第二回戦【ジャンボジェット機】SSその2

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第二回戦【ジャンボジェット機】SSその2

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猪狩誠は己の邪悪を自覚しない。

猪狩誠という魔人が如何にして此処に至ったか。
それは、恐らく誰にも解らない。

生まれながらにしての狂気であったのか。

育った環境がそうさせたのか。

あるいは魔人ヤクザ園堂長次郎と出会ってしまった事が彼の邪悪を引き出したのか

猪狩誠自身も解らないのだ。

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(糸かッ?!)

一瞬の判断が生死を分ける。
目の前の、今まで自分が立っていた場所。
エコノミークラスの座席がバラバラに切断されている。

座席の間を縫うように、空間を編み込むかのような複雑な動きで数本の糸が迫る。

(凄まじい動き、これが手芸の技かッ)

手芸。

世間一般でいう手芸とは個人的に行う裁縫、刺繍、編み物などの創作活動をいう。
しかし、魔人の世界においてソレは全く違う意味を持つ。
針や糸を使った人外の技。
無理やり解り易く例えるならば忍者という概念が最も近い。

(だが、避けられる)

冷泉院は特殊なステップで座席の間を飛ぶ。
体が地面についていない時に身体能力を上昇させる“仮面”の力。
狭い機内を縦横に動く糸を避ける。
そして、もう一人の敵を見た。

(凄まじい再生能力を持っているようだが…あれでは、な)

ここに集められた三者は共に身体能力が高い魔人である。
戦いが始まった瞬間、同じ場所に放り出されたとき。
ミツコは迷わず攻撃に移り。
猪狩は爽やかに挨拶をしようとした。
冷泉院は宙を舞った。

(その結果がアレか)

少し離れた場所では少年が笑顔を浮かべたままバラバラに切り刻まれていた。

「俺に油断はない!!そして遊びに付き合う暇はない!!」

薙ぎ払われた座席の間に着地すると一気に前方へ走る。
そして、迫り来る糸を全て掴み取る。

(この敵の攻撃には怒りがある。その怒りの矛先は俺ではないだろう。)

地に足をつけた時に使用される能力『白刃獲り没収EX』はミツコの繰り出す糸を全て絡め取る。
奪い取った糸を使いこなす技術は冷泉院にはない。
ならば、素早くステップを踏み加速。

(一撃で、しとめ…)

横合いから顔面に叩き込まれた裏拳が冷泉院を吹き飛ばした。
吹き飛ばされる瞬間に冷泉院が見た男、猪狩誠の顔は涙で濡れていた。
ミツコの視線は猪狩誠を捉えている。

(怒りの矛先はコイツか…。)

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仮面が何者であるか冷泉院は解らない。
仮面が何物であるか夕霧紅蓮と呼ばれた男は知りようがない。
仮面がなにものであるかLローズという名の海賊も知りえない。
仮面がナニモノであるか仮面自身も解らない。

故に、冷泉院拾翠は自身がどういう存在であるか解らないのだ。

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「俺は、泣いているんだなッ!!」

冷泉院を殴り飛ばした俺はミツコの前に立つ。
ちぎれた腕は新しい筋肉繊維が生えてくっつき、頭部と胴体の間には血管が繋がっている。

「みつおはよぉー、変なことばっかり言う奴だった。でも詩を書くのが上手かったんだ。俺のために応援歌を作ってくれたりしてよぉ。将来は作詞家になるのが夢だったッ!!」

俺は一歩前に踏み出す。

「それは残念でしたね」

目の前の少女が答える。
許せない、まず名乗りの途中で攻撃してきた。
なんて卑怯な奴だ。

「よしずみはッ。いつも空を見ていたッ!!天気に詳しかったッ!!あいつならきっと天気予報士にだってなれた。」
「だからどうしたというのでしょう?」

女は噴霧器を構える。
白い霧?ガス?
なんて奴だ、こんな奴のために、みつおとよしずみッ。

「ごふッ!?」
「あらあら?気分が悪いのかしら、いけませんいけません。化学肥料とか農薬とか配分を間違えてしまっては~」

口から血が。
と、ともぞう!!やめろ!!ともぞうの命が!!
毒だとッ!!この外道め!!

