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第二回戦【城】SSその3 - (2013/05/23 (木) 16:39:44) のソース

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*第二回戦【城】SSその3
◆       ◆

 勧告しよう。

 あなたは、このSSを最後まで読むことが出来ない。

◆       ◆


≪sight:遠藤終赤≫


「何ですか、これは」

 遠藤終赤は困惑していた。
 ステージ『城』。目高機関が設えた和風城郭、その内部。
 対戦相手の二名に出会った時、彼女は、早くもその推理力を総動員せざるをえなかった。
 その足元を、ネズミが通りぬけていく。

「……興味深い『証言』です」

 その困惑は、紅蓮寺工藤の能力【創作の祭典】によって伝えられた、
 『この世界はSSである』
 『読者投票によって正史が決まる』
 そして、
 『このSSは黄樺地セニオの作者によるSSであり、彼の勝利が確定している』
 などの、無数の真実に対してのものであったり、

「ヒヒヒ、あ、あったかくなってきちまった。あったかくなってきちまったよォー!」

 廊下に飾られた武者鎧の腕に跨って、角オナニーをしている狂人であったり、

「ヤッベwwwてーことは俺なにもしなくても勝てるってことじゃぁんwww
 神に愛されてるオレ流石すぎwwwww」

 廊下の壁から、“下半身だけを生やした”チャラ男であったりした。

「マジ最高ウィッシュ! じゃーのんびりすっかー、試合とかチョーめんでーもん~www
 いやーチョー焦ったわ~wwwどーしよーかと思ったしィwww」
「ヒヒ ヒヒヒ! い、いいケツしてやがる! ハァハァ……ハァハァ……!」
「ちょwwwクドーちゃん声エロっwwwヤベー超見てー超ヤりてぇ~wwwでも動けねえwwwマジ勘弁ww」

 左斜め前方。紅蓮寺工藤。武者鎧の腕に自らの股間を押し付けて愛撫している。
 右斜め前方。黄樺地セニオ(下半身)。上半身は向こう側に貫通しているようで、声は聞こえる。

「……なるほど。ポータルですか」

 ひとまず、最も簡単な真実から推理する。
 セニオは、ポータル移動で三割の確率を引き当てて失敗し、今『かべのなかにいる』のだ。
 なんという不運。いや、むしろ即死していないだけ幸運か?

「ハァハァ……ウッ! あー! ああ゛~……!」

 ギャリギャリギャ リギャリギャリと、紅蓮寺がこめかみに押し付けた銃を鳴らす。声のトーンがどんどん高くなっている。

「ヒィヒ、ヒヒヒ! ――なんだァ、ケツ男! 世界平和か! いいねえ!
 平和になったら楽しいことしかないもんなァ! 素敵になるぜ! ヒヒヒヘハハハ!」
「ウェーイ、だろだろ~? ヤベッショ? パネッショー?wwwだからさァクドーちゃぁん、ちょっくらここ出るの手伝ってくれね? 
 ヨッキュウフマンなんだろ?wwwここヌケたらさァ、満足させてやるぜぇ、どーよwwwwwww
 ま、どうせオレが勝つのは分かってるんだしさァ、楽しもーぜぇ?www」
「ヘヘヘヒヒヒヒヒ!! イヒ、イヒヒッ! ヘヘヘヘヘヘ!! 誘ってやがんノかァ?
 誘ってやがる ぜこのケツ男! ケツのくせに! ああ~、ちんこがあったら掘りてぇなァ!」
「…………」

 帰りたい、と終赤が思ったかどうかは定かではない。
 一見、というよりどうみても隙だらけでしかない二人に対し彼女が攻撃を加えないのは、言わずもがな、警戒しているからである。
 セニオが勝利する運命。そして、それを伝えてきた奇怪な能力。
 それに対し、迂闊に行動するのは命取りになりえると判断したのだ。
 廊下の端を、ネズミが走り抜けていく。
 直後、ぐりんと、異様なまでに上半身を反り返らせた紅蓮寺がこちらを見据えた。

