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『どうしてみずきちゃんは転校生化の条件なんか知ってるの?』(by 珪素(サブGK))


準決勝第1試合エピローグSS『どうしてみずきちゃんは転校生化の条件なんか知ってるの?』

結昨日司は、ため息と共に披露を吐き出した。
随分と面倒な事になった――とりあえず、お茶でも飲んで状況を整理しよう。
扉を開け、休憩室へと向かう。

「お疲れ様でした」

司を出迎えたのは、廊下の壁に寄りかかる一人の少女だった。
足首まで伸びたロングスカートに、清潔感のある白いブラウス。
全く嫌味のない微笑み。彼女は、結昨日家の人間ではない。

「……木村沃素様」

「ふふ、でも私は面白かったですけど!
 不動くんは『転校生』化で混乱しているから分かるとしても、ねぇ?」

「そう言われましても、私には演技の経験などまるでございませんので……
 そもそも斎藤窒素様が『転校生抹殺指令』なんて仰るから」

「あの人基本的にノリで動いてますからねー。
 とにかく『大会』としては不動くんを厄介払いする必要があったんですけど、
 国が転校生を殺したところで、どういうメリットがあるんですかね?
 そもそもワン・ターレンは……」

「あああ……分かります! 全く私と同じ事を! 木村沃素様ーっ!」

「ええっ!? 普通に突っ込んだだけでそんなに喜ばれたの、私初めてですよ!?」

「だって周りにボケしかいなかったんですよー!!」

目にうっすらと涙を溜めて感激する司に少し気圧されながらも(それでも笑顔だが)、
沃素は本題を切り出した。

「――ともかく。相手方の要求は少々回りくどかったんですけど、
 要約すれば『大会中止命令』――を盾にとった交渉ですかね!
 確かに公の場での『転校生』出現は大会中止に値する異常事態だと思いますし、
 運営スタッフの保護の名目で魔人公安が動いたとしても、おかしくはないでしょう」

「つまりそれが表向きのシナリオ……と」

「ええ。誰の差し金かは分かりませんけど、相手方はかなり『できる』人間みたいですねー。
 まず武力で速攻で抑えつけられたら、いくら私だってまともに交渉なんかできませんよ。
 だって怖いじゃないですか―」

まあ、支倉葵さんには随分助けてもらいましたけど――、と
冗談めかして両手を上げる沃素に、司は謝罪の意味を込めて頭を下げる。

「……申し訳ありません。しかしこれは、あくまでユキノイベントの問題です。
 結昨日家幹部の皆さんをこのような面倒に巻き込むわけにはいきませんし……
 木村沃素様にお頼みするしか、手段はありませんでした」

「ま、大会が続行できるならいいっていうなら、成果はあったと言っていいかもですね!
 トーナメントは問題ありませんよ。何しろ表向きの理由である『転校生』――不動くんは、
 皆さんの働きと斎藤先輩の悪ノリのお陰で会場から消えましたから。
 魔人小隊の出動と撤退も、視聴者の皆さんの気づかない間に行われているとの事です。
 手回しいいですよね。……ただし、条件が2つ」

「……」

「『図書館の男』に関する試合を非公開にすること」

息を呑んだ。
公安の介入を耳にした時に、司が咄嗟に思い浮かべた答え――
魔人派遣や、政府絡みの利権に関する何らかの条件である、との推測は大きく外れていた。

あまりにも予想外すぎる条件だ。勿論、こちらにとって困難な条件というわけでもないが、
政府の得になる条件とも思えない。しかし、これは逆に考えれば……

「例の……まさか、公安が動いたのは――」

「ふふっ、『まさか』。ですよねぇ。
 でもこの件、私と司さんの他に漏らしてはいけませんよ。それが2つめの条件です。
 非公開の理由付けは、何かそちらで考えておいてください。
 ま、よかったじゃあないですか。たかが野試合1試合ですよ。賞金の分は損ですけどねぇ。
 じゃあ、私はこれで!」

「……お待ちいただけますか」

廊下を歩み去ろうとする沃素を呼び止める。
このタイミングでの公安の介入……
あまりにも手回しが良すぎる事は、彼女自身も分かっているはずだ。

「――そもそも不動昭良は、なぜ『転校生』に?」

「……。さあ?」

笑顔のまま、沃素は首を傾げる。
やや演技じみているようでもあるが、本当は知っている、という風でもない。
いくらあの報道部でも、『転校生化』の詳細の情報まで持っているわけもないだろう……
……最強の情報能力者、林水素以外は。

