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第一回戦【水族館】SSその2 - (2013/04/25 (木) 19:30:22) のソース

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*第一回戦【水族館】SSその2
コツコツ、と地面を叩く音。
ひっそりとした空間に靴の音だけが響く。
 
「魚、ねぇ。ただ魚が泳いでるのを見て楽しいと思うもんか・・?」
 
ザ・キングオブトワイライトの参加選手の一人、鎌瀬戌は水族館の通路を歩いていた。
一般的な施設の通路における壁は水槽になっていて、海水の放つ青い光が幻想的な雰囲気を醸し出している。
10歳になるまで檻の中で管理され、その後スラム街で育った戌にとっては水族館など縁のない娯楽施設であり、話には聞いていたが実際に入館するのは初めてである。少しは珍しがっても良さそうなものだが、彼の言葉が示す通り水槽の中にはまるで興味がないようだ。
そして現在彼は水中を煌びやかに踊る海洋生物の鑑賞を楽しめるような状況ではなかった。戌がここに来たのは戦う為、つまりこの水族館が大会で指定された試合場なのである。
本来ならば観光客で溢れているのだろうが、今は大会に使用する為に参加選手以外の立ち入りは禁止されている。
 
「貸切状態つっても一人じゃあ全然嬉しくないよなぁ・・複数人でくれば少しは楽しいかな?」
 
そう言ってまず思い浮かべたのは全身真っ白の女性。
今は亡き鎌瀬白。彼女と一緒なら水族館も楽しい思い出になるだろう、そんなことを思いながら歩いていると、ふと視界が開けた。
通路と同じく壁が水槽になっている広い円状の部屋。戌が来た道を含む3つの通路と繋がっていて、中央に太い柱がある以外は遮蔽物はない。
そこで待っていたのは・・・
 
「よぉ、犬耳の兄ちゃん。これで全員揃ったな。」
目つきの悪いスーツ姿の男と。
 
「ヒヒヒ、犬っころとはまたカワイイじゃねぇか」
どこか狂った印象を受けるロングコートの女。
 
戌の対戦相手である内亜柄影法と紅蓮寺工藤。彼らはそれぞれ別の通路から来たようで、通路の入口に立っている。
大会の一回戦で戦う面子が一同に介した所で―――
 
「はーい!皆さん揃いましたねー!準備はよろしいですか?」
 
通常は館内放送で使われていたであろうスピーカーから大会実況役の活気溢れる声が響く。
青碧の光に包まれ、斜に構えた気性の者ばかりが集うこの空間に、その威勢の良い声は些か不釣り合いにも思えた。
各々が戦闘態勢を取ったのを肯定の意と見たか、実況者は戦闘開始の合図を告げる。
 
「ではザ・キングオブトワイライト第一回戦の開始をここに宣言します。レディーファイっ!」
 
瞬間。
ドッッ!!と鎌瀬戌と内亜柄影法の両者を全身を貫く痺れが襲った。
 
「ぐ・・ゥ・・!?」
「なんだ、これは・・!?」
 
情報が奔流となり脳に押せ寄せてくる。
自分たちは物語の登場人物であること。自分を動かす書き手が存在すること。過去の思い出も経験も何もかも「設定」でしかないこと。「ダンゲロスSS3」というキャンペーンのSSであること。このSSの書き手は鎌瀬戌の作成者であること。投票数で他者を上回ればこのSSが正史として扱われること。他にも他にも他にも、本来知り得なかった残酷な真実が脳内に流れ込んでくる。
紅蓮寺工藤の能力、「創作の祭典」の発動であった。
 