「ハァ、ハァ、――ウッ! 大日本軍事探偵制ェ? ヒヒヒ! 勘弁してほしいなあ!
 おれは探偵は嫌いなんだ! なあ、『エンドウ 』! ヒヒヒ!」
「む」

 その呼び方に妙な敵意を感じ、咄嗟に終赤は、指先を紅蓮寺に向けた。

「犯人は――」

 その一連の動作は、弓道の射法八節にも似ている。
 足踏み。胴造り。弓構え。打起こし。引分け。会。離れ。残心。
 それと同じように、終赤は古来より先人によって積み上げられた&ruby(フォーム){形式}に則り、致命となる&ruby(すいり){矢}を撃つ。

「――お前だっ!」

 射法八節ならぬ、推理法八節に則って放たれた桜色の推理光線は、しかし紅蓮寺の、ゴム人形のようなぬらぬらとした動きで容易くかわされる。
 当然だ。『犯人はお前だ』『意義あり』『それは違うよ』など、推理光線の類似の使い手は大勢いるものの、その共通項は一つ――推理 光線は『真実』を捉えるもの。
 状況把握段階の終赤が放っても、その命中率は半分以下もいいところだ。

「ヒヒヒ! 怖い怖い! ――私は犯人じゃないの、お願い信じて! ――だったら証拠を見せてみろよ、探偵さんよぉ! ――そんなことどうでもいいだろう、それがなんだってんだ! ――俺を疑うたぁいい度胸じゃねえか、間違っていたらただで済むと思うなよ。 ――おれは殺人犯と一緒にいるなんてもうたくさんだ、先に帰らせてもらうぜ!
 ヒヒヒ! 似てたか? 似てたかよ、『エンドウ』! ヒヒヒヒ?」

 紅蓮寺はサーカス、あるいはポールダンスのように、巨大な甲冑にぐるぐるとまとわりつきながら、挑発的な百面相を見せる。

「お?wwwなに、シューカちゃ んもいるの?www顔見せてよォーマジでwwwカワウィーんでしょー?www
 てかオレさっきから下半身でしかコミュれてねえ!wwは!wwwコレハセックス?www
 うそうそwww冗談だってwwwアメリカンwwwジョークゥwww」

 暢気極まりないセニオの言葉が不快だ。
 【創作の祭典】の真実も、彼にとっては『何をしなくても勝てる』以上の意味を持たないのだろう。
 チャラ男ストラはかく語りき――シリアスな事象を理解出来ない、思考停止の力。探偵とは、まさに対極の存在だ。

「なあ! どうすればいいと思う? どうすればイイと思うゥ……?」
「な、何を、……ですか?」

 甲冑の頭に足を掛け、逆さまにぶら下がりながら、紅蓮寺が問う。

「ルールさァ。ルール。分かってんだろ? おれはよ、面白ければ生き残れるんだよォ。
 面白さ絶対主義だぜ、偉大なるGM様のお達しだァ……!」
「GM……?」
「だからさァ……打ち切るんだよォ……このSSは、おれのじゃあねえからなァ……」
 
 足元を駆け抜けるネズミ。先程から妙に多い。どこか奇妙なシルエット。何かを、背負っている?

 終赤がそれを注視しようとした時――びょん、と紅蓮寺が跳んだ。
 終赤に跳びかかり、押し倒す!

「ヒヒヒハハハハハ! だからこう言うよな!
 ご愛読ありがとうございましたァー! ってなあ!」

 がしり、と肩を掴まれる。予想外に強い力。
 終赤の顔が歪む。痛みからではない、自らが、真実を見落として いたことへの自責だ。
 ――ネズミに取り付けられたもの。いやというほど見慣れた存在。
 粘土めいた暗色の固形物。あからさまなタイマー。張り巡らされたコードの中でひときわ目立つ、赤と青の二本線!

「ヒヒヒ! 城によォ! &ruby(プライベート・アイ){  探  偵  }がいるんだぜェ?」

 紅蓮寺が叫ぶ。

「そりゃあもう『爆発オチ』しかねえよ! ねえよなァ! ヒヒヒヒ!」

 城が、震動した。
 ひと際大きな爆音に続き、続けざまに起こる震動、衝撃、爆音、爆音、爆音――!
 ――紅蓮寺工藤は破壊のエキスパート。同時に、その頭の回転は決して悪くはない。
 彼女はここで自慰行為に耽りながら――否、恐らくこの場に辿りつく前、試合開始直後か ら、捕まえたネズミに時限式の高性能爆薬を仕掛け、城中にバラ撒いていたのだ!

