穂高岳縦走



1 西穂~槍~樅沢岳
7/31(月) 曇り、時々晴れ。新宿駅に余裕をもって到着したのが幸いした。6時40分発の松本行き
臨時列車に乗ることが出来たたからだ。既にホームは7時発の南小谷行きを待つ人々でいっぱいだった。
夏のシーズンにはいって、乗車整理券をだすほどの混雑。

新島々からの満員のバスで上高地着十二時。大型バスがズラリと並びバスターミナルはすごい人々・・・。
2階の食堂でカレーライスを食べて、いざ出発は十二時半。穂高岳縦走とあって本人は悲壮な気構えだが、
周囲の喧騒はそれを他人事のように空虚なものに思わせる。

西穂高岳登山口に着くと急に静かになった。シラビソの樹林をゆっくりと行く。それにしても思い出すと自
己嫌悪に苦しむ。松本駅で新島々行きの電車を待っている間のことだった。大糸線の電車が同じホームに入
ってきて人々が降りた後、若い女の子が一人出てきた。足下がおぼつかなく、方角も分からないようでまご
ついている。すぐに目が不自由なのが分かった。かけつけてエスコートしてあげようと思ったが、恥ずかし
さが先にたって、どうしても足が動かない。そのうち駅の清掃職員が手を貸しながら案内していった。私はその
間とうとう手をこまねいて見ているだけだった。何と情ない意気地のない人間だろう。何もしなかった事自
体が一番恥ずかしいことなのに・・・。

次第に高度が上がり、また更に急登にあえぐ。そして自問自答は続く。努力は人一倍したが厳しさに欠けた。
そしていたずらに齢を重ねただけで、自分の中に何ひとつ築き上げることもなく今日まできてしまった。し
かし、悔やんでばかりいられない。これからでも遅くはない。ひとつライフワークを探して見ようではない
かと、思い立って出てきた今回の山行だった。勿論山歩きのなかで簡単に探しあてられるはずは無いが、そ
れを考える山行にしたかった・・・。くだらない煩悶を繰り返して、周囲の樹木の変化に気が付かないうち
に水場を過ぎ、多くの下山者とすれちがって、ようやく十五時半西穂山荘に到着した。山荘前の広場は大勢
の登山者でにぎやかだった。

山荘前のベンチで、ビールを飲みながら石川県から来た若い人と話しがはずむ。明日やはり奥穂をめざすと
いう。

山荘で夕 食 1050円
ビール     500円
テント   500円




8/01(火)朝のうち曇り、後降ったり止んだり

4時に出発するつもりだったのが、2時ごろ雨が落ちてきて浅い眠りから覚めた。雨の中の強行軍は避けて、
いったん新穂高に下り直接槍に登って逆縦走しようかと真剣に考え始めていたら、何と雨はあがった。決行!
決行! 五時の出発と相成った。小屋の前では大勢のハイカーが出発準備をしていた。

先発していた石川県の君に追いついた。しばらく先になり後になりしていたが、そのうち同行することにな
った。こういう厳しい、時に気が遠くなりそうな岩稜歩きでは、士気を鼓舞することになってお互い良い刺
激になる。独標まではどうということはないが、その先は雪山だったら少し手強いように思えた。もっとも、
この岩稜にどの程度雪が付くかが問題だが。

西穂高岳山頂には二時間足らずで着いた。ガスが吹きつけて寒い。中には傘をさしている若者もいた。ほぼ
同時刻に着いた征服者は五人パーティ、単独行2名、それに石川県の若い人と私。そして、以上全員が縦走
を続けることになった。運命を同じくする仲間意識が芽生える。互いに後になり先になり無言のうちに励ま
し合うことになる。

小屋を出てから3時間後に間の岳に到着した。まだまだ元気だ。始まったばかりという気持ちだった。しか
し西穂から先はやはり悪場が続く。天狗の頭を通過する前後が体力的に一番きつかった。既にかなりの悪場
をこなしている。三点支持も板についてきた。ホールドは豊富にあるし、ガスで深い谷が見えない分、岩場
の恐怖感は在る程度減殺されている。景観が得られないのは残念だが、時々ガスが晴れて少しの間だけ岩の
屹立する恐ろしい姿が突然目の前に迫ったりすることがある。そんな時、“とんでもない所に来てしまった”
と、一瞬気が遠くなってしまう。