鎌瀬戌はそのあまりに人を舐めくさった事実に絶望する
今まで強くなる為に、生き残る為に日々研鑽してきた事実はただの「設定」だと?いや、そもそも強くなろうと決心したあの日の出来事、かませ犬派遣商会の存在、白の死、その全てがキャラ作成者によって造られた設定・・?“悲劇的な運命を背負ったキャラクター”を演出するためだけにこんな設定を作ったというのか。SS3で作者が勝ち上がる為に作られた盤上の駒。操り人形。作者もかませ犬派遣商会と同じく、俺を利益を得る為の存在として扱っているだけではないか。今こうして思案している内容も作者が書いている言葉に過ぎない。あぁ、気持ち悪い。吐気がするぞ。ふざけやがって。キャラ愛?酷い過去を押し付けるのが愛というのか。そんな歪んだ愛、俺はいらない。道端の石ころでも愛でてろよクソッタレが。
そして嫌悪感と同時に湧き上がる無力感。今までの俺の人生はなんだった?会得した鎖鎌術も、商会を脱走したあの日の絶望感も、白と過ごした日々に感じた暖かさも、何もかもッ・・!経験だけでなく感情すらも否定される事実。更に過去だけでなく未来も否定された。自分がこれからする行動の一切合切、全て文字上の出来事でしかない。どんな行動をしようが物語を回す為の道化にしかならない。そんなことを知ってしまったから・・・。
動けない。身体が動かない。知ってしまった事実はあまりに重くて。重力の如く身体を縛り付けて。絶大な嫌悪感と絶望に震える以外、何もすることができない。
言うまでもなく、戦闘に於いてそれは致命的な挙動だった。
 
「ヒヒッ、絶望に嫌悪におつかれさーーん!!坊やはお家に帰ってママンに慰めてもらってこいヨォ!あ?ママ代わりのお姉さんはもういないんだっけェ?キヒヒヒッ!こりゃ失敬失敬、お詫びと言っちゃあなんですがオレが子守唄うたってやんよー!ぐっすり永遠にお眠りなさいませってなぁーーー!!」
 
難なく接近した工藤が思いっきり戌を蹴り飛ばす。
作者がいる?自分は物語の登場人物?そんなことは知ったことかと言わんばかりに。
床を転がる戌を見下ろし、工藤は続ける。
 
「自分がただの操り人形だの何だの、そのちっちぇ脳みそで色々考えてるみてェだけどよォー。オレはそんなのはドォーデモいいんだよ、ッヒヒ!楽しく気持ちよく踊って果てようぜェ?つーわけでオマエよぉ、レディがいるのにうずくまってエスコートしねぇってのは紳士としてどうなんだよォ、エエッ!?」
 
ゲシゲシと踏みつけ、蹴り、痛みつける。
戌は苦悶の表情を浮かべるばかりで、抵抗はしない。魂が抜けてしまったかの様に目も虚ろであった。
 
「お取り込み中悪いんだけどよ、なんなら俺がエスコートするぜ?お嬢さん。」
 
一方的な暴力を断ち切ったのは、キザな言葉と工藤の元に飛来した一本のナイフ。
内亜柄影法の「ロジカルエッジ」によって生成されたナイフ。『優しい』切れ味のナイフはあっけなく躱されてしまったが、工藤の注意を惹きつける牽制としては充分用を為していた。
 
「おォ?ヒヒヒ、いいねーお兄さん!オレは気遣いの出来る男性は好きだぜェ?熱く抱擁してくれヨーーォ?ヒヒヒヒッ!!」
 
興が乗ってきたという風にテンションを上げる工藤。水槽のガラスに突き刺さったナイフを抜き、影法のもとへと疾走する。
 
「はっ、とんだ熱烈な女性に気に入られちまったみたいだなぁ。厄介な女までも寄り付いてくるのはイケメンで天才な俺様の辛いとこだぜ。熱い好意は手厚く歓迎してやらないとなぁ。オラァ、来いよ!この内亜柄影法様に相手して貰うこと、嬉し涙流して喜びに打ち震えろやぁ!!」
 
