ナウル共和国

登録日:2010/09/25 Sat 21:40:23
更新日:2024/03/19 Tue 03:09:49
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皆さんは、アラブやサウジアラビアなどの中東辺りの国々のリッチな生活を見て「いいな~、日本にも資源あったらウハウハなのにな~」なんて考えたことは無いだろうか*1
一応、日本の領海や排他的経済水域にはレアアースを初めとする豊富な海底資源があるが、まだそのほとんどが採掘されていない。



が。



資源はいつかは尽きるもの。
もしその資源が無くなったら、人々の生活はどうなるのか?


そんな素朴な疑問に体を張って答えてくれた国、それが本項で紹介するナウル共和国である。
本国は赤道直下、ニュージーランドのほぼ真北の延長線上にある太平洋の島国。人口は約12000人。
面積は21㎢(伊豆大島の4分の1程度)世界最小の共和国でもある。
ちなみに第二次大戦期に日本軍に占領されていた国の一つでもある*2




元々、ナウル国土は珊瑚礁にアホウドリなどの海鳥が糞を落としていって出来たというあらましがある。そしてその糞はリンを豊富に含んだ「燐酸質グアノ」に変化していった。
つまり、土地全部がウンコの塊良質のリン鉱石という訳だ。
リン鉱石は化学肥料の材料*3として重宝され高く売れる為、島の住民はそれまでの農耕による自給自足の生活を捨てて畑を掘り起こし、リン鉱石を売った金で悠々自適のセレブ生活を始める。
どれくらいセレブかと言うと…
  • 税金無し
  • 教育、病院、電気代も無料
  • 結婚した人には政府から新居が提供される
  • 飛行機をチャーターして海外にショッピングに行く人も
  • 徒歩で出かける人もまばら。移動手段は車かバイク
  • 食事は缶詰やミネラルウォーターを買う。もしくは、外国人が経営するレストランに行く。自炊?何それおいしいの?
  • じゃあその金の成る樹なリン鉱石の採掘や政府としての機能は誰が担ってるのかって?採掘現場で働いている人は他国からの出稼ぎ労働者である。自国民で働いているのは、国会議員や政府の役人など100名足らずの公務員だけ、さらにはその公務員も専門知識などが必要な部門には外国から招いている。
  • 1980年代には国民一人当たりのGNPがアメリカ以上、日本の倍に
  • 全世代に年金を支給
ベーシックインカムなんてレベルじゃねーぞ!!
これだけ至れり尽くせりのヌルゲー国家…どころか、チュートリアルモードだけで完結しているような国家が他にあっただろうか?

が、いかに豊富であっても所詮資源は有限。無限に沸いて出てなど来ない。当然こんな国家単位でのセレブ生活がいつまでも続く訳が無い。
西暦200X年、ついにその日がやって来た……。




そう。




リン鉱石が枯渇したのである。




当然、政府は大弱り。旧総主国のオーストラリアやイギリスから独立前に掘ったリン鉱石の代金を徴収したり、インターネット銀行を開設したりと様々な奇策を打ち出し金を集めた。
更に、25000ドルと簡単な面接だけでナウル国籍が取得出来るという(ある意味)画期的なサービスを開始した。
が、2001年9月11日に同時多発テロが発生。これを機に国際的な取り締まりが強化され、テロの温床となりかねないインターネット銀行と国籍取得サービスは終了せざるをえなくなった。

代わりに、アフガニスタン難民を受け入れる事と引き換えにオーストラリアからGDPの三割という莫大な援助を受け取る事にした。
が、難民がどんどん増えて、国民の人口比率のおよそ2割を占めるほどに。
政局は混乱し、難民の管理どころでは無くなり、しかも難民たちからも「オーストラリアの方がいい!」と言われる始末。
難民への虐待や強姦、医療放棄なども発覚している*4
当然のようにこれも失敗した。

国民の中には目が覚めて昔のような農耕や漁業の生活へと戻る者もいたが、全体から見ればとても多数派とは言いがたく焼け石に水。
とりあえず海外に持っていた資産を全て売却することによって一旦の決着は着いたものの、新たな問題が立ち上がる。




国民が「働く」とは何なのか知らないのだ

独立以来、この国で国民が働いたことは無い。
というか、いざ働こうにもほとんどの職場が鉱山関連だったこの国では、それらがアテに出来なくなってしまった以上そもそもの働き口自体が無いのだ。
その結果、国全体の失業率は90%台に突入という、ネタでも聞いたことが無い数字がそびえたった*5



子供たちは学校で働き方を勉強することになった(!)からまだ良いが、ほとんどの大人は働いた事が無い。
なんせ、この国には一世紀近くも勤労という概念が存在しなかったのだから。
つまり国全体がニートのような物である。


いまさら昔のような自給自足の生活に戻れるはずも無い。だって働かなくても食っていけたしね!
自給自足しようにも畑の耕し方も知らないわ、下記のような問題もあるのだが…


石油でセレブになったアラブ諸国は、資源枯渇(もしくは石油の需要を脅かすような新エネルギーの台頭)の可能性も視野に入れて、日夜財源の確保に明け暮れている。
彼らは決してその地位に胡坐をかいているわけではなく、常に先見の明と勘を研ぎ澄ませ、日々邁進し続けているのである


もちろんナウル政府だって決してバカではない。一時期は国家収入の半分を海外の不動産などへの投資に充てるなど、資源枯渇後を見据えた対策はしていたのである。
有名なところではハワイのアラモアナにそびえ立つ44階建コンドミニアム『ナウルタワー』はナウルの投資の一環で建設されたものである。
しかしながら、先進国の省庁にいるような高度なブレインがいなかったため、そのほぼ全ての運用に失敗。ただ負債を膨らます結果となってしまった。
また元の生活はかなり原始的なものであったため、インフラや議会や省庁などの施設の建設など、近代化に向けた支出も非常に大きかったという問題もある。
まあ今でも道路らしい道路は1本しか無いのだが、そもそも国土自体が狭いこともあり困りはしない。


