第一回戦【ホームセンター】SSその2

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第一回戦【ホームセンター】SSその2

仕事を為すには力が要る。
結果を出すには時間が要る。


奇跡を起こすには祈りが要る。
悪魔を呼ぶには生け贄が要る。


人を呪うには覚悟が要る。
呪いを解くには犠牲が要る。


――グロリア・フォン・サンバースト・トップライト1世『剣の御言葉』




この世界のどこにも存在しない空間に少女の声が響く。

「と、ゆーわけでっ!」

巻物を広げて得意げに解説する黒髪の少女の前にハレルは座っていた。
『刀語』の能力で作り出されたこの異空間は、今はかつて故郷にあった学校のような内装である。

「『イビルドラゴン=ディグラディニス』をタイジしたグロリアちゃんは、
 エイユーとしてガイセンしてきたんだね!
 そこで行ったのがこのエンゼツなんだよ!」
「うん……」
「それまでのシンセイセイジタイセイがホウカイしちゃってたから、
 コクナイのチツジョを取り戻すために、グロリアちゃんは王になるしかなかったんだね!
 ただ、そのときにグロリアちゃんはキョーカイのセイジカイニューを打ち切りたかった」
「教会……」
「といってもハレっちが思ってるような、
 ■おいのりをする ■おつげをきく ■どくのちりょう
 とかをやってくれるシンセツなキョーカイじゃーないよ!
 トージのキョーカイはコクセイにカイニューしてシューハのケンリョクを……」
「ねえ、アメ。たまに思うんだけど……なんで当時のことを知ってるの?」

落ち込んでいたハレルを見かねたアメが、
「昔話をしてあげる」と言ったのがきっかけだった。

ハレルとしては「アメちゃん武勇伝99連発」みたいなのが始まるかと思ったが、
意外にもアメが始めたのは自分の話ではなく。

「太陽王グロリア1世……私の御先祖様の話よね? どうしてアメが……」
「ふふん、この『年経た霊刀』アメちゃんをぺろぺろ舐めないでほしいね!」
「ダンジョンに封印されてたのに」
「ま、アメちゃんにもね、いろいろあったんだよ」


アメの解説によると、発端は一匹の悪竜だったそうだ。
貪欲に人間や家畜を食らい、瘴気のブレスを吐き、黒き死の灰を撒き散らすドラゴン。

当時の神聖帝国の教会建設ラッシュのせいで疲弊していた国家予算と国民に、
悪竜に抗する術はなく、帝都ロマネスコットは滅び、神聖政治は終わりを告げた。

悪竜退治に決死の覚悟で立ち上がった国内西部の森の民出身のグロリアは、
仲間と共にこれを倒し、竜殺しの英雄として君臨することになった。
彼女は国家の疲弊を招いたのは教会との癒着が原因だと考え、
教会に対して攻撃的に接することを決める。

「アクマとかイケニエとかのコトバを『祈り』と同じ段で使うとゆーのは
 トージのキョーカイに対してのあきらかなチョーハツだったんだよね」
「うん……それから半年後、30年に及ぶ、
 ヴァンデルカントとの『聖別戦争』が始まった……」
「お、サスガに詳しいね!」

当然ながらハレルも王族として、国家の歴史は学んできた。
『グロリアの悪竜退治』の話はおとぎ話となり、国内でも一番の人気を誇っている。
ハレルもその話を愛する者の一人だった。

「じゃあ、この『呪いを解くにはギセイがいる』というのは何のことか、わかるかな?」
「……悪竜の黒い灰のこと?」
悪竜の黒い灰は大量に吸い込むと人体に悪影響を及ぼす。
それにより国土はおおいに疲弊していたという話だ。
しかし、アメはこれに対して首を横に振る。

「ザンネン! ハレっち、『呪い』のテイギはなに?」
「えっと……」

思い浮かべる。
まずは、効果が持続する術式である必要がある。
さらに、人間もしくはそれに近しい知性の持ち主によって行使されること。
最後に、特定の手段を取らない限りは誰にも解除できないということだ。

「そう! たとえばアメちゃんが呪われると、ソウビから外せなくなるよね」
「黒い灰は……あっ」
「わかったみたいだネ!」

悪竜ディグラディニスは実のところ知性は獣のそれだったと言われている。
人間に近しい知性の持ち主とは言えない。

「つまりこのエンゼツでいう『呪い』……それは、
 『みんなにしみついたキョーカイの教え』のことだったんだよ!」
ででーん。
どこからともなく謎の音が鳴った。

……グロリア1世が教会と対立するにあたって予想外だったのは、
思ったよりも民衆が教会の味方をしたことだったという。

ハレルの時代では考えられないことだが、
かつて非常に国民が困窮していた時代に、
人々の支えとなったのはまさに『信仰』だったというのだ。

それをグロリアは『呪い』と考え切り捨てようとした。
神を信仰する人々自身が作り上げた呪いだと。

その考え方を理解する者は多くなかった。
共に悪竜を打倒した仲間のうち幾人かは、そのために袂を分かったという。

「そう、イチバン恐ろしい『呪い』は、
 呪いをかけられたヒトのタマシイのチカラをリヨウして強くなる……
 『ファントムルージュ』のようなタイプの呪いなんだよね」
しみじみと語るアメ。

