序盤:若き改革者
養父の失脚でファリド家当主の座についたマクギリス。アルミリアとの婚姻でボードウィンの娘婿となり、さらにイシュー家の後見人としてカルタ亡き後の地球外縁軌道統制統合艦隊司令官の地位を得る(同時に、特務三佐から准将へ昇進)。
かくして、若輩ながらもセブンスターズで一目置かれる立場となった彼は、お飾りの儀仗兵部隊と化していた地球外縁軌道統制統合艦隊を再編し、実践的な部隊へと作り替えた。
火星出身の石動・カミーチェをはじめ出生や家柄にこだわらない人事を率先して行い、エドモントンの戦いで地に落ちたギャラルホルンの威信改革にも貢献していた。
義父ボードウィン卿の後ろ盾もあり、他のセブンスターズの当主たちもマクギリスの功績を認める声が出るようになっていた。
一方でマクギリスの躍進は保守派からは脅威と受け止められていた。
特にマクギリスの政敵であるラスタルはマクギリスの思考をよく理解している謎の男ヴィダールを傍に置きマクギリスの真意を探っていた。
ラスタルは幼少時のマクギリス、他人に対して仮面を被ることを覚える前の彼と面識があり、初めての会話で欲しいものを尋ねられたマクギリスが「バエル」を求めたことをよく覚えており、そのマクギリスが予想通り政敵となったことに強く警戒を感じていたのであった。
段々と職権を広げ発言力を増していくマクギリスは地球外縁軌道統制統合艦隊の行動範囲を広げるようセブンスターズに提案する。
しかし、それは同時に他のセブンスターズ――特に月外縁軌道統合艦隊アリアンロッドを率いるラスタルの職域に手を出すことであり、かねてよりマクギリスを敵視しラスタルを慕う
イオク・クジャンからの強い反発を招く。
ラスタルも内心では苦々しく感じていたが、あえて豪放な態度で許容し彼の度量の広さを誇示する道を選ぶ。
最大の目的と思われていたイズナリオの失脚にも満足せず、更なる躍進を求めるマクギリス。
そんなマクギリスの真意を探ろうとするラスタル。
ギャラルホルン内部では表面上は同志と呼びつつも常に互いを出し抜こうとする関係が加速していく。
そして、アリアンロッド艦隊の管轄内で暴れる大規模な海賊、夜明けの地平線団に着目。彼らを鉄華団の手で討伐させることで、アリアンロッド艦隊の治安維持能力の低下を強調し、地球外縁軌道統制統合艦隊が圏外圏も管轄に収める足掛かりにしようと画策する。
結果的に討伐には成功し、マクギリスが己の生き様を重ねる鉄華団、特に圧倒的な力で戦場を駆ける三日月が夜明けの地平線団トップの身柄を確保した。
大戦果を挙げてことでマクギリス個人としては溜飲を下げることは出来た。
しかし、実情は地球外縁軌道統制統合艦隊、鉄華団、アリアンロッド艦隊による手柄の奪い合いとなり、ギャラルホルンにおける覇権争いが浮き彫りになった。
マクギリスの腹心である石動が鉄華団に助成する様子もアリアンロッド艦隊に見咎められ、「マクギリスと鉄華団は一蓮托生であり、マクギリスを止めるには両方を制さねばない」という印象を強めた。
この一件はマクギリスと鉄華団の運命を大きく左右していく。
ラスタルは間髪を入れず、協力者である
ガラン・モッサに依頼してアーブラウとSAUの紛争が勃発させた。
マクギリスはアリアンロッド艦隊の職域に喰い込むどころか、地球圏内への対応に忙殺され、
マクギリスの治安維持の手腕が疑問視されかねない事態となってしまう。
鉄華団がアーブラウの軍事顧問であったことで危うくマクギリスと鉄華団の関係が破綻しかねない状況に追い込まれるが、オルガ・イツカの迅速な判断と三日月・オーガスという圧倒的な戦力によりギリギリのところで事態終息に成功する。
マクギリスはガランとラスタルの関係をある程度読んでいたものの徹底的な証拠を集めきることはできず、ボードウィン卿からの援護でかろうじて発言力を残す状況となってしまう。
中盤:魂を手にした男
アーブラウとSAUの紛争が一段落した後、自分が癒着している火星支部長から、「鉄華団が自身の鉱山の発掘現場で奇妙な機体を発見したと報告があった」という一報を受け、火星支部長にアリアンロッド艦隊への上申を差し止めさせた。