その言葉に呼応する様に、刃が『熱い』ナイフが生まれる。刃先自体が融解するような熱量を持つその得物は、触れたらただでは済まないだろう。肉ごと焼き切ることが可能である分、切れ味がいいだけの刃物よりも恐ろしい。
不敵に応戦する影法であったが、彼も工藤の「創作の祭典」の影響を受けているはず。しかし戌の様に絶望することなくむしろ好戦的になっているように見えた。工藤の様にそんな下らない事実は知らないと切り捨てたからか?違う。事実を知った上でどうしようもないと自棄になったからか?違う。
影法は、彼なりに事実を受け止めた上で自分で成すべきことを見極めたのだ。
 
 
―――試合開始直後、無慈悲な真実を知った内亜柄影法は舌打ちした。
(検事であること。自分の家が壊されたこと。それらの経歴、肩書きが全て設定?あぁ、そんなのは別にどうでもいいんだ。むしろ俺にお似合いのイカした設定じゃねぇか。俺の作者様はなかなか良いセンスを持ってると見える。気に喰わないのは、もっと別の点だ。このSSは“鎌瀬戌の勝利が決まっているSS”だぁ?はっ、ふざけんじゃねえぞ。この俺様が踏み台にしようとするたぁいい度胸じゃねえか。
しかも「今俺が思考しているという『設定』の俺口調の言葉」もSSの書き手によって紡がれてるだけだと?ったく、おーい!どこの誰だか知らねぇがこのSSを書いてる作者さんよぉ、台詞回しにセンスが足らないんじゃないかぁ?俺というキャラを描くなら少しは俺様をカッコよく書きやがれや!
&nowiki(){・・とまぁ不満はここらへんに置いておいて、だ。俺はこの事実を知った上でどうする?}
俺様を作れる位センスのいい作者のことだ、きっと俺の作者が勝って正史になるだろうなぁ。だが、万が一鎌瀬戌の作者が勝ってしまった場合はこのSSが正史になってしまう。俺が負けるなんざ考えたくもないが、念には念をってことだ。少しでも俺の勇姿を読者に見せつけなければ俺様のカッコ良さが無駄になっちまう。
 つまり、だ。俺はこのSSに於いて、魅力的な立ち回りをするべきっつーことだな!)
指針を決定して影法は、戌と工藤の方の方を見る。まずはあの二人に割り込むのが上策だと考え、行動に移した。
 
そして現在。手持ちの武器の性能で勝っているはずの影法は劣勢に追い込まれていた。
 
「ちィ、迂闊に手ぇだすんじゃなかったな。なかなか頭がキレやがる。」
「アァ?どうしたよ?ほらどうしたよ、エスコートしてくれんじゃねェのかよォォオーー?女性にリードにされる男ってのは少し不甲斐ないと思わねェか?ヒヒヒッ!」
 
工藤は影法が外したナイフを利用するだけに留まらなかった。水槽のガラスを割りその破片も武器として扱い、時には床に爆薬をばら撒き着火させたりと利用できる物総てを存分に扱いじわりじわりと影法を追い詰めていた。それでいて影法の持つ熱いナイフの軌道も掠ることなく躱していくという周到さ。
戦闘センスに於いては確実に工藤の方に軍配が上がっていた。
 
