幕間SS エキシビジョンまで・1

最終更新:

dangerousss

- view
だれでも歓迎! 編集


■注意■『SLGの会』入会希望者は必ず読んで下さい■重点■(by 稲枝)


 その日、田中さくらが高橋に連れられて鈴木の元へやって来た時、鈴木三流は別の会員の審査を行なっている最中だった。


「相手と目を合わせるだけで……。なるほど、相手から視た姿が消えて視えると。
 それは、紛れも無くSLGね。」


 妃芽薗学園は全寮制の魔人女子高だ。
 SLGの会は「自治組織」なる番長グループからその部屋の一部を借り受けている。
 小さな部屋に置かれた机には、書籍と書類が綺麗に整理されており、コーヒーの横にはリスのぬいぐるみが置かれていた。中央のノートパソコンに向かって、鈴木が話しかけている。

『オッケーなのかい?会長。 まさか通るとは思わなかったよ。
 SLGってのは弱い能力者を示すんだろう? 俺の能力がSLGだったとはなぁ。』

「ええ。SLGとは、Short-Lived Glow の略。あってもほぼ意味のない、弱い能力者。
 SLGの会にようこそ、灰堂四空さん。 といっても、まだ審査は終わっていないけれど。
 後日、担当の人に会ってもらうことになるから、よろしくね。」

『オッケーだぜ、会長。 それじゃあな!』

 鈴木は灰堂と呼ばれた男との通信を切ると、初めてこちらの存在に気がついたようだった。
 凛とした、女性らしくない精悍な顔つきで前方の二人の少女を見やる。

「失礼します。鈴木先輩。 こっちにも、新入りの子がいるのですが……。」
 高橋に紹介された田中が前に出る。
「あ……、 えっと……。」

「鈴木三流です。はじめまして。」
 田中が戸惑っている間に、既に鈴木は立ち上がりお辞儀をしていた。
「た、田中さくらです。よろしくお願いします。」
 慌てて田中もペコリと頭を下げる。鈴木はその様子をじっと見つめる。
「お話は聞いています。田中さくらさん。SLGの会に入りたいのね?」
「は はいッ !」
「じゃあ早速で悪いのだけど、あなたの能力を見せてもらえるかな?」
「わ……わかりました!」

◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


 気になるのは、先程の鈴木の会話。
 灰堂と呼ばれた男の能力は、はたして本当にSLGと呼べるのだろうか?
 田中は能力を発動させる。


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


 田中は持っていたカバンを傘に見立て、ゆったりとした動きでしなやかに踊り始めた。
 艶のある、黒の長い髪が揺れる。

「……日本舞踊?」

 田中がその長い踊りを踊り終わると同時、袖口からはらり、と桜の花びらが一枚出現する。

「……はい。舞踊を成功させると桜の花弁が一枚出現するっていう……、
 『さくらまつり』という魔人能力です。あまり役には、……たちませんよね?」
「まあ、綺麗な能力ね。」
 口元を和らげ、鈴木が褒める。
「なるほど、袖から現れるのなら、能力じゃなくても再現できる……と。」
「そうなんです。だから魔人能力である意味があまりなくって。」
「春以外に再現するのは難しいんじゃないかな。」
「あの、でも私は……。」
 胸に腕を当て、田中が鈴木に近づいた。
「そうね。」
 鈴木は先程から、顎に手を当てて田中をじっと見つめている。

 高橋は部屋の隅で二人の様子を見守っていた。
 自分の連れてきた女の子が、果たしてSLGとして認定されるかどうか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 鈴木の魔人能力は『SLGの会』
 SLG指定能力者を見極める能力だ。
 ただし、能力を使用するには以下の条件を満たす必要がある

 1・対象を目視する
 2・対象の魔人能力について知る
 3・対象がSLG指定能力者である確証を得る

 問題なのは3の条件だ。3で言う「確証」とは、鈴木の認識に依存する。
 つまり、鈴木が「SLGだ」とわかればそれで能力が発動し、SLGであることがわかる。
 条件で効果を満たす必要のある、SLGの見本とも言える「無意味能力」だ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「違う。」
「え……。」