それから、火星の地に降り立ち、地中から出てきた何かを確認しようとしていた。
当初は単なる視察と調査で終わるはずであった。
地中に存在したのはかつて厄祭戦で甚大な被害をもたらしたMAと推測され、マクギリス自身としては少なくともこの時点では余計な混乱を招かないようにと、ギャラルホルン本部へ一切通達しない選択をとった。
しかし、当然ながらこれらは専横であり、個人主義故の本来の管轄を度外視したこれらの行動は、「MAを悪用する企みを抱いている」とラスタル達に邪推される事態を招いてしまう。
そして、マクギリスの行動を警戒していたイオクが不用意にMSで追ってきたことで事態は急変、天敵のMSが接近したと認識したにMA、ハシュマルが覚醒するという最悪の事態になってしまう。
火星に甚大な被害をもたらしつつも鉄華団の活躍によりハシュマル討伐には成功したものの、マクギリスはかつて自身が策に嵌めたカルタのことを問うヴィダール、そして彼が操る謎のモビルスーツと邂逅することになる。
地球に戻った後、マクギリスは死んだはずのガエリオとボードウィン家に返却されたはずのキマリスについて石動に調査を命ずる。
本来この件は、鉄華団という(黒に近いグレーな)民間企業との癒着の証拠を掴まれるという、マクギリスにとって窮地に陥りかねない事態でもあったのだが、
イオクによるハシュマル覚醒の責任を問うことで失いかけたセブンスターズ内での発言力を取り戻すことにも成功する。
怒りに震えるイオクが指摘した七星勲章に対しても、元々興味も無かった為に一言で切り捨て真意を探ろうとしていたラスタルへの牽制も行った。
事態の大きさに対して双方水掛け論となって議題が霧散し、イオクの暴走がマクギリスにとっても思いがけない失地回復へとつながった。
が、これによりラスタルから叱責されたイオクの更なる暴走が後々のマクギリスの命運を大きく狂わせていくことになる。
マクギリスと鉄華団こそが部下達の仇である、として復讐に燃えるイオクは、同じテイワズ所属であり、クジャン家と旧交のあったジャスレイ・ドノミコルスに鉄華団の討伐を打診。
しかし、ジャスレイに唆されたイオクは、鉄華団を庇護するタービンズに冤罪をかけ強襲、交渉も停戦申請も無視しタービンズを壊滅させてしまう。
これによりマクギリスと協力関係にあった鉄華団はタービンズという後ろ盾を失い、マクギリス自身も己の権限外の出来事に対処できず再び鉄華団から信用を失いかねない立場となる。
更にタービンズ壊滅の影響でテイワズで内紛が発生、JPTトラストを襲撃した鉄華団がテイワズから脱退、マクギリスを頼ってくることになる。
鉄華団を擁していたテイワズとの関係が途切れてしまうという無視できない損失を被るものの、イオクが【
民間組織に冤罪をかけ禁止兵器であるダインスレイヴを使って民間人を殺害した】というスキャンダルについては証拠を握ることに成功する。
一方でヴィダールという男がラスタル側についていることで自身の本心はギャラルホルンにおける栄達にはなく、ギャラルホルンに反旗を翻そうとしている行動自体はラスタル側に発覚していると警戒していた。
しかし、自身の行動や思考は筒抜けでも、その真意は誰も未だ理解できていないという確信こそが彼の最大の切り札でもあった。このため、かねてよりライザ・エンザ達と計画していたクーデターを決行、3人のセブンスターズを軟禁し地球本部を制圧する。
同時にSAUとアーブラウの紛争がラスタルとガランによる自作自演であったこと、イオクが民間組織に冤罪を着せ禁止兵器で民間人を虐殺したことなど暴露、これによりラスタルとイオクの失脚させるべく世論に訴えかける。
その後はヴィダールによる介入もあったが、本部地下の格納庫で目的であったバエルに搭乗(この時、背中には阿頼耶識システムの接続端子が増設されていた)。
機体を起動、「ギャラルホルンの象徴」の強奪に成功し高らかに宣言する。
ギャラルホルンを名乗る身ならば、このモビルスーツがどのような意味を持つかは理解できるだろう!