ファントムルージュ。
その名を聞いただけでハレルの心臓は幻痛に襲われる。
しかし感じるのはおぞましさだけではない。
例えるなら、珠玉の宝石を沼に落としてしまったような悲しさがあった。

幻痛を振り払う。
ひとつ思いついて、ハレルは問いかけた。

「ねえ、アメ……グロリア1世はどんな人だったの?」
「…………マジメで、ガンコで、負けず嫌いで、
 さみしがりで、いじっぱりで、泣き虫。そんな……フツーの女の子だったよ」
「アメ……アメは、グロリア1世のこと、知ってるんだね」
「……うん」
「……その人が、崩壊した国をゼロから建て直したんだね」
「そーだよ」


なんとなく。
アメのきもちが伝わった気がした。





ダンゲロスSS3裏トーナメント
1回戦第2試合
「呪われし3人の戦い」





「どうも、空飛ぶスパゲッティ・モンスターです。
 ……おや、またあなたですか」
「…………」
いや。
椋鳥にはこんな触手の化け物の知り合いはいない。

「ああ、なるほど。つまり平行世界ですね?
 いやあしかし、この間は酷い目に遭いましたよ」
「何を言ってるかさっぱりわからないんだが……」
「おやおや。意外に頭のめぐりが悪いのですね」
けなされるが、このシュールな触手の化け物相手では腹も立たない。


試合会場であるホームセンターの商品陳列棚まるまる一つを使い、召喚能力を発動した椋鳥。
考えていたのは当然、
(あのクソエルフに有効打を持つようなやつ、出て来ねえかなあ)
ということであった。

エルフの元女騎士、ゾルテリアは、
『あらゆるダメージを性的な刺激に変換して無効化する』という、
非常に強力な特殊能力を持つ。
対抗策は、性的行為に関連する攻撃を食らわせて、絶頂させることだ。

その観点からすると、空飛ぶスパゲッティ・モンスターは条件を満たしていると言えた。
何といっても触手だ。
そのうえスパゲッティだ。
世の中にはカップラーメンを使っていかがわしい行為に走るという変態もいるという話だし。

「なるほど、つまりはそのエルフという方をなんとかすればいいのですね」
「できるか?」
「まあやってみましょう」
うねうねと答える空飛ぶスパゲッティ・モンスター。

「そうですね、まずは動物性たんぱく質には一切影響を与えない酸を吹きかけて武装解除、
 ヌードル触手で四肢を拘束して、あとは●●型触手で△△を××といった感じに……」
「あー、うん、やり方はなんでもいいや」

こうして空飛ぶスパゲッティ・モンスターはうねうねふわふわと飛んでいった。




ところで、椋鳥の能力は異次元の存在を召喚するというものである。
当然、異次元のものの考え方や常識は、この世界のそれとは異なる場合がある。

会話が成立しないことなどざらだし、
一見成立したようにみえても、実は噛み合っていないことがままある。


「ふうむ、エルフ、エルフ……おっ、あれですね?」


この時がまさにそれであった。

空飛ぶスパゲッティ・モンスターの視線が捉えたもの、それは。

……フードを被った女性のシルエット。





遠くで連続する銃声を聞きながら、椋鳥は冷や汗をかいていた。
音は対戦相手のトリニティが発砲する音だろう。
標的になっているのは空飛ぶスパゲッティ・モンスターだ。
(……あいつ。先にトリニティと接触しやがった)
椋鳥は判断する。なぜならば。

「我が名はエルフの騎士、ゾルテリア。いくわよ!」
「ちっくしょう!」

今まさに、レイピアを構えた女騎士が椋鳥に突きかかってきている。
大会参加者の中でも有数の酷い能力を持つ女だ。
金髪碧眼、思わず見とれてしまうほどの美貌。……ただし正体を知らなければ。

「私のシルバーレイピアは怪物のほか、SナイトとAナイトに特効! あんたどれ?」
「どれでもねえよ!」

繰り出される細剣の技術は素早いが椋鳥にとっては見切れない程ではなかった。
しかし思ったよりもパワーとスピードがある。
(しかも、こっちには打つ手が大してない……が、やってみるか)

敵の刺突をわずかに横にずれて避け、椋鳥は間合いを近距離まで詰めた。
下腹部に拳を打ち込む。
ただのボディーブローとは違い、女性の下腹部を拳で殴打する行為は、
俗に「腹パン」と呼ばれ、一部の性癖を持つ者はそれで性的興奮を覚えるらしい。
つまり、多少なりとも性の属性を含んだ攻撃のはずだ。

