PC-FX

登録日:2019/04/13 (土) 23:31:01
更新日:2024/03/24 Sun 20:41:48
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PC-FXとは、日本電気ホームエレクトロニクス(NEC-HE)が発売した据置型ゲーム機。メーカー希望小売価格は49,800円。

【解説】


PCエンジンの後継機種として開発された第五世代ハードであると同時に、NEC最後の家庭用ゲーム機でもある。

開発にはPCエンジンと同様にハドソンが深く関与しており、ハドソンが開発したHuC62シリーズを本体に採用している
しかし、PCエンジンの時代とは異なってソフト展開でハドソンが強力なサポートをすることは出来なかった。
後述する独特なハード設計・性能のせいかハドソン以外にソフトをリリースするメーカーも数えるほどで、その結果本機のソフトは大半がNEC-HEが開発・移植したタイトルとなった。
この辺は同世代でやはり惨敗したゲームハード、Atari Jaguarにも共通するのが興味深い。

商品名は「PC」=「PC-9800(PC-98)シリーズ」、「F」=「Future(未来)」、「X」=「未知数」から。
PCエンジン後継機計画発表の際のコードネームも「FX」だった。

1992年頃からPCエンジンSUPER CD-ROM2の後継機の計画が進められ、94年頃に本格的に計画が発表される。
経緯の詳細には諸説あるが、3Dポリゴン機能には一切手を出さず、PCエンジン後期の流れを汲んだ2Dアニメ路線のハードとして開発された。
PCエンジンの次世代機とだけあって、当時のゲームマニア内での期待値も低くなかった。

発売日が僅かに延期されたが、1994年12月23日についにPC-FXは32bit時代のハード市場に登場した。
メーカー希望小売価格は49,800円。ただし、後の97年頃にオープン価格へと変更された。

しかし、3Dポリゴン機能が一切ないハード性能やソフトラインナップの貧弱さなどから、同世代のセガサターンPlayStationとの競争にすぐ敗北した。
95年になると「アニメ戦略」なる計画を掲げ、ここからコアなオタク層に向けた路線が決定的となる。
同年には、ソフト戦略のテコ入れによってPC-FXを50万台普及するという目標が発布された模様。

98年にはNECホームエレクトロニクスがドリームキャストへの参入とPC-FXからの撤退を正式に発表。
細々と展開をしていたPC-FXの歴史はついに終幕を迎え、同時にNECハードの系譜はここにて途絶える事になった。
PC-FXの最終的な販売台数は40万台出荷で11万1千台に終わり、当初目標の50万台には遥かに及ばなかった。
2000年にはNEC-HE自体もNECの業績悪化によって解散させられてしまい、PC-FXの痕跡は歴史から消えていった。

不安定な販売戦略とソフト展開を強いられ、商業的には大失敗の上にPCエンジンよりも知名度も低いまま姿を消したPC-FX。
PCエンジンから始まったNECのハード展開の結末としては、お世辞にも美しい歴史の終焉ではなかった。
それでもコアな層に売り込んだだけあって、今なおこのハードを語り継ぐ熱心なファンがいる辺りはユーザーから強い愛を抱かれたゲーム機とも言える。

【PC-FXの特徴】


本体外観/コントローラー

本体サイズは幅132mm・奥行き267mm・高さ244mmという、当時のデスクトップパソコンレベルの巨大な大きさを持つ。

今でこそ然程珍しいスタイルでもない縦置き型を初めて採用しており、CD-ROMドライブは縦置きした本体の上部に設置されている。
縦置きのスタイルは世間的に評価され、通産省グッドデザイン賞を受賞を獲得するに至った。

本体正面は電源ボタンとパッド用端子とインジケーターが見える。
正面の拡張スロットはバックアップメモリパック専用スロット。

本体背面にはAV出力端子と電源コードと拡張スロット。
背面の上部に蓋で覆われる形で搭載された拡張スロットは様々な周辺機器を接続する汎用スロットとなる。

本体底面に拡張スロットは処理能力を向上するメモリ用に使えるはずだったのだが、そのための機器が発売されることはなかった。
つまり、底面のスロットはほぼ存在意義のない状態になっており、今後も永遠に利用されることはない。

