裸繰埜闇裂練道

最終更新:

dangerousss

- view
管理者のみ編集可

裸繰埜闇裂練道(らくりのやみさき れんどう)

設定

異能殺人者集団・裸繰埜一族の一人にして、古今東西の武術を修めた格闘家。日本の某スラム街出身。
ただひたすらに強者を求めて旅を続けている。その身体能力、精神力、洞察力、格闘技術、戦闘経験はいずれも人間の規格外。
彼が裸繰埜となったのは己に立ち向かう者はどんな相手であろうと容赦無く打ち倒す、そのあまりに非情な強さへの執念故である。
裸繰埜としては珍しく命を奪う事に固執しないが、必要以上なまでに効率的かつ合理的な戦いをする為、大抵の場合相手を殺してしまう。
あまりあっさり死なれては楽しむ暇も無いと、最近は手加減を仕方をその辺のチンピラ相手に練習しているが、あまり成果は出ていない。
武器は持たない主義だが、必要に迫られれば環境や相手の武器を利用する事も。
普段は兼石 次郎という偽名を使っている。今大会のエントリーネームもこの名。
少年時代はマフィアが主催する非合法の賭け試合で無敗を誇り、「ノックアウトマスター次郎」の呼び名で知られた。
35歳の独身。
外見的には着物に袴姿の精悍な大男。履物はブーツである。黒髪を短く刈り込んでいる。
野宿する為の道具が一通り入った袋を担いでいる。気紛れで無愛想だが意外とユーモアの通じる性格。
今回の大会にはたまたま日本に滞在していた際に、魔人の集まる格闘大会が開かれるとの噂を聞き付け、ふらりと参戦した。

魔人能力『永劫』

練道の半径20メートル以内に居る人間の動きを1秒間止める。
これは「1秒間あればどんな敵だろうと息の根を止められる」という練道の自信が具現化したものである。
事実、今までこの能力を受けて生き延びた者は居ない。
原理的には裂帛の気合とともに放たれる発勁を魔人能力で強化し、「動けない」という認識を1秒間だけ押し付ける。
能力を受けた者は一切の身動きが出来なくなるが、意識ははっきりしたままである。
発勁は練道を中心として放射状に広がる為、隠れている敵にも有効。ただし遮蔽物に遮られると効果は減衰する。
勁力を完全に遮断する為にはおおよそ厚さ10センチ程度のコンクリート壁相当の強度が必要。
能力使用後、再度使用する為には1分間のインターバルが必要となる。

プロローグ


裸繰埜闇裂練道は気紛れである。
彼が先日数年ぶりに日本へ帰国したのもこれといった理由があった訳では無い。
強いて言うなら寿司が食べたくなった事と、それまでの三合会に喧嘩を吹っ掛けたり、ロシアンマフィアにちょっかいを出したり、
ヨーロッパのギャングをカツアゲしたり、シチリアンマフィアを半壊させたりする鉄火と暴力の日々に飽きて来たという事ぐらいだ。
要は量より質、一人の達人は千の弱兵に勝ると痛感したのだ。雑魚を食い散らかした所で腹は膨れぬ。
気分は宝探しを兼ねたバカンスといった所だろうか。空港を降りた練道は取り合えず空腹を満たす為に築地へ向かった。
なんとなくネタが新鮮な方が美味いだろうという安直な発想である。

練道は目的地の方角を把握すればあとはひたすら真っ直ぐ歩いて行くという非常に大雑把な交通手段を好む。
故にしばしば誰がどう見ても余所者が立ち入るべきでない場所を通る事があるが、彼にとっては些事である。
今回練道が選択した道もその類であった。

西日の差す海岸に沿ってひたすら歩いていた練道は廃工場の前に座り込んでいる男の姿に気付いた。
男は普通の人間ならば目を合わさぬよう注意しつつ足早に立ち去ろうとする程度に威圧的な外見であった。
すなわちモヒカンである。瞼や鼻にピアスも入っているが、重要なのはモヒカンであるという事実である。
日本においてこの髪型をしているという事は即ち、自身が不良である事を誇示しているという証左に他ならない。
しかし練道は男の風貌など意に介さず、道を尋ねんと声をかけた。