「もちろん、農薬というのは無駄に殺しすぎては意味がありません。目的の害虫だけを殺す、それが理想です。あなたの身体データはみっちゃんがしっかり調べてくれていますよ」
「てめえ。人を虫けらか何かと勘違いしてんじゃねーぞッ!!てめえのせいでッ!!」
「あら?この毒で動けるなんてやっぱり…」

体の中の毒が浄化されていくのがわかる。

「もう、ともぞうの俳句を聞くことはできねえんだなッ!!」

こいつのせいでッ!!
力がみちる!!
この戦いの前に消費した、あやめッ。
将来女優になるって楽しそうに、役にとらわれないで演技したいって剛力な夢を、いつも俺に語ったAYAME!!
詩人のMITUO、天気のYOSIZUMI、俳句のTOMOZOU。
一回戦で犠牲になった。
MAYU!!MEI!!MASARU!!
ああッ!!
真っ黒に日焼けしたヒロ!!HIRO!!
色黒のマツ!!MATSU!!
日焼けサロン大好きウサ!!USA!!
ニューヨーク帰りのヒゲなんかはやしてた黒いマキダイ!!MAKIDAI!!
サングラスの似合う黒い夏の男アツシ!!ATSUSHI!!
マルチに活躍する黒い日焼けのアキラ!!AKIRA!!
沖縄空手と書道が得意な黒い肌のタカヒロ!!TAKAHIRO!!
YOKOHAMA生まれのYOKOSUKA育ち色黒ケンチ!!KENCHI!!
料理が得意だった日焼けのケイジ!!KEIJI!!
ロマンチック5・7・5、ブラックスキンのテツヤ!!TETSUYA!!
ワイルドなヒゲブラック、ネスミス!!NESMITH!!
野球少年だった日焼けのショウキチ!!SHOKICHI!!
特に特徴はないけれど色が黒かったナオト!!NAOTO!!
病弱だけれど色が黒いナオキ!!NAOKI!!

どいつもこいつも小学生とは思えないほどに色が黒くてダンスが好きだった。
俺のために予選で犠牲になっちまった13人くらい!!
あいつらはこの世からの追放者(エグザイル)になっちまった!!

目の前の女は包丁を構える。
ヤバイ女だ!!
だが!!だがよぉ!!

「今まさに死んでいった俺の家族の為にも!!そして俺をここまで連れてきてくれた家族の為にも!!てめえに負けるわけにはいかねえんだよッ!!」
「ハッハーッ!!なんだよリソースって!!ソースの一種?日本語話せてますかァ?!」
「こいよ悪党!!てめえのせいで永遠に失われた俺の家族(リソース)の痛みを味あわせてやるぜ!!」
「腹ァ!!カッ捌いてェー!!てめえの腹の中のどす黒いモン処理してやるよ!!」

腕をもぎ取る。
ああ、確かに早い、すげぇ攻撃だ。
生物の構造を理解した上で解体する技術がコイツにはあるんだろう。
だが、腕をもぎ取るのは俺の方だ!!
あやめはもう物を持つことができない!!

「お前のせいで!!」
「自分の傷を治すために子供を犠牲にしているのは貴方だ!!」

何を言っているのかわからない。
なんて無責任なやつだ。
だいたい口調が一定しない、ヤバイやつだ。
会話が通じる気がしない。
こいつは異常者だ。
こんな異常者の為に俺のッ!!
こんな異常者に足は要らねえ!!
あやめはもう歩けないんだ、ならその報いを!!