「ヒヒヒ、目つきの悪い兄ちゃんよぉ、のろのろしてるとガラスがぶっ刺さるぜェ!?」
 
工藤は影法の刺突を躱し、続いて影法の腹部を狙ってガラスの破片を突き出した。
と、そこで。
 
ジャララララと。
音が二人の間に割り込んできた。
「あァ!?」
工藤の手に鎖が絡まり、ガラスを刺そうとする動きを阻害していた。
 
「わりーわりー。さっきは無視して悪かったな。反省するから俺も仲間に入れてくれよ」
 
工藤の腕を拘束したのは鎌瀬戌。
先程とは打って変わり、瞳に光を戻し、活気付いていた。
 
「内亜柄影法、さっきは注意を惹きつけてくれてすまないな。だが俺は貸しは作らないタイプでな、ここで返しとくぜ。」
「はっ、犬耳の坊主、てめぇとんだ自意識過剰だなぁ。俺はお前を助けようと思って行動したことなんて只の一瞬もねぇよ。俺は常に俺の為だけに動いてんだ。で?お前はどういった経緯で活取り戻したよ。さっきとは様子が全然違うじゃねぇか」
「あぁ、そのことか。例え今この現状が物語の中の話であったとしても、俺がこの大会を勝ち抜いてかませ犬派遣商会を潰してしまえば俺の作者は商会をネタにしたキャラを作れなくなる。少なくとも商会関連の悲劇はもう生み出されないっていう寸法だ。コレが俺の現状の解決策だよ。だから悪いが全力で倒させてもらうぜ?」
「キヒヒッいいねーッ!!二度と悲劇を生み出さない為に力を振るう?感動的、お涙頂戴じゃねェか!さすがはこのSSの主役ーーーッ!かっけ~なぁ、オイッ!!……だがヨォ、実際問題そう簡単にいきますかねェーー!?ひひヒヒヒっ!ハァイ、ドーーーン!!」
「なっ・・!?」
「テメェ・・!」
 
 
ドォォォン!!
いつの間に仕掛けたのか、工藤の合図と共に部屋の周囲の水槽に貼り付けられた爆弾が一斉に作動した。
ガラスが飛び散りそれぞれの身体に刺さる。爆弾を仕掛けた張本人である工藤さえも無傷は避けられなかった。
しかし破片が刺さることなどそこまで大した問題はない。魔人であり大会出場するレベルの戦闘技能を持つ彼らにとって、これくらいの傷なら動きを阻害するまでには至らないだろう。問題は水槽から溢れ出る水。広い部屋といえども周囲の水槽の水量が合わされば水かさは20センチ程にはなる。この部屋の水槽は通路の水槽とも繋がっている為更に水かさは増していくだろう。動きの阻害という点では皆同じ条件。しかし一人だけ被害を大きく受ける者がいた。
 
「…くそっ!これじゃあ能力が使えねぇ」
鎌瀬戌である。彼の能力「ヒトヒニヒトカミ」は簡単に言えば雷を落とす能力。室内でも確実に落ちるため発動自体はできるのだが・・・。
 
「ヒヒヒヒヒッ!犬っころチャンよォ、さぁどうするよォーー?雷撃ってもいいけど、こんだけ水浸しなら全員食らっちまうなァ。つまりお前自身もヤラれちまうぜェーーー!」
そう、戌の能力範囲は半径1メートルの円柱状でありそこから一歩でも出れば雷自体は当たらないのだが、地面に水が溢れている場合は水を伝ってこの部屋に立つ者総てが感電してしまう。相打ちを狙う以外、戌の能力は封じられたも同然である。異様に頭の回る工藤のことである、口振りからいっても最初から戌の能力封印を狙って爆破させたのだろう。
 
「さァ、どうするどうするゥー??作者様の考えた陳腐な策でも使ってみろよォォオーー!!!」
 
爆発の際に生じた揺らぎで鎖による腕の拘束は解けていた。工藤は戌の方へ駆けていく。頭の回転を良くするための動作か、弾の無い銃を頭に押し付けてリボルバーを手で弄ぶように回転させながら。
 
「ちぃっ!この得物で対抗するしかないか!」
戌は鎖鎌を構えた。
向かってきた工藤を迎え撃つべく、分銅鎖を右手で回転させ勢いをつけてから投擲する。
鎖を腕や足に絡ませることができなくとも、当たれば打撃として申し分の無い威力を持つ分銅。
しかし、工藤は少し身を捻るだけで回避する。分銅鎖は勢いをつける為に回転させる動作が必要であるため投擲のタイミングが分かりやすくなり、軌道が読みやすい。戦闘センスの優れた工藤にとって、先程の様に意識外からの投擲でない限り躱すのは造作もない。そして通常鎖鎌というのは一度鎖を投げたら引き戻さなければならない為連続で投擲することはできない。つもり鎌だけ迎撃するしかなくなるのだが……。
 
