第一回戦【遊園地】SSその1

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dangerousss3

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裏第一回戦【遊園地】SSその1



前章


 心臓殺害雨弓死亡!

「心臓が完全に壊れている。これは助かりませんな」

 ワン・ターレンの『死亡確認(特殊能力)』は「100%の誤診を下す」こと。
 彼が助からないと言ったものは助かる。故に雨弓は目を覚まし立ち上がる。
 自らの能力の(せい)なのにいいリアクションするワン・ターレン。
「おお! まさか心肺停止(あそこ)から完治するとは……!」
 完治。
 ワン・ターレンは「完治」と診断した。
 苦笑いをする雨弓。瞳にうっすらと緋色の幻影が再生(リプレイ)される。

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 レズプレイこまね圧死!
「すべての骨が折れている。これは助かりませんな」
 彼が助からないと言ったものは助かる。故にこまねは目を覚まし立ち上がる。
 自らの能力の(せい)なのにいいリアクションするワン・ターレン。
「おお! まさか全身単純骨折(あそこ)から完治するとは……!」
 完治。
 ワン・ターレンは「完治」と診断した。
 発狂するこまね。彼女の瘡瘢(ファントムルージュ)再生(リプレイ)される。

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「死体はこれだけでいいんだよな?」
 雪から掘り出した死体(ずたぼろ)を前に捜索隊魔人が仲間にきく。
「ああ。高島平四葉(べつのやつ)は死なせとの御達しだ」

「へえ。かわいそうにねえ……。まああんなことやらかしてたんだ……」

「そうそう。殺した方がいいんだよ」
 そこへひょっこり日本銀行が飛んでくる! 圧殺される彼らは死ぬ!
「生きてます12歳」
 高島平四葉がたからかに笑う。

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「四葉が生きてるですって?」
 七葉樹落葉が眉根を「W」鼻根を「H」口を「Y」の字にひそめる。

「は。そして階下におります。『ハロー・マイシスター』と申しております」

 落葉は拳をギュッと握る。
「四葉……七葉樹の血!」
 バンと机を叩き立ち上がる。
「よろしい。敵がまたひとり増えたわけね。それ以外になんと言ってる?」
「『私は死んでなかった。否。死んだ私を乗り越えた。再戦させろ』と」
「オッケイです。なぜ生きているか分かりますか?」
「まったく不明です」
「見極めましょう。敗者復活戦と称して負け犬どもを集めなさい」
「敗者復活?」
「詭弁です。負け犬の折り目が付いた奴はいりません」
「承知しました」
 森田は遺伝子レベルで静かに退出した。
 落葉は目を閉じる。いやな予感ばかりする。
 四葉の試合。これだけは絶対に目が離せない。

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戦闘



 千葉。あるいは東京。もしくは夢の国。(東京ディズニー・ランド)
 幻想に象られた世界。(東京ディズニー・ランド)
 人間ほどのネズミが闊歩する魔的空間。(東京ディズニー・ランド)





 彼らの殺戮の宴(エレクトリカルパレード)が催される瞬間――戦闘開始!

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 精神支配に特化した分隊(ピーターパン)は血を求めて雨竜院雨弓に突撃。
 雨弓は発光――全身からファントムルージュを上映!
 緋色の幻影(ファントムルージュ)は異世界の住人は一瞬にして全身を燃え上がらせる。
 ――彼らの名誉のために付け加えておく。
 ディズニー属は幻想界最強である。地形効果も最高(+50)だ。
 さらにピーターパンは幼児らを狙い自らの精神世界に閉じ込める能力を持つ。
 精神面でピーターパンに勝てる者はいない。
 だがファントムルージュの方が強い。
 四肢爆散するディズニー属ピーターパン科ども。
「スミー!」「スミー!」「スミー!」
 ピーターパンは邪悪な心を持ってしまい精神=肉体がズタズタに死んだ。
 フック船長は自らの首を掻き死んだ。
 ティンカーベルは神経が乱れ高速で地面に激突し死にパレードにつぶされ死んだ。
 その場に残った光――。それはファントム雨弓の体(ファントムルージュ)のみである。
 最強の魔人を使役するアラジン。人間の意志を持つ獣ども。ちびっ子殺害機械。
 みなファントムに飲み込まれ死んだ。
 異常事態に気付き変身を解除する妖精もいた。美少女→全裸中年男性。
「どうしたことだ……」
 呆然とする全裸中年男性。
 ――雨弓から発せられるファントムルージュには音がない。
 光をエレクトリカルパレードと誤解してしまえば――。
 全裸中年男性の肩に手。
 光る手。
「ファントムルージュ」
 全裸中年男性は97分を一瞬に感じた。
 一瞬?
 比喩ではない。
 雨弓は水分を操る。
 最も密接した水――つまり細胞が一瞬ずつズレたファントムルージュを映し出す。
 時すらも超越する上映――ゼノンの矢ならぬファントムの雨弓の妙技だ。
 さてファントムをあびた全裸中年男性。
 彼は地上から消滅した。
 何故?
 なるほど雨弓ならばファントムルージュを一瞬で上映できるのだろう。
 一瞬を1/10000000秒だと仮定して――それを一秒間見続けたなら。
 精神を崩壊し尽くした幻影が肉体を破壊しないと誰がいえよう?
 パレードを飲み込む幻影は歩みつづけた。