「ふっふ、いいパンチねぇ」
「ぐっ」
ゾルテリアがにやっと笑う。
全く効いていない。

「いいパンチだけど、私をイカせるには五百発は必要ね……うぉらー!」
ゾルテリアは腰を深く落とし真っ直ぐに相手を突いた。
正拳付きを椋鳥は大きく飛び退いてかわす。
エルフはあまり力が強い種族ではないはずだが、伝わってくるプレッシャーは凄まじい。
体勢を崩した椋鳥に必殺の一撃を食らわすべく、ゾルテリアが突っ込んでくる。

「きぇーい!」
裂帛の気合と共にレイピアが振るわれる。
(――かかったな)
椋鳥は、崩れた体勢をさらに崩した。
思いがけず椋鳥が転倒したため、つんのめるゾルテリア。
そこに椋鳥の能力でゲートが開かれる。

「お、おっとっとっとっとっと」
つま先で踏ん張ろうとするゾルテリア。
その足がずるっと滑り、前方へダイブしてしまう。
(異次元に行ってこい!)
椋鳥が念じると同時――

「ふんぬらばぁー!」
「嘘だろ!?」
ゾルテリアが雄叫びと共に振り回した拳が、ゲートを粉砕した。
ゾルテリアの能力『ZTM』は性的攻撃以外には絶対に負けない。

「おっとっとっとぉー!」
勢いのままにこけるゾルテリア。
咄嗟に椋鳥は体を入れ替え、ゾルテリアの腕を極める。

腕ひしぎ。
ジャンルで言えば『寝技』だ。
名前からして、多少なりとも性の属性が含まれた攻撃のはずだ。

しかし。
腕を極められた不自由な体勢から、ゾルテリアが身体を徐々に起こし始める。
(な――こいつ、女の腕力じゃねえ……! それどころか……)

椋鳥にどうしようもない戦慄が走る――





「バカな。あれほどのパワーが……?」

特別観戦室。
主催者の七葉樹落葉は、秘書の森田の顔に動揺が走るのを久々に見た。

「森田?」
落葉が声をかけると、森田は我に返ったようだった。
「申し訳ありません。取り乱しました」
恥じ入ったように詫びる。
「一回戦の様子からは考えられない力だったため、驚きました」
「……力を温存していたということ?」
「いえ、それは……」

「私が解説いたしましょう」
声の主は王大人(ワン・ターレン)。
大会において、選手の治療を担当する魔人である。

「これは王殿。なぜこちらへ?」
「お耳に入れておきたいことがございまして」

落葉が頷くと、森田は警戒態勢を解いた。
王は抱えていた資料を机に置くと、静かな声で告げた。

「結論から申し上げましょう。検査の結果が出ました。
 ――血液内残留度893pg(ピコ剛力)。
 彼女は、ファントムルージュのキャリアーです」
「!!」

その言葉に、森田と落葉が揃って戦慄する。
直感的に、その後に告げられる内容を察したのだった。

「彼女の脳には後遺症が残っています。
 具体的には……人体が発揮することができる力を抑制する、
 『リミッター』が破壊されているようです」
「普通人は言うまでもなく、魔人にも抑制機能は備わっている。
 強すぎる力は、時に自分で自分の肉体を滅ぼすからだが……」
「ええ。彼女は持てる力を100%引き出せるようになっている。
 反動ダメージは能力『ZTM』で中和されているようです……現在のところは」
「なんということだ」
森田はかぶりを振る。
呪われし映画、「ファントムルージュ」その効果……これほどとは。





「いつまでやってんぐぁー!」
ついにゾルテリアは体勢を起こした。
離れようとする椋鳥だったが、逆にがっちりと掴まれてしまっている。
片手だというのに、恐ろしい力だ。

「ちくしょうこのクソ女……!」
「ひどぉい……でも以下略」
微妙にゾルテリアの握力がゆるむ。言葉責めに反応したようだ。
その隙を突いて、椋鳥は反撃に出る。

「くらえっ!」
「ふふん、私にそんな攻撃が通用するとで――んほぉっ!?」
素っ頓狂な声を上げるゾルテリア。
椋鳥が攻撃に使ったのは、店の商品である『ドライバー』だ。
当然、普通に使用してもゾルテリアには通用しない。
しかし――

「あっひゅーーーん」
頬を紅潮させて悶絶するゾルテリア。
ドライバーが突き刺さっている。頬のすぐ近く――すなわち『耳』に。
『耳』は人体における性感帯のひとつ。
耳が敏感な女性は性感が豊かであるという格言もあるくらいだ。
また、耳かきを行うサービス専門のいかがわしいお店もあるらしいし、
恋人同士のスキンシップでも耳かきは定番のシチュエーションである。
このダメージは今までの攻撃の比ではなかった。

