易者(東方Project)

登録日:2019/03/17 Sun 21:17:30
更新日:2024/03/18 Mon 15:23:12
所要時間:約 7 分で読めます





占術を通じて世界の外側を見たんだ
そうしたら急に妖怪に管理された人間生活が惨めに見えてな


人間を辞めようと思ったんだよ


本項目における易者とは、東方Projectのコミカライズ作品『東方鈴奈庵』第25話「著者不明は容易く盗まれる 後編 」に登場する人物……いや、人妖である。


【概要】

本居小鈴が所有していた、(売り物の)易書を鍵としてこの世に復活を果たした怨霊。
生前は人間の里の長屋に住む易者の大先生の門人で、丸眼鏡をかけた独特の印象を持つ男だった。彼が残した易書は独自の手法や説が分かりやすく記されていて、その内容は魔理沙阿求マミゾウさえも認める程だった。
やがてこの易者の占術は魔術を帯びてきたらしく、その事で師に破門された後に自らの命を絶った。当時の里では死因が特定されず遺体はそのまま埋葬されたようだ。


外見は袴の上に襟を立てた外套をマントのように羽織り、頭には宗匠帽を被った典型的な易者の装いをした妖怪。
ただ顔つきは人間のそれからはかけ離れた恐ろしいもので、落ち窪んだ眼窩と頬まで避けた口、先端の尖った耳や鼻が彼の妖怪としての性質を物語っている。
なお両手の爪も鋭く伸びているが、作中でその威力を披露する事は叶わなかった。



【そもそも怨霊とは】

東方Projectにおいて怨霊は他の妖怪から極めて忌避される存在である。

悪意に満ちた人間や強い恨みを持った人間から出てくる幽霊の一種だが、彼らは輪廻転生の輪から外れて未来永劫幽霊のままだという。
その出自から基本的に地獄にいるが、旧地獄にも多数が残っていて地霊殿の主・古明地 さとり達に管理されている。おまけにお燐の餌になっている。
蘇我 屠自古魅魔のような強力な怨霊も皆無ではないが、大半の怨霊は魔理沙曰く「幽霊より弱い」存在である。
だが後述の事情から大抵の妖怪は怨霊を異様に恐れている。


『地霊殿』 の物語は地底から湧き出てきた怨霊に対処するために霊夢や魔理沙に手を貸した事が発端となり、その後の『茨歌仙』でも華扇が事態の後始末に奔走していた。その時の華扇は危機感ゼロの霊夢や魔理沙に


怨霊は人間の精神を蝕みます。欲望を増幅し怠惰の毒に冒され、死後人間を地獄に落とします。地獄に落ちた人間は自らも怨霊となってしまうのです


と警告している。


そんな怨霊達だがその存在は地獄の資金源にもなり、地獄に落ちた彼らを高温の窯で溶かす事でを生成することが可能である旨が華扇の口から語られている。このは欲望の結晶であり、他にも「生きたい」という欲望からは水銀が、「人を殺したい」という欲望からは砒素が、さらにはアンチモンや鉛なども生成されるそうだ。
ただし、こうして生まれたには怨霊が集まってくるため大変危険。死にたい奴だけ近寄ってよし。
華扇は地上に出てきた怨霊を数体握り潰して消滅させているが、この行為は地獄側の小町にとっては容認できないようで彼女に注意していた。



また『東方求聞口授』の対談での神奈子によると幻想郷の妖怪が怨霊を恐れる要因は2つあるという。
まずは先にも書いた怨霊が人間に取憑く性質で、怨霊はこの手口で人間同士が怨み合うように仕向けるという。
人間の間だけで敵対関係が完結するようになってしまうと”人間は妖怪を畏れ、妖怪は人間を襲う”幻想郷のルールを根底から覆しかねなくなる。人間の畏れが存在意義たる妖怪達にとっては死活問題といえる。
さらに神奈子が危惧しているのは、怨霊は妖怪の存在自体を乗っ取る可能性があることである。
彼女も前例は知らないようだが、一般的に肉体に比べて精神が脆く出来ている (某11点はある意味別格) 妖怪に怨霊が取憑いた場合、その妖怪の性格はまるっきり別の物に変化すると考えられているようだ。
人妖にとってはこれだけ危険極まりない性質を持つが例外的に神霊には殆ど影響しないようで、神奈子が旧地獄の間欠泉センターを管理して無事でいられるのはこうした理由がある。



【作中での動向】

易者の死からおよそ半年後に小鈴が鈴奈庵にあった彼の遺品である易書を発見したのがこのエピソードの発端である。


持ち前の能力*1を活かして易書を解読した小鈴は里の子供達を相手に占いを始める。やがて“よく当たる”と評判の小鈴の占いは大人達の噂にまでなり、ほどなくして連日鈴奈庵に占ってもらおうとする人々の列が出来るようになった。
だが易書を読む小鈴の背後には時折黒い影が現れていた。