コブの頭に着いた時、突然目の前にジャンダルムが出現した。ここまで来ればほぼ九割方消化したといって
もよい。ガレた岩を慎重に登って憧れのジャンの頂きに立った。ガスで視界はきかないが、年来の夢が現実
になった感激がいっぱいに広がって目頭が熱くなる。 ジャンのトラバースには気をつけろと、山の雑誌に
書いてあった。しかし取り立てて言う程のことはなかった。ロバの耳を過ぎて馬の背を軽くクリアすると、
待望の奥穂高山頂に到着した。時刻は十三時半。人気の山も、さすがの悪天候で二、三人いるだけ。行を共
にした青年と思わず握手。西穂高岳を過ぎてからは雨が降ったり止んだりのはっきりしない天気だった。良
く無事で歩き通せたと胸がいっぱいになる。ケルンの祠に向かって手を合わせ、家族一人一人の顔を思い浮
かべながら感謝せずにはいられなかった。

穂高岳山荘に降りるまでの間に雨が本降りになってきた。しかし山荘に着いて、ためらわず幕営を申し込ん
だ。同じ縦走した中では私一人だったようだ。雨の中でのテント設営はいやなものだ。雨がテントの中に入
る。衣服はぬれる。

山荘で夕食を済ませた。1500円
テント代        500円

山荘には大勢の宿泊者がいた。雨で行動を見合わせた人もいるにちがいない。涸沢の雪渓はまだかなり残っ
ていて春山を思わせる程だ。斜面にはフィックス・ロープが張られ、雪をけって続々と山荘に到着する人達。
親子づれもいる。

夏用シュラーフのナイロンは濡れても冷たく感じない。夜半から風も出てきた。台風一二号の影響だそうだ。
明日のキレット越えが心配である。


8/02(水)くもり時々薄日

4時に起床した時には、既に風もおさまっていた。手早くラーメンを作り、コーヒーを入れて出発準備でき
たのが5時45分。しかし今日の行程は短い。道中ゆっくり行くことにする。

小屋から涸沢岳を往復する人が多い。わずか十五分で山頂にたった。涸沢小屋が見える。テントもかなりの
数だ。行く手に見える北穂の手前の岩山は涸沢岳か? 笠岳がベールをとり、前穂が全容を現し始めた。ど
うやら天候は回復基調である。

涸沢岳の下りでは最初のクサリ場でかなり待たされた。不慣れな人の通過の為だ。ここをクリアしてからは
お先に失礼で、マイペースで充分楽しめた。北穂南峰に立ちたかったがペンキ印しを忠実に拾っていたら、
何時の間にかバイパスしてしまったようだ。なつかしい北穂沢の雪渓をトラバースすると、まもなく北穂高
山頂に着いた。8時15分。

少し雨が落ちてきた。記念写真をとってもらい、すぐ下の小屋の屋根つきのベンチでティータイム。天気回
復したところで出発は9時。いよいよ大キレットの下りだ。最初のかなりの部分はガレ場で急だが、山腹に
道がつけられていて谷底にひきずり込まれてしまうような恐怖感は別段ない。その後の通過については、確
かにやせた岩稜の刃渡りとかクサリ場は随所にあったが、大キレットを無事通過したことは南岳獅子鼻への
登りに至って初めて知ったくらい、昨日の長時間にわたる悪場の連続と比較すべくもなかった。

南岳テント場には12時前に着いてしまった。所要6時間、もっと歩いてもいいと思ったが、薄日が時々さ
してきて濡れている衣服を乾かすのにちょうど良い。予定どおり、ここにテントを張ることにした。