「効いたか!?」
「お……おほぉっ、ま、まだ、負けにゃいいいっ……」
ギリギリでゾルテリアは耐えている。
美しい表情は無残に歪んでいる。情けない有様だ。

(もう一押し必要か)
椋鳥は頭を素早く回転させた。
「ええっと……そうだ、このブタ女! 変態牝! 色情狂!」
先ほどわずかに椋鳥の罵倒が攻撃になったのを思い出す。
「このド変態め、そんな恥ずかしい能力で大丈夫か、えーっとそれから……」
「心がこもってないわね!」
「うおっ!?」
シルバーレイピアが唸りを上げて襲いかかる。
のけ反ってぎりぎりかわす椋鳥。

「くっそ……」
「今のは危なかったわ~ん」
ドライバーを引き抜いて服の中にしまいこむゾルテリア。
何に使うのかは考えないことにする。

「長引くと危なそうだし、そろそろ死になさーい!」
ゾルテリアはいきり立って椋鳥に襲いかかる。
チンパンジーのごとき跳躍。

(ちくしょう、しょうがねえ……!)
これだけはやりたくなかったが、仕方なかった。
椋鳥は覚悟を決めた。
前方に跳躍。
ゾルテリアのパワーが炸裂する前段階……『溜め』のうちに接触する。
そして――



……むちゅっ。



二人の唇が触れあう。
直後、躊躇なく椋鳥はゾルテリアの唇に噛みついた。

「~~~~!」
ゾルテリアが声にならない叫びを上げる。
目は裏返って白目ぎみになり、口からは舌が突き出された。

――ゾルテリアは絶頂してしまった!

椋鳥の口の中にゾルテリアの生臭い息が流れ込んでくる。
椋鳥はゾルテリアから離れると床に唾を吐いた。

能力『ZTM』の解除条件が満たされた。
ゾルテリアの肉体が本来のものに戻っていく。
肌は荒れ気味になり、顔にはほうれい線が浮き出し、引き締まった肉体がたるんでいく。

「ま、ましゃか、私がこんにゃ簡単にイカしゃれるなんてぇ……」
快感の余韻にぷるぷると震えながらも戸惑うゾルテリア。
もう少し性的快感に対する限界値は高かったはず……
だというのに、何故絶頂を迎えてしまったのか。

その理由は、ワン・ターレンが観戦室で解説した通り。
脳のリミッターが外れたゾルテリアは、そのパワーを引き出す代償として、
自身の体に反動ダメージを受けることとなってしまった。

反動ダメージは『ZTM』によって中和される。
――性属性とは関係のないダメージゆえ、ゾルテリアに対する影響は、
オッパイ一揉みにも満たない性的刺激にとどめられる。大したことはない。

しかし。
長時間にわたって微弱な性的刺激を受け続けるということは、
性的絶頂へのプロセスを加速度的に上っていくことに他ならないのである。

『ファントムルージュ』……その呪いの影響は、予想以上に大きかったのだ。


「でも、まだ負けてない……主婦の底力、見せてあげ――」

椋鳥は音も無く接近した。
大外刈りの要領で足払いをかける。

「あっ」
絶頂により足腰が震えているゾルテリアはあっさりとバランスを崩し――

「あ~~~れ~~~」
椋鳥が彼女の背後に開いたゲートの中に落下していった。

























『――ゾルテリア選手の場外を確認しました』


椋鳥は口を服の袖で拭う。
ゲートの反対側の面から、歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキが現れ、床に落ちた。

歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキが歌い始める。
無駄に美声だ。
『ぞ~~~うさん、ぞ~~~うさん、お~~~鼻が長いのね~~~♪』

(あー、うるせえ)
と、思いつつ、椋鳥はようやく一息ついた。

『そ~~~うよ、とうさんも、な~~~がいのよ~~~~~オカマッ!』
「あ?」
『ぞ~~~うさん、ぞ~~~うさん、だ~~~れがすきな~~の♪』

なんだこいつと思いつつ、椋鳥は気を引き締める。
いつの間にか拳銃の発砲音は途絶えていたが、大会からのアナウンスが無い以上、
トリニティは脱落していないのは確かだ。

『あ~~~のね、』
(…………ん?)
歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキの歌が不自然なところで止まった。
訝しみながら見ると、歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキもまた、つぶらな瞳で見返してくる。



ひたり――と。
椋鳥の首の前に、刃が突きつけられた。



「――チェックメイト」
(こいつ……いつの間に)
気付くと、歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキが再び歌い始めている。


トリニティの肉体に宿る三人の魔人の一人、無量小路奏。
消音の能力『サウンドオブサイレンス』を使用して、気付かれずに接近していたのだ。

歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキの歌が途切れた時点で椋鳥にも気付くチャンスはあったのだが、
ゾルテリアを倒した直後で、完全には頭が切り替わっていなかったことが災いした。

付け加えるなら、トリニティの能力の中では、
水を散弾のように撃つ能力『レイニーブルー』が最も脅威度が高かったため、
消音の能力からは意識を逸らされてしまっていたのも原因の一つ。


