準決勝戦【豪華客船】SSその1

最終更新:

dangerousss3

- view
管理者のみ編集可

準決勝戦【豪華客船】SSその1

『ケケケ、海には船っていうじゃありませんか。』

『広い海の上に何かを浮かべるとすれば、一番に思い浮かぶのは船ですよ。』
『ありとあらゆる物語作者が海を描くとき、それはシェイクスピアだろうがヘミングウェイだろうが同じでしょう。』
『アラビアンナイトの世界でもシンドバットは船に乗って海へ出るんだから。』
『そう、海と船はセットなんですよ』
『そうなんです、遭難ですよケケケ』
『あ、つまらなかったですか…』

『古今東西、物語に出てくる船は大概沈むということを、ね。言いたかったんですよ。ウケケ。』

『僕の名前はシャイロック。』
『シャイロックの悪魔。シェイクスピアの強欲な商人の名を持つチンケな悪魔です。』
『そうですね、取立て人ってヤツでしょうか。』

-1-

『青い空。』
『白い雲。』
『照りつける夏の日差し。』
『見渡せば一面のエメラルドグリーンの海、そして海。』
『水平線の彼方まで海だ。』
『豪華客船クルージング。』
『青春ですねえ。』

「に、似合わねえェー…。」

『そ、そんなァ、輝く肌に申し訳程度の水着。』
『酒にフルーツ、健康的な色気。』

「そんなもんはねーっての。いやまてよ?仕事が終わって金がたっぷりある状況なら?や、それでもダメだなぁ、ハハッ」

真夏の日差しを受ける豪華客船デッキの上には不似合いなジャケットの男、赤羽ハルは呟いた。

『ケケケッ、どうでしょ不味いんじゃないですかねぇ。』

「お前が出てくるってことは相当不味いんだろうよ、シャイロック」

『ウケケ、そう邪険にしないでくださいよぉ。』
『僕は貴方の能力の制約みたいなモンなんですから。』
『一心同体、一蓮托生ってヤツです。取立てが近いと思ったら側にいなくてはいけません。』

「制約みたいモンってなんだよ、制約そのものじゃん。しっかし、やってくれやがったなァー。」

『ケケケ、見事に座礁してますねぇ、船。』
『こりゃあ、動きませんよ。』
『ちっともミツコさんが出てこない理由がわかりましたねえ。』

「チッ、あーそーだな、これかよ。さて原因は」

『まァ十中八九エンジン系統でしょ。』
『ハル君もわかっているはずだ。』
『だって僕がわかってるんだから、ケケケッ。』
『そしてこう考えている。』
『浸水状況の確認は必要だがミツコの戦闘力でこの巨大な客船に穴を開けられるだろうか。
ってね。』

「ない。とは言い切れねーなぁ。これはさっさと船ごと換金して海に沈めるべきだったか?」

ジャリン…。
ハルは手近な花瓶を硬貨に換金しポケットに詰め込む。

「資金(ぶき)調達は楽でいいんだが、こりゃ面倒になりそうだな。」

『ケケケッ、大変だァ大変だァ、でも僕としましてもね、お金を回収できるに越したことはないわけでして』
『健闘をお祈りしますよ、ケケケ』

「ハハッ、好きにしろよ。」

赤羽ハル。
手に掴んだ物を換金する能力『ミダス最後配当』を持ち。
金を武器として扱う『日本銀行拳』という暗殺術の使い手。

この豪華客船は彼に無尽蔵の残弾を与えている。
この時は、まだ。

-2-

二日目。

『ミツコさんはガン逃げですかねえ、ケケケ』

「そういうことだろ?んっと、お?TVはつくぞ」

『電気はまだ生きているようですねえ。』
『だとすると、冷凍貯蔵庫が動かなくなったのは発電機や電気回路ではなく。』

「ミツコの攻撃ってことだな、ったく。」

『ウケケ、ほらほら気を落とさないで、お昼休みのショッキングでも見ましょうよ』

「おっ?トミさんはいつも元気だなァー」

TVにはタレントのトミタさんが出ている。
サングラスが似合うマルチ解説者だ。



『エー今日のゲストはフジワラタツヤさんですハイ』
『よろしく、お願いします』
『エー、またドラマの主演が決まったようですねハイ』
『今回ははまり役だと思うんですよね』
『エー、なんてドラマでしたっけ?ハイ』
『【家族-リソース-】って言うんですよ』
『エー、ところで髪切った?ハイ』
『役づくりですよ』
『エー、この主役はエー』
『猪狩誠っていうんですよ』
『エーそろそろお友達紹介?ハイドーゾ』
『あ、じゃあ黒田武志さんで』
『エー、どんな知り合い?』