「自分が勝つために他人を犠牲にしているのでしょう…?」
「人のせいにしているのかッ!?あやめはこんなヤツの為にッ」

体がこれほど傷ついても冷静に語ってやがる。
サイコパスとかシリアルキラー?
どっちにせよ変態だな!!
こんなやつが勝ち進むなんて許されるわけがない!!
だがコイツはもう動けない。
止めを!!
んおおッ!?が!?い、痛え!!
背中に包丁?これはさっきもぎ取った腕といっしょに捨てたミツコの包丁か!?

「一撃でやられるとでも思ったか?」

仮面!!
こいつが包丁を投げたのか?
一撃で倒れていればいいのに!!
コイツも俺の家族(リソース)を消費させるのか!!
自分の部屋を持つのが夢だったテツコ!!TETUKO!!

「なんてことするんだ!!『限りある家族(しげん)を大事にしよう』って学校で習わなかったのかよぉ!!お?うおおおおッ!?」

なんだ!!この機体の揺れはッ!!
まさか?ジェット機が落ちている?

「この機体はまもなく墜落する、自由落下状態の機内はほぼ無重力」
「コソコソとそんな事を!!街に落ちたらどうするんだ!!この外道!!」
「お前の力は確かに凄い、だが足場を失ったお前と、空中での戦いを得意とする俺、どちらが勝つんだろうな!!」
「人の話聞いてんのかッ!!お前、他人の迷惑とか考えたことあるのか!!」

こいつは絶対に許せない!!

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ミツコは知っている。
ミツコ達は知っている。

自分たちが何者であるかを!!

自分たちが何に怒り何を倒すべきなのかを!!

世界に理不尽を振りまく敵の喉を食い破る三つ首の地獄の番犬!!

相手が世界の敵ならば、その敵を喰らうのがケルベロスの役目!!

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冷泉院は空中を走る。
凄まじい速さで移動し猪狩を一方的に攻撃している。
強いなぁ。

「できると自覚せよ!!出来損ないとは言え俺は転校生になれる!!」
「何言ってんだァ!!このテロリストがッ!!」

痛い。
痛いな。
やっぱり腕と足を引きちぎられると痛いなぁ。
でも、あの時の痛みに比べればどうってことはない。
姉さんの用意した鎮痛効果のある化学薬品と姉ちゃんの用意した薬草にも使えるハーブでとりあえず気を失わずに居られる。

「なんどでも首をへし折ってやる。その再生力が尽きるまでな!!」
「おおおッ!!ボクシングが好きだったコウキ、ダイキ、トモキ!!」

空中を舞う冷泉院と両足を壁に突き刺しながら歩くことで体を安定させた猪狩の戦い。
今のところは冷泉院からの一方的な戦い。
でも、僕の調査では。

「そうかっ。空気を蹴ってるんだなァ!!」
「なッ!?なんだとッ!!」
「アンタに出来る事は、家族の力を得た俺にはできる!!つかまーえたぁッ!!」
「馬鹿なッ」

掴んだ冷泉院を機内の色々なところに叩きつける。
痛そうだな。
そして搭乗口に向かう、ああ猪狩のやる事がわかる、酷いな。

「アンタは空を飛ぶのが好きなのか?そういえばミユキは客室乗務員になるのが夢だったな。アレ?ヨシコだったかな?まあいいや、あの子の空を飛ぶ夢を奪ったのはアンタだからさァ」
「がッ!!こ、このゲスめ!!」
「はあ?飛行機墜落させようとしてるゲスはアンタだろ?安心しなよ。ミユキの、ああもう!!どっちかわからないぞ。ミユキとヨシコ二人分の絆があればこの飛行機を安定させるくらいはできるからさぁ」
「こいつ…」
「アンタは先に空の旅を楽しんできなよッ!!」

無理やり開けた入口から冷泉院は外に投げ出される。
空気圧で機内の残骸も空中に放り出された。
でもボクは残った片腕でなんとか耐える。
ドアは閉められたようだ。
そして程なくして機体は安定する