背後を取られ、ナイフを突き付けられている。
絶体絶命の状態だったが、椋鳥は一切動じなかった。


降参する様子はないと判断したのだろう。
椋鳥が背後を取られてからその瞬間までに経過した時間は約1秒。
トリニティの手に力が入り、ナイフが閃く。





無量小路奏は、驚愕に大きく目を見開いた。

彼女のナイフが敵の首筋を切り裂く、その刹那。
椋鳥が首とナイフとの間に左腕を差し込んだのだった。そして――

がつっ、という硬質な音が響き、刃が滑った。

(防がれた。何故――)
奏の脳裏に、一回戦、洋館の試合が浮かぶ。
相川ユキオが、椋鳥のナイフを左手で受け止めた映像が。

その一瞬が命取りとなった。
椋鳥の肘が奏の胴に突き刺さる。

奏が痛みに怯んだその隙を突いて、椋鳥が大きくのけ反り、そのまま後ろに倒れ込んできた。
避けることもできず、揃って倒れる。
間髪入れず、椋鳥が左手を振った。

――袖のホルスターに仕込まれたナイフが飛び出し、その手に握られた。

奏の一撃を受け止めたのは、仕込んだそのナイフ。
(ま、ずっ……)
右手のナイフを操ろうとする奏だが、、
体を回転させた椋鳥の右手が肩関節の部分を正確に一撃する。
そして、椋鳥の左手のナイフが迫る。


防御は間に合わない。
奏の首筋が切り裂かれた。動脈から血が溢れる。

(――――!)
意識が途切れる前に。
奏は最後の力を振り絞る。
右手のナイフを振るう。
苦し紛れの一撃は、容易く避けられた。
しかし。
(これ、でいい……)
その軌道のまま。奏は自らの左胸と左脇の中間あたりにナイフを突き立てた。


鮮血が迸り、首からの出血と合わせて、黒のジャケットを赤黒い血の色に染める。





(奏……!)
(どうして――)
薄れゆく奏の意識に、二つの声が響く。
自分でも驚くほど冷静に、奏は応える。

――こうすると決めていた、だけ。

――敗けたときのこと、覚えている?

三人でひとつの肉体を共有する魔人、トリニティ。

彼女らチームが一回戦で敗北したのは、
敵の急激な身体強化に不意を突かれ、マウントポジションを取られて、
不利な状態を崩せぬままに押し切られてしまったのが理由だ。

――相手も、魔人。捕まれば……簡単には、崩せない。

――だから……

(わかりましたよ、奏)

その声に安堵する。
三傘はわかってくれたようだ。
だから……まだ負けではない。


――あとは、任せ……る。




…………。







一瞬。
トリニティの取った予想外の行動に、椋鳥が硬直した。

その刹那、トリニティの姿が変化する――
まとめられていた黒髪が解かれ、明るい水色に変わる。


(攻撃を……)
加えようとした椋鳥に不快感が走った。後ろに体を反らす。
それが命を救った――椋鳥の頭のあった場所を高速で何かが通り過ぎる。

――栗花落三傘。
トリニティの肉体に宿る三人の魔人の一人にして、主人格。

能力は大会参加者中、最大の貫通力を持つ『レイニーブルー』による射撃攻撃。
その威力は、近距離に限れば遠藤終赤の推理光線『一ツ勝』をも凌ぐ。


その能力を前にして、椋鳥には止まることは許されない。
のけ反った勢いのままブリッジ。両手の指に渾身の力を込め、床を掴む。
後転して起き上がり――直後に横に転がる。
幾条もの射線がその後を通り過ぎる。


さらに追い討ちをかけようとするトリニティを、
歩行シノビオカクラゲ(陸棲)の触手が手を刺すことで邪魔をした。
回避行動を取る際、椋鳥が邪魔になるナイフを対価に召喚したモンスターだ。

歩行シノビオカクラゲ(陸棲)をトリニティが傘で払っているうちに、商品陳列棚の陰に飛び込む。


「『レイニーブルー・ブラッディクリムゾン』あなたは許しません」
棚の向こうから聞こえるトリニティの声は人格交替の前とは違って大きい。
そして、怒気に満ちていた。


(血を操った……!)
距離を取るべく走りながら、椋鳥は分析した。
驚いたが、考えてみればそれほど不可思議ではない、と椋鳥は思い直す。

さすがに人体内の水分に対して干渉はできないようだが、流れ出た血液ならばただの液体である。
魔人の認識次第では操ることも可能だろう。

しかし真に驚くべきは一人目の人格が自らを犠牲にしてとったその行動。
覚悟を決め、一瞬も迷わずやるべきことを実行できる者は――手強い。
もちろん、そこまでして守りたいと彼女に思わせるほどの仲間も。
ゾルテリアよりは与し易いなどと考えていれば、負ける。