「さて、飯も食ったし。かくれんぼを再開するかァー。船を換金して沈めれりゃ話は早いんだが」

『それができりゃあ、確かに話が早いんですがねえ、わかってるんでしょ?』

「お前が出てきたって事はそういうことだろ?」

『ケケケ、警告ですよ、警告。これも契約内のサービスですウケケケケ…。』

-3-

4日目。



『まさるが死んだのは、お゛ま゛え゛ら゛のぜいじゃないかあぁッ!!』

♪世界がー 



『イイ演技してますねえ。ケケケ』
「思ったより面白いなァこれ」

TVを消してハルは立ち上がった。


「しっかしなんだよ、面倒くせーなぁ。」

重厚な扉を換金すると同時に部屋の中にコインを撃ち込む。
クローゼットやカーテンの陰になりそうな部分も。
およそ人が潜める可能性がある場所は徹底的にやる。

『待ち伏せからの奇襲、罠。リスクの排除は必要ですからねえ。』

「ッたく。メシ食う場所確保するのも面倒なことだよな。」

ハルは3日かけて現状の確認を終えた。

「とりあえず浸水はないな、これは上々。」

『しかし、操縦系統、エンジン制御などを念入りに壊されてしまってますからねえ』
『船自体も完全に岩礁に乗り上げた状態ですからケケケ』

「水は入ってこないが船体へのダメージは大きいってことだよなあ。」

運良く沈没は免れているがこれではもう自力の航行を望むことはできない。
ミツコが船を操縦する技術を持っているかどうかは不明なので偶然か故意かはわからないが。
少なくとも赤羽どうにかできるレベルを超えた故障である。

つまり、もう船は動かない。

-4-

6日目。


『黒田さん』
『どーした誠?』
『見つけましたよ、奴らの計画の穴を、逆転の一手を…』
『おー、そりゃすげー』
♪世界がー ♪たとえー


AYAMEが歌うエンディング曲が始まったところでTVを消してハルは立ち上がる。

『ドラマで黒田さんも言ってましたが食糧の確保は重要な問題ですよぉ。』
『いかに強靭な魔人であっても、人は食べなければ生きてはいけませんからね。ケケケ。』

「腹が減ってはなんとやらって言うしなァ」

『簡易食糧にはまだ余裕があります。』
『食料庫にはまだ缶詰とかもありますからね、ケケケ。』

「しかし、これが狙いか、チッ。やるじゃねーか。」

ミツコは姿を見せないが地味な破壊活動を続けている。

『ほとんど嫌がらせのレベルですねえ。狙いは徹底的に食糧ですがね。』

「生で食えるモンから潰しやがってよォ、トマト祭りかっつーの」

『ケケケ、昨日のは酷かったですねえ。食料庫の食べ物にケチャップがぶちまけるんだもん。笑っちゃいましたよ、ケケケ。』

「すぐに食えなくなるってわけじゃあないが」

『ケチャップ味だけとかアメリカ人じゃあるまいし、ケケケ。』
『そもそも、痛みやすそうですからねえコレは』

「ったく、メンドクセー」

元々、毒などを混入される危険性を考慮すれば安全な食べ物は缶詰などの保存食に限っている。
実質的な被害はないといってもいいが、精神的なプレッシャーはある。

『メッセージってとこでしょうかね。』

食べ物から目を離すな、というミツコからのメッセージ。

-5-

8日目。


『ゴミめ、社会のゴミッ。貴様らの。その程度の策など。』
『お゛ま゛え゛ら゛がゴミ扱いしたってなぁ!!俺たちは!!俺たちは家族なんだ!!』

♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー


エンディングテーマの途中でTVを切る。

探索をあきらめる。
客室数にして500。
乗務員分の居住室が200。
その他様々な部屋、設備、倉庫。
膨大な部屋、部屋、部屋。

完全に逃げに徹した魔人。
しかも手芸者を追うにはあまりにも労力が多い。

「トラップも仕掛けてやがるしなァ。」

『この一週間で遭遇したトラップは4つですがねえ。』

「少ないと見るべきだ。だが悪質だぜ。完全に無視できないって。油断すれば致命的なダメージを覚悟する必要もあるからなあ。」
「あの時仕留められなかったのが不味かったなァ」