「体制を立て直して空を走った所でジェット機のスピードには追いつけないよね。ふう、壊されてたんじゃなくて良かった。ここから飛び降りなきゃならないとなると。もう少し必要だもんなあ、さて残るはアンタだ。どうする?降参する?」

「降参はしないよ」
「哀れだなぁ、大人しくしていれば殺す理由もないんだけどな、だって俺ヒーローだしさ」

「降参する理由はない、君のその力」
「ああ!?」

「その家族の絆、リソースはやがて世界に及ぶだろう」
「まあね、俺は人類みな兄弟って言葉信じてるからさ」

「その言葉、本気だね」
「ああ、俺は世界を救うぜ。家族を痛めつけるヤツを許さねえからさ。みんなが家族になれば、それを俺が守ってやるさ。」

「君の力は無敵だ。世界中で常に誰かが死ぬ。悪意も善意も関係なく事故や病気で死ぬ。それが君の力になる。それが君の到達点だ。」
「ああ、今までみたいにやる必要もなくなるから楽だなあ」

「君に逆らう者はいなくなるだろう、君は実質世界と同一になる」
「はははッ。面白いこと言うなアンタ。」

「ボクはこれでも探偵の端くれだからね。君のことは調べたよ。君の家も家族のことも。」
「なんだ俺のファンなのか?じゃあもうアンタも俺の家族だな」

「君は世界を喰らう、そしてそれは君自身の為だけに使われるだろう」
「まあまあ面白い話だったぜ!!後でゆっくり話そう!!俺とアンタの仲だからさ!!」

猪狩が腕を振り上げる。

「でも、一応。家族の分殴らせてくれよ。ホラ、拳で語って生まれる友情ってヤツさ。」
「だから、君は!!世界の敵だ!!」

ザザザザザッ…

「なんだァ?」

世界にノイズが走る!!

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ヒーローってヤツはさ。
ピンチに現れるもんだ。
はっはっはァ!!おーこりゃすげー!!
だって俺は主人公だもんな。

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「流石に二回戦ともなると、おもいきって数を切らねばならんか…」

暗い階段を降りる男がいた。
手にはノコギリを握りしめている。

「だが、結果的に得るものがあれば良い、誠ぉまっとれよ」

地下室の扉を開ける。
冷たい石造りの部屋には様々な拷問器具が並べられ。
床には何人かの子供が寝息を立てている。

「スマン、スマンなァ。これも誠の為だ。ひひッ。」
「さてどれからイこうかの。」

舌なめずりをして初老の男は子供達を舐めるように見た。
だが、そんなことはさせないぜ!!

「うげぇッ!?な、ながあああ!!」

腕に突き刺さった槍を見て初老の男が絶叫する。

「お、おごう!!あああ!!痛えッ!!な、槍?」
「おーこりゃすげー!!実に変態趣味だなァ。ガングニル。」
「そのようだ、そして間違いない園堂長次郎。ジグ・ソウの園長と呼ばれた男に間違いないぞ武志。」

「てめえッ。コラァ何しやがる!!」
「はっはぁ、何ってヒーローがやることは人助けだぜ!!」
「単なる目立ちたがりかもしれんがな」
「言うねえガングニルゥ!!今日はいつもより話してるじゃん」

男に気づかれないように跡をつけてきたのさ。
そう、この悪事を見逃す俺じゃあねえ!!
俺の名は黒田武志、ちょっぴり目立ちたがり屋のヒーローさ。

「くっ、ワシの邪魔を!!がああッ!!」
「おっと動くなよ?俺の槍はスゲー早いぜ、誘拐犯!!」
「誘拐犯だと?何を言っている?ここはワシの運営する孤児院だぞ。この子達は気分が悪いから寝とるだけだ。大工仕事の途中に子供の寝顔を見に来ただけだってのに。この不法侵入者め!!」
「おお、こりゃすげー。よくそんなにスラスラと出まかせを言えるもんだ、おおッっとぉ」