「ちょっと良いか」
「あ?ンだてめぇは」

男はメンチを切りながら不機嫌かつ高圧的に応えた。練道の姿を不審げにジロジロと見回している。
和装の大男が話しかけて来た事に対する反応としては想定の範疇である。

「築地はこっちの方角で良いのか」
「築地ィ?ンなモン俺が知るか。こっちゃ忙しいんだ、ブッ殺される前に消えろや」
「忙しそうには見えんが」
「ああ?ケンカ売ってんのかコラ」

モヒカン男は噛んでいたガムを威勢良く吐き出して立ち上がり、両手をポケットに突っ込んで首を曲げ、上目遣いに睨みつけた。典型的なチンピラの威嚇行動である。
無言で見つめ返す練道の視線をどう解釈したか、男はおもむろにポケットからバタフライナイフを取り出し、必要性に乏しいアクションを披露して刃を繰り出すと、
その横腹で練道の頬をピタピタと叩いた。ナイフを突き付けられた本人は特に何の反応も見せず、廃工場の赤錆びた扉を見つめている。

「俺は気ィ短けーからよ、あんましゴチャゴチャ言ってっとプスっとイッちゃうよ?お?サムライの先生よぉ」
「中に人が居るのか?」

モヒカン男の額に青筋が浮く。
練道はモヒカン男の言葉を無視して尋ねた。廃工場の中からは微かに物音が聞こえていて、練道はそれが複数の人間によるものだと見立てていた。

「てめぇ……ナメてんのか?それともその耳は飾りか?あ?飾りなら要らねぇよな?」

モヒカン男はナイフを逆手に持ち直した。練道は廃工場の入口を注視している。
この期に及んで無視を貫く練道にモヒカン男の理性は勢い良く振り切れ、そのままナイフを練道の耳めがけて容赦なく振り下ろした。が――、

「ぎッ」

刃先は耳に触れる寸前で止まった。モヒカン男は短く悲鳴を上げ、ナイフを取り落とした。
練道の右手から伸びた人差し指が、モヒカン男の眼窩に突き立っていた。

「あ……あいい……」
「奇遇だな、俺も気が短い。腹が減っているなら尚更だ。解るだろ?俺は築地で寿司が食いたいんだ。解ったらさっさと場所を教えろ」

練道は静かな脅しをかけつつ、人差し指をクイクイと動かす。その度にモヒカン男の眼球が浮き沈みする。

「あ、あ、あ、し、知らない……知りません……」
「この中に人は居るのか?」

人差し指に力を込める。モヒカン男の眼球が三センチ程飛び出した。

「あっ、ぎっ、いるっ、います!」
「何人だ?」
「ろっ…六人……い、いや、女連れ込んでるから、七人……」
「そうか、ご苦労さん」

言うが早いか、練道は右手を返し、人差し指を鍵状に曲げて右側に引っ張った。痛みに釣られてモヒカン男の上体が同じ方向へ傾く。
それと同時に素早く足元を払うと、モヒカン男は半円を描き中空で逆さになった。
そして右目にかかっていた人差し指を眼球ごと引き抜くと、左手をモヒカン男の顎に添え、そのまま地面に叩き落とした。

「ごぇッ」

鈍い音と潰れた悲鳴が同時に響いた。頭から真っ逆さまに転落したモヒカン男の首は不自然に曲がり、口からは血泡が吹き出していた。
練道は視神経が繋がったままの眼球を見下ろし、頭を掻きながら溜息をついた。

「やはり、技を使うといかん」

そう独りごちながら練道は廃工場の扉を開け、音も無く内部へ侵入するのだった。










紫煙と埃の漂う工場内のとある一室で、六人の男達が粗野な声で談笑していた。いずれも堅気からは外れた、脛に傷のある者ばかりである。
約七メートル四方の部屋に置かれているのは簡素なベッドとスチール製のデスクぐらいで、
そのベッドの上には猿轡を噛まされ、両手を縛られたセーラー服の少女が寝かされていた。少女は目に涙を溜めながら時折鼻を啜っている。
ビール缶を片手に持った頬に傷のある男が、サングラスの男に話しかけた。