「悪いが俺の鎖鎌術は『我流』なんでなぁ!そんな常識には縛られねえよっ!」
 
右手の裾から音もなく次なる分銅鎖を取り出し、手首のスナップによる半回転で投擲する。咄嗟の頭を狙った横薙ぎの軌道。
「ヒヒヒ!で?それだけですかァーー??」
奇襲じみた攻撃も戌の動きを注視していた工藤は際どいながらも避ける。だが前に走った状態で頭へ向かってくる攻撃をさける為には身を屈めるしかない。自然とバランスが不安定になってしまう。
「はいよっ、お待ちかねの次の手だぜ!」
避けづらくなったその状況を狙い、鎌を構えて戌の方も工藤に向かって疾走する。
 
が。
突如、工藤は手に持っていた銃を頭から放し、銃口を戌に向ける。
「っ!?」
“弾は入ってないはず”という確信が一瞬揺らぎ、戌は怯んでしまう。
銃弾が入ってない銃でも銃口を向けられた際に一切動じることのない人間がどれだけいるだろうか。
 
「『恐怖』ってのはァ、とんだ詐欺師だと思わねェかーー?生存本能っつぅ名目で人間様に備わっていながら時にこうやって身体を硬直させ己の首を絞めちまうッ!ヒヒヒ!迷惑極まりねェ代物だよなァ!!」
 
硬直した身体を工藤は蹴り飛ばす。
ミイラ取りがミイラになる。一瞬の綻びを突こうとした戌は自分の隙を突かれてしまった。
そして工藤はただ蹴り飛ばしたのではなく。
「キヒヒヒヒッ、一撃で終わらないのはこっちだって同じだぜェーー?」
飛ばされた地面には爆弾が仕掛けられていた。
戌が着地するとほぼ同時に爆発する。
「ごふっ・・・!?」
咄嗟に身を丸めて防御したがただでは済まず、重傷レベルの火傷を負ってしまっていた。
更に、飛ばされた付近には内亜柄影法も居た。
「よぉ、犬の坊主」
ぞわりと、戦慄が身体を駆け巡る。起き上がらなくてはならないと思うのだが、うまく力が入らない。そんな苦境の中で、影法は戌に声をかける。
 
「辛そうだなぁ、お前。怪我人相手にすんのはわりぃし、なんなら協力してやろうか?」
 
「な・・!?」
 
それは驚嘆の域に達する提案だった。この短い時間ながら影法の言動を見るに、自分中心な性格で、とても先の発言を述べるような怪我人を見逃す精神をもつ輩ではないはずだ。しかし、戌の心の内では驚愕と同時に安堵もあった。こいつと一時共闘と言う手ならまだ勝ち目はある、とそんな考えを抱いた所で。
 
―――額に金属の塊が押し当てられていて。
「銃・・!?どういうことだ?」
「ハハハッ!まさかと思ったがホントに引っかかりやがった。能力発動ってなぁ!銃なんて大して使ったことのない俺だが、さすがに銃だってこの距離じゃあはずさねぇよ。なぁ、俺がナイフしか使わねぇとでも思ってたのかよ。」
影法は低い声で冷淡に告げた。
『胸を“うつ”』言葉。戌は先程の言葉に胸を打たれ、警戒の念も混じりながらも安堵した。よってここにその言葉のイメージが武器となり顕現したのである。
「・・・てめぇ!」
「ハッ、なんとでも言えよ。藻掻いてみろよ。どうせこの状況じゃ何もできねえがな。端的にいって詰みだ。」
「・・・っ」
鎌で影法を斬りつけようにも斬ろうとした瞬間には眉間を撃ちぬかれているはずだ。
文字通り、どうしようもない状況だった。
「ヒヒヒッ、目つきの悪い兄ちゃんもやるじゃねェかよォー!!ひと思いにやっちまいなァ!」
工藤の呼びかけに影法は首肯する。
「ああ。悪いなぁ、犬耳の兄ちゃん―――――――」
そして。
ゆっくりと引き金を引いていき。
 
