ミ=ゴ

登録日:2016/11/10 Thu 20:05:46
更新日:2023/06/26 Mon 00:49:49
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ミ=ゴ(Mi-go)、或いはユゴスからのもの(Fungi from Yuggoth)は、クトゥルフ神話に登場する知的種族の一つ。
発初はハワード・フィリップス・ラヴクラフトの著作『闇に囁くもの』で、その他にも同著者の『狂気山脈』『銀の鍵の門を越え』などでも存在が言及。
それ以外の作家の作品だとラムジー・キャンベルの『ユゴスの坑』*1にも登場している。

他の呼び名には「ユゴスよりの菌類」、「外世界のもの」、「ユゴス星人」など。
本稿では便宜上「ミ=ゴ」の名称で通すが、厳密にはこれは「ユゴスからのもの」そのものを指す用語ではないため少し注意。
ちなみにヘイゼル・ヒールドの短編『永劫より』にはガタノソアを崇拝する種族として「ユゴス星人」が登場するが、
神話ファンの間でもユゴス星人をミ=ゴと同一視するか否かについては解釈が分かれるところ。


概要

その名の通り、ユゴス(冥王星)に拠点を置く知的生命体。
蟹や昆虫を彷彿とさせる甲殻類系の身体に、蝙蝠のような翼と、一見複数種の生物の要素を混ぜ合わせたかのような姿をしているが、
本質的には菌類に属する生命体であるとされている。この形態の全長は大体1.5メートル程度。
翼は物理的に飛ぶためのものでなく、宇宙空間のエーテルに干渉して真空を飛ぶ機能の方が主目的であるとされる。
頭部は触角に覆われており、後年の創作ではこれがミ=ゴの菌類としての本体だと解釈されることも。
身体は地球上の物質とは全く異なる組成であるらしく、人間が直接視認する事は可能だが、写真や映像などにその姿は映らない。
またその死骸も数時間で溶けてしまうため、生きているミ=ゴに直接会う以外にその痕跡をたどることは極めて困難。
闇に覆われた世界で生きてきた種族らしく光が弱点で、またミ=ゴ当人の戦闘能力も犬に殺されてしまう程度ではあるらしい。
とはいえ、『闇に囁くもの』ではミ=ゴを威嚇した番犬5頭が逆に返り討ちにされたという描写もあったりするが。
同作中では他にもニャルラトホテプシュブ=ニグラスを崇拝している事も記述され、に存在する彼らのコロニーにはシュブ=ニグラスの祭壇があるらしい。

地球には特殊な鉱物資源の採掘を目的に度々訪れており、
最初に到来したのは人類誕生以前、その際に当時地球を座席していた「古のもの」を駆逐したとされている。
20世紀代でも地球の各地で採掘作業を続けており、『闇に囁くもの』の舞台となったアメリカ合衆国・バーモント州では
河川の大規模な氾濫に際してミ=ゴの一個体と思しき死骸が目撃されたり、また他にも怪物の出没情報が寄せられたりと所々で痕跡を残している。
現在でもヒマラヤ山脈やアンデス山脈、アパラチア山脈にその採掘拠点を築いているとのことで、
一説ではアメリカ国内で多発しているキャトル・ミューティレーションの犯人だとも。

クトゥルー神話に登場する独立種族ではショゴスなどと異なり、明確に「知的生命体」に位置付けられているキャラクター。
故に、現在(旧支配者外なる神の薄氷の上で)地球で文明圏を築いている現人類との関わりもそれなりにある。
ミ=ゴにとって地球上で優先すべきは資源採掘で、地球人類に対してはぶっちゃけ歯牙にもかけていないのだが
自分達の目的に協力してくれるのならば見返りを贈り、逆に邪魔になるなら徹底して排除するというのが基本的なスタンス。
特に信頼できる相手には、自分たちの有する高度な技術や、人知を超えた知識の一端を提供することもあるらしく、
そういう意味では他の独立種族よりは比較的、人間に対して無害な中立的存在と言える。

20世紀前半期と比べても、地球人類のものを遥かに超越した高度な技術を有しており、特にピックアップされがちなのは医学方面。
中でも移植技術は極めて高度であり、これによって地球人類と会話するための器官を移植する、
後述する雪男などの形態を取る、そして人間の脳髄を生きたまま機械の「円筒」に移し替えるといった芸当も可能。
この円筒はミ=ゴというキャラクターを語る上では外せないアイテムであり、単に脳髄を保管するだけという訳ではなく
後付けの設備で五感や言葉を再現したり、また元々の肉体もケアした上で長期間保存するという丁寧さ。
書籍『エンサイクロペディア・クトゥルフ』では、ミ=ゴがこの円筒を地球人類に対して用いるのは
特に好意を持つ、あるいは最も軽蔑する個体」に対してだと記述されている。
前者ならば「永遠の宇宙の友」、後者なら「未来永劫の牢獄」……といったところだろうか。