阿求やマミゾウの忠告も聞かずに (要はいつも通り) 客を占っていた小鈴に危機が訪れる。
小鈴の背後に妖怪となった易者が復活を遂げて立っていたのだ。


実は彼の遺した易書は妖怪に影響された“妖魔本”でこそないものの、死亡した易者が条件を満たす事で怨霊として蘇るための鍵だった。
その本は“誰でも実践できる作者不明の占術と話術のパート”と“稚拙で子供騙しの戯言のパート”の二つから成り立っており、前者のみを取り上げてさも自分で占術を編み出したかのように振舞う者が現れる事で嫉妬の心を抱いた易者があの世から舞い戻ってくるように書かれていた。

易者の本の内容をパクった当の小鈴自身は「説明するのを端折っていたら自分が編み出した事になっていたが、否定するのも面倒だった (要約) 」と語っているが。

また阿求によるとこの易書やかつて騒動を巻き起こした、女性の亡霊が宿る艶書のような“誰が書いたかわからないけれど強い思いが込められている本”はそもそも読むだけであの世とこの世を結んでしまう性質があるようだ。

一見して著者の真意が看破しづらい分堅実な手法ではあるが前提として第三者の行動が必要になる難点があり、自ら人間を捨てて怨霊になり果てた事実もあって易者に対して霊夢は「回りくどい」と吐き捨てている。


こうして復活を果たした易者だったが、間の悪い事に鈴奈庵で何事かが起こっているのを察した霊夢と復活早々に鉢合わせる。
易者の存在を認識して血相を変えた霊夢は数枚のお札を放ったが、易者は手元のカーテンを手繰り寄せて盾にしてこれを防いだ。
霊夢は気絶した小鈴を僅かに遅れて駆け付けた魔理沙達に任せ、逃げた易者を追撃。やがて二人きりになったところで易者は彼女にこのような頼みをした。





俺を自由にしてくれないか?




易者が自らの命を絶ってまで妖怪になった理由は、「妖怪に管理された惨めな人間の生活から抜け出すため」だった。
曰く、占術によって外の世界を垣間見た事でそう決心したのだと言う。かつてゲームボーイの件で霖之助に忠告した時を思い出させる話である。

“占い師は感情を操る職業“という易者は嫉妬の心をコントロールする事で怨霊にはならないとしつつ、小鈴を含めた里の人間に危害を加えない事を”無益な殺生をしない妖怪巫女“こと霊夢に誓う。そして人里から一人去ろうとしたのだが……






残念ね。私は無益な殺生もする。無論妖怪巫女でもない
妖怪なら問答無用で退治する――



人間巫女よ





霊夢は易者を認めなかった。


彼の胸元にお札を張り付けるとたちまち幾重もの帯のような結界が易者の全身を包み込んだ。話を聞かない霊夢に戸惑いを隠せない易者をよそに、いつになく無慈悲な表情の霊夢は愛用のお祓い棒で彼の頭を真っ二つにかち割った。これが本当の妖器「無慈悲なお祓い棒」。


頭が半分こになってもなお易者は霊夢が身近な妖怪を退治していない事を恨み言のように告げたが、霊夢はそれも


幻想郷では里の人間が妖怪になる事が一番の大罪なのよ。私の仕事はそれを監視する事


某二人で一人の探偵ライダーのようなポーズで一蹴している。まもなく怨霊としての易者の身体は塵となって消滅した。


こうして人妖となろうとした不良易者は水際で復活を阻止され、残った易書もあえなく焼却処分された。
ついでに小鈴はお守りやらプロマイドやらなめえもん*2やらも燃やした。


現世への帰還が叶わなくなった後の易者の去就は不明。幽々子映姫辺りが然るべき対応をしてくれたのか。



【元ネタ】

易者の復活手段の元ネタは、作中でも阿求が語っていた江戸時代の教育書『民家要術』。
国学者の宮負定雄が書いた本書の“本の読み方”の欄にはこのような記述がある。


 書物を読むにはその撰者の霊の見聞している事及び幽冥より現世は見通しにして何事も幽冥の鬼神には隠しがたき事を思うべきなり


阿求の要約によると、本を読むときはその本の著者もまた読者を見ているという事らしい。



また、


 吾考の善き説をば自身の考の如く言いふらし吾考の非説をば糞の如くに言うて見聞に堪えず (中略) 其の人を打ち殺そうと思い毎日苦しむ


こちらは易者が復活に使った手段そのもので、著書のいいところを我が物のようにして振舞う一方で悪いところをこき下ろすとその本の著者は怒って化けて出てくるという事である。
……この記述が真実ならネット社会な現代の物書きは誰一人成仏できないかも知れない。





アニヲタWikiの部分を切り捨てて、それ以外を自分が執筆した記事だとして他所にコピペする奴が現れた時
俺は追記・修正の心によってあの世から復活できるのだ



この項目が面白かったなら……\パッカーン /

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最終更新:2024年03月18日 15:23

*1 判読眼の能力。小鈴はあらゆる言語で書かれた書物を瞬時に解読する事が出来る

*2 小鈴謹製のぬいぐるみ。このエピソードの一つ前では蛇除けのためになめえもんのぬいぐるみを作っていた