「お?wwwなになに? どぅーなってんのー?ww」
「ウヒヒヒヒヒ! なァ! 開始直後にステージ全爆破とかよォ……『ステージ特性を活かせてないSS』っつう評価がされても、仕方ねえよなあー!
 ヒヒヒハハハ! クソだぜ! クソだぜこれはよォ! エレメンタルジェレイドも真っ青な爆発オチだぜェー!」
「くっ……放しなさいっ!」

 道連れを厭った終赤が、紅蓮寺を華麗に投げ飛ばす。サッカー、フェンシングに並ぶ探偵護身術の一つ、バリツだ。
 ――爆発崩壊する城からの脱出!
 どちらかと言えば『怪盗』の領分に近いものの、確かにそれは『探偵』が想定すべきシチュエーショ ンの一つだ。
 だが、彼女の流派は『本格派』。そこまでアクションに特化していない。

「ヒヒヒ! 最初からクライマックス……? それじゃあ名作だろーがよォ……
 おれはよぉ……最初っからエンドロォォォォォォーーーール! だぜイヒヒヒヒヒヒ!」

 ――なお、エレメンタルジェレイドはアニメ化もした月刊ブレイド連載の漫画であり、武器に変身する少女と空賊の少年との冒険ロマンファンタジー作品である。
 七年にも及ぶ長期連載を爆発オチで投げたことで一部で批判殺到である。

「ツッデッデッデ! デッデデデッド! デッデデドッデッデッデデデン♪
 ツッデッデッデ! デッデデデッド! デッデデドッデッデッデデデン♪
 ツッデデッデッデデンデン!  ツッデデッデッデデンデン♪」

 紅蓮寺は崩れる天井を仰いで、イチローめいた地球滅亡のテーマを調子よく歌う。
 当然ながら、瓦礫から逃れる気などない。

「お?www抜けたァー!wwww」

 びしびしびし、と左右の壁に亀裂が入る。
 その亀裂に乗じて、壁からすっぽ抜けた土だらけの影。

「ハージメマーシテェェ~、クドーちゃんにシューカちゃぁん! 黄樺地セニオ、でぇぇぇぇーーーっすウェーイ!!ww
 出してくれてマジサンクスペテルブルクゥー!www試合終わったらドゥー? 遊びにいかねー?wwwってうわ城崩れてねこれ!?ww ナニユエ!wwマジ勘弁www」

 しかし、慌てた様子のセニオは、紅蓮寺と同じく何ら対応を取ろうとしない 。

「ま☆いぃーや! だってェ?wwオレ勝つこと決まってるわけだしィー?」

 崩れゆく城の中で、四方八方を向いては、何やらキメたポーズを取る。
 どこかから見られていると思っているのだろうか。

「ウェーイ見てる? 見ーてーるゥー作者サァン?wwwカッコよく勝たせてよォー?ww
 しっかりとねー、あ、それとも名前で呼ぶかァ? ――ちゃーんと書いてよォー、ア」

 その影が、――崩れ落ちる瓦礫に飲み込まれた。
 腹を抱えて笑い転げる紅蓮寺。

「く……!」

 震動する城の中で。
 終赤は、ギリと奥歯を噛んだ。悔しさからではなかった。

「これは、使いたくはありませんでしたが……!」

 ――そして、全てが崩壊した。

◆       ◆


≪sight:紅蓮寺工藤≫


「――――あァ?」

 紅蓮寺工藤は、当惑した。
 持ちこめた爆弾にも限界がある。流石に、城外部の石垣や堀ごと丸ごと解体、とはいかなかった。
 だが彼女の爆破技術もあり、少なくとも、彼らのいた建物は完全に崩れた。
 焦げた柱が露出し、壁はことごとく土くれとなって風に流され、天守閣のシャチホコが、瓦と木くずの中に埋もれている。
 瓦礫の山に、ひゅう、と風が吹き、