ヒマラヤで「ミ=ゴ」と呼称される雪男の正体であるともされており、
前述のとおりミ=ゴの本来の姿は地球上でいう甲殻類と蝙蝠のキメラ染みた、人型とは似ても似つかないものなのだが
後年の解釈では「その卓越した技術で、人型フォルムの肉体を形作った」または「甲殻類型とはまた別の類人猿型タイプの個体」と記述した書籍も散見される。
ちなみにミ=ゴと呼ばれる雪男はラヴクラフトの創作ではなくチベット民俗学のシェルパ伝承で語られる実際の伝説が元ネタ*2であるらしく
ダゴン同様に創作と伝承を繋げた、というのが正確な模様。

書籍『エンサイクロペディア・クトゥルフ』によればンガ・クトゥンと呼ばれる指揮官相当の個体が、リン・カーターの作品『Zoth-Ommog』(未日本語訳)に登場した模様。
その他、T・E・D・クラインの作品『王国の子ら』*3に登場する存在が、クトゥルフ神話TRPGの分野においてゾ・トゥルミ=ゴという名前のクリーチャーとして登録されているが、関連性は不明。


後世の創作での扱い

TRPGや漫画など後世の創作分野では、やはり初出作品における扱いが扱いなだけあってか、地球人のカルトとつるむ敵性宇宙人として扱われることが殆どで、
何とかミ=ゴの魔手から逃れたと思った語り部が、実は既に円筒に……なんてオチが用意される事もザラ。
モノによっては「人間を苗床にして繁殖する」などという物騒極まりない設定が付加されたりもしている。

例を挙げれば、クトゥルフ神話世界でのスパイアクションを描いた『デルタグリーン』というシリーズでは、グレイ型ロボットを通して「宇宙人」という形で合衆国に接触、ミ=ゴからすれば低レベルな技術を提供することの見返りとして、合衆国内での人体実験許可を得ている。
そればかりか合衆国上層部を傀儡とし、特務機関マジェスティック12を事実上乗っ取っており、自分たちにとっての脅威である特殊部隊デルタグリーンを解体にまで追い込んでいる。
内山靖二郎によるクトゥルフ神話TRPGリプレイ『白無垢の仮面』でも、昭和初期の日本で暗躍していた秘密結社「佐比売党」とつるんでいる姿が描かれた。
朝松健の長編小説『弧の増殖』においては、千葉県夜刀浦市近郊の古墳を前線基地として密かに陰謀を進めており、強烈な電磁波をスマートフォンやパソコンを介して送信、人間の脳を沸騰させることで生贄に捧げ、彼らの信奉する「電磁波の邪神」イルエヰックを召喚しようと画策していた。

一方で、付き合い方さえ間違わなければ恩恵をもたらしてくれるとも解釈できる描写から、割と人類に友好的とされる場合も稀にあり、
特にフリッツ・ライバーの短編小説『アーカムそして星の世界へ』*4では、
『ダンウィッチの怪』の裏側でヨグ=ソトースを召喚しようとしたウェイトリー兄弟の企みを阻止すべくミスカトニック大学の教授たちに協力、
さらに死の間際の若い紳士から脳髄を抜き取り、遥かなる宇宙の旅に送り出した
という、何とも壮大かつ大胆な解釈で扱われたことも。
(ただこの作品、本家クトゥルー神話ファンからはどちらかと言えば「ファンフィクション」的に看做され気味な作品でもあるのだが)

何にしても、彼らをただの一クリーチャーとして扱うか、それとも宇宙の深淵に潜む奇怪な隣人と見るか、あるいは恐るべき邪神の下僕として敵対するか……それは貴方次第である。



追記・修正は、海蛇座と北極星のあいだを飛ぶ一つの円筒を見つけた人がお願いします。

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最終更新:2023年06月26日 00:49

*1 旧邦題『暗黒星の陥穽』

*2 「mi」は「人」、「rgod」は「荒くれの」「騒がしい」「野蛮な」などの意味。

*3 日本訳はハヤカワ文庫NV『闇の展覧会 2』『闇の展覧会 罠』に収録。

*4 日本訳は青心社の『クトゥルー 4』に収録。