PC-FX用のパッドは、6ボタンやモード切替スイッチなどを搭載した物。
PCエンジンDUO-RXにも採用されたアーケードパッド6とほぼ同型デザインだが、コストダウンのためと言われる。
ちなみにPC-FXで発売されたソフトの都合上、この6ボタン仕様が活かされることはなかった。
唯一6ボタンをフルに使用したソフトは『デア・ラングリッサーFX』のみで、隠しコマンドで6ボタンをフルに使用する。
また、パッド以外のコントローラーとして『PC-FX マウス』というマウスも存在する。

本体性能

CPU V810 21.475MHz
GPU HuC62
メインRAM 2MB
VRAM 1.25MB
画素数 320×240ドット
最大表示色数 1677万色
スプライト 最大128個

全体的な本体性能を引き出すハード設計は前世代のPCエンジンと類似している(というか引き継いだ?)。

第五世代ハードだが、3D表示機能を所持しておらずポリゴンを扱うのは一切不可能という当時のニーズを完全放棄。
NEC側は「3Dは動画再生機能を使って表現すればいいじゃん」という独自理論を展開する。
3D性能がないまでの経緯は情報が多少証言が違う点があるが、3D性能がない故に現在のPC-FXのハード設計になったのは確かである。
なお、PC-FX発表当初は「FXファイター」なる3Dポリゴン対戦格闘ゲームが紹介されていたという事実が残っている。

CPUには、バーチャルボーイにも採用されたNEC製32ビットRISCプロセッサ「V810」を採用。
GPUは前世代のPCエンジンに続いてハドソンのHuC62シリーズを採用し、それを2機搭載した(苦し紛れでの2機搭載とも言われる)。
つまり、大雑把に言うと「バーチャルボーイのCPU+PCエンジンのGPU×2」という凄いんだか凄くないんだか分からない設計だった。*1
サウンド性能はPCエンジンと同様の波形メモリ音源6音にAD-PCM音源2音と、ぶっちゃけかなりチープ。
PCエンジンから性能が余り向上しておらず、他ハードのサウンド性能と大きく引き離されている。

このように軒並み性能が貧弱気味なPC-FXだが、このハードの目玉となるのは動画専用バスにより、動画をリアルタイムに操作してシームレスに切り替えられる動画再生機能である。
しかし、解像度が高くない事やハード設計自体が尖っていて開発難易度が高かったことが原因で、使いこなせたソフトは少なかった。
そもそも3D機能を持たないため、動画はフルアニメーションのようなゲームを求められるわけであり、普通に考えて開発費用がとんでもない事になる。
更に当時はまだソフト媒体がCD-ROMなので容量に限りがある上、パソコンのような3倍速と比較して倍速では読み込み時間が遅く、動画を盛り込むと動作がもっさりする始末。
その為、主軸を動画に傾倒すると容量不足と読み込み地獄に陥る事になるという事態になった。

にもかかわらずNEC側も「アニメ戦略」という「(業界初!)アニメファンのためのゲームマシンで見るOVA登場!!」と『アニメフリークFX』創刊号でうたっている。
また「PC-FXアニメファンクラブ」が設立され、積極的にアニメファンや声優ファンの取り込みを行った。
しかしその路線のせいでサードパーティーのソフト開発は難航し、ほとんどのソフトはNECが独自に出していく事になってしまった。
最終的に発売されたゲームの約95%がNEC製という、結果ほぼNEC専用ハードと化した。

ちなみに、ゲーム以外では音楽CD・CD-G・PhotoCDといったCDの再生も可能だが、こちらも発売時期の頃には特に魅力のある機能でもなかった。

ソフト展開

PCエンジン後期のソフト展開の流れがそのまま引き継がれており、最初から美少女ゲームの割合が多いのが特徴。
それだけにハードを所持しているだけで趣味がバレるという代物
PC用18禁エロゲーやギャルゲーの移植に力が入れられ、高い移植度と実用性を発揮した。
アイドル声優ブームだったこともあって、「アニメフリークFX」という声優のディスクマガジンも展開された。
しかし、美少女を活かしたマニア路線は極一部の層に受けただけであり、一般的に内容でも商業面でも高評価は受けられなかった。

