第一回戦【水族館】SSその1

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dangerousss3

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第一回戦【水族館】SSその1

――大会本会場より徒歩数分。

この荒廃した東京に何故か存在する水族館に足を踏み入れた所で、
俺は本日一回目の落雷を受けた。

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内亜柄影法 第一回戦 『ライク・ア・サンダーボルト』

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雷撃と、同時に流れ込んでくる大量の情報に脳髄を焼かれる。

「何……ッだ、こりゃあ……」

幸い肉体的なダメージはないようだ。
タバコを一服して頭を整理する。

(チッ…面倒くせえ相手と当たっちまったな)

さっきの落雷は…対戦相手、紅蓮寺工藤の特殊能力らしい。マジでろくでもねえ女だ。
特殊能力の詳細は…wikiでも見ろ。そっちのが早い。

つまり『そういう能力』だ。だから俺も奴のことを『知っている』。

「ハァ~~~~~~」

紫煙とともに大きくため息を吐き出す。
さて、んじゃまあ、なるべく盛り上げて倒すとするか。メンドクセーーーーーけど。
『この大会』のルールも理解しちまったからなァ。

まずは…鎌瀬とかいうガキからだな。名前からして噛ませ犬だしな。
あいつと戦うためには、アレが欲しいな。
まあ水族館だし何処かにあるだろう。あることにしといてくれ。『中の人』。

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ほぼ同時刻。

鎌瀬戌はその異常な状況を飲み込めずにいた。

「ヒヒヒヒ……あのさァ、つまんねーーーーー物語ってどういうのか分かるか?お前」

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目の前の女がわけのわからないことを喋っている。

「山なし!オチなし!意味なし!……ってェとこか?ヒヒヒ」

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こめかみに空の拳銃を突きつけながら喋っている。

「つまんねェ物語を書きたきゃ、そういうのを書きゃあいいんだよな。ヒヒヒヒヒヒヒ」

「お、お前……何なんだよ……ッ!」

ギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラ

「おれが何かだってェーーーーー……?んなこたァもう分かってンだろォーーーーー!?」

「……」

鎌瀬は油断なく鎖鎌を構えながら逡巡する。
この女の言うとおりだ。『あの特殊能力』を受けた以上、ほとんどの状況は『理解できる』。

「なあお前、勝たせてやろうか。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

ギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラギャラ

だからこそ。
この女が何を考えているか不気味で、恐ろしく感じる。

「ルール理解したか?ルール。ヒヒ。お前このSSじゃあ負けること確定してるんだぜ。ヒヒヒ」

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耳を貸すな。
油断するな。

「じゃあどうすればいいかって?うん?」

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「おれとおまえが!今すぐ!ここで!無意味に死ねば!このSSはクソになるって算段だゼェーーーーーーーーー!」

「お前…何言って…ッ!?」

唐突に響く爆音!
割れるガラス!
熱と衝撃に弾き飛ばされる!

「っぐ……!」

なんて女だ!
わかっててもそんなことするかよッ!

「ひ……ヒヒヒ……ってェーーーーー……。ヒヒヒ……」

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「おいおい、あのアバズレ女……マジでやりやがった……」

――この大会の性質上、俺のプレイヤーがこのSSを書いている以上、俺の勝ちは決まっていると言っていい。
じゃあ俺以外が、『負けると分かっていて』なおかつそれでも『勝とうとする』場合。
……普通なら、戦ってなんとか勝とうとするだろう。

だが、この会場には――紅蓮寺工藤がいる。
すべてルールを把握した上で、他人のプレイヤーのSSの中での最善手は。

『自分のプレイヤーのSSよりもつまらないSSを書かせればいい』

……いや、紅蓮寺の『中の人』はそんなことを微塵も考えていないと思う。
だが、今コレを書いてる『俺のプレイヤー』がそれを『思いついてしまった』。
しかも、『紅蓮寺はキャラ的にそういうことをしてもおかしくはない』。

――とりあえず、紅蓮寺のプレイヤーの方にはこの場を借りて謝っておこう。

さて少々文字数を使いすぎたな。
スマートに決着と行こうか。


「全く、派手にやりやがったな。クソ女め」

俺が現場についた頃には、水槽のガラスは粉々、辺り一面水浸しのそりゃあ酷い有様だった。
鎌瀬は……少々吹っ飛んだようだが生きてはいる。紅蓮寺も……あいつは放っておこう。

「俺は……強くなったんだ……あの頃とは違う……」

爆発の衝撃で少々意識が混濁しているようだ。
このままとどめを刺すのは簡単だ。だがそうも行かねえんだな。面倒だが。

「いーや、お前はあの頃と一緒だ。不良品の姉ちゃんに守られてた、不良品以下のままだ」

『冷たい』言葉で挑発する。
能力発動。右手に刃を生成。

「お前……!姉ちゃんの事を馬鹿にすんな……!」

満身創痍の鎌瀬がこちらを睨む。
そうだ。もっと怒れ。戦え。

鎌首をもたげた蛇のように、鎖鎌が襲いかかる。
回避。咥えていたタバコをかすめる。

その直後、逆側から鎖分銅。
これも回避。
鎖に捕まるのだけはまずい。

「まだまだガキだな。そんなガキのお前が、姉ちゃんを殺した」

さらに『冷たく』突き放す。
能力発動。左手に刃を形成。

「うるせえ!俺は!もうガキなんかじゃねえ!」

ボロボロの服の下から蜘蛛糸のように伸びる鎖。
慎重に距離を取る。

急激にその場が電荷を帯びる。
どうやら鎌瀬が能力を使ったらしい。

<<ヒトヒニヒトカミ>>。
発動まで3秒。

「そりゃねえだろ」
「これでいい」

鎌瀬がその場から飛び退く。
発動まで2秒。

「濡れてるからな」

右手の刃を投擲。
発動まで1秒。

「しまッ」
「逃がさない」

足に鎖が巻き付く。
能力発動。

これが、本日二回目の落雷だった。

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「……やったか?」
「いや、やってねえよ」
「!……ッ」

鎌瀬は飛び退こうとしたが、いつの間にか足元が凍っていた。
胸に冷たい刃が刺さる。

「まあこうまで予想通りになるとは思わなかったが……ちょっとご都合主義過ぎか」

ボロボロのスーツの下にウェットスーツを着込んだ内亜柄がつぶやく。

「とりあえず、クソアバズレの方もこんがりウェルダンになって頂いたようだし」

紅蓮寺にトドメを刺してしまえば、「対戦相手」以上の関係ができてしまう。
それはゴメンだな。俺は自由を愛する男なんだ。こう見えても。

胸ポケットのタバコを探る。
ポケットに穴が開いているようだ。タバコはない。

「……ちっ、シケてやがる……」

ボサボサの頭をガリガリと掻きながら、戦場を後にする。

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内亜柄影法 第一回戦 ……どうやら勝利。

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