特集:世界の国から「御社が第一志望です」
就活ワールドレポート
たちばな:どうしよう~、先生、出ないよー。
金髪先生:なんだ、便秘か?
たちばな:内定が! もうこのままフリーターになるしかないのかなぁ。。。ノイローゼだよー。
金髪先生:就活なんて茶番もいいとこだ、さっさとやめて株を覚え
ろ。
たちばな:そんなこと言ってらんないの! ほんと、毎日が勝負な
んだから。今夜も帰ってES(エントリーシート)書きま
くりだよー。イヤだ、バイト人生は…イヤ……
金髪先生:そういえば、「アルバイト」って言葉はドイツ発祥って 知ってたか?
たちばな:どうでもいいよそんなトリビア。しかもそのネタ、なん
か使い古されてるし。
金髪先生:ドイツやフランスじゃ、正規雇用も非正規雇用も時間当
たりの賃金は同じなんだぞ。
たちばな:え、それどういうこと?
金髪先生:同一労働同一賃金っていってな、つまり、社員だろうが
バイトだろうが、自給千円だとしたら一日十時間働けば
一万円もらえる制度だ。そもそも「非正規雇用」って概
念がヨーロッパの多くの国じゃ存在しなくて、「非典型
労働」って言い方をしてる。「非典型労働」は、不景気 のときに人件費抑制のためすぐにクビを切られる日本の 非正規雇用のように不利な立場じゃなくて、「生き方の ひとつ」とみなされているらしい。
たちばな:えー、それいいなー。もし正社員になりそこねても、
なんか大丈夫そう。どうして日本はそれやんないの?
金髪先生:大人の事情だ。
たちばな:そんなんじゃなくでちゃんと教えてよー。
金髪先生:うっせーな、大人の事情だっつってんだろ! 文句あん
なら国政選挙に投票しろよ。
たちばな:ひいぃ!
金髪先生:正規雇用を増やすだけじゃなく、正規と非正規の格差を
埋めるっていうのが、ヨーロッパのやってることだ。
たちばな:そういえば、なんかアメリカも、マックの店員も社長も、
ただの「社員」で、非正規とか正規とかの差別はないっ
てきいたことがあるんだけど……
金髪先生:そのかわり、正社員は日本よりクビになりやすいぞ。ア
メリカでは日本より、正社員の解雇に関する規制がかな
りゆるい。
たちばな:えー、それもキツいなー。
金髪先生:不況とか、使えない人材のときにすぐクビを切れるから
こそ、企業は「安心」して正社員を採用できるんだ。だ
から全労働者に占める正社員の割合は高い。日本では、
不況のときに派遣やパートのクビを切りやすい制度に
なったからこそ、非正規労働者の採用数が増えたんだ。
たちばな:じゃあロシアとか中国は? もと社会主義国家だから、
ひょっとして労働者なはみんな正社員で、格差なんてな
いんじゃないの?
金髪先生:ロシア人経営者は、雇用の調整を賃金未払いで乗り切る
ぞ。中国に至っては雇用のほとんどが一年とかの短期契
約だ。つまり毎年転職活動だぞ、熱烈歓迎か?
たちばな:それもキツいなー。やっぱり日本でおとなしく就活して、
新卒で大企業に入って一生安泰が理想のコースだよね。
金髪先生:あーあー、これだから日本のガキは……ヨーロッパはも
っと進んでるぞー。
たちばな:また出たよー。「日本はダメ」とか言ってるそばからいい
企業の席は埋まってくんだから。就活生が就活のシステ
ムについて文句言ってる暇なんてないの。
金髪先生:日本じゃ「定年までひとつの会社に勤めあげるのが理想」
みたいになってるけどな、フランスとかアメリカ、ドイ
ツとかじゃ、同じ会社にいたらずっと同じ職種で、同じ
ような低賃金の仕事しか与えれねぇから、転職してナン
ボなんだよ。
たちばな:でも日本みたいに、「転職が多い=定着しないダメ人間」
ってみなされたりはしないわけ?
金髪先生:しねぇんだな、それが。むしろ同職種で転職を重ね、
キャリアを積んできた人間ほど優遇されるんだ。
たちばな:へー。まあ、そういういろんな国の現状を知ったとこ
ろで、いま現在の私の就活における苦境は改善されない
んだけどね。
金髪先生:そこがだめなんだよ日本の学生は! 「私がひとりで楯
突いても無駄だから」って現状に甘んじようとすんじゃ
ねぇ。今は無理でも、社会人になった後にブログに意見
を書くとか、仲間を募って社会の就活の茶番ぶりを訴え
ていくとか方法があるだろ。二〇一一年には東京で大学
生たちが「就活をぶっこわせデモ」って、就活長期化是
正や新卒一括採用廃止とかを求めてデモを行なったん
だぞ。そういうの見習えよ。
たちばな:でもでも、友達百人もいないし、やっぱり会社相手には
なかなか文句を言いづらいよー。
金髪先生:そこなんだよな。学生が情報量の面でも社会的立場の面
でも、圧倒的不利な状態であることに、就活という制度
の根本的な問題がある。
たちばな:いやでもさー、悪いことばっかりじゃないんだよ。現に
自己分析とかは「自分ってこんな人間だったんだー」と
かあらためて気づくこともあるし、説明会で他大学の人
としゃべれたりするしさ。
金髪先生:それこそ、しゃべってる暇なんかねぇんじゃねぇのか?
たちばな: …ぎくり。
金髪先生:だいたい、自己分析ってなんだよ? 分析とか言いなが
ら俺には、「就活人間」「会社人間」に学生を誘導するた
めに作った似非イニシエーションの気がしてならねぇけ
どな。
たちばな:コミュニケーション能力を伸ばさなきゃって自覚したり、
金髪先生:うわー、出たよー。コミュニケーション能力? ぷぷっ(笑)
たちばな:(怒)なにが悪いんですかー。
金髪先生:どうやって測るんだよその能力を? スカウターでも持
ってるのか? そういうあいまいな言葉でごまかすこ
と自体、俺には抽象論でなんとなくその場を繕う、他者
との意思疎通ができない人間に思えてしかたねぇ。
たちばな:そうはいったって、現実に社会に出て、うまくやってけ
る人とそうじゃない人っているでしょ。
金髪先生:そもそも企業の論理にうまいこと乗せられてるだけな
のに、それを「コミュニケーション能力」とか「お客
様のために週五十時間サービス残業してでもがんばる
のがあるべき社会人の姿」とか、「休日のショッピング
でもつねに自社含め業界の動向を気にするようにして
います」とか、もっともらしいドラマを与えられて、そ
れに躍らされてるけどよ、休日くれぇ仕事のこと忘れさ
せろっつーんだ。そういう就活や企業倫理が変わらなき
ゃ、今後も学生は「社畜」になり続けるしかねぇ。ブタ
だブタ。
たちばな:いやだなー、その警鐘の鳴らし方。
金髪先生:ブタ学生どもよ、団結せよ!
たちばな:いつか革命でも起こしそうだわこの人。
- あと思ったんですけど、そもそも日本のパートタイムとアルバイトの違いとかをわかってない人ってたくさんいるはずなので、「非正規雇用と正規雇用の違いはなく、フルタイムかパートタイムの違いがあるだけ」という説明をしても、ポッカーン(゜д゜)となるかも。「え、パートタイムは非正規雇用でしょ?」みたいな。スペースがあったら説明が必要かも。 -- 加藤 (2012-09-19 23:37:15)
- ドイツ・フランスの非典型労働は、結局正社員と何が違うんですか? -- 加藤 (2012-09-19 23:12:35)
- よく纏まってるし、読み物としても面白いと思います。気になるのは日本の問題点だけしか取り上げられていないので、読む人によってはそれって一面的過ぎない?となるかも。 -- 宇賀 (2012-09-19 21:17:01)
最終更新:2012年09月19日 23:38