ギャラルホルンにおいて、バエルを操る者こそが唯一絶対の力を持ち、その頂点に立つ!
席次も思想も関係なく、従わねばならないのだ!アグニカ・カイエルの魂に!!
このマクギリスの放送を聞いたライザ達はクーデターの成功を確信し喜ぶが、一方でなし崩し的に参加していた鉄華団の面々はさすがに懐疑的であった。
その直後に仮面を捨てたヴィダールが放送を開始、自身が死亡したはずのガエリオであることを明かし、逆賊マクギリスの討伐を宣言する。
終盤:マクギリス・ファリド
マクギリスの絵図の限りでは、錦の御旗であるバエルを強奪した時点で革命は成功であり、ガエリオを逃したことも些事に過ぎなかった。
しかし時代はもはやアグニカやバエルを必要とする時代ではなくなっていた。
最強の戦力であるアリオンロッド艦隊を集結させたラスタルもマクギリスがかつてガエリオとカルタを姦計に陥れたことを暴露、双方のスキャンダル合戦に持ち込まれたことでマクギリス陣営による暴露は効果が薄れてしまう。
バエル強奪後は誰もが従うはずと半ば本気で確信していたものの、古老にのらくらと躱され軟禁したセブンスターズからの戦力確保に失敗、マクギリスにとってはバエルの威光が通じないという予想外の展開になってしまう。
圧倒的な武力とその象徴が持つ力を過信し、その武力によって築かれた縦割りの組織とはどういうものかを完全に無視した結果、組織から放逐されてしまった。
この事態に対して、しばしばバエルの威光を過信したマクギリスをただの阿呆と嘲笑する意見も、視聴者の間では多く出た。
しかし、この完全な時代遅れの遺物と化して曇り切ったバエルの威光でも、アリアンロッド艦隊以外のギャラルホルン上層部から中立や静観を引き出すことに成功している。
マクギリスがかき集めた資料におけるバエルが、如何に崇高かつ強大な存在と定義されていたかが窺い知れ、彼が単に御伽噺を盲信していただけではなかったことが窺える。
敵は辛うじてアリアンロッド艦隊のみとなったが、それでも、自身の戦力とクーデター派、鉄華団で2倍以上の戦力をもつこの艦隊と衝突する事態になってしまう。
更に革命軍の中に仕込まれていた間者によるダインスレイヴの使用を許してしまい、ダインスレイヴによる報復で大打撃を受け、クーデター派をまとめていたライザも戦死。
マクギリスは錦の御旗であるバエルを駆り味方を激励して混乱の収拾に成功するが、それが更なるダインスレイヴによる攻撃を呼び込むこととなる。
バエル強奪時のセブンスターズの反応やアグニカの魂が宿るというマクギリスの台詞により視聴者の間では「MAを呼び覚ます能力があるのでは?」「ガンダム・ヴィダールの秘匿機能“阿頼耶識システムTypeE”のようアグニカの脳が使われているのでは?」といった憶測が盛んにおこなわれていたが、
その実態は特殊能力などは一切なく、阿頼耶識システムの情報伝達能力とアグニカの超常的な実力頼みなプロトタイプ扱いのモビルスーツに過ぎなかった。
このため戦場でも自軍の士気高揚などには役立っても戦局全体を覆すほどの戦果は挙げられず、キマリスのように時代に合わせて対MAから対MSへとブラッシュアップされ続けてきた機体には遅れをとるという弱点も存在していた。
アルミリアをかばった際の負傷も影響し、石動の戦死へとつながってしまう。
多くの戦力と共にライザや石動という自身を支える人材を失ったマクギリスは火星へ敗走、火星支部にある戦力で巻き返しを図ろうとする。
が、ラスタルに先手を打たれギャラルホルンにおける地位を剥奪されてしまう。マスコミにも犯罪者として報道され、自身がイズナリオとは血縁関係がないことも公然の事実となってしまった。
火星支部本部長である新江・プロトももはやマクギリスを見限っていたが、ここまで上り詰めたマクギリスの強運については未だ警戒を解いておらず、マクギリスを受け入れはしないが討伐もしない、いわば黙認という形でマクギリスが火星の地へ降り立つことを認める。
火星支部の意趣返しにより火星の戦力が得られないと分かった後も鉄華団と行動を共にし「個人的に調べたい事がある」と思わせぶりな台詞を言うなどこの期に及んでまだ余裕を見せていた為