小屋に夕食を頼む  1500円
テント代       500円
朝食(弁当)代    500円

テント場からは目の前に笠ケ岳、黒部五郎、三俣蓮華岳等が横に広がる。今回の山行でここに来てようやく
ゆったりした気分を味わうことができた。


8/03(木)晴れ 良い天気の一日だった。

3時半、星空の下まだ辺りは暗い。テント場では、あちこちでヘッドランプが動く。4時40分の出発の頃
には明るくなり、南の空に富士山や八ヶ岳のシルエットが浮かんでみえてきた。二十分で南岳山頂に到着。
ここで日の出まで過ごすことにした。誰も登ってこない。皆反対方角の大キレットに向かっている。灯火が
きらめく北穂高山荘が狭い山頂の脇にちょこんとしがみついているかのよう。あの深く切れ落ちた絶壁を降
りてきたんだなあと感無量である。そして更に奥には奥穂高とジャンダルム、西穂・・・。

浅間山の左手から日の出が始まった。雲が少しかかって暫くは付近を赤く染めているだけだったが、次第に
その雲の上に昇ると世界は完全に明けた。今日一日の無事を祈る。

槍ヶ岳への稜線歩きは何の心配もいらない楽しいひと時であった。景色は雄大に展開し足下には所々高山植
物が目につきだした。ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイ・・・。中岳を下ったところで茶をたてることにし
た。小屋でつくってもらった弁当を広げる。朝食にしてはボリュームがある。目の前には常念岳が恰好よく、
左に大天井、右に蝶ケ岳。

大喰岳へはそこからちょっとした登りをがまんして到着。そして飛騨乗っ越しを経て槍ヶ岳山荘に着いた。
8時。山荘前は多くのハイカーでにぎわっていた。槍ヶ岳の岩壁には登る人、下る人が蟻のように結ながっ
ている。山荘で缶ジュースを買い一休みすると、私もアタックを始めた。とりたてて難しい所はなく、前回
登った時よりルート整備がなされているように思えた。山頂では互いに写真をとりあって早々に下る。これ
から長い西鎌尾根を行かねばならない。

西鎌尾根はその最初のジグザグを過ぎると岩稜歩きになり、下りということもあって快適である。千丈沢乗
っ越しを過ぎて左俣岳にかかる辺りから高山植物がたくさん見られるようになった。種類も豊富である。イ
ワツメグサ、イワギキョウ、コイワカガミ、タカネスミレ、イワオオギ、イワベンケイ、ミネウスユキソウ
etc。日は高く昇り、まさに真夏の太陽の焼けつくような日差し。カニ族が数パーティ登っていった。樅
沢岳手前の雪田でクロユリ一株見つけた。他にタテヤマリンドウ、ニッコウキスゲ、クルマユリ・・・。何
の変哲もない樅沢岳の頂上を踏むと、今日の目的地、双六山荘はもはや目と鼻の先であった。テント場はカ
ラフルな色彩で埋めつくされていた。それでもわずかな余地を探してわが家を確保。ボリュームのある夕食
を山荘で食うとテントにもどってすぐに眠った。

夕食代   1500円也
朝食代   1000円也
テント代   500円也


8/04(金) 双六山荘から下山中は、これまでにも増して色々な花に出会った。キヌガサソウ、ツマト
リソウ、ミヤマダイコンソウ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲ、ミヤマダイモンジソウ、ゴゼンタチバナ、
オンタデ、ヨツバシオガマ、テガタチドリ、ハクサンチドリ、オオバミズホウズキ、チングルマ、タテヤマ
ウツボ、そして新穂高温泉に下り立った所でホタルブクロ等々。

新穂高温泉には無料の大衆浴場があり岳人に親しまれているが、今回は湯が膝までしかなく、体をほんの濡
らしただけだった。一日一本しかない松本行きバス10時30分発まであまり時間もなかった。





2 西穂~奥穂

 9/21(FRI)23:00発夜行バス。新宿CTRビル前は登山客でいっぱい。
 9/22(SAT)05:30上高地到着。バスターミナル2Fの食堂で、六時半の開店を待って朝食を
食べる。観光客で相当のこみようだ。

 今日は西穂高山荘までなので、時間はたっぷり。それでも歩きだすと、いつものペースで登ってしまい、
普通の人よりやっぱり早い。すこし雲はあるが青空の良い天気。山荘に着いて缶ビールを流し込むと、去年
と同じ所にテントを張ってから、独標の方へ散歩に出た。南に上高地をはさんで霞沢岳、遠く乗鞍岳、近く
に焼岳がなつかしい。対して北側には、笠岳、抜戸岳の稜線がずいぶんと際立っている。

 途中から引き返すつもりだったのに、とうとう独標まで来てしまった。二十人ぐらいの人が展望を楽しん
でいた。更に西穂へ向かっている人もいる。戻ってくる人もいる。しばらくすると、ガスがかかって奥穂の
方がみえなくなってきたので下山することにした。

 山荘でラーメンを食う。

 夕方になるとキャンパーが増えて、山荘前はテントでいっぱい。あきらめて山荘どまりに変更した人達も
いたようだ。



 9/22(SUN)テントの夜中は、三千メートル級の稜線ということで、この時期そうとう冷え込むと
思っていたが、羽毛のアンダーパンツもセーターも必要なかった。シュラーフはもちろんFOR SUMM
  • ER。

 朝四時半にはテントをたたんで出発。まだ暗いのでヘッドランプの明りを頼りに歩く。すでに先を行くパ
ーティの明りが並んで見える。独標に着いた時には、もうかなり明るくなっていた。昨日より幾分雲が多め
だが、まずまずの天気。去年縦走した時は眺望がまるで得られなかったので、今回は大満足。

 西穂山頂で少し時を過ごす。槍がちょっとだけ姿を見せて、すぐにまたガスの中にかくれた。薬師、黒部
五郎・・・。数パーティが奥穂へ向かうようだ。出発前に、下半身の疲れを防ぐため、ステテコを脱いでオ
ーロンウールのアンダーパンツにはき換えた。

 名だたる岩稜縦走だが、去年経験しているだけに、それ程の緊張感はない。まもなく間の岳に着く。単独
行のお兄さんが追いかけてきた。単パン姿で寒くないのだろうか?天狗で中食をとっている間に、とうとう
追い越された。ジャンダルムで追いついたが先を急いでいたようだ。天狗でたっぷり休んでから後半の縦走
にとりかかる。コルからコブ尾根の頭への登りがけっこうきつい。疲れが少しでてきたせいだろう。それで
もジャンダルムを眼前に見たときには、そんな疲れもどこかへ吹っとんでしまった。くずれ落ちそうなガレ
に注意してジャンの山頂に立つと、奥穂が姿を現した。なんと! そのガレキの山体は雑誌にも書いてあっ
たように、岩の巨大な墓場のようだ。

 ジャンの下りは、いったん元に戻り、更に右側をトラバースして北側の基部に出た。ここでもう一度振り
返って見上げると、なんとか登れそうである。ザックをおろして挑戦してみた。途中ホールドがかなり遠く
て、てこずりそうな所があったが、ハーケンが打ち込まれており短いがロープも垂れていた。あっけなくジ
ャンの頂上にふたたび立った。ずっと抜きつぬかれつだった中年の男女のパーティが食事中で、少しビック
リしたようだったが自分達も直接下ってみようといっていた。同じ道を慎重に下って元に戻った。馬の背を
一気に通り越すと、もう奥穂山頂は目の前だ。たくさんの人が景観を楽しんでいた。時刻は十時半。

 穂高山荘前は多勢の人で混雑していた。まだ時間も早いこともあり、涸沢まで下りてテントを張ることに
した。ビール二本とおでんで乾杯。

 9/23(MON)上高地へはパノラマコースを行く。初めてだったせいか結構楽しめた。ガスで視界が
まったくなかったので、屏風岩は次の機会にとパス。今日は祝日。大変な人の数で、12:00に上高地に
着いたのにバスに乗れたのは16:30だった。






  • 他の人のコメントを見て、このページにきました。動画ではかつて見ていたのですが、大変面白く、楽しく読ませて貰いました。全作品を、ゆっくり見させて貰います。
    訪問の印に、コメントを残していきます。 -- 岬石 (2017-02-10 07:52:23)
  • ありがとうございます。
    ご覧いただいて嬉しいです。 -- inada (2018-10-07 07:02:36)
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最終更新:2018年10月07日 07:02