(……攻撃が止んだ?)
『レイニーブルー』による破壊音が消えた。
歌う手乗りヤマタノナウマンゾウも戦闘に恐れをなして逃げてしまったのか、歌は聞こえない。

ただし微妙な足音や移動するときに風を切るわずかな音は消えていない。
消音の能力ではない。

となると弾切れか、射程範囲外に出たか。
思案する椋鳥に近づいてくる物体があった。
ばっと振り向き身構える。

「いやあ、最近の女性は怖いですねえ」
「お前……」
脱力する椋鳥。
そこにいたのは空飛ぶスパゲッティ・モンスターだった。
しかし、酷い有様である。
体は焦げ、ヌードル触手の一部は溶け、一部は穴が空いている。

「『アシッド・レイニーブルー』などと申されまして。痛い目に遭ってしまいました」
「自分の酸で溶けてるのかよ」
「正直、もう帰りたいのですが」
「勝手にしろよ」
「では、お言葉に甘えまして」

椋鳥が許可を出すと、空飛ぶスパゲッティ・モンスターが消えた。
入れ替わるように、商品陳列棚が帰還する。
「うお! 忘れてた。マジでびっくりするな……」


ともあれ。
空飛ぶスパゲッティ・モンスターが役に立たないなら、別の手を考えなければならない。
椋鳥は帰還した陳列棚を見つめた。





(落ち着きましたか?)

意識の中でやりとりを交わす。
トリニティの肉体に宿る三人の魔人のうち、最後の一人の射手矢岩名が表に出ている。
内に戻った三傘に声をかける。


(ええ――でも……敵には逃げられて……!)
(落ち着きなさいと言いましたよ。三傘)

辛抱強く諭す。
控えめな奏と攻撃的な岩名。
トリニティの肉体の本来の持ち主として、
二人のまとめ役であろうとする三傘の気性を岩名はよく知っていた。
そして、彼女が最も感情の起伏が豊かだということも。

(しかし――これじゃあ奏が)
(無駄ではありません。先ほど彼は回避行動に徹するしかありませんでした。
 これは、三傘の能力が決定打になるということを証明しています)

そう……つまり。
三傘を後に残しているこの状況であれば。
岩名は気兼ねすることなく銃を乱射できるということだ。

蜂の巣にしてやろう。岩名はうっすらと笑みを浮かべる。


(くっ……一回戦みたいにスプリンクラーがあれば、こんなことには……)
(悔やんでも仕方ありません)

天井にある火災報知機は警報を鳴らすだけのタイプで、放水機構は備えていなかった。
これは空飛ぶスパゲッティ・モンスターを撃退したあと、
事務室にあるPCからインターネットでチェック済みである。

実際に火災報知機を作動させて確かめても良かったのが、奏が異を唱えたのだった。
音を鳴らして居場所を掴まれるリスクを侵すよりは、
倉敷椋鳥とゾルテリアが互いに消耗するのを待つほうが良いと。

この選択は功を奏したと言える。
正直なところ、ゾルテリアを打倒する方法を三傘達は思いついていなかった。


(そのことについてだけは感謝しますよ……倉敷椋鳥。
 だから、死合が終わっても恨んだりはしませんから……私に殺されなさい)

岩名の手には黒い影を落とす塊がある。
『ニューヨークリロード』で呼び出した銃。
一回戦で用意したようなハンドガンではなく、ショットガンだ。

スピードのある椋鳥を相手にするにはまず、散弾で手傷を負わせてから、
次に召喚する拳銃で確実にとどめを刺すのが効果的だと岩名は判断していた。
一回戦でこの手を使わなかったのは、
奏の『サウンドオブサイレンス』の効果内で敵を撃つ必要があったからである。


油断なく周囲を見回し、敵の姿を探る。
現在のところ、敵の姿は見えない。


――正面から首を掴まれた。


「ぐっ……!?」
(真正面……ですって……!?)

頭部だけが異様に大きい男だ。倉敷椋鳥ではない。
なぜ見落としてしまったのか、岩名にはわからなかった。

咄嗟に岩名は銃を構えようとする。……駄目だ。近すぎる。
ショットガンは一旦捨て、拳銃を――


「可愛さ余って、憎さ百倍! 腹パンマン!」
「な――」
「もうゆるさないぞ! 腹をパンチ!」
「うぐっ!」
どすっ。
岩名の柔らかな下腹部に、拳による打突が刺さる。

「こ、この……」
「腹をパンチ!」
「ぐうっ!」
再びボディーブロー。岩名の体がくの字に折れ曲がる。

岩名は拳銃の引き金を引こうとして――
「腹をパンチ!」
「ぎいっ……!」
急所を正確に抉られ、痛みと衝撃で息ができない。

「や、やめ――んぐっ!」
「腹をパンチ!」
「いやっ――うっ!」
「腹をパンチ!」
「――――!」
「腹をパンチ!」

ごつっ。
異質な音が響く。
緊急的に表に出た三傘が振り下ろした武傘が、腹パンマンの頭部に命中した音だ。
腹パンマンの頭は陥没した。

ボコドカバキグシャメキョゲシゴツバゴ――

無言で三傘はそいつを滅多打ちにする。

腹パンマンの挫傷はすぐに回復するが、なぜか頭部だけは元に戻らないようだった。
とどめに武傘を腹パンマンの頭部にブッ刺す。

「か……」
「?」
面目(かお)が潰れて力が出ない……」
「死ね!」
三傘が大上段から振り下ろした武傘が、顔を真っ二つに切り裂いた。
腹パンマンは消滅し、その場所に商品陳列棚が現れる。