再び視聴者の間では「いよいよMAの大群が登場するのでは?」と期待が高まっていたが、特に何かしていたわけではなかったらしい。
一方でこの間鉄華団側は(交渉決裂したが)裏でマクギリスの身柄と引き換えにラスタルへの命乞いを画策していたのに対し、これまで己の力のみで道を切り拓いてきた鉄華団へのマクギリスの親近感は本心であり、
彼らが「一旦地球に逃亡して全員生存を目指す」という計画を立て袂が分かれた事を残念がりながらも、本部をバエルで離脱するついでにイオクらギャラルホルンの包囲網相手に単機で無双しオルガら数名がクリュセまで逃れる隙を作っていた。
オルガはクリュセで
暗殺されたものの、結果的にクーデリアと3名が生存してギャラルホルン総攻撃時刻の情報を本部に流すことに成功し、多くの団員の生存に寄与した。
またこれも結果論ではあるが挑発の際にイオクを負傷させており、これが最終決戦で彼の焦りと無駄な飛び出しに繋がりイオクを昭弘が仕留められる一助になった。
絶望的な戦況を覆す術がないと悟ったマクギリスは、出撃前に最後までついてきた部下たちとトドを全員艦から降ろして逃がすと、「バエルに乗った自身が単独でラスタルを討つ」という無謀な行動に打って出る。
ラスタル・エリオン…。ギャラルホルンの覇権争いは、貴様に軍配が上がった……
しかし…! この状況下でこそ私が…俺が本当に望んでいた世界を…手に入れられるかもしれない!
見せてやろう、ラスタル…! 純粋な力のみが成立させる…真実を…。世界を!
「組織の力ではなく、研ぎ澄まされた純粋な一人の人間の力で世界を変えられる」と自信ありげに嘯くものの、当初は無血開城を狙っていた人物とは思えない短絡的な発言であり、やはり特に何も考えていなかったのではないかとも受け取れる無策具合でもあった。
ギャラルホルンを追われた俺が、アリアンロッド艦隊の司令を一人で葬る!!
その行為が世界を変える!
生まれや所属など関係なく、己が力を研ぎ澄ます事で、この退屈な世界に嵐を起こす事が出来るのだと!!
己が持つ牙の使い方も知らず、ただ蹲るだけの獣が、一斉に野に放たれる……!
そうなれば……俺の勝ちだ!!!
一人称を「私」から「俺」に変えて感情をむき出しにし、バエルで奮戦するマクギリスは作中屈指の腕前を遺憾なく発揮しラスタル傘下のMSや艦を薙ぎ倒していくが、その前に最後の野望を防がんとするガエリオが立ちふさがる。
激闘の末キマリスヴィダールを阿頼耶識TYPE-Eの機能停止にまで追い込んだものの惜しくも敗北。バエルを降りるとラスタルの艦に侵入し、重傷を負って瀕死の体で尚もラスタル殺害を目指すが、再び眼前に現れたガエリオに撃たれ、その野望はここに潰えた。
今際の際にガエリオやカルタへの友情に背を向けた理由を問われたマクギリスはこう吐露した。
言われずとも、見えているさ…。いや…見えていながら、見えないふりを…していた……
お前達を否定しなければ、俺は…前へ…進めなかった……
お前達と共にいると、ずっと抱いていた思いが…揺らいでいくようで…眼を逸らした……
アルミリアも…幸せにすると、約束した……
「そんなもの…偽りの幸せだ…!」
幸せに…本物と偽物があるのか……?
それは「否定しなければ前に進めない」という思い、アルミリアを本気で幸せにしたいという思いだった。
だからこそ幸せな時間をくれたガエリオとカルタを犠牲にしなければ自身が抱いている世界への憎しみを忘れてしまいそうだったこと、
本物だろうと偽物だろうと幸せは幸せなのだとガエリオに伝える。
そして最後に何か言おうとした彼の言葉をガエリオは
「言うな!!!」
「お前が言おうとしている言葉が俺の想像通りなら、言えば俺は……」
「許してしまうかもしれない……!!」
「頼む、言わないでくれ…! カルタのために、アインのために…。俺は…。俺は!! ……お前を……!!!」
と涙ながらの絶叫で遮る。
最期の言葉を口に出せぬまま、マクギリスは静かに息を引き取ったのだった……。