「なぁ、ちっとぐらい味見するだけなら良いんじゃねぇの?」
「駄目だ。傷物は値段が下がる」
「そんなら口とか胸とか、ヤり方は色々あんじゃね?」

坊主頭に剃り込みを入れた男が口を挟んだ。

「駄目だっつってんだろ。何かやらかして向こうさんの機嫌を損ねてみろ、今後の商売に響くどころか下手すりゃ全員魚のエサだぞ。
金が入ってから女でもクスリでも好きに買え」
「チッ、わかったよ」
「タカは慎重すぎんだよなぁ」
「慎重でなけりゃ俺はとっくに死んでる」
「確かに、俺らだけならその内大物の尻尾踏んで終わりだな」
「違いねぇ」
「取り込み中すまんが」
「……ああ?」

男達は唐突に割り込んできた声に反応し、一斉にその主へと顔を向けた。
閉められていた筈のドアはいつのまにか開け放たれており、その前に身の丈二メートル近い和装の大男が立っていた。
チンピラ達は一瞬呆気に取られたが、すぐさま全員が臨戦態勢をとった。荒事に慣れた彼らにとり、奇襲闇討ちは日常茶飯事である。

「何だテメーは!」
「どっから入りやがった!」

チンピラの怒声が飛ぶ。練道は涼しい顔で一言、

「築地にはどう行けば良い?」

とだけ答え、チンピラ達は再び言葉を失った。

「入口に居た見張りはどうした」

タカと呼ばれていたサングラスの男がドスの聞いた声で問いかける。練道は眉一つ動かさなかった。

「同じ質問をしたが会話にならなかった。ここから物音が聞こえたから入ろうとしたんだが邪魔をされてな、少し黙って貰った」
「何だと……?」
「テメェ……!」
「ナメてんじゃねーぞコラァ!」
「スッゾコラー!」

チンピラ達は口々に罵声を飛ばし、得物を構えた。銃を持った者も居る。ベッドに転がった少女は恐怖に震える一方で、
ひょっとしたらこの人は自分を助けてくれるかもしれないという淡い期待を抱いてもいた。

「俺は道を聞きたいだけなんだが」

冷めた表情のまま練道は言った。チンピラ達がいきり立つ。

「残念だが、もう道を教えてはいさよならって訳にはいかなくなったんだよ」

タカがベルトに挟み込んでいた拳銃を引き抜きながら言った。

「お前はそこの女を見ちまった。生かしては帰せねぇ」

そしてゆっくりと銃口を練道へ向けた。距離は三メートルも無い。
その間にもチンピラ達はじりじりと練道を包囲し、ドアも閉ざされた。
それでもなお、練道に動揺は見られない。半円状に広がったチンピラ達をぐるりと見回し、首の骨を鳴らしてから言った。

「死ぬぞ」
「ああ?」
「ナメた口聞いてんじゃねーぞコラ!」
「ナンオラー!」
「ブチ殺されっぞ!」

額に青筋を立てたチンピラ達が一斉に叫ぶ。しかしタカだけは、目の前の男の異様な冷静さに奇妙な違和感を感じていた。
経験上、土壇場で虚勢を張る人間の顔は幾度も見て来た。しかしこの男の顔には、些かの怯えの色も見られないのだ。
ただの狂人か、それとも――

「俺と戦えばお前らは死ぬ。俺は手加減が苦手だ。道を教えればここで見た事は全て忘れてやる。これだけ居れば一人ぐらい知ってるだろう?」
「ザッケンナコラー!」

練道の真横に居たチンピラが、猛烈な勢いで鉄パイプを振り上げつつ襲いかかった、次の瞬間。
稲妻の如き速度で振り向いた練道は右足を投げ出し、左手の甲で鉄パイプを逸らしつつ、猛烈な震脚(踏み込み)と同時に右の掌打を繰り出した。
打撃が水月(みぞおち)を正確に捉えると、チンピラはくの字にすっ飛び、コンクリートの壁に激突してめり込んだ。
ガラン、と鉄パイプの転がる音が部屋の中に響いた。壁に磔にされたチンピラの穴という穴から大量の血液が吹き出していた。
カッと見開かれた目からも血涙が滴り落ち、体はピクリとも動かない。室内は水を打ったように静まり返った。その場に居る全員が、呻き声すらあげられなかった。