一度だけ、ミツコに遭遇したが、すぐに逃げられた。

「追う途中にトラップが仕掛けられていたことから考えると、罠はこちらの消耗を狙うというよりは」
『出会ってしまったときに逃げるための盾でしょう、ケケケ。こりゃ分が悪い。』

「ハハッ、まあ無駄な神経使って追いかけるのはヤメだ。とりあえずはメシだな」

-6-

16日目。

『黒田さん!黒田さん!ここで、ここで諦めるんですか?ここで!』
『おーこりゃすげー、お前も泣くことがあるんだな…いいもん見れたぜ』
『ぐっ、黒田ざーん!!』

♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー


TVを消して立ち上がる。

『まさか誠の買い占め作戦が読まれているとは驚きでしたねえ、ウケケ。』
『そして今回のドラマの教訓は残された食糧と飲料を確保するのが大事ってことですねえ。』

「ッても、サバイバル能力は相手が上か、何か手段を考えねーとな。」

『料理人に園芸部に手芸者でしたっけ。そりゃ海で魚をとって普通に調理できそうだ。』
『海で待ち伏せします?ケケケ。』

「無駄な労力だろうな、無駄な動きは相手の利益だ」

『相手が来ないなら、こっちも籠城戦ですねえ』

「根比べってか」

ありったけの缶詰と水を集めて、赤羽ハルは籠城を決め込んだ。

-7-

34日目。

『ほらよ』
『なんのつもりだ?誠…。情けならいらんぞ。』
『そんなんじゃないよ。園長のオッサン。俺たちは今や同じ立場だ。』
『ふん…。』
『だからさ、まずは喰おうぜ。俺とあんたの仲だろ。』

♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー
♪囚われーてもー


TVを消す。
腹が減った。

『まさか、園長があんな事になるなんて…。感動ですねえ、ウケケッ。』

「あーあ、動くしかねえか、ここまで、追い詰められる前に出来る事はっとォ。ねーのかよハハッ。」

『ありませんねえ、初手が全てでしたよ、ケケッ。今思えばねえ。』
『初手で船自体を換金することが最善手だったんです。それを逃しちまったんだから』
『ま、ハル君は精神的に追い詰められることはないでしょうがねえ。』

「まずは隣の部屋だな。」

『食べるものが有ればいいんですがねえ。』
『あと僕はドラマの展開が気になりますよ。』

「ハハッ、TVが有るといいな」

-9-
41日目。

「ま゛ゆ゛!!め゛い!!まざるぅぅぅ!!な゛んで立つんだよぉぉぉ お前が強いから人が死ぬんだっ!!ま゛ゆ゛!!め゛い!!まざる!!」

♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー
♪囚われーてもー ♪私はー


TVを消す。

『いやいやいや、何です?この展開は、泣けるじゃないですか。ここまでかんどーできるだなんて』
『僕は涙が止まりませんよ』

「涙って、お前…」

『心の涙ですよお』

「さて、結構なんとかなるもんだな。」

『一般客室には、菓子や飲み物が常備されてましたからねえ。』
『毎日コーラとナッツから始まってのお決まりメニューってのは見てて悲しくなりますがねえ、ケケケ。』

「贅沢は言えないからな、相手からの攻撃を警戒しながらでも寝れるってのは大きい」

『あと客室には各部屋にTVがあるのも大きい。』
『昼の連続ドラマ【家族-リソース-】。これがあればこそって感じですからねえ。』

「しっかし、まさか園長のピンチにまさるがなァ」

『まさか、まさるにあんな使い方があるだなんて』

「意外…だったな」

『ねえ』

-10-

92日目。

『おー、こりゃすげー』
『お、お前はッ!?』
『俺?俺はちょっと目立ちたがり屋のヒーローさ』
『黒田さん!!』
『待たせたな、誠!!地獄の底から帰ってきてやったぜ!!』

♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー
♪囚われーてもー ♪私はー ♪あなたのー


『熱い、これは熱いですよお』
「脚本家の園堂長次郎…いったい何モンだ?」

TVを消してハルは立ち上がった。

『ケケケッ。部屋の移動を開始して50日ってとこですかねえ。』
『ミツコさんに破壊された部屋も多い事から、そう長くコレは続けられませんよお』

「わかってる、相手を釣りだそうって作戦はどうも上手くいかねえな。」

『ケケケ。ハル君も相当辛抱強いですが、相手も相当だ。』
『僕もこんなに長く居るとは思いませんでしたよ』
『潜在意識の底で支払い期限が近いとハル君が思った時だけ出てくる警告存在ですからねえ』
『この僕、シャイロックの悪魔は』

「ハハッ、死の宣告みてーなもんだからな。」

『まあ、僕も取立てが終われば消える身ですから?』
『ハル君には生きていてもらいたいわけですがねえ。』
『まあ、こんなに話せて楽しかったですよお、ケケケ。』

「そう簡単にくたばりはしねえさ」

『ケケケ、そうあって欲しいもんですがねえ』

-11-

150日目。

『な゛んでだんだよ゛う゛、園長!だんで…何で』
『それはな、誠よ…』
『園長…』
『ワシがお前の家族(リソース)だからじゃ!!ゆけい!!誠、お前は無敵じゃ!!』
『う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!力がッ!!』

♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー
♪囚われーてもー ♪私はー ♪あなたのー ♪家族に… ♪なりたい…


TVを消す。

『おろろーん、泣けるッ!!泣けますねえ。園長の死、誠の覚醒。そしてこのエンディング曲、次回は最終回。』

「そうだな」

『ケケケ、続きはどうします?最終回を見てからってのが無難ですがねえ。』

「いや、最終回はもっと落ち着いて見るさ、決着をつけてからゆっくりとなァ」

『準備は万全とは言い難いですがねえ』

「これ以上の時間はもうねーよ。腹も減ったしな。」

『最後の部屋でしたからねえ』

「随分後手に回っちまったが、ただ時間をかけていたわけじゃあないからな。」

『ウケケ、まあ頑張ってください』

「ハハッ、まあ期待してくれ」

ハルはTVを消す。
そこにはTVと相当額の金が転がった。

『ケケケ、金があってもここじゃ何も買えません。ケツ拭く紙にもなりゃあしません』

「だが、この金で敵を殺せるぜ」

-12-

夏の日差しが暑い。

『ウケケ、甲板の上は流石に暑いですねえ』

「うおおおおッい!!ケルベロスッ!!」

『でかい声だなあ』

「ったく!!やってくれるぜ!!完敗に近いぜ!!だから出てきてやった!!」

『返事はありませんねえ』

「だろうな、これが最後の攻撃だ、受けろよ」

ポケットから取り出した硬貨を指で弾く。
高速で打ち出された効果が空中で一瞬のうちに増殖し甲板をぶち抜いた。

ズズン…。
船が揺れる。

「正式な貨幣、10万円金貨を空中で1円に換金した極大砲だ。重さにして100kg、秒速300mの一撃だァ、当たりゃあ死ぬぜえ」

『ウケケケケ、相手がどこにいるかわからないのにねえ』

「ハハッ、その為にこんだけ時間かけて船中の金目のモンを10万円金貨に換金してきたんだ。どんだけでかい豪華客船だろうがよぉーッ!!」

一撃で展望ブリッジを粉砕する。

「スクラップにしてやるぜェッ!!」

-13-

「ハッハァー!!」

船は大きく揺らいでいる。
いくつもの大穴が空き、浸水が始まっているようだ。

『もう死んだんじゃないですかねえ』

「相手が死ねば、なんらかのアクションがある筈だ、まだだなッ」

豪華客船だけあって調度品はどれも高級なものだった。
持てるだけの十万円金貨の量は20kg分で1000枚、一億円相当。
凄まじい勢いで連射しながら空中で換金。
スピードはそのままに20gの金貨が100kgになって船体にぶち込まれていく。

『ケケケ、でもおかしくありません?』
『船、思ったより丈夫すぎる』

「壊したように見せかけて補強してやがったってのかァ!!」

『糸と植物を使ってってとこですかねえ』

しかし、手を止めるわけにはいかない。

「押しつぶしてやるッ」

ヒュン…。

「っとぉ!!」

『しびれを切らしましたかねえ、ウケケ。』

後方より飛来した針を極大砲で迎撃する。

「ようやくってェーことだなァ」

そこに立っているのはケルベロス“ミツコ”

