荘や便所はかなり雪に埋まっており、幕営場所を探してウロウロしてしまった。建物に身を寄せても風は四方から吹きつけてくる。この分では明日の頂上アタックは無理かも知れないと漠然と思う。リフトの管理人の話しだと、きのう新たに三〇センチの雪が積もったそうだ。アイスバーン状態の雪の上に降って、そのぶん滑りやすくなっているはずだから気をつけるように注意してくれた。今日は午前中は晴れていたが午後になって悪くなったという。この正月の伊吹山のように入山日悪天、翌日好天といきたいものだ。

 田の原山荘の西側の軒先にまあまあの場所を見つけた。目の前は吹き溜まりの雪が三メートル位の高さになっていて防風の役目をしてくれる。一六時半にはテントの中に入ってチビチビやり始める。きょうはスモークドビーフやサラミのスティックがある。日本酒、梅酒、ワイン。

 3/9(水) 夜中は満天の星空で晴れていたのに、朝になって青空はあるが雲も多い。雲行きは早く風もある。ただきのう程ではない。出発できたのが七時半。ちょっと遅い。頂上を往復するには六時に出なければいけない。さて雪は覚悟していた通りかなり深く、スタートから苦しいラッセルを強いられた。暫くは頑張ってもみたが、すぐに嫌気がさして、こういう豪雪では一人ではもともと無理で頂上まではとても行けそうもないというわけで、どうも気力がわいてこない。それでも腰までもぐるラッセルに耐えながら、とにかく一歩一歩前に進んだ。行けるところまでいって引き返そうと考えていた。

 小雪が舞う中、一時間もそうしている内にどうやら調子が出てきた。高度がだんだん上がり、頂上が近づいてきたこともあって王滝頂上までなら何とかなりそうな気になる。はい松の広大な高原を抜けて森林限界に達したのが九時半。ここで中食にする。ガスもようやく晴れ始め、田の原が眼下に見渡せるようになった。形良い三笠山に衛られた格好の、広い田の原高原は街からもスキー場からも遮断されて寂寥たるものである。ワカンをアイゼンに履き替え稜線を行く。まもなく八合目到着。しかし、ここからがなかなか進まない。樹林帯の深い雪を脱してかなりスピーディに足を運んでいるのだが、目の前に今やはっきり現れた王滝頂上が一向に近づいてこないのだ。いつかは着くだろうと気を取り直して踏ん張り、ようやく十一時二〇分、待望の王滝頂上に到着した。

 神社に参拝したあと剣ケ峰を仰ぎ見る。手前の崩壊した窪地からはゴーッというもの凄い音を立ててガスが噴出していた。生物が生存できない灰色の世界の中で恐ろしいものを見たようで、茫然と立ちすくむだけだった。この場所から剣ケ峰の足許まで木道が延びていて、ちょうどその上をもの凄い勢いで噴出したガスが風で飛ばされ、あるいは吹きちぎられて横切って行く。風が強いせいか雪はあまり付いていない。剣ケ峰まで往復するのは造作ないことのようだが、仏像の立つ鞍部がちょうどガスの通り道になっている。激しい硫黄の臭気に苦しめられるに相違ない。ここまで来て剣ケ峰に登れないのは残念だが今回はこれまでにしようと、それでも何気なくそのルートに下り立って歩いてみると、どうしたものか足が止まらない。どんどん先へ進んでいってしまうではないか! 果たして剣ケ峰に向かって歩き始めてしまったのだ。問題の仏像の下辺りでは煙りをかいくぐって通り抜けた。確かに臭気は鼻をついたが危険といえるほどではなかった。大気の流れの方が強いように思われた。田の原への帰りの時間を考えると剣ケ峰往復は無理ではないかというのも先程躊躇した理由の一つであった。ただ、昨夜の天気予報では今日は天気は回復基調にあり、明日更に良い天気になりそうということだった。今現在西の方は青空で急激に崩れる心配はなさそう。少なくともあと二時間はもってくれるだろうという計算が頭の中でできていた。こうなったらゴー・ゴーだ!!

 岩稜の登りは思いの外はかどって十一時五八分、ついに山頂に到着した。大きな感動の波が打ち寄せる。みんなありがとう・・・。山頂の神社の前で頭を垂れて家族一同の平安を祈る。この正月伊吹山から、そして二月に中央アルプスの稜線からこの山の裏表を遠望して、何時の日にかと思っていたのが以外と早く実現した。頭上を去来した暗雲は今や過ぎ去って景観は三百六十度。中央アルプス、北アルプスは霞んで見えないのは残念だが、この山を取り巻く麓の景観は見事に眼下にある。素晴らしいチャンスを与えてくれた神に感謝せねばならない。

 山頂には十二分間とどまって直ぐに下山を始めた。念には念を入れて天気の良いうちに、気持に余裕をもった上で下山しようと言う事だ。優れた眺望を楽しみながら、どんどん高度を下げて行く。苦しかった登りがウソのようで、簡単に降りてしまうのが勿体ないくらい。八合目下まで来てアイゼンを脱ぎ、ワカンに再び履き替えると今回の山行が安全に完了しつつあることを知る。五五番目の百名山の完登である。


 3/10(木)下山の日、やはり今日が一番良いお天気だった。きのうは下山中、八合目を過ぎてから空模様がおかしくなり、早めに下山したのが正解であった。今朝はテントを撤収して田の原を後にする頃には青空が広がり、スキー場の整備されたゲレンデを鼻歌まじりに下って行くときには日焼けを心配するほどよい天気となった。




































































































最終更新:2013年10月08日 15:23