「あ」

静寂を破ったのは練道自身だった。攻撃姿勢のまま静止していた彼は震脚によってコンクリートに埋まった足をぐぼりと引っこ抜き、
再度男達を見回して言った。

「だから言っただろ、手加減は苦手だ。どうやっても死ぬ……お前らは揃いも揃って脆過ぎる」
「な……」

練道自身は真面目に諭したつもりであった。彼は楽しむ価値の無い戦いには飽き飽きしている。
だが、虚勢とメンツで生きているチンピラ達がそう受け取る筈も無く。

「動くんじゃねぇッ!!」

タカが拳銃の撃鉄を起こす。残りのチンピラ達もそれに釣られるように各々の武器を練道に向けた。

「三秒以内に膝を付け。脳漿ブチ撒けたくなかったらな」

練道は再び大きな溜息をついた。

「ここまで来ると哀れを通り越して腹が立つな。お前らは道を教える事と自分の命のどちらが重いかも解らん程に――」

その言葉が最後まで発せられる前に、タカは引き金にかかった人差し指に力を込めた。

「――阿呆なのか」

……銃声は鳴らなかった。代わりにゴトン、と重い音が室内に響き、同時に。

「あっ、えっ!?」
「タ、タカッ!」
「うわあああああ!!」

タカの右腕の付け根、一秒前まで逞しい僧帽筋と三角筋に覆われていた肩口から、噴水の如く鮮血が吹き出した。
三メートルの距離を置いていた筈の練道が、タカの目の前に立っていた。
撃鉄の代わりに落ちたのはタカの右腕であった。

「てってめええええええ!!」

逆上した坊主頭の男が練道に向け引き金を引いた。ドン、と全身を打つような暴力的な音が木霊する。
しかし銃弾は練道には当たらなかった。素早くタカの首元を掴み、盾にしたのだ。
あまりの事態に、坊主頭以外のチンピラ達は硬直している。

「ぐ……が……っ」
「あっ、ああああああ!」
「おい止めろ!」

二発、三発と銃弾がタカの体にめり込む。坊主頭は我に帰ったチンピラ達の静止を無視し、なおも発砲を続ける。
完全なパニック状態に陥っていた。

「死ねっ!死ねええええええッ!!」
「……32口径の鉛弾頭では人体を貫けない」

練道はぼそりと呟き、定期的に跳ねるタカの体を腕の力だけで前方に投げやった。

「うおあっ!?」

恐るべき速度で投げ出されたタカの体は坊主頭の顔面に直撃し、頸骨をへし折った。
そのまま大股で間合いを詰める練道に三人のチンピラが同時に襲いかかる。

「オラァ!」
「死ねやあっ!」
「シャッコラー!」

練道は三方向から次々に繰り出される大型のナイフ、スタンガン、特殊警棒を最小限で交わすと、ナイフの男に平手打ちを喰らわせた。
男の首が250度程回転し、後ろへ倒れこむ。男が地面に到達するより早く二撃目をスタンガンの男に打ち込んだ。
掌によって頭頂部を抑え込むように打たれた男の頭部は鼻まで体に埋まった。
更に振り向き様に放たれた手刀が最後のチンピラの首を削ぎ飛ばした。

返り血の一滴すら浴びぬままチンピラ達を屠り去った練道は、むせ返るような血の匂いを煩わしく思いながら
ベッドの上で震える少女に歩み寄った。
少女の心中は「助けてくれるかもしれない」では無く「殺される」という予感によって占められていた。
圧倒的な暴力で淡々と殺し続ける練道が、少女には人間とは思えなかったのだ。
そんな少女の胸中など些かも察する気の無い練道は、猿轡と両手を縛る紐を引き千切り、尋ねた。

「築地は何処だ?」
「あ……あ、ああ、あの」
「何だ、知ってるのか知らんのかどっちだ」
「しっ、知ってます!」

命惜しさに出た嘘だったが、それを聞いた練道はニヤリと笑った。

「やっと会話が通じる人間に会えたな」










裸繰埜闇裂練道は気紛れである。
少女がデタラメに指差した方向が築地で無かったとしても、練道は特に気にせずまた誰かに道を尋ねた事だろう。
故に少女が殺されなかった事もまた気紛れでしかない。練道とはそういう男である。
念願の寿司にありつきながら、ふと耳に入った客の話を聞いて『SNOW-SNOWトーナメントオブ女神オブトーナメント
~「第一回結昨日の使いやあらへんで!チキチキ秋の大トーナメント」~』への参加を決めたのもまた気紛れである。
己を満足させるだけの手練れが居れば良い……そんな事を思いながら、練道は鉄火巻きを頬張った。


目安箱バナー