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 (ファントム)名探偵こまね。
 廃人と化したこまねは横たわり時折はげしく震えあらゆる体液を流すままにする。
 彼女の穴という穴からドス黒いシャボン玉が吹きでている。
 排出されたシャボン玉は散弾銃のようにこまねから離れぶつかる。飛散。衝突。
 夢の国の住民に命中 (すると) 死んだ。
 ――こまねが音をシャボン玉に変換する。割ると変換前の音がなる。
 その音は妖精や幻獣を致死量オーバーで殺すのだ。

 「○○、今俺のこと見てたでしょ」 ビャー

         「友達なんか必要ない」
                  グァー

                  ゾァー   「昔からそこで隙が出来んだよ」
                  ルァー  「○○が持ってて!」
                  ギャー「人形みたい」


         「俺、○○になら裏切られてもいいよ」

「――!」
 全身を痙攣させ排泄海でもがくこまね。
 脳内から追い出せなかった音がこまねを襲う。
 こまねの持つ音。それはファントムルージュにほかならない。
 焼き付けられたファントムルージュがどうしても再生を求める。
 脳内で生成される強烈な音を吐き出す。するとこまねの世界から音が消える。
 こまねの本能は音を求める――強烈な音源が脳内にあるのだ。
 本能と理性のせめぎ合い。本能が勝った瞬間が今――。
「――!」
 腹を抱えて笑うように見えるだろうか。彼女の顔は笑っている。
 秩序と破壊と禁忌と陵辱があらゆるドラッグを上回る快感を与えるのだ。
 信じがたいことにこまねは音の「濃度」を高めている。
 音の天才が凶悪な音を脳内補正で作り上げているのだ。
 たとえそれが地獄の苦しみを伴っても――
 もはや犯された快感から逃れることはできない。

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「すばらしいよ……」
 つぶやく偽原光義。

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 観測者はいなかった。パレードはとっくに壊滅して住民はちりぢりに逃げた。
 発光ファントム雨弓は異変――暗黒シャボンの発生源へ向かっていた。

                   「人形相手に何をてこずってるんだい?」
            「念を使いすぎたんだ」
   「手を汚すのは俺だけでいい」

 シャボンが体にぶつかるたびに雨弓の上映(からだ)は強く光る。
 ――まさか向こうもファントムとは。
 闊歩する雨弓が中心へ着く。嘔吐物の海でのたうち回っているこまね。
 彼女は激しく痙攣しながら巨大な黒球を全身から放出し続ける。
 雨弓はゲロでファントムルージュを上映する。
「――――!」
 こまねはファントムの海に自ら頭を叩きつける。目は見開かれている。
「――――!」
 絶叫は赤いシャボン玉となって飛んで虚空に消えた。
 雨弓はとどめ(ファントムルージュ)を刺そうとする。
 もっとも操れる水――それは自らの水。体液である。
 雨弓はおもむろにジッパーを下げつつ九頭龍でこまねの眼球をつぶす。
「――――!」
 こまねの頸ねっこを巨足で踏みつけ勃起した一物を左手で押さえつける。
「ファントムルージュ」
 排尿。
 こまねの顔面が冒涜的に穢れる。尿が汚いのではない。

