紅蓮寺工藤プロローグ
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小説「アンノウンエージェント」
第6話『空虚な撃鉄』より
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ギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラ
広くない部屋。真紅の水溜りの中央で女がしゃがみこんでいる。
それを見て、男は何がなんだかわからなくなった。ドアを開けたらこれである。
それを見て、男は何がなんだかわからなくなった。ドアを開けたらこれである。
「ブリは出世魚ってよ……じゃあ定年になったらどうすんだよ……魚やめんのか?
家族どーすんだよ。ヒヒヒ、わけわかんねえ。ヒヒヒヒヒ」
女が何か呟いている。そうだよ、わけわかんねえ。
家族どーすんだよ。ヒヒヒ、わけわかんねえ。ヒヒヒヒヒ」
女が何か呟いている。そうだよ、わけわかんねえ。
男は表向きは、小さな商事会社の社員である。いま外回りを終えて会社のビルに戻った。
そしたらこれだ。
床に散らばるのは、焼けて砕けた肉の群れ。つい先ほどまでは人間だったろう。
何しろ『ボン』という爆発音がしたのは二分前の事なのだから。
そしたらこれだ。
床に散らばるのは、焼けて砕けた肉の群れ。つい先ほどまでは人間だったろう。
何しろ『ボン』という爆発音がしたのは二分前の事なのだから。
「っざ……ッけんじゃ、ねえぞ……ッ」
男の口から、震えとともに言葉が漏れた。
男の口から、震えとともに言葉が漏れた。
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラ
女は反応しない。虚空を見つめたまま、中身の無いことを呟き続けている。
なぜか自身のこめかみにつきつけた拳銃の、リボルバーを絶え間なく回転させながら。
男はその奇行を気にするのをやめた。それよりも聞きたい事がある。叫ぶ。
なぜか自身のこめかみにつきつけた拳銃の、リボルバーを絶え間なく回転させながら。
男はその奇行を気にするのをやめた。それよりも聞きたい事がある。叫ぶ。
「何なんだよ……何で俺らのアジトが燃えてんだよ!!」
男の会社は綺麗な仕事ばかりをしているワケでもない。様々な違法商品を仕入れ、
他社や、堅気でない組織に高額で売りつける事も多々ある。恨まれもするだろう。
だから、セキュリティにはかなりの予算を割いた。ハズなのに。
男の会社は綺麗な仕事ばかりをしているワケでもない。様々な違法商品を仕入れ、
他社や、堅気でない組織に高額で売りつける事も多々ある。恨まれもするだろう。
だから、セキュリティにはかなりの予算を割いた。ハズなのに。
見知らぬ女がここに侵入できている。
見知った仲間は皆屍となっている。
見知った仲間は皆屍となっている。
「何があった……セキュリティ! システム! あれだけカネをかけて……何故」
男は半ば錯乱状態だ。絶対安全だと思っていたこの事務所だが、現実は既に蹂躪の後。
男は半ば錯乱状態だ。絶対安全だと思っていたこの事務所だが、現実は既に蹂躪の後。
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラ
「ア~~?」
ここで女が男の存在に気がついた。首から上だけがぎょろりと回り、男を凝視する。
「ヒヒヒ、セキュリティ。セキュリティな」
不意に、女は男の話題に乗ってきた。
ここで女が男の存在に気がついた。首から上だけがぎょろりと回り、男を凝視する。
「ヒヒヒ、セキュリティ。セキュリティな」
不意に、女は男の話題に乗ってきた。
彼女はゆらりと立ち上がった。スカートの裾が血で汚れている。
「アー、セキュリティー……さぞかし信頼できる会社にお任せしたんだろ。エッ?」
男は何も答えない。
「アー、セキュリティー……さぞかし信頼できる会社にお任せしたんだろ。エッ?」
男は何も答えない。
「そしたらよオーーーー……」
女はゆらゆらと男に近づいてくる。
「どうなるんだ?」
「え?」
女はゆらゆらと男に近づいてくる。
「どうなるんだ?」
「え?」
問いにすらなっていない問いに、男は聞きかえす。汗が噴き出す。
「どうなるんだって聞いてるんだよォーーーー、セキュリティーの何か設置するヤツが
……おれにラブゾッコン惚れちまったらよ」
「どうなるんだって聞いてるんだよォーーーー、セキュリティーの何か設置するヤツが
……おれにラブゾッコン惚れちまったらよ」
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラ
「何を言って、」
「『お仕事してるトコ見た~い♪』って、腕ギュってしながら言ったら、どうなるか
……って聞いてるンだよオオーーー! ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ!」
「『お仕事してるトコ見た~い♪』って、腕ギュってしながら言ったら、どうなるか
……って聞いてるンだよオオーーー! ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ!」
ド ォ ン!!
同時、部屋の角で爆砕音!
「ヒヒッ、この部屋よ、おれ好みにバッチリセキュリティしといてやったから。
安心、万全よ。あと十個は軽くあるからよ。キヒヒヒ」
「ヒヒッ、この部屋よ、おれ好みにバッチリセキュリティしといてやったから。
安心、万全よ。あと十個は軽くあるからよ。キヒヒヒ」
ここに至って、男はようやく全てを理解した。防犯設備の会社の、作業員を買収した?
このイカレた女が、それをやっただって? しかし先ほどの『♪』のイントネーション。
迫真であった。こいつ、これで、演技ができるっていうのか?
このイカレた女が、それをやっただって? しかし先ほどの『♪』のイントネーション。
迫真であった。こいつ、これで、演技ができるっていうのか?
――狂ってやがる!
ドオン!!!
再び背後で爆発。柱の一本が崩れた。もはやこのビルは、この会社は助かるまい。
いままさに終わろうとしている暗黒会社の炎上を背に、彼女は小声で歌った。
再び背後で爆発。柱の一本が崩れた。もはやこのビルは、この会社は助かるまい。
いままさに終わろうとしている暗黒会社の炎上を背に、彼女は小声で歌った。
「ネーバーエンディングストーーォリィーーーーー」
「ざけんなッ!!」
「――ア?」
「ざけんなッ!!」
「――ア?」
やぶれかぶれで振るった男の拳は、あまりに簡単に女の顔をクリーンヒットできた。
吹き飛ぶ狂人。彼女に格闘能力の類は皆無だった。
吹き飛ぶ狂人。彼女に格闘能力の類は皆無だった。
しかし。女――紅蓮寺工藤は、床を舐めて、それでもまだ嗤っていた。
「ヒヒヒ、ヒヒッヒヒヒ」
「ぐうっ……ちッくしょう……!」
その風景に恐ろしさを感じ、ついに男はその場を逃げるように離れた。
「ヒヒヒ、ヒヒッヒヒヒ」
「ぐうっ……ちッくしょう……!」
その風景に恐ろしさを感じ、ついに男はその場を逃げるように離れた。
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床に殴り倒された姿勢のまま、工藤は大声で電話をしている。
絶え間なくリボルバーを回しながら。
絶え間なくリボルバーを回しながら。
「おう、おう、だからブリは――食えばいいって? ああ、旨いもんな!
おれブリ好きだ! ヒヒヒヒヒヒ!! ……ア? ターゲット?
おう一人だけ逃がしたぜ。あいつでいンだろ?」
おれブリ好きだ! ヒヒヒヒヒヒ!! ……ア? ターゲット?
おう一人だけ逃がしたぜ。あいつでいンだろ?」
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