「『スマート・ポスト・イット』」

 すぐ上で。特大の瓦礫が、ケーキのように『分割』されて、左右に転がった。

「う……」

 ぽたりぽたりと、血が零れる。
 彼女の上に、体積を奇妙に減じた遠藤終赤が、その全身を血塗 れにして立っていた。
 庇われていた。

「ちょっちょォーウ!wwwダイッジョブかシューカちゃぁん!www死ぬなーwww」
「お気になさらず。……終赤、良い仕事です」
「気にしないで、終赤。あなたも上手くやったみたいだね」

 少し離れた位置で、半分になった終赤(B)が、同じようにセニオを庇っていた。
 もっともこちらは、セニオ自身が途中からポータル・ジツによる傘を張ったらしく、かなり軽傷である。
 身を護るつもりのなかった紅蓮寺の周囲には、『分割』された瓦礫が無数に転がっている。
 割合自在の分裂能力『スマート・ポスト・イット』。
 それは逆に言えば『あらゆるものの体積を自在に分割出来る』ということでもある。
 大きな瓦礫を触 れた端から分裂させ、身を守ったのだ。だが――何の為に?

「ヒヒヒ……なにしてる? おれに惚れたのかァ? ヒヒヒヒヒ! レズかお前ェ?
 それともアレか? あっちのケツ男か? カルいのが好きってか! ヒヒヒヒ?」
「……いえ。あなた方を……助けたのは、拙の、信条から……」

 そして終赤(A)は、血塗れの終赤(B)を呼び、「再結合」する。
 両方の損傷が同化する。少女の額が裂け、口の端からつうと血が零れる。
 終赤はがくりと膝を折りそうになるが、彼女は左手首の腕時計を自分の首筋に当てると、何らかのスイッチを押した。
 ぷしゅ。時計型麻酔銃に仕込まれたモルヒネが、一時的に彼女の意識を覚醒させる。
 既に耐性が出来ている彼女にとって、 大の男をも眠らせる麻酔も、ちょっとした栄養ドリンクのようなものだ。

「――叔父上は仰っていました」

 怪我を一切感じさせずに、ゆるりと少女は歩を進める。
 その様は、先程まで紅蓮寺とセニオに翻弄されていた姿と同一には思えない。
 彼女の奥歯に仕込まれていた、常人ならば致死量のZBR粉末麻薬は、彼女の混乱した思考を洗い流していた。

「犯人を死なせる探偵は犯罪者と同じだ。殺るのなら、己が推理光線で撃ち殺せ、と」

 そして彼女は――崩壊の間に『推理』を終えたのだ。

「…………」

 紅蓮寺工藤は、動けなかった。
 彼女の、外面に似合わない明晰な頭脳が、この時、最大限のアラートを鳴らしていた。
 まずい。
 まずい、まずい 、まずい、まずい、まずい。
 これは。この『ノリ』には、覚えがある。
 あの忌々しい男が、時折見せていたものと同じだ。あの、神に愛された万能の天才。
 目の前のコイツと、同じ名と、同じ肩書きを持つ、最悪の同志!

「――それでは、解決編を始めましょう」

 “探偵が真相を語る時、何人たりともそれを妨げること能わず”。
 第四の壁を越えし狂人は、だからこそ、誰よりもそれを理解していた。

「へ……? 解決? 何を解決するんだよ、事件なんて、ナンも起きてねーじゃん?」

 セニオの問いに、終赤は穏やかに答える。

「探偵が解くのは、殺人事件とは限りません。世界全ての欺瞞が、探偵の追求の対象です。
 ……セニオ様。一つ確認したいので すが、貴方がラーニングした彼女の能力はどのような内容でしたか?」
「は? ……クドーちゃんの、」「おれの、能力ゥ?」

 奇妙な質問に、一同が首を傾げる。
 ――異常な光景だった。
 セニオと紅蓮寺、どちらもこんな言葉で大人しく従う器ではない。
 だが、今この場は、彼女の&ruby(かいけつへん){領域}なのだ。
 古来より、探偵は「場」を呑む力を持つ。
 話術。緩急。態度。雰囲気。叙述。それらを使い、容疑者から、証人から、有力な証言を引き出すのだ。
 今この場において、全てのファクターは探偵の為に回る。
 火曜日夜の湯けむり温泉旅館、あるいは福井県の断崖絶壁にも酷似した特殊空間。
 