2003年には、ナウルは国全体の通信網がいきなり使用不能になり、一切連絡が取れなくなるという異常事態が発生。これは実に1ヶ月以上も続いた。
「革命でも起きたのか」「島全体が海に沈没したのでは」などと憶測が飛び交ったが、実際は通信インフラの純粋な故障であり、それを直せる人員がいなくて復旧が遅れていただけだったという嘘のような本当の話まである。
なお、ナウル政府観光局の日本事務所公式Twitterアカウントでは
Q. 通信障害ありますか?
A. 国ごと音信不通になったことはあります。
自虐ネタにしている。シャレになってねえわ!

そんなナウルの運命やいかに。


とりあえず現在は南オセチアだのアブハジアだのイカニモ訳ありな国々と国交を樹立しまくっている。
また、互いに国家の正当性を巡って争っている中華人民共和国と中華民国(台湾)については、最初は中華民国を、2002年から2005年までは中華人民共和国を、その後また中華民国を、そして2024年にまた中華人民共和国をそれぞれ承認するという、承認&断交の反復横跳びをしている*6


余談だが、現在は不明だが国民の約80%は肥満(BMI30以上)で1/3が糖尿病を患っているらしい。人口比ではどちらも世界一である。
これは太っている女性の方が丈夫で子供をたくさん産むと言う国柄と、働かずに食っちゃ寝したからだろう。
男性も太ってる方がモテるらしい。



以下少しマジメな話

現在では住民の意識も改善しており、漁業や農業を営む者も増えつつある。
また、貧困がテロやクーデターなどに結び付いていない点は幸いと言える。
リン鉱石採掘以前の生活は原始的だったこともあり、国民も逆戻りには割と諦めがついているようなのだ。
まあ、だから働かない人が増えてしまっている面もあると思われるが…

このまま農業を拡大して行けば……と言いたいがまた別の問題が浮上している。
過剰な採掘の結果、国土のほとんどが農業もできない枯れた大地と化してしまったのである
一連の採掘はオーストラリアを中心とした先進国の主導で行われたものであり、そうした国々の責任を問う声も上がっている。

オーストラリア政府はこうした負い目もあり、住民全体をオーストラリア領内の島へ移住させると手を差し伸べたが、白人に同化することでナウルとしてのアイデンティティを手放したくないと棄却された。
オーストラリア市民権の授与などもしているようではある。


先述の難民の受け入れとそれに伴う諸問題は2019年現在も継続中である。アフガニスタン以外にも紛争などにより住処を失いオーストラリアへ流れ付いた密入国者の収容先としてナウルが利用されている。
いわば難民問題のアウトソーシング。しかしながらその実態は悲惨そのもの
施設内では難民への虐待が横行しており、住民から差別を受けるなどの実態が報道されている。
また医療の人材や設備が十分ではないため、糖尿病などの継続的な治療な疾病を持つものも放置状態。
深刻な患者はオーストラリアの病院へ搬送されるが、最低限度の治療が済めばまたナウルへ送還される。
難民という立場上、自分の意志では国を出ることも、自分の人生を自分の意志で決めることもできない。
そういった悲惨な生活環境から、『国境なき医師団』は難民の60%に自殺願望があり、30%に自殺未遂の経験があると報告している。

一時は掘削され尽くしたと思われたリン鉱石だが、更に下を掘ると言う二次採掘でやや回復傾向にある…
が、この寿命も後30〜40年程。それを過ぎれば本当に採掘は不可能になる為、他の手段を探さなくてはならない。

ナウルの明日はどっちだ!

余談だが、かつて鹿児島とナウルの間を結ぶ定期航空路線が存在していた。この路線を使ってナウルと日本を行き来する人がどれほど存在したのだろうか…
また、最近では政府観光局のTwitterが大人気になっている。
島国ということもあり、テロや紛争といった物騒な所が無いため、夜道で出歩ける程度には治安自体は悪くない貧乏すぎて武器を買う金が無いのと、やる気が無さすぎてテロを起こす気にもなれないのだろう。ただし、貧乏&就労意欲が無いためインフラは最低なのでどのみち観光には向かないが。

ラノベ作品『はたらく魔王さま!』にて、「働かなくても生きていける世界はどうなるかって話」の例としてこの国の歴史が大まかに挙げられていた。

漫画『ゴルゴ13』のエピソード「サンクチュアリ」の舞台となる「ナウトロ共和国」は、その地理や歴史からナウルをモチーフにしていると考えられる。

追記・修正は、政府観光局のホームページと阿部寛のホームページの開くスピードを比較しながらお願いします。
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最終更新:2024年03月19日 03:09

*1 日本が最も経済的に恵まれていた80年代後半~90年代初頭のバブル時代でさえ、好景気を実感できていたのは全国民のうち半数程度だった。

*2 そのためナウルには旧日本軍拠点の跡地が各所にある。他にも占領下時代のエピソードはいくつかあるが、デリケートな話題なのに加え本項の大筋とは関係無いので詳細は各自ググられたし。

*3 植物の生育に必要な栄養分のうち、最も主要な三要素は窒素・リン・カリウムである。

*4 無論、そういう実態があるのを承知で送りまくるオーストラリアも非難はされているがどこ吹く風である

*5 ちなみに、ジンバブエも失業率95%という同程度の数値を達成している。

*6 2つの「中国」両国は、自国でない方を承認した国とは断交するという方針をとっているため、片方を承認すれば自動的にもう片方と断交することになる。