一応、非美少女ゲーの上に内容で評価されたゲームも少なからずある。
ところが、PC-FX自体が不振だった事もあってこのようなソフトが大きく目立つことはなく、マイナーな色物として歴史の闇に消えていった。
アニメ路線で動画前提という開発の敷居の高さに比べ、ユーザー層が圧倒的に限られており、他ハードのように強みを生かしづらかった。
更に動画以外の利点が存在しない為、動画を利用しないなら無理してPC-FX向けに開発するより従来ハードかいっそPC向けに作った方が売れるという結果になった。*2
PC-FXのキラーソフトとしては、PCエンジンでの開発から移行した天外魔境Ⅲの発売が予告されていたが、計画の頓挫から発売中止となった。*3

ちなみに、アンジェリークシリーズとの縁が深いという点も地味に有名。
アンジェリークがスーパーファミコンから移植されると、それ以降「アンジェリークの新作はまずPC-FX版で先行発売される」という決まりが確約された。
実際にこの確約は『アンジェリーク 天空の鎮魂歌』の発売まで実現され、PC-FXの完全終了まで破られることはなかった。

最終的な発売ソフト総数は62本と、同世代で不振に終わった3DO(全215タイトル)などと比べても少ない数に終わってしまった。

【周辺機器】


PC-98シリーズとの連携もPC-FXの特徴だったため、もう少しPC-FXが売れていれば周辺機器は多数輩出されたと考えられる。

PC-FX バックアップメモリパック

PC-FXにおいてゲームのセーブデータを保存するバックアップ容量を増やすためのセーブ用外部メモリで、拡張スロットに差し込んで使う。

内蔵メモリの4倍の容量を持ち、お世辞にも容量が多くないPC-FXで遊ぶには必須に近い。
一方、単4乾電池を2本使用する必要があるという欠点も抱えている。
電池交換は取り外し10分以内に行う必要があり、当然ながら電池が切れればデータは消失する。

PC-FX SCSIアダプタ

この専用ケーブルで拡張スロットに繋ぐと、PC-98外付けCD-ROMとしてPC-FXを利用可能。
しかし、3倍速のCD-ROMが出始めていたPC市場においては読み込み速度が遅いので、結果的に全く需要がなかった。

【PC-FX関連のパソコン用拡張ボード】


PC-FXボード

PC-98 CanBe専用拡張ボードで、これを使うとPC-98 CanBeでPC-FXのソフトを遊べる。

良くも悪くもPC-98 CanBeでPC-FXを遊べるという以外に特筆する点がないボード。
そのためか、下記のPC-FXGAと比較すると認知度や人気が低い。

PC-FXGA

PC-FXボードとはまた異なるPC-FX互換のパソコン用拡張ボード。標準価格は46,000円(税別)。

PC-FXで単に遊べるだけではなく、PC-FXのセーブデータをパソコン上で管理する事も行える。
更に別売のスターターキットでユーザー側で自作プログラムが可能。
FXGAにはPC-FXやPC-FXボードにはない3DCG表示用チップが搭載されたことで、この3D機能は自作プログラムで利用することができる。

PC-98用とDOS/V用の2バーションが存在し、後者は生産数の少なさからプレミア品とされる。

【ロルフィー】


「PC-FX」及びそのソフトシリーズである「アニメフリークFX」のマスコットキャラクターとして、ロルフィーなる存在が作られた。

只野和子がデザインを担当し、青緑色の独特な髪型を持つ13歳の美少女キャラが描かれた。
担当声優には大野まりなが抜擢され、シングルCDや主役ゲーム作品の『となりのプリンセス ロルフィー』も発売された。

しかし、イメージキャラクターの都合上「PC-FXの寿命=ロルフィーの寿命」という構図なので、PC-FXの展開終了と共にロルフィーの活動も消滅
その後、NEC-HEの保有するゲーム周りの商標・権利を受け継いだBIGLOBEの手で、同社が運営する美少女ゲームポータル『ドキドキCplaza』のバナーの看板キャラとして採用された。
18禁のバナーに採用されたことを嘆く当時のファンもいた(世間的に当時とそんな大差ないだろとか思ってはいけない)。
2015年以降はこのバナーも使われなくなり、それ以降はロルフィーの活動は確認されていない。








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最終更新:2024年03月24日 20:41

*1 ちなみにV810は低コスト・省電力の携帯機制御用チップなので、お世辞にも値段に見合った性能とはほど遠い。

*2 その動画もPCの方が快適に見れる上、95年にはWindows95が発売されてエロゲー市場は瞬く間に席巻されてしまった。

*3 後にPlayStation2で発売されるが、当初想定されていたPC-FX版のシナリオは諸々の理由から使われず、まったく別物の作品になった