「さっきクドーちゃんからコピーした奴? え、どっちの 方?」
「どっち? ……この世界が創作された世界であるというものですよ。ラーニングは出来ていますよね?」
「ああ、落雷の方か。えっと――能力名は『創作の祭典 -フィクション・ファンクション-』。
 効果は『「自分が物語の登場人物であること」を理解する能力。』制約は『術者と関係性を持っている間』だったっけかなあ」
「間違いはありませんか、紅蓮寺様」
「ヒヒヒ――そうだなァ。この世界はSS! 面白ければ生き残り、つまらなきゃ死ぬ。
 面白い限り、おれは絶対死なねぇ――」
「それは、本当ですか?」

 放たれた言葉に。
 紅蓮寺が、へらへらとした狂人の笑みを、大きく歪めた。

「な――にィ……?」
「『理解する』能力。ですがそれは、他 者を対象としている時点で、『理解させる』能力、更に言えば『認識を強制する』能力――そう言い変えられます」

 認識を感染させる。自己の認識を、他者へ強制する。
 それは、魔人の基本能力だ。魔人能力の一般的な原理である。

「ちょ……ちょっと待ってくれよ、探偵サン」セニオが狼狽して言う。「じゃあ何だ? オレが勝つってことも、この世界がSSってのも、全部クドーちゃんの妄想ってことか?」
「ヒ――ヒヒヒ、何言ってやがる?」

 紅蓮寺が馬鹿馬鹿しい、とばかりに笑う。

「wikiがあンだろうがァ! GMも! ダンゲロスSS3は、確かに開催されてるんだよォ!
 勝てれば生きる! 負ければ死ぬ! 中の奴らが掲示板に書いた感想も、あンの大惨事なラ ジオの内容も、記載されたテメエらの情報も、全部おれの妄想だってのかァ?
 ヒヒヒヒ! 探偵ってのはイイ仕事だねェ! 妄言を吐くだけでいいんだからよォ!」
「いいえ、そうではありません。――あのwikiも、ダンゲロスSS3も、このSSを書いている中の人の存在も、――架神恭介様も、また実際に存在しています」

 終赤が一転、紅蓮寺を肯定した。
 かに、見えた。

「何故なら、紅蓮寺工藤様。貴方は、魔人なのですから」
「……ヒ? ――はァ!?」

 放たれた言葉を、瞬時に理解出来たのは、紅蓮寺だけであった。
 終赤が、この解決編で語る『真相』、その要を。
 遠藤終赤が、静かに、指先を上げる。

「そちらが先とは、限らない」

 一片の乱 れ無き、推理法八節を踏む。

「『自分は実体化した小説のキャラクターである』という認識が先にあったとしたら?
 紅蓮寺様はそもそも小説内のキャラクターなのですから、その認識を持つこと自体は間違っておりません。
 しかし、それを、他者にまで――読み物『アンノウンエージェント』とやらの登場人物ではない、現実の拙たちにまで感染させてしまったのが、全ての矛盾の始まりなのです。
 その結果。
 この拙たちの現実にまで、本来なかった上位次元『ダンゲロスを創った世界』が生まれた」

 その指先に、桜色の推理光線が灯る。

「彼らは、ダンゲロスSS3の世界を書いている。それは確かでしょう」

 光量が増す。

「――ですが彼らは同時に、『自分 たちは誰かに書かれた存在である』という認識を現実に変えた、紅蓮寺様の能力の産物でしかない。
 我ら三人の、それぞれの中の人。此度のGKを担う陸猫様、仲間同志様。それらを育むあちらの世界の人類の歴史。魔人のいない世界。ダンゲロス世界を作り上げた架神恭介様。
 ふふ、架神恭介。「恭しき」「架空」の「神」――まさに誂えたような名ではございませんか?」
「な、な、な……」
「貴方が絶対視している彼らもまた、紅蓮寺様と同じ『実体化された架空のキャラクター』に過ぎない。
 それが貴方の能力――【創作の祭典】の『真相』です」