(岩名! 大丈夫ですか!?)
(死んではいません……)
三傘は心で問いかける。
返ってきたのは弱々しい声だ。

(油断しました……。『薄い』生命体……横向きになって近づかれたのでしょう)
体積が低いということは、その分視認しづらいということなのだ。
薄い物体が横向きになれば、捕捉される可能性は低くなる。

椋鳥の能力で呼び出されるものは、全く性質の予想がつかない。
何しろ術者である椋鳥にすら予測が立てられないのだ。
しかし、それでも――
空飛ぶスパゲッティ・モンスターが厚みを持たない体だったことを踏まえれば、
薄っぺらい異形が現れる可能性は想定していても良かったはずだ。
空飛ぶスパゲッティ・モンスターを容易く撃退したことで、どこかに慢心があったのだろう。


(く――)

ここに至り、三傘は実感していた。
機転によってゾルテリアの能力を破る判断力。
ゾルテリアと、自分たちトリニティを連続して相手取りながら、
ほとんどダメージを受けていないという事実。

(倉敷椋鳥……私たちよりも遥かに格上の相手……!)
(三傘――)
(岩名。ごめん……覚悟を決めるしかないみたいです)

それでもまだ三傘は諦めてはいない。
その決意は岩名にも伝わる。

(わかりました。どうやら、私は動けそうにありませんが……)
(構いません。というより、岩名には生きていてもらわなければ困ります)
(……まさか)
(最悪相討ちにまで持ち込めれば――それで勝てます)

岩名は反論しようとして――諦めた。

(『トリニティ』のリーダーはあなたです。三傘。あなたに従います)
(ええ)
(ただ、そのまま挑まないほうがいいでしょう。まずは、化粧室に向かいましょう)








人に近い知性の持ち主によって行使され、

解除が極めて困難である、持続する効果。


それを人は『呪い』と呼ぶ。



一人は落ちた。

残るは二人。



呪いによって人生を蝕まれ、また、呪いによって自らを縛り続ける魔人と、

呪いによって命を失いかけ、また、呪いによって命を繋がれた、三人で一人の魔人。


かくして、決着の時が訪れる。







近づく三傘を椋鳥が待ち受けている。

「来たか」
「随分と余裕ですね……」

三傘の右手には武傘がある。彼女の一部にして愛用の武器である『三傘』だ。

岩名の召喚した散弾銃は置いてきた。
理由は二つ。
三傘が扱ったことのない武器であるため、付け込まれる可能性があるのが理由の一つ。

そして、もう一つの理由が、単純に『レイニーブルー』のほうが威力が高いからだ。

三傘の左手には大きめのビニール製の袋がある。

災害時を想定して生産された『給水パック』
内容量は約2リットルだ。
その中身は当然水道水で満たされている。

「で、それを持って戦うのか?」
「まさか」


三傘が袋を投げた。

――それが合図となる。

中身が詰まった給水パックは、床に水をぶち撒ける。
そして。


その瞬間、椋鳥が軽く呟いた。



「『許可』する――還れ」

椋鳥の右手に隠されていた、可哀想な魔界ハダカデバネズミが消失する。
――と同時。

椋鳥の手に帰還する赤い物体。
それは。

「――消火器!?」
「ご名答」

当然、ロックは外され、いつでも使えるようにしてある。
間髪入れず、椋鳥は消火剤を撒いた。
白い粉末が吹き出し、床の水を吸っていく。

「どうして――」
「なんで消火器があるのかって? そりゃ法律で決まってるからだろ」

三傘は唇を噛んだ。
確かに、大型店舗なら消火器の用意があるのは当たり前だ。

スプリンクラーの有無を確かめたとき、
『このホームセンターの火災対策はどうしているのか』と考えなかった。
その失策は、取り返しがつかない――

(これが経験の差ですか)

しかし。
(そう簡単に勝てるとは、最初から思っていません)

相手は三傘の能力の封殺に成功している。
だからこそ。
(今この瞬間だけ、わずかに慢心が生まれる!)

