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新しいメンバー候補

藤原真也さん(紹介者小林)

青山学院卒25才

以下作品①

 

タイトル・横たわる

 

その朝は木曜日であった。

 風もないのに、このごろの夏は湿気が消されていて、ひんやりした心で、少年は犬とあるいていた。

 少年は昔のことを、あれこれと思い出していた。何年前から自分はどんどん弱気になってしまったのか。自分は生まれて、どこかで何かをしくじった。そのせいで、この世のみんなと何かが異なってしまった。ちょうどいまは、そんな、自分が宇宙人であるかのような感傷でいっぱいだった。人はおろか、飛んでくる虫たちや、自然までもが、自分をいじめようとしている気がしていた。

 木曜日の朝、ひんやりした心に、風がふれていった。やさしいはずの穏やかな少年は、とうとう自分が屈折していることを知った。

 誰かの庭の緑をながめ、「きっとここは別の世界で……」と空想を高くとばせてぽつぽつあるいていると、とつぜん少年の目に、おそろしいものが飛びこんできた。少年は犬を制して距離をとり、それと自分の間に道端の植え込みを置いて、それを避けたのだった。

 少年の目が見たものは、こちらに尻をむけ、こちらに顔を向けず横たわっている、ねずみの死骸だった。

 肉づきのいいねずみだと少年は思った。動物の死に同情すると、祟られるときいたことがあったので、少年の心はねずみを無視しようとした。たしかに彼は振返ることはしなかったが、それでも、横たわるねずみに惹き付けられている自分がいた。ねずみはおおきな尻をおちらに向けて、腿と腰と、背は山あり谷ありの曲線を描いていたが、地につけられた身体は、ただしんとしていた。ねずみのくせに、ベッドに寝るような優雅があった。少年は、死をもってしか、このように美しく横たわることはないのだと感じて、魂がふるえた。

 少年は家に戻ると、彼はかすかな汗と夏の犬臭さを消したくて、着替えを取りにいった。そこには、まだ夏の朝に眠っている少年の父親がいた。

 父は布団を抱くようにして眠っていて、手足のほとんどが遊んでいるようなかたちで投げ出されていた。子どものような寝相で、少年は父をみて笑った。父もねずみも、静かな絵画のモデルのようだった。少年は、もし死ぬのなら横向きに、そして木曜日に死んだらいいと思った。