 撃ち放たれた桜色の推理光線が。
 紅蓮寺工藤の眉間を、迷うことなく、穿った。 

◆       ◆


【sight:黄 樺地セニオ】


 黄樺地セニオは幻惑されていた。

 何故なら、チャラ男とはすなわち、『無知な大衆』の極地である。
 彼らは被害者として、犯人として、証人として、ブラフとして、探偵が挑む真実の担い手であり、同時に障害である。
 それゆえに、大衆と対する為に探偵が手に入れた「場」の支配技術――扇動・操作技術は、チャラ男の王たるセニオに対し、完璧以上に作用していたのである。
 それゆえに、彼は終赤の『真相』――『紅蓮寺の能力は、彼女の思い込みを周囲の人間に強制するもの』であり、中の人、GMなども架空のキャラクターに過ぎないという推理を、完全に信じ込んでいた。

 ――それが欺瞞であるということなど、気付きもしない。

「ふむ」

 紅蓮寺の死体を確認し、遠藤終赤は頷く。
 ――今の『解決編』。
 あれは真相でこそあれ、真実ではない。
 何故ならあの理論で証明出来たのは、両者の関係性の可能性のみである。
 我々は鶏によって産まれた卵なのだ、という紅蓮寺に対し、いや違う、実は卵が先だったのだ、と言っただけに過ぎない。
 卵が先か鶏が先か。どちらが先なのかなぞ、証明は出来ないだろう。
 少し考えれば分かることだ。紅蓮寺も、試合を終えて復活した頃には、自分が謀られたことに気付くだろう。
 欺瞞と言えばあれこそが欺瞞。否、欺瞞というよりも

「『戯言』……推理とは程遠い、下らぬミステリの代物でございますが。
 まさか使う羽目になってしまうとは。叔父上、終赤はまだ未 熟ですね……」

 だが、それは、一時的にせよ紅蓮寺の心を揺さぶり、推理光線を当てうるだけの『真相』となった。
 『真実を追求するのが探偵の役割だ。だが、真実をどのような形で「真相」として露わにするかは、探偵個人の心がけでしかない』。
 それもまた、叔父上が彼女に言った言葉である。
 無論、その思惑も何もかも、セニオの考えの及ばぬところである。

「では――黄樺地様。お覚悟を」
「は、ちょ、探偵さん!? 勘弁して下さいよ、オレだって役に立ってたッショ!?」
「それとこれとは別。あくまで試合ですので。ご安心ください、この大会の医療関係は万全。一部の例外を除けば、ほとんどの損傷は回復致します」

 向けられた指先に慌てて両手を振るも 、セニオは、終赤に抵抗することは出来ない。
 彼は、終赤の「場」にこれ以上なく呑まれている。
 既に、証拠の補強者として、または話を先に進める為の幼稚な疑問点の開示役として、『無知な大衆』としての理想的なムーヴを取らされてしまっている。
 終赤の呼び名が「シューカちゃん」から「探偵サン」に変わっているのが何よりの証拠だ。
 そして、犯人にすらなれなかった観客に、終赤の無慈悲な推理光線を放たれる。

「ちょ、『セット』! 『スマート・ポスト・イット』ォ!」
「む」

 セニオは、左右ニ体に分裂したことで、かろうじて推理光線をかわす。
 左右対称に、瓦礫に尻もちをつく。割合は綺麗に半々。終赤の瞳が本体を見極めようとし、すぐに無意味だと 考え直して指先を掲げ直す。

「所詮、土壇場での言い逃れに過ぎませんね」

 無知な大衆が一人から二人になったところで、無知なのは変わらない。
 それに、肝心要である終赤の推理光線『一ツ勝』を、セニオはコピーすることは出来ない。
 このまま片方ずつ潰していけば良い。彼女はそう判断した。

「……ウェ?」「……ーイ?」

 だが。
 分裂した二人のセニオは、互いを見交わした。

「ちょ、」「マジで?」

 そのときセニオの胸中に訪れたもの。
 それは、――圧倒的なまでの、歓喜だった。

「「ゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッツウェェェェェェッェエエエエエイ!!!!!wwwww」」
「な!?」