手に持ったノコギリを投げつけるが、そんなものが俺に効くとでも思ってんのかねェ。
階段を園長が駆け上がっていく。
ちッ 扉を閉められたか。
まあこの扉くらいはカンタンに破壊できるぜ。
逃がしはしねえ。

「ああん?どうしたんだオッサン逃げないのかよ」

鉄の扉を破壊して一階に登った俺が見たのはガックリと膝をついた男の姿だった。

「な、なんじゃコレは。ワ、ワシのどんぐりの家は…ワシの孤児院は…いったい?」
「何言ってんの?ここが孤児院だったのはもう4年も前だぜ」

「ばばばばば、馬鹿な事をいうなァ!!ワ、ワシが地上げして孤児院を再建して!!」
「孤児院は無くなったんだよ」

「なな、何を言っている。相次ぐ災害で家族を失った子供が道にあふれておる、飢えたガキどもを集めて孤児院を作って、それをワシが、ワシがァ…。誠を手に入れたワシは世界を…。」
「オイオイ、オッサン。食糧難っていつの話だよ」

「ばっかもんがァ!!世の中を見ろ!!そこらへんで飢えたガキなどいくらでも!!」
「いねーよ」

「なッ、ナにぃ!?これだから新聞も読まんクズは!!」
「オッサンこそ新聞読んでる?真野真実のラーメン基金財団とか知らねーの?」

「ラーメン?基金?なんじゃソレは!!」
「子供達を飢えから救うそれがたった一つの真実ってさ。真実を届けに来ましたとか言ってよ、得意の英語で世界中から食料を集める活動をして食糧危機を救ったのさ。たった一人のラーメン屋がな」

「なら、ワシは、ワシは一体…」
「おっさんはガキを誘拐して薬とか使って洗脳したあげくに売り飛ばしたり殺したりする誘拐犯じゃねーの?元は魔人ヤクザだったけれど組を放逐されたとか」
「馬鹿な…馬鹿な…ここには子供が、沢山いるんじゃ、この子供をリソースにしてワシと誠は世界を…手に…五本指…ワ、ワシの可愛い誠の餌を養殖する、どんぐりの家…」
「夢でも見てろや、爺さん。あとは牢獄でさ。」
「いいや!!まだじゃ!!これは恐らく何らかの能力!!誠が勝てば打ち破れる!!」
「お、オイ。暴れんなっての!!」
「誠ォー!!ワシの命を使え!!そして勝て、勝ちさえすればお前は何でもできる!!いずれワシを生き返らせることもできる!!ワシが生き返ればどんぐりの家なぞなんぼでも作ってやるワイ。お前のための良質な餌場をなァ!!」

「離れろ、武志!!この男の能力は『ジグ・ソウ』対象を切断する能力だ!!」
「お前が射程距離のある能力だった時点でワシに勝ち目はない。指でゆっくりなぞった線を切断する能力じゃからな!!だが、こういうことはできるぞ!!」
「コイツッ自分をバラバラにッ!!」
「受け取れ誠ォ!!お前を最も大事にしているのはワシじゃあ!!ワシこそがお前の最大のリソース!!」

