紅蓮寺工藤プロローグ

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dangerousss3

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小説「アンノウンエージェント」

第6話『空虚な撃鉄』より

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広くない部屋。真紅の水溜りの中央で女がしゃがみこんでいる。
それを見て、男は何がなんだかわからなくなった。ドアを開けたらこれである。

「ブリは出世魚ってよ……じゃあ定年になったらどうすんだよ……魚やめんのか?
家族どーすんだよ。ヒヒヒ、わけわかんねえ。ヒヒヒヒヒ」
女が何か呟いている。そうだよ、わけわかんねえ。

男は表向きは、小さな商事会社の社員である。いま外回りを終えて会社のビルに戻った。
そしたらこれだ。
床に散らばるのは、焼けて砕けた肉の群れ。つい先ほどまでは人間だったろう。
何しろ『ボン』という爆発音がしたのは二分前の事なのだから。

「っざ……ッけんじゃ、ねえぞ……ッ」
男の口から、震えとともに言葉が漏れた。

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女は反応しない。虚空を見つめたまま、中身の無いことを呟き続けている。
なぜか自身のこめかみにつきつけた拳銃の、リボルバーを絶え間なく回転させながら。
男はその奇行を気にするのをやめた。それよりも聞きたい事がある。叫ぶ。

「何なんだよ……何で俺らのアジトが燃えてんだよ!!」
男の会社は綺麗な仕事ばかりをしているワケでもない。様々な違法商品を仕入れ、
他社や、堅気でない組織に高額で売りつける事も多々ある。恨まれもするだろう。
だから、セキュリティにはかなりの予算を割いた。ハズなのに。

見知らぬ女がここに侵入できている。
見知った仲間は皆屍となっている。

「何があった……セキュリティ! システム! あれだけカネをかけて……何故」
男は半ば錯乱状態だ。絶対安全だと思っていたこの事務所だが、現実は既に蹂躪の後。

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「ア~~?」
ここで女が男の存在に気がついた。首から上だけがぎょろりと回り、男を凝視する。
「ヒヒヒ、セキュリティ。セキュリティな」
不意に、女は男の話題に乗ってきた。

彼女はゆらりと立ち上がった。スカートの裾が血で汚れている。
「アー、セキュリティー……さぞかし信頼できる会社にお任せしたんだろ。エッ?」
男は何も答えない。

「そしたらよオーーーー……」
女はゆらゆらと男に近づいてくる。
「どうなるんだ?」
「え?」

問いにすらなっていない問いに、男は聞きかえす。汗が噴き出す。
「どうなるんだって聞いてるんだよォーーーー、セキュリティーの何か設置するヤツが
……おれにラブゾッコン惚れちまったらよ」

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「何を言って、」
「『お仕事してるトコ見た~い♪』って、腕ギュってしながら言ったら、どうなるか
……って聞いてるンだよオオーーー! ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ!」

ド ォ ン!!

同時、部屋の角で爆砕音!
「ヒヒッ、この部屋よ、おれ好みにバッチリセキュリティしといてやったから。
安心、万全よ。あと十個は軽くあるからよ。キヒヒヒ」

ここに至って、男はようやく全てを理解した。防犯設備の会社の、作業員を買収した?
このイカレた女が、それをやっただって? しかし先ほどの『♪』のイントネーション。
迫真であった。こいつ、これで、演技ができるっていうのか?

――狂ってやがる!

ドオン!!!
再び背後で爆発。柱の一本が崩れた。もはやこのビルは、この会社は助かるまい。
いままさに終わろうとしている暗黒会社の炎上を背に、彼女は小声で歌った。

「ネーバーエンディングストーーォリィーーーーー」
「ざけんなッ!!」
「――ア?」

やぶれかぶれで振るった男の拳は、あまりに簡単に女の顔をクリーンヒットできた。
吹き飛ぶ狂人。彼女に格闘能力の類は皆無だった。

しかし。女――紅蓮寺工藤は、床を舐めて、それでもまだ嗤っていた。
「ヒヒヒ、ヒヒッヒヒヒ」
「ぐうっ……ちッくしょう……!」
その風景に恐ろしさを感じ、ついに男はその場を逃げるように離れた。

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床に殴り倒された姿勢のまま、工藤は大声で電話をしている。
絶え間なくリボルバーを回しながら。

「おう、おう、だからブリは――食えばいいって? ああ、旨いもんな!
おれブリ好きだ! ヒヒヒヒヒヒ!! ……ア? ターゲット?
おう一人だけ逃がしたぜ。あいつでいンだろ?」

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