 終赤が構築した「場」を容易く弾き飛ばし 、二人のセニオが飛び上がる。
 二人がハイタッチ。両手をピストル状にして指差し確認。続けてウィッシュ。 

「ウェーイ! オツカレィ!www」「オツカレィ!wwソレナwwチョーなっつwww」「シューカちゃんヨロ~wwwwハジメマシテェ~セニオでぇーっす」「あ、オレもオレも~、ハジメマシテ、セニオでぇーっす!」「同じじゃんwww」「意味ナッシングwwwサムスwwww」「サムス度パネーww」「ウェイウェーイ! で、やるしかなくね?」「てかシューカちゃんマジアレじゃね?」「マジマジ! シューカちゃんアレすぎっしょ!」

 読者の皆さんは、少し考えてみてほしい。
 たとえば、道端を歩いている時、進行方向にチャラ男が一人いた。
 あなたは、そ れを避けて通るだろうか?
 避ける人もいるだろう。だが気にしない人もいるだろう。そもそも、それがチャラ男だと気付かない人もいるかもしれない。
 だが――これが、『複数人のチャラ男が集まり、盛り上がっている』ときならどうだ?
 誰もが心なし距離を置いて、あるいは大きく迂回して通るのではないだろうか?

「黄樺地様……貴方は、まさか――!」

 そう、終赤は見誤っていた。
 今までの大会中、セニオの実力を大幅に減じさせていた、一つの事実を。
 ――チャラ男とは、本来、『群れで生活する生き物』なのである!

「くっ、私は、」
「ウェエエエーイ!」「ウェイウェーイ!」

 再び場を支配しようとするが、それもセニオの放つ笑い声――往年の 力を取り戻した、チャラ男文明に伝わる古のパワーワードによって、容易く弾かれる!
 かつて、鎌倉時代は宇治拾遺物語。翁が「ゑい」という掛け声で酒席を盛り上げるシーンが存在する。
 いわばそれは無礼講の表音言語であり、終赤の操作力を弾いて余りある!

「シューカちゃん、カッワウィーネー!www」「あと二年後に期待ってヤツぅ~!ww」「いやいや十分っしょ! あ、でもおっぱいはもうちょい欲っしっい~?」「マザコンかよお前www」「いやお前はオレっしょwwww」「マジでか!www超ビビるぅ~!wwww」「マジだし! マジ勘弁だわ~!ww」「ウケるwwww」

 分裂したチャラ男。一人でもチャラいセニオが二人!
 そのウザさは当社比二倍、いや二 乗か!
 本来は実力も二等分になるはずのスマートポストイットによる分裂も、軽薄さこそが取り得であるセニオにとって、体積が減ることはむしろパワーアップですらある!

「『セット』www『ポータル・ジツ』ゥー!」「『セット』www『スマート・ポスト・イット』!wwww」「遊ぼうぜシューカちゃん!」「ウェイウェーイ、シューカちゃんのぉ~、ちょっとイイとこ見ってみったい~!」「仕事なにシテンノー? 探偵? マジメー!www」「タイホされちゃう~どっしよ~!wwwはははははは!wwww」
「ふ、不覚……!」

 異様な騒がしさを持った二人が、終赤を翻弄する。
 周囲は未だ、紅蓮寺によって破壊された瓦礫の山である――だが終赤は、まるで自分が、休 日のゲームセンター、あるいは金曜日夜の飲み屋にいるかのような錯覚を覚えさせられていた。
 ドーピングの効果も限界に近い。状況はまさに最悪だと明晰な頭脳が伝えている。

「……いいでしょう」

 だが、それでも終赤には、名に知られた遠下村塾の探偵としての誇りがあった。

「私は未熟だった。……なればこそ、全力で向かわせて頂きます!」

 加速度的に蔓延するチャラさを、徐々に掌握していく。
 推理法八節を、必死で練り上げる。伏線を踏み、フーダニット、ハウダニット、ワイダニットを造り、証拠を構え、トリックを打ち起こし、アリバイを引分け、犯人と会い、心を残して真相を放つ。