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世界の敵の敵

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ザザザザザッ。
世界にノイズが走る。

「なんだ、何が。ん?」

猪狩の体が輝きを帯びる。

「ま、まさか死んじまったのか?園長ォ。何があったか知らねえが。この力は使わせてもらうぜッ」

しかし。

「な、なんだ。力が。園長の力がすぐに消えていく、え?どういうことだ?俺のオヤジは。園長は俺のオヤジ同然の…。あ?あれ?おかしいな?体の感覚が…」

メキョッ。
猪狩誠の首が折れ曲がる。

「あ?あー?なんだ?痛いぞ」

ビキッ。
背中からは血が流れ。
猪狩誠の体に無数の線が浮かび血が滲む。

「えーと、アレ?」

皮膚が焼けただれるるような痛み。

「いやいやいや、おかしいよコレ」

グチャ。
足が潰れる

「園長、どうして死んだんだよ。早く俺の代わりに家族を、さ。」
「それは今日の分です。」

ミツコが告げる。
告げたのは恐らく弟のミツゴだろう。

「あやめ、みつお、よしずみ、ともぞう…」

ミツゴが名を告げるたびに猪狩の体は欠損していく。

「ボクの能力は主人公の力で世界を救う能力。テツコ、コウキ、ダイキ、トモキ…」

「何言ってんだよぉ。そいつらは俺の家族だ気安く呼ぶんじゃねえ」
「世界にはびこる病を消すには至らなかったけれど、真野さんと黒田さんの二人の力があればこの程度の不幸を消すことは簡単です。ミユキ、ヨシコ。彼女たちは死んではいない、当然あなたの家族でもなく今はどこかで平和に暮らしている。」

ゴリッ。
猪狩の顔がへこむ。

「あ、あが。なんだって?」
「貴方は正しく世界の敵だ。世界の敵は主人公が倒す。いままで何人の家族をリソースにしてきたんですか?」
「はははッ。俺は過去を引きずらない。だって俺が見ているのは明るい未来だけだからな」
「あなたの歪みを引き受けてきた家族は居なかった。だから貴方の痛みは貴方だけのモノです。誰かに分け与えるべきじゃない。まゆ、めい、まさる。」

ぞりゅ。
右腕から先が圧縮されて赤い小さな塊に変わる。

「俺は、家族を傷つけるやつを許さねえ、園長の死を無駄にはしない」
「これほどの負荷を受けてまだ喋っていられることが園長の貴方への思いなのでしょう。とても歪んだ思い、でもヒロ、マツ、ウサ、マキダイ、アツシ、アキラ、タカヒロ、ケンチ、ケンジ、テツヤ、ネスミス、ショウキチ、ナオト、ナオキ。たったひとりの思いであなたが踏みにじってきたリソース分を賄いきれるとは思えません。今まで数百人単位で世界を食ってきた貴方の払うべき制約は、こんなものではない」

もはや猪狩誠は赤い塊だ。
辛うじて眼球と口が伺える。

「実際、貴方は自分を唯一無二だと思っているのかもしれませんが、他人を犠牲にして能力を発揮する魔人は少なからずいます。貴方ほど歪んでいる人は珍しいけれど。」
「ひひッ。俺は天才だからなァ。それに俺は家族の為を思って動いている。数十人は犠牲になるだろ?でも、それはお前らが強いから悪いのさ。俺は悪くない。」

「この世界にはルールがある。他人を犠牲にする事で力を得る能力者は味方しか犠牲にできないと」
「ヒヒヒッ!!生き残ったやつに利益は分配するさ、だって家族だもんな。俺が家族のために頑張ってるのを邪魔してるのはテメーらさ。テメーらが邪魔しなけりゃ誰も苦しまねえんだよ。ヒヒヒッ。」

「あなたの家族はもういない。あなたが救わなくても他の誰かが救うでしょう。」
「そうだ。アンタ最初の挨拶の途中で攻撃してきただろ、ひでえよな。な?」
「ボクは君に似ている所がある。他人のの主人公力をリソースにしているという点ではボク達も君に近い存在だったのかもしれない。」


俺は、猪狩誠だ。なあ…正々堂々戦おうぜ。

さようなら、世界の敵、猪狩誠。
貴方がまっとうな主人公になれる世界を必ず。

ザザザザザッ。

世界にノイズが走る。

赤い肉塊と化した猪狩は家族(リソース)を失った。
仮面の男、冷泉院は戦闘空域から引き離されて場外負けとなった。

二人の主人公力を吸い取り。
ミツコは次の戦いへ挑む。

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2回戦ジャンボジェット機の戦い 了








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