 鈴木の言葉に、田中が顔を青く染める。
「…… !?」
 高橋もまた動揺を見せた。
 ――今の田中の能力は、明らかにSLGのはず……。

「あなたの能力は、それじゃあ無い。」
「…………!」

「ね。 本当はもっと、強いんじゃないかな。 そうでしょう?」
「あ……う……。」
 田中がうつむいた。

「う…… そ……そんな……!!」

 鈴木が椅子から立ち上がる。
「本当の能力を見せて。」
 田中に近づく。

「先輩!?」
 様子を見守っていた高橋が近寄る。
 鈴木はそれを目で止める。大丈夫。

「どう、できる?」
 鈴木が田中の手を取った。
「……ッ!!」
 その手を振り払われる。


「……っ 後悔しても、知りませんからねッ!?」
 そう叫ぶと、田中は本来の能力を発動させた。


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


 轟音と共に舞い上がる桜吹雪。
 部屋中が桜色に染まり、
 レトロに形作られた部屋の壁や棚に、爪で削り取られたような跡がつく。
「――先輩…………ッ!」
 高橋が机の隅に伏せ、鈴木を呼ぶ。

 これが田中の『さくらまつり』の本来の力だ。
 田中に対面する鈴木は既に血で真っ赤に染まっていた。
「―――――ッ!」
 傷だらけになった鈴木は、目を傷つけないように掌を額に添えている。
 この能力は制御が難しい。強弱をつけようとすると、どうしても極端になる。

 ――だから言ったのに!

 馬鹿な先輩だ。田中は感情的にそう思った。
 ピッと軽い音をたてて、花弁が鈴木の三つ編みを横切った。
 はらり、と鈴木の三つ編みが解け、そのロングの髪が肩の高さまで切られる。
「 良い能力ね。」
「――――――――――ッ」
「うん、大丈夫。心配いらない。」
 ガードをやめ、両手を胸を前で組んだ。


「 あなたはSLGね。 」


 桜吹雪が、少し弱まる。
「…………は……」
 ――今、なんて?
「あなたの能力は、SLG。」


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


 ミドがその部屋に入った時、既に桜吹雪は止んでいた。
「うわっ すごォい……。」
 桃源郷という言葉が似合うほどの桜色に染まった部屋。
 一瞬、旅の扉で妖精の世界にでも迷い込んでしまったかと、ミドは錯覚した。

 その中で、血だらけかつセミロング姿になった鈴木が、
 半身を桜に埋める形で、一人の少女の手をとっていた。
 少女は軽く泣いているようだった。

「あ、ミドさん。」
 鈴木がミドに気がついた。
「鈴木さん、どーもぉ。」
 ひらひらとミドが手を振って答える。

 ふむふむ。と二人に近づく。
「新しいお仲間ね? 田中さくらさんだっけ?」
「ええ。田中さん、こちら「勇者ミド」さん。私たちSLGの仲間よ。」
「勇……者……ですか?」
 不思議そうにミドを見る。
 無理もない。ミドは妃芽薗の制服を着ていない。この学園の生徒ではないからだ。
「さっそくだけど、お預かりしてよろしいかしら?」
 ミドが尋ねる。
「ええ……。そうね。丁度時間みたいだし……。 田中さん、また後でお話しましょう?」
「は、 はいっ!」
 田中がミドに連れられて、部屋を後にした。


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


「はぁ……。散らかっちゃったけど、片付けるのがもったいないほど綺麗ね。」
「そ――それより先輩っ か、髪が……!」

 高橋が駆け寄る。
 鈴木の髪は、肩までのギザギザした形となり、なかなかにワイルドだ。
「うん。 良い機会だからショートにしようかな。」
 それは男らしくって格好良いかも……と、ちょっとだけ思う高橋だが、口にはしない。

「あれ……。」
 ふと、鈴木の手が高橋の肩に触れた。
「 …… っ !」
 高橋が身体を硬直させる。
 鈴木の方から触れてくるのは、珍しいことだ。
「制服が……。」
「ひゃああっ!?」
 花弁によって切り裂かれた高橋の制服は、肩から胸元が大きく露出していた。
「そ、そういう先輩だって……。無茶しすぎですよ。」
 鈴木の制服は高橋の何倍も切り裂かれているが、その白い肌は血で見えなくなっている。
「ったくもう! こんなになるまで……。」
 思わず鈴木を両手で叩きそうになる。
「そうね。心配させて、ごめんなさい。」
 鈴木は高橋の肩から、手を離さなかった。
「…… 先 輩?」
「でも、あなたが無事で良かった。」
 目を細める。
 高橋の黒い髪に手を添え、その髪についた桜の花弁を、指でなぞる。