三傘の脚が床を蹴った。
武傘を高く掲げる。上段からの一撃だ。

振り下ろす。しかし、そもそも間合いが遠い。
これでは椋鳥までは届かない。

(届かない――そう思っていますね!)
三傘は武傘に『力』を注ぎ込む。
武傘の正体――それは、三傘自身の一部。
三傘の体の一部を分け与えてやれば――

(――大きく長くなるのですよ!)
乾坤一擲の、隠し球を使った一撃。まさに切り札。
しかし、そこで三傘は己の誤算を悟った。


――椋鳥は自分から間合いを詰めていた。

その手には、工具の一種である『ノミ』が握られている。
商品陳列棚から拝借したのだろう。


この状況で、リーチの不足を不審に思い、機先を制することを選択したというのか。
恐ろしいまでの判断力だった。

(だとすれば――慢心していたのは――)

ノミが胸に突き刺さり、鮮血が吹き出す。


だがそこで、椋鳥に驚愕の表情が生まれる。


無理もない。
そこにいたのは水色の髪の女性ではない――ふくよかな体型の、黒髪の女性の姿。

射手矢岩名。
攻撃を避けられないと判断した彼女が、咄嗟に表に出て三傘をかばったのだ。

(岩名――――!)
「――――」

岩名の口から声は発せられない。
しかし、そのメッセージは確かに三傘に伝わる。
呪いによって命をひとつに繋げられた彼女たちなのだから。


宙に赤い液体が舞う。それは岩名の命。
能力を発動すれば、椋鳥の体を貫くだろう。

瞬間。

椋鳥が、『保険』として備えていた仕掛けを発動させる。
「『許可』する――還れ!」

念と共に、空間に遮蔽物が出現した。
(……レジャーシート!)

即席の盾……というよりは一瞬だけの目隠しだ。
水の矢を撃ち込むことが可能なのは、血液が床に落ちるまでのわずかな時間。
それを過ぎれば、床に撒かれた消火剤に染み込んで、能力を使うことは不可能になる。

(必ず当てる……!)
シートの向こうにいるはずの椋鳥に届けとばかりに睨みつけ、三傘は能力を発動する。

――『レイニーブルー・ブラッディクリムゾン』





血流を分散させ、どの方向に逃げたとしても命中するように三傘は血の矢を放った。
しかし、相手はまたも予想を裏切った。
椋鳥がエスケープに選んだ方向は『上』だった。
相川ユキオの編集した、ノートン卿の『影の城塞』を飛び越えた跳躍力。
血の矢はむなしく空を切った。


シートが床に落ちる。
その向こうで着地する椋鳥は自分の銃を抜いていた。

(ここまで――)
三傘は思う。

攻撃をかわしたことで安堵していた椋鳥の表情が、再び強張る。

(――ここまで、岩名の予測通りとは!)

三傘もまた、拳銃を構えている。

最期の瞬間、岩名がメッセージと共に『ニューヨークリロード』によって残した銃。
この距離なら三傘の腕でも命中させることは可能――!


二つの銃が同時に火を噴く。
脚に被弾した椋鳥の体勢が崩れ、一方で三傘は腹部に弾を受けた。

(……っ。――この程度! 岩名のダメージに比べれば!)

こうなればあとは根性勝負だ。
再び銃声が響き、二つの銃弾が交差する。

今度は両者ともに手に弾を受けた。
衝撃で椋鳥の銃が後方へと吹き飛ぶ。
そして、三傘は銃を取り落とした。足下に銃が転がる。

(……好機!)
椋鳥の脚の負傷と銃の落ちた場所までの距離からみて、三傘のほうが有利。

負傷した手は使うのを諦め、三傘は武傘を放した。その手で銃を拾う。

(……終わりです!)
三傘が銃を椋鳥に向け――そして、取り落とした。


(…………え?)

思わず手を見る。

その手は、はた目にもわかるほど酷く震えていた。

気がつけば体が熱い。そして手先はどんどん熱を失っていく。

腹部に開いた銃創のためか――否。


「俺の能力……『ストレンジ・インヴィティション』
 ――何が出てくるかは使ってみるまで俺にもわからない」
椋鳥が足を引きずり、こちらへ戻ってくる。
その手には銃があった。

「だが、何回も使ってると、たまに見たことあるやつが出てくるんだ。
 ハダカデバネズミみたいなやつとかな。
 で、こんだけ周りに物があれば、目当てのやつが出るまで挑戦することもできる」

三傘は銃を再び拾おうとして……バランスを崩した。

体に力が入らない。

「とはいえ、今回は偶然だったけどな……クラゲみたいなやつがいただろ? あいつ――」





――――毒を持ってるんだ。







ぱん、と乾いた音がして、三傘の頭がはじけた。


「しかし全然毒が効いてるようにみえないんで焦ったよ。
 ……体質かな? とにかくお前、強敵だったぜ――いや、お前ら、か」


銃をしまい、椋鳥は足を引きずりながら歩き出す。

これから、歩行シノビオカクラゲ(陸棲)を探して、
召喚に使ったナイフを回収しなければならない。


戦闘が終わったのを察したのか、おそるおそる棚の陰から顔を出した、
歌う手乗りヤマタノナウマンゾウモドキを拾い上げてやる。


――試合終了のアナウンスが流れた。



◆「呪われし三人の戦い」 おしまい◆








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