 
「――――――ひとつ手柄を奪っちまってよッ!」
まるでこれが当然だという風に、銃口を工藤に向けて発砲した。
 
 
「ヒッ!?アァ~~~!?アァ~~~!お星サマが見えるぜェーー!ヒヒヒヒッ、ヒヒヒ……ヒヒッ……」
まさか自分にが撃たれると思っていなかった工藤は、為す術もなく心臓を撃ち抜かれた。
工藤が倒れると共に、床に満たされた水が大きく跳ねる。
 
動かなくなった紅蓮寺工藤に向けて、影法は忌々しそうに告げる。
「俺からとってみりゃあこのSSの主人公サマより、くそ下らねェ真実を勝手に突きつけてくるテメェの方が鬱陶しいんだ。この犬坊主殺した後、テメェとサシになったら俺がヤラれちまうのはさっきの戦闘でわかってるからな。それに、ここで犬坊主殺しちまったら俺様の活躍がそこでお終いになっちまうだろうがよ。」
 
魅力的な立ち回りをするという彼の指針は当初からブレていなかった。そしてここからは内亜柄影法と鎌瀬戌の一騎打ち。活躍する場は確約されたといっていいだろう。
紅蓮寺工藤は死に、戌と影法との対戦相手という関係は打ち切られた。それは「創作の祭典」の効果が消えたということ。残った二人は作者という存在を忘れ、自分が物語の登場人物であるという事実を忘れていく。
 
「・・・さて、今度は一騎打ちとなるわけだが。」
影法は対峙する戌の方に視線を戻す。
戌は影法の意識が工藤の方を向いている間に立ち上がり、距離を取っていた。
万全の状態とはいえないが、多少は動けるようだ。日々の鍛錬の成果だろう。しかしこと戦闘に於いては負傷の有無が戦局を大きく左右することがある。
 
「俺はほとんど傷なし、ソッチは思いっきり負傷。工藤の実力のヤバさだけでなく、そういった事情も鑑みてお前を後回しにしたわけだが、テメェその意味がわかってるか?」
「あぁ・・要はなめられてるってことだろ?」
「正解。正直能力が封じられ、鎖鎌しか使えなくなったお前には勝てる気しかしねぇよ。」
影法はそうした戌にとって『刺さる』言葉を紡ぎ、切れ味の良いナイフを生成していく。
 
「いいからさっさと始めようぜ。ただでさえハンデが大きいんだ。コレ以上暇はやらねぇよッ!」
あまり相手の武器を作り出させては分が悪くなると思い、戌は分銅鎖を相手の頭めがけて投擲した。
そこからは鎖とナイフの投げ合いだった。
片や鎖を躱し、ナイフを投げ。
片やナイフを躱し、鎖を投げ。
しかし徐々にだが、趨勢は影法に向いていった。
理由としては、手数の多さ。言葉を紡ぐことでいくらでも武器を生み出せる。戌の鎖は引き戻して再利用ができるものの、ローブに隠してある分のみ。更に影法はチャンスがあれば投擲された鎖を切断している為、戌の手数は減っていく一方だった。
そして―――
 
「よぉ、もうそろそろ鎖が尽きたんじゃねぇか?犬坊主。」
影法はいくつものナイフを携えながら不敵に言い放ち。
 
「・・・あぁ。残念ながらあと一つだ。」
戌は残った刺突用の針が先についた鎖と鎌を手に持ち。
 
「勝負ありってことでいいんじゃないか?降参しろよ。命は見逃してやる。」
「はぁ?ここで諦めるほど柔じゃねぇよバーカ。鎖は尽きたがまだ能力は使ってないんだぞ?」
依然として諦めを宿していない戌の瞳を見て、何を馬鹿なことをと言わんばかりに影法は呆れ返る。
「能力ってお前、使っちまったら相打ちになるしかねぇだろうが。アホはお前だろ?」
その反応を見て戌は不敵に笑う。
 