-14-

「フゥッ!」

両手から10発の10万円金貨が撃ち出される。
ゴオン!!ゴオン!!ゴオン!!
金貨が膨れ上がり1円玉の塊となる。

秒速300m、音速よりやや遅いスピード。
質量にして1t。

「防御に優れるということはッ」
「こういうことです」

金属塊がはじけ飛ぶ。
周囲に金属片が飛び散る。
「ぐううッ」

逆に飛来した散弾をコインで迎撃する。

「あなたが準備をしていたように私も準備を怠ってはいません」

「ああーん?」

瞬時に10万円金貨を打ち出すが 空中で爆散する。

「この船には燃料を始めとして無数の可燃物、化学薬品がある。フフ、爆薬のトラップです。」
「タイミングを合わせ移動しトラップを盾にする。化学って素敵ですね。農薬から爆薬まで同じ材料でできるんですから。」
「私たちはあなたの攻撃を耐え切れる。」

「意味がわかんねーよ、何だァ、見えねえ爆薬ってか?」
『ケケケ、どうだろうねえ。床下に爆薬を仕込んでおいてタイミングを合わせれば爆発で指向性の爆発でこういう芸当はできるかもしれませんよお』

「教える必要はありません。」
「そして、貴方は出てくるべきではなかった。」
「少し話をしませんか?」

「必要はねえなァー、あんたの爆薬は有限だろ?金貨とどっちが多いかなァー!!」

「残念です。」
「あなたは出てくるべきではなかった、この場所に。」

ゴオッ!!
赤羽ハルの足元が爆発する。

「っつっだぁ!!ぐおっ!!」
「150日かけました、この船の甲板上は巨大な爆薬です。」

-15-

「痛えェー」

体の半分が爆散した状態で赤羽ハルはまだ息をしている。

「そう簡単にくたばらせてくれねえんだよなァ」
『ケケケ、ですがコレはもう支払い不可能ですねえ』

「ったくよぉー、船の上は爆薬だらけかよ、そら入ったら死ぬわ!!」
『さてハル君、負債の支払いが出来る体に見えないのだが、取り立てさせて貰っていいかな?』

「150日かけてここを爆薬の極地にしたてましたからね」
「最初に船を換金されて金で押しつぶされてしまえば私達の負けでしたが」

先程から話しているのは次女の満子か。

「そうできなくしちまったのは、やっぱり気づかれたなァ。」
『そうみたいですねえ』
「沈没船は負債の塊だ。座礁した船の価値だって?そんなもん撤去費用考えりゃ極大のマイナス決算だっつーの!!」
「あんたァ、わかってたのか」

「私の弟はそういうところに目が効くものですから」
「貴方の負った最初の負債も、おそらく」

「あーそうだよ。似たようなもんだ、マイナスの物件を換金しちまったのさ」
「それでこのザマだよ」

片手だけ上げてヤレヤレとポーズを取る。

「殺せねえ殺し屋に価値があるとは思えねえからよ、殺せよホラ」

「殺しません」

「ああ?」

「だって、あなた最終回が気になりませんか?」
「私たちもずっと見ていたんですよ。家族-リソース-」

「ハハッ、なんだそりゃあ!!」
『あ、僕は気になりますねえ』

「最終回を見たら、話をしたくなるでしょう。ドラマについて。ねえお姉さま、みっちゃん。」
「ソーダねぇー」「確かにね」

「だから、最終回を見たらまた話しましょう」

『君が生き残るなら、まだ負債を返済できる目は残ると思いますし、この船の調度品を換金していけばそれなりに稼げるんじゃないですか』
『治療は大会運営がやってくれますからねえ』
「都合のいいこといいやがってよォー」
「見たいんだろ最終回」
『ウケケッ、ま、ギブアンドテイクですよ。これっくらい融通きかないと悪魔じゃありませんから』
『だってハル君もそうでしょ?』

「ああ、最終回は気になるな、ドラマの為じゃあ仕方ねえな」

「では」

「俺の負けだァー、おらァ!!さっさと美味い飯食って、ドラマ見んぞォー!!さっさと治療しろって!!痛えんだよォー!!」

準決勝 豪華客船の戦い








目安箱バナー