「ウェーイ!wwww」「犯人は――!」

 今ここに、チャラ 男VS探偵の、この試合最後の戦線が幕を上げる――

◆       ◆

【sight:  you  】

「――ん?wwww」

 あなたは見る。
 セニオの片割れが、ふと何かに気付き、動きを止めるのを。
 彼は、背景で戦う己が半身と終赤には目もくれず、ふんふんと何度か頷いている。

「あー、成程、これってそうやって使うのかよwwwわっかりっづれーぇwww」

 ふと、あなたは思い出す。
 セニオが先程、終赤に【創作の祭典】の能力説明を求められた際、奇妙な答え方をしていたことを。

 ――さっきクドーちゃんからコピーした奴?
 ――え、“どっちの方”?

「『セット』ォwwww『&ruby(アン・ノウン・エージェント){ 創作 の 再転 }』 wwww」

 能力名。【創作の再転 -アン・ノウン・エージェント-】。
 能力。架空のキャラクターの召喚。メタ関係の把握。
 制限。干渉出来るのは、術者と創作的につながりのある存在に限る。

「ウェーイwwww」

 あなたは、その能力名を知らない。
 だが、その能力の存在を、wikiの紅蓮寺工藤の項目で読んで、知ることが出来る。

 ――それは、ネット小説「アンノウンエージェント」の作者が持つ魔人能力だった。
 紅蓮寺工藤という、架空のキャラクターを現実に実体化させた力。
 その副産物でしかない【創作の祭典】の規格外さから見ても、まず埒外の異能であることは推測出来るだろう。
 そして、セニオの強力無比なコピー能力のラーニング条件 は、『能力存在の認識』である。
 紅蓮寺の存在を知覚し、【創作の祭典】によってその背景設定を把握した瞬間、彼はこの能力をもコピーしていた。

「ウェイウェイウェーイwww」

 ただし。
 この能力、いささか過剰な効力を得てはいるが、基本的には、『アンノウンエージェント』の作者が、自作品のキャラクターを現実に呼び出す為に得た力である。
 しかし、黄樺地セニオはチャラ男である。流行の漫画や映画こそ、まあそれなりに追うものの、創作そのものには縁がない。
 制限を満たす、「創作的につながりのある架空のキャラクター」が存在しないのだ。
 本来ならば、コピーしても、何の意味も無い能力。
 ――本来、ならば。

「ん~、ンッン~?wwwww 」

 彼は何やら、四方八方に手を伸ばしている。
 どこかから、見られていると思っているのだろう。
 事実、それは正しい。あなたは、彼を見ているのだから。

 ――本来ならば意味のない能力。

 さて、あなたはどう思うだろうか?

 セニオが【創作の祭典】によって、メタ設定を感知している現在。
 終赤の真相ならぬ戯言を、無知な大衆として信じてしまっている現在。
 セニオと、『創作的につながりのある』『架空のキャラクター』。
 魔人能力は認識に依る。

 さて、あなたはどう判断する?

 果たして、『投票という手段によって、セニオの今後の動向に干渉することの出来る』人物は、
 彼と『創作的につながりがある存在』と言えるだろうか ?

「お、いたいたーァwwww」

 セニオが、『あなた』を見た。

「ほらーァ、アンタもさあwww読んでばっかじゃタルいっしょ?www
 こっち来いよwwwwwカッモォ~ンwwwwww」

           セニオが手を伸ばしt



                    _
            /''''~ヽ.   /  ヾ
            /,___, r`i、 {'ー-' /.|
      /~' - ._  ヽ,__,,/  'i >tー' |
      }   ,i  \.  |    'i  |   |
     /ー' /、  丶'ノ     ~    |
     `- '  >,             'i
   / ̄~''-ー'               |
   .{   i        __,, -        '!、
   ヽJ_ノ`-,    /           `'''' -ー,
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        /ヽ、   ー--― ..,,,....-=ニ',    >ー'
       /             /'




◆       ◆

 あなたは、このSSを最後まで読むことが出来ない。

 ゆえに。

 この先は、貴方自身の目で確かめてほしい。

◆       ◆
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