「ここに宣言してやるよ。次の言葉を紡いだ後、3秒以内に俺を殺せなかったらお前は死ぬ。」
 
堂々と。宣誓という言葉がふさわしい毅然とした態度で告げる。
「3秒?っておいまさかテメェ本当に能力を・・・!」
 
スゥっと一呼吸置いて、戌は静かに言葉を紡ぐ。
 
「――――ヒトヒニヒトカミ」
 
「3」
戌は淡々と3秒を数え始める。
「ちっ!」
相打ちを狙った能力の発動と見て、影法は阻止しなくてはならないと判断した。戌の能力は事前に仕入れた知識によると、「能力を発動してから3秒後に、能力発動時に戌が居た場所に雷が落ちる」能力。落ちる場所はこの状況に置いてはどこでも良かった。この部屋に落ちたら最期、水に浸された床を伝って電撃が蹂躙するだろう。戌が死ねば能力の発動を阻止できるのかどうか定かではなかったが、少なくとも能力発動前に殺してしまえば大会における勝利を勝ち取ることができる。
故に。戌の宣言通り3秒以内に殺さなくてはマズイと判断し、戌を抹殺するべく行動する。
 
「ふざけんじゃねぇぞ、クソッタレが!犬の分際で調子こきやがって!脳みその要領足りてないんんじゃねぇか?なぁ、犬野郎!!」
罵詈雑言。戌を罵る言葉は際限なく続く。
「荒い」言葉により無骨なナイフが次々と生み出される。切れ味はあまり良くないが数で圧倒するつもりである。
普段冷静な影法もこの状況となっては必死の形相でひたすらナイフを投げまくる。
「2」
左手で鎌を携え、右手で鎖を回転させている戌はナイフの総ては捌き切れないながらも、いくつかは躱し、鎌と鎖で弾いていた。
 
「ちっくしょうがッ!無駄な足掻きしてんじゃねぇぞ!!」
影法はかつてない集中力で戌の心臓や頭を狙い、執拗にナイフを投げる。
戌の四肢に刺さり、血だらけとなった姿からは後一歩で死にそうな気配はするものの、肝心の急所には当たらなかった
 
「1」
最期のカウント。
影法はもはや戌を殺すのは間に合わないと考え、雷を避けることに専念しようとする。
すなわち、水面からの跳躍。雷が落ちる瞬間に水に浸かってなければ感電はしない。
恐らく戌もそれくらいは考えるだろうがナイフが体中に刺さり、大量に出血し、もはやふらつき始めている彼はジャンプすることすら難しいだろうとおもわれる。そう考え、影法は己の勝利を確信した。
 
「0」
同時に跳躍する影法。
「はっ!俺の勝ちだァーーー!」
 
 
しかし。
勝利を確信した影法の心臓には鎖の先端の針が刺さっていて。
 
「言ったろ。3秒以内に俺は殺せなければお前は死ぬって。」
雷に撃たれ、死に至ると思われていた戌は勝ち誇った笑みを浮かべていて。
 
「な・・に・・?雷は落ちなかった?」
「俺はただ能力名を言っただけだ。だれも能力を発動したなんて言ってない。言葉を武器に扱うお前の発想を真似させてもらったさ」
 
単純に鎖を投擲しただけでは外れると思った戌は影法がよけれない状況を創りだそうと考えていた。雷を避ける為には水の浸された床から跳ぶしかない。その考えに誘導し、影法が大きく跳んでスキだらけになる瞬間を狙ったのである。感電を避けるためだけなら大きく跳ぶ必要はなく、軽くジャンプするだけでいい。しかし、もしタイミングがずれて感電したら、という恐怖が影法を大きく飛ばせた。
「恐怖は己の首をも絞める。お前が倒した女がいってたことだぜ?」
 
「ちっ・・・くしょう・・」
 
バシャっと大きく水音を立てて影法は床に倒れた。
尋常ではない怪我を追った戌は中央の柱により掛かり、上を見上げて息も絶え絶えにつぶやいた。
 
「シロ姉、まずは一戦、勝ったよ」
 
【END】
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