「白王みずき様と不動昭良様の接触の直後です。一瞬だけ音声が途切れた部分がありました。
 無論、能力発動中の結昨日映様も、カメラ越しの知覚ではないため聞くことはできていません。
 中継するカメラは実物ですから、受信状況次第ではそのような事も起こり得るでしょう。
 しかし、その直後……」

「……不動くんは『転校生』になりましたね!
 その間に、不動くんは『転校生』になる何かを行ったと?」

「そう考えるしか。いえ……あるいは……白王みずき様が、という事も考えられます。
 覚醒の条件となる何か一連の言葉があるのか……
 あるいは、環境的な問題なのか……そこまでは存じませんが」

「でも司さん。この大会の参加者の中に『転校生』になる方法を知っている魔人がいても私は驚きませんよ。
 何しろ糺礼や不動くんは警察関係者ですし、それを抜きにしてもあのバロネス夜渡や、
 裸繰埜闇裂練道……池松叢雲みたいな、裏で知られた実力者だっています。
 千年生きてるって触れ込みが本当なら、阿野次さんのあの帽子だって可能性はありますね!」

「なるほど。大会部外者である家族を通して――と私は考えていましたが、
 確かに、他の選手を通じて転校生化の条件を知ったとしても……不思議ではございませんね」

「……『家族を通して』って……いやいや司さん。
 誰かが白王さんを通して不動くんを『転校生にさせた』と?」

ここに至って、さすがに沃素の顔からも笑みが消える。
司は口元に手を当てたまま、その明晰な頭脳を淡々と回転させていく。
この騒動は、傍からは単なる偶然の積み重ねの……不幸なアクシデントに見えた。
しかし、もしかしたら、と司は思う。

「全てが終わってから考えると、あのタイミングでの音声の途切れは……
 何らかの恣意的なものとしか考えられません。
 転校生化の条件を何者かが隠すために、予めタイミングを見計らって準備されたものでしょう」

「――魔人能力。いや。単純に機械的なジャミングでも可能でしょうねー。
 『こっち』の受信機の方を妨害すれば問題ない」

「ええ。そして今回の件での、魔人公安の手回しの早さ。
 全国中継されていたとはいえ、さすがに対応が早すぎたのでは?」

「試合中が終わる前に交渉を仕掛けてきましたからね。
 どんだけ気が早いんですかって思っていましたが、なるほど。
 事前にこれを予測できていたと」

即ち、これは最初から魔人公安によって仕組まれていた事態だという事になる……
不動を転校生化させ、それを口実に公安の介入が可能な状況を作った。
何のために? ……『図書館の男』を世間の目から隠すために、だ。

「……ふふ。いずれにせよ、今となっては木村沃素様と私以外に知らせる事もできませんが。
 相手の意図を考えた所で、現状が変わるわけでもございませんしね。
 長話に付き合わせてしまい、申し訳ありません」

「いやいや、構いませんよー。私こそ、面白い話を聞けて良かったです!
 いずれ白王さんにもインタビューしたいですよね!
 転校生化の方法……! これは一大スクープの予感ですよ!
 また何か面倒な交渉があったら、私達報道部にお任せ下さいね!」

爽やかな営業スマイルで、休憩室に向かう司を見送る沃素。
その声を後ろに、司は考える。

――木村沃素様。あなたに言っていない推理が、もう一つございます。

魔人公安はどのようにして、中継されていない『図書館の男』の存在を知り得たのか。
それは大会関係者の誰かが、情報を外に流したとしか考えられない。
そして今回の件で、大会関係者の中で得をした者が居たとすれば……

――魔人公安相手の交渉の報酬を受け取る……あなた自身でしょう。

不用意なことは口に出さない。
トーナメントは全て当初の予定通り、順調に進行している。
敗退した不動昭良がどこに消えようと、1つの野試合の公開が中止されようと、
結昨日司にとっては、何ら問題はない。
無論、疑念を口に出して、無用な対決をするつもりもないのである。


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