夜魔口赤帽&夜魔口砂男プロローグ

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dangerousss3

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夜魔口赤帽&砂男 プロローグSS

指定魔人暴力団、夜魔口組――組長邸宅。
広大な純和風の屋敷は、重苦しいムードが漂っていた。

「……失礼しやす」
その一角の障子戸が開き、組員・赤帽(レッドキャップ)が部屋を後にする。
身長15cmの身には少々長すぎる廊下を歩くその顔には、悲痛さが見て取れる。

「あ、赤帽サン。どうです、おやっさんの様子は?」
「寝とる。……あんまり良うはない」

そんな赤帽を呼び止めたのは、砂男(ざんとまん)である。
赤帽の苦悩を知ってか知らずか、どこか呑気な様子である。
ヤクザに似つかわしくない、緩い独特の空気――
赤帽からすれば、それは少し腹立たしいことでもあったが――同時に、少し有り難くもあった。

「そうスか……んー、立ち話も何ですし、月でも見ながら話しましょうや」
「……そうだな」

砂男は赤帽をつまみ上げるように手の上に乗せ、庭へと降り……その一角の東屋へと向かうのだった。

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五年前の『大崩壊』を乗り越え、復興の兆しを見せていた夜魔口組に衝撃が走ったのは、一ヶ月前。

魔人ヤクザ界にその人ありと謳われた、伝説級の魔人ヤクザ。
夜魔口組組長が、致死率70%以上の『災厄』――新黒死病ウイルスに襲われたのだった。

尤も、伝説級魔人ヤクザだからこそ。
平均余命とされる二週間を超えて、未だ命に別状無く生き延びている。
だが、かつて多くの敵対ヤクザを屠った悪魔の腕は黒く腐り、魔人警官を薙ぎ倒した黄金の足も朽ちつつある。
このままならば、他の感染者同様……七割の方になるのも時間の問題だろう。
もしこれが数年後、数十年後であったなら。……新たに夜魔口組を率いる者を正式に決めた上で、偉大な親父を看取ることもできたかもしれない。
しかし、ただでさえ『大崩壊』と『災厄』によって組織として痛手を負った状態では――組そのものが死ぬことになる。
どころか、病状が他の組に漏れたならば――その瞬間から、禿鷹やハイエナが大量に寄ってくるだろう。

「あー……赤帽サンの能力でなんとかならないんですか?いつものヤツで」
「ワシの力じゃあ、生命力を引き上げることはできても病は治せん。お前さんも知っとるじゃろう」

赤帽の魔人能力、『血に染まる蛇の鮮血』――身体を強化する、真紅の液体を生み出す能力。
液体は肉体を活性化させる力があり、その能力は組長の病状の進行を食い止める一助となっていた。
しかし、一助に過ぎない。赤帽の言う通り、病気の完治には至らない……特効薬すら未だ発見されていない悪夢の如きウイルスが相手では尚更だ。

そして、夜魔口組には――現在、治癒・蘇生能力の類を持つ魔人は、他に居ないのだった。

「こんな時に、ワシは……親父から受けた恩義に報いることもできん。ワシでは治せん……」

頭の赤いキャップを被り直しながら、赤帽は再び表情を沈ませた。
悪鬼羅刹が相手ならば、命に替えても敵を屠ることはできよう。しかし、敵は……病魔なのだ。

「……そのことで、ちょーっと閃いたコトがあるんです、よね」

不意に、砂男が口を開く。

「赤帽サンも知ってるでしょ、最近できたデッケーコロッセオ」
「ああ……確かどっかの金持ちが、見世物の闘技大会をするとかじゃったか」
「ええ。参加者は『例え死んでも医療班の手厚い治療とか蘇生があるので安心!』……だそーですよ」

懐から、一枚のビラを取り出す砂男。
そこには、ザ・キングオブトワイライトの参加者を募る旨と、優勝賞金・副賞の大見出し、安心のサポート等が謳われていた。

「この闘技大会の医療班なら、多分死者蘇生位はできるでしょ」
「……まさか、親父をその大会に引っ張り出す気か? アホウ、今の親父を外に晒すわけにゃあ」
「わーかってますって。そうじゃなくて、その医療班を引っ張ってくれば親父を治せるんじゃーないか、ってね」
「……成程。そういうことか…… じゃが、そんな面倒なことせんでも医者を攫ってくればそれで話は済むじゃろうが」
「攫うのは無理でしょうねー。あんなデカいコロッセオ造れる連中なら組織力もパないでしょうし。
 大っぴらに動けば、それこそ語るに落ちる……他の組にバレるってモンですし」
「……しゃあない。その闘技大会とやらに、カチ込むぞ」
「ええ。赤帽サンなら大抵の奴ァ大丈夫でしょ。んじゃ、頑張ってきてくださ」
「アホンダラ。お前さんが持ってきた話じゃ、手前でケツくらい持たんかい」
「ええー…… 俺、生憎荒事は苦手で」
「ならワシとコンビで出ればええ。参加項目には人数制限は書いとらん。
 ……それともココで『NO』と言うて、ワシにカッ捌かれるか?」
「謹んでお受けいたします」

かくして。夜魔口赤帽と砂男……二人の魔人ヤクザコンビは、大会へと殴り込みをかけることになったのであった。








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