聖槍院 九鈴幕間その9

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dangerousss3

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落下停止

手のひらの上で玩ばれ、パチンコ玉がチャラチャラと音を立てている。
やがてひょいと上に投げられた玉たちは、そのまま落ちずに空中でふわふわと留まった。

「弓島君には助けられたよ。私が見てると知ったら、二人とも気まずいだろうからね」

地獄の蓋まで、チャラくなったと言うわけなのか。

「きひひひっ。寝取られ展開でますます不幸に磨きがかかったなァ、哀れな妹よ」

女性の左肩のあたりから、男の声がする。

「これでいいのさ。こうなるのが遅すぎたぐらいだよ。本当に、二人ともバカなんだから」

両手を広げ「まいったね」のポーズで首を振る。
背中で、細長く編んだ髪が尻尾のように揺れる。

「まあ、これでお前も、やっと心残りなく輪廻できるってわけだ」

冥府より地上侵攻を目論んだ、邪悪な者が居たという。
その者は、己の手駒を増やさんと、罪なき者すら地獄に引きずり込みもした。
しかし、やがて不正は糺されて、輪廻の環は再び正しく巡りだす。

「ようやく兄者ともお別れだ。戻ったら彼に伝えてあげてくれ。
 光素ちゃんは元気そうにやっていたってね」

広げた手のひらに、落ちかたを思い出した玉たちが戻ってくる。
それを巾着袋にしまい、傘で地面をトンと突くと、彼女の姿は消え失せた。

――これにて、呪われた双子の物語は終わる。
兄は虫花地獄で、己の為した罪に対する責め苦を正しく受けるだろう。
妹は生まれ変わり、今度は祝福に包まれた人生を送ることだろう。

彼女の人生は短く悲しいものだった。
しかし、永遠にその名が忘れ去られることはなく、
墓前に供えられる花が絶えることはないだろう。








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