 調整ファントムルージュが注入されたのだ。

 脳内の音だけではない。
 映像すら体内に取り込んでしまった。
「あんぎゃあああああああ!」
 絶叫するこまね。
「あああああああああああ!」
 絶叫するこまね。能力で押さえつけることもできない。
「ああああああ――――――」
 こまねの臨界点を超えた。
「――――――――――――」

 彼女の体が黒に染まる。真っ黒。闇。
 暗黒そのものと化したこまねが一個のシャボン玉となる。
 肉体がシャボン玉に。
 魔人能力を越えた現象である。

 こまねの全てがこめられたシャボン玉は膨らむ。
 広がり全てをのみこむ。
 雨弓は爆発的に広がる闇になすすべもなく取り込まれる。

           「人形相手に説明しろっていうのかい?」
     「カキン行の便は――」    「よかった?」
  「楽しかった?」              「旅団じゃなかったのか?」
「復讐は我が手で」            「で。例の場所はみっかったの?」
      「インドアフィッシュ」    「キキキキ」
               「旅団と見なす」
 暗黒空間の内部には音が満ちていた。
 シャボンが割れれば音が鳴る。それがこまねの能力。
 シャボンの中には籠められた音が延々と反響し続けているのだ。
「これが真のファントム……!」
 言い難い感動にとらわれる雨弓。
 巨大なシャボン玉の内部は照明のないプラネタリウムだろうか?
 断じて否。
 シャボン玉の天球に映し出されるファントムルージュ!
 映像の雨弓と音声のこまねが結合した上映会である!
 この二人がファントムルージュにとらわれたのは必然だったかもしれない。
 神が――非常に歪んだ性悪の神が筋書を作ったようだ。


 ファントムルージュ  著:神


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 偽原光義はディズニーランドへ着いたとたんファントム暗黒空間に飲み込まれた。
「すばらしい……」
 なおも暗黒空間は膨らみ続ける。
 世界は闇に犯されつつある。

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 高島平四葉!
 彼女はスタージェットから高みの見物きめこんでいた。
 戦闘開始とともに領域内で光の塊が一斉に弾けて動きだす。殺戮(パレード)開始だ。
 ディズニーランドは神すらも殺す。
 最強の戦闘部隊。だが彼らの光がどんどんと消えていく。一点を除いて。
 おかしい。
 ――非常に高高度のため四葉にはわからないがその一点はいうまでもなく……。
「モア」
 四葉の手元にはiPad。映像データが一つ。名前はつけられてない。
「?」

 一回戦でもトングや金といった妙な武器(エモノ)を使う敵と戦った。





 ――映像拳でも使うのか?
 などと嘲笑しつつ再生を押す。
 ファントムルージュ。
 四葉のみずみずしい感性は激しい拒否反応を示し右脳と左脳がピーナッツバターになって蟻に運ばれ心臓が世界中のタンバリンの平らげ泥まみれのピザを肛門からひりだして耳から注ぐ機械と化した感覚にとらわれた。
 死が見えた。
 死が見えた四葉は祈る。
『私は負けない。私なんかに負けない。私は私という「敵」に――』
 モア。
『勝つ!』
 そして四葉は四肢爆散した。

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 暗黒シャボン内部は全て色褪せており地獄の底から響くような(ファントムルージュ)が聞こえる。
「まるで私の心を見てるようだ……」
 偽原光義は射精した。てらてらひかる精液を眺める。1……2……3秒。
「ファントムルージュ」
 偽原はのけぞりしたたか強く頭をうちつける。
 腰がうねうねと首がぐらぐら揺れ口元はへらへら笑っている。
 彼は自身の能力(ファントムルージュ・オンデマンド)を用いてファントムルージュを見た。
「まだこのファントムは偽物だな……。なあ?」
 偽原は傍らのファントム雨弓に問いかける。
 雨弓はこまねの体液固形海に伏してピクリともしない。
 虹彩には映像が映っている。中身は偽原が覗くまでもない。
「完全な廃人になったか」
 偽原は笑う。
「もっと狂わせてやる」

 ファントムルージュ

 偽原は能力を発動。雨弓の虹彩に真なるファントムルージュを刻む。
 驚愕に見開かれた雨弓。その表情は驚きから恐怖に変わり絶望へ至る。
 雨弓の心象世界が影響してかアトラクションすべてが砂のように崩れる。
 荒廃しかない。
 世界には荒廃しかない。
 偽原は高らかに笑う。
「完璧な調和(ぜつぼう)だ! これが真の絶望(ファントムルージュ)だ!」
 高らかに笑う偽原。
 雨弓はぴくりともしない。
 荒廃した世界。
 ひょっこりと顔をだす高島平四葉。