「センパ―――――いッッ!!」



 扉が開かれる。
 と同時に、鈴木は高橋から手を離した。
「あ、花ちゃん!」
「佐藤さん!」
 姿を表したのは淡栗色の髪をした少女。

「先輩っお久しぶりです!高橋もっ!」
 三人目の少女、佐藤花子が二人に抱きついた。


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


 廊下を進む二人。ミドが田中に話しかける。

「私の魔人能力は『思い出す』……3つのことを思い出せる魔人能力なの。
 これが意外と役に立ってね、まあSLGとRPGの中間って所かな。」
「RPG……?」

「私が統括する、SLGの会の別働隊よ。「RPG(Remain-Positive Glow)の部」
 即ち「否SLG指定能力者の部」ね。本部は私が通う希望崎学園にあるわ。」
「それはつまり、普通の能力者ってことですか?」
「そういうことになるわね。」

 田中が立ち止まる。
「もしかして、私も……。」
「うん。あなたもRPG。 だけど心配しないで、RPGの部は妃芽薗にもあるから。
 いつだってあなたは鈴木さんに会いに行くことが出来る。」
「ど、どうして!? 鈴木先輩は私のことSLGだって……!?」
「うふふ。」
 ミドが田中の髪に手をかざす。桜の花弁を摘みとった。
「あの人はね、入会希望者なら「誰にだって」そう言うのよ。」
 唇に指を当て、その花弁を口に入れた。
「う……そ 誰に でも……?」
 田中が後退り、背中が廊下の壁に当たる。
「あの人はね、あえて自分の認識を歪めることで、『SLGの会』の能力を「能力偽装の看破」のために使っているの。あなたが偽装を見破られたみたいにね。」
「偽装看破……? でも『SLGの会』は無意味能力で…… 」

「つまりね、
 『SLGの会』はその発動条件 2・対象の魔人能力について知る を満たさない限り、
 例え3・対象がSLG指定能力者である確証を得る の条件を満たしても発動はできない。
 鈴木さんは自分自身の「SLGの定義」を歪めることで条件3を強制的にクリアさせているの。
 それで能力が発動しない場合条件2が満たされず、相手の能力偽装が判明するってわけ。」

「な……!?」
 会長自らが「SLGの定義」を歪めて認識している?
「だから本来のSLG審査は私と、高橋さんと佐藤さんの3人で行なっているの。
 もちろん鈴木さんに頼まれてやっていることよ。」
「 で、でも……。自分でSLGと確信して、それを別の人に再審査させて…… ?」

 それで彼女のなかで矛盾は無いのだろうか。
 一体、どういう精神構造をしているのだろう。

「不思議な人ね。鈴木さんは。」
 ミドはいつの間にか田中の目の前にいた。壁に押し付けられる。
「あなた、鈴木さんが好きだったんでしょう?」
「………… !」
「それで、SLGと偽ってでも会に入りたかったのね?」
「……あ……。」
 ミドが田中の袖口に手を入れ、残っていた花弁を指で掻き出す。
「大丈夫。私は「思い出す」だけじゃなくって「忘れさせる」のも、ん。得意だから……。」
「 や ……… … あ……! んんっ ……!」
「丁度、職業「おどりこ」が欲しかった所なの。ん。 ……仲良くしましょう、ね?」
「 … ………!  ……。  …。 」
 ミドの指先にはいつの間にか、田中の下着が引っかかっていた。


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


 佐藤が部屋を見渡す。
「綺麗な桜ですねぇ。まさか、この日のために……?」
「違うよー、花ちゃんったら。」
「ふふふ。そういうことにしておこうか?」
 鈴木が珍しく笑い、高橋と佐藤は目を合わせ、微笑んだ。

 今日はSLGの会が設立した日。
 SLGの会ができたのも、はじめはこの三人からだった。
 どこにでもいる、普通の少女達。
 今では会は大きくなり、三人は離れて活動しているが、
 この日だけは三人が学園に集い、それを祝う。

 佐藤は鈴木を見やる。
 真面目で、頭が固くて、天然で……。時々すごく、馬鹿なんじゃないかって思うこともある。それでも、この人しかいないのだ。何故ならこの人は、自分が何の為にここにいるのか、はっきりとした確信を持てているから。

「高橋さん、佐藤さん。 ほらっ」
 鈴木が両手で桜の花を掬い上げ、二人の上に投げかける。

 舞い落ちる桜のなか、もう一度鈴木が笑った。


◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆Ⅲ◆


<了>



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー