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『炎のランナー』

(原題: Chariots of Fire/イギリス, 1981)

ロンドン五輪の歓喜と熱狂が冷めやらぬ中、その開会式で流れた本作品
『炎のランナー』の映像は我々の記憶に新しい。有名な音楽家ヴァンゲリス
による流麗なテーマ曲に合わせて、浜辺を力強く駆け抜けてゆく若者たち。
この音楽と映像の見事な融合が織りなす本作品の冒頭と終わりを飾るシーン
は、本作品の白眉とも言える実に印象的な場面だ。彼らの走る姿を人生と照
らし合わせた聴衆も少なくあるまい。本作品の主人公である二人の短距離ラ
ンナーは、まさしく自らの人生をかけてオリンピックでの栄光を目指し疾走
するのである。ケンブリッジ学生のハロルドはユダヤ人差別・偏見を走るこ
とで払拭し、スコットランド人宣教師エリックは自分の俊足を神からの恩寵
と理解し、走ることに神の喜びを見出す。日本人の我々には決して馴染み深
いとは言えない人種的・宗教的主題が走る動機の底流にあり、彼らの情熱や
価値観を共有することは難しいかもしれない。しかし、周りに蠢く様々な力
作用に影響されず、自己の信念を貫き通すことは、人間の普遍的且つ根源的
なテーマであろう。こうした崇高なテーマ設定と英国の由緒ある荘厳な大学
の雰囲気が、全体を通して透明感のある柔らかい色調の映像によって鮮やか
に調和され、見ていて心地よく胸に染み透る。一見の価値あり。
さて、個人的ながら私は英国俳優ローワン・アトキンソンの大ファンであ
る。開会セレモニーを彩る本作品の名場面に、ローワン扮するMr. Bean と
いう“異分子”が紛れ込んでいたことは、英国喜劇の面目躍如たる演出として
爽快で、一人心の中で快哉を叫んでしまった。砂浜を必死に疾駆するアスリ
ートに交じって走っていたかと思えば、疲れからいとも簡単に諦め、車に乗
って先頭をゆく走者に追いつき、挙句の果てには迫ってきた走者に足をかけ
て転倒させ、真っ先に一人でゴールテープを切る謎の男Mr. Bean。本作品の
“神々しい”一幕を、世界中が括目する大舞台で躊躇いもなくパロディにして
みせるローワンの心意気、いやそのローワンをあの場面に起用した英国の粋
な計らいとそのお国柄に全く脱帽する他ない。名作を名作足らしめる要因
は、それを受容する人々の解釈にも委ねられている。英国人は言わば「自
虐」という高次のユーモア感覚を実にしたたかに用いることで、本作品の価
値を更なる高みへと引き上げることに成功したのではないだろうか。


みんなのコメント

名前:
コメント:
  • 時事ネタをからめて独自の考察も加えている、よい感じだと思います。 -- トム・ヤムクン (2012-09-06 23:00:18)
  • 改行は、原文にはありましたがここではシステム上の事情で一字下げをなかったことにして表示してあります。 -- トム・ヤムクン (2012-09-06 22:59:06)
  • 追記。改行は無いのでしょうか? -- 宇賀 (2012-09-06 22:46:43)
  • 発行時期を考えると、少しロンドン五輪ネタは時期外れになるかもしれない。「歓喜と熱狂が冷めやらぬ中」という記述は取るか別の文言に変えた方がいいのでは。 -- 宇賀 (2012-09-06 22:45:08)
  • 全体的に綺麗にまとまっているし、時事ネタが盛り込まれているのも良いと思う。ただ、映画そのものの話よりMr.ビーンの話とかの方が長いせいで、個人的にはロンドンオリンピックの感想に見えてしまう。 -- 加藤 (2012-09-06 16:39:38)

  (1行目)オリンピックで時事を意識したところや、音楽に対する知識を披露するとこ
ろは、非常に、こなれている。岡本せんせいはこういうレビューの仕事とかなさるんです
か? って思わず、聞きたくなってしまう一作だ。
 ただ、「白眉とも」(5行目)
白眉とは、そのなかで類似する部分で最も優れた所という意味だそう。なのに、冒頭と
終わりと書いてあるのは一瞬、?  ってなるかも。よく読むと、冒頭と終わりに同じシ
ーンがくるのかって、推測は効く。(すいません、見た事がなくってコメントとか、偉そ
うに書いています。)---川尻