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 ――高島平四葉。
 彼女の特異性は特殊能力『モア』の一点である。
 敵よりも強い武器を生み出す。
 それだけだ――。

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 禁忌(ファントムルージュ)に犯された高島平四葉。
 精神が自壊する寸前――。
 彼女は「負ける自分」を「敵」とした。
 ――自分の敵は自分。
 正確には「なにかに負けるような自分」であるが。
 敵――つまり自分の使う武器とはなんぞや?
 それすなわち肉体なり。
 高島平四葉の肉体は爆散した。
 その爆発から生まれたのは高島平四葉(14)。
「ちょっとだけ成長……」
 再び爆散した!
 「モア」で生成できる武器は「ちょっと強い」だけである。
 ファントムルージュに打ち克つ精神を得るためには「ちょっと」では足りない。
 爆発から生まれた高島平四葉(15)。
 彼女の顔は恐怖に歪んでいた。
 ――ひょっとして私は非常に愚かな考えをしていたのでは?
 彼女の体は爆散した。
 爆発から生まれた高島平四葉(16)。
 ――ファントムルージュ「より強い」人格など。
 彼女の体は爆散した。
 爆発から生まれた高島平四葉(17)。
 ――存在するのか!?
 彼女の体は爆散した。

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 結果的には『モア』が勝った。
 偽原の前に四葉がいるのがその証拠である。
 無限回の進化(モア)の末、彼女の体は究極の美を極めていた。
 ファントムルージュである偽原ですら射精してしまう。
「偽原。キミは妻と娘を失って絶望(ファントムルージュ)したな?」
 菩薩ボイス。
 四葉は成長しアカシックレコードを読み取ることで偽原の秘密を暴く。
「モア/音玉」
 こまねが生み出した暗黒シャボン玉を生み出す。
「モア/睫毛の虹・緋色の幻影(R.o.E.Phantom-Rouge)
 シャボン玉の内側に映像が流れ出す。
 偽原にはてんで分からないが何かが起きていることだけは分かる。
「さあ。上映するよ。――ファントムルージュⅡ」
「な。馬鹿な――」
 四葉が指でポンッと弾くとシャボン玉が急速に膨張。

 四葉のネオファントムは瞬く間に遊園地を覆う。
 先行するこまねファントムを内側から割る。

「ごあああああああああああああああああああ」
 こまねの絶叫が関東一帯を駆け巡る。
 だが遊園地の四葉や偽原には聞こえない。
 なぜか?
 四葉のシャボン玉内部に大音量のファントムルージュⅡが流れているからだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 偽原光義は念願を達したと言っていい。
『ファントムルージュに勝てるものはあるのか?』
 答えは出た。
 偽原ですら狂死するファントムルージュ第二弾。
 限界(ファントムルージュ)超越(モア)し全ての成長を極めた邪悪な人間・高島平四葉。
「四葉……。お前こそファントムルージュだ」
 偽原は死んだ。
「ありがとう」
 四葉の生み出したファントムルージュ空間は膨張し続ける。

 そして生者をのみこみ殺す。
 殺す。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

終章


 ネオ・ファントム空間は日本を越えて膨張し続けた。
 ファントムの闇はやがて地球を飲み込むであろう。
 地球人はファントムに耐えうるか?
 否。世界はファントムに染められるだろう。
「……」
 そして四葉の本当の夢が叶うだろう。
 本当に青臭い夢。だけど心から願ってる夢。

 四葉は偽原の言葉を思い出した。
『俺に……ファントムルージュに勝てるものがいれば、そいつが最強だと認めてやろう。だが、もし一人もいなければ……世界は、真の滅びを知ることになる!』
 世界は滅びた。
 次は宇宙。

 宇宙征服。

 ファントムの闇は宇宙すらも蹂躙しうるだろうか。
「宇宙は、真の滅びを知ることになる」
 ぽつりとつぶやく四葉。
 楽しいけれどなんだか悲しくなってきた。
 ――だれもファントムルージュを越えられやしないんだから。

                     終








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