種族(指輪物語)

登録日:2016/02/27 (土) 03:07:20
更新日:2024/04/25 Thu 21:00:29NEW!
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現代のファンタジー作品で当たり前のように登場している存在の開祖といえるJ.R.R.トールキンがホビットの冒険や指輪物語、シルマリルの物語などで描き出した種族たちについて紹介する。

【エルフ】Elf

みんな大好きエルフ族
しかし実は「エルフ Elf」という単語は「作品内の言語をトールキンが英訳した」単語であり、作品内の設定において実はエルフという名前の種族は存在しない
本来の名前は彼らの言葉で『クウェンディ Quendi』と言う。「話すもの」という意味である。より狭義には『エルダール Eldar』という単語も、「エルフ」と訳される。「星の民」という意味になる。

~来歴~

創造神『イルーヴァータル Ilúvatar』によって作られた種族。「イルーヴァータルの長子」とも呼ばれる。
最も強く美しく作られた種族であり、中つ国に住む全ての生物の中での最上種。半精霊的な存在であり、種族自体が善なる力を持っている(一部人格が明らかに善でないものもいるが・・・)。
古代中つ国における主要種族であったが、歴史と共に徐々に神々の国『アマン Aman』へと移り住んでいき、最終的には中つ国の主役を人間へと譲り渡した。

~外見~

身長は概ね人間と同等かそれ以上、種族自体がそろって超美形・モデル体型で例外はいない。成人すると見た目は歳をとらず、ヒゲも基本的に生えない。肌が白いのは共通しているが、髪や瞳の色はいくつかに分かれる。
さて肝心のエルフ耳だが、実は作中「エルフの耳が尖っていた」という記述はない
しかしトールキンの手紙などから判断すると設定的にも耳は尖っていたようであり(ただし決して長くは無い)、これはむしろトールキン以前の、単純な「妖精」としてのエルフ像を継承した部分か。
おっぱいの大小は残念ながら全く描写がないのでわからない。
なお人間に比べると少なくとも幼少期はやや小柄らしく、『ホビットの冒険』内でホビット(基本的に身長3-4フィート程度)のビルボが「子供用のエルフの防具」がちょうどいい描写がある*1

~生態~

不老不死の種族だが、父と母から生まれるのでちゃんと子供時代もある。他の種族に比べて子供時代が長く、身体的な成人になるまで50年以上かかるらしい。
寿命と言うものがなく、病にかかることもないので、だいたい不老不死といって差し支えない。が、さすがに肉体を保てなくなるほどの大ケガをすると物理的に死んでしまう。
また精神がダイレクトに肉体に反映される種族なので、心労を重ねると見た目が老けたりもするし、甚だしいと悲しみのあまりに死んでしまったりする者もいる。

ただし何らかの理由で死んだとしても、その霊魂はアマンにある『マンドスの館 halls of Mandos』に集められる。
彼らはここで静かに暮らすか、場合によっては再び別の肉体をまとって現世に戻ったりもするので、本当の意味で「死ぬ」ことはない。

種族の本能として西海の彼方のアマンへ憧れる本能があり、それに捕らわれてしまうと中つ国でどんなに楽しく暮らしていたとしても、エルフの港である灰色港からアマンへと旅立って二度と戻ってこない。
海に関連するものなどを見てしまうと強くその本能が引き出されるようで、レゴラスは海鳥の声を聞いてこの憧れに捕らわれている。

~能力~

他種族から見ると様々なチート的能力を持つ。肉体は超頑丈で多少の傷では死なず、また身体的に疲労することもなく暑さ寒さも苦にしない。五感は鋭く運動神経も桁違いで、どっかの傭兵並のステルス技術も持っている。
チートなのは肉体だけではなく、手先の技にも優れ、工作力も多種族に比べ高い。また言葉の技術にも優れ、文字や文法など言語における様々な発明を行っていた。彼らの言語は人間の言語の元になっている。
さらに種族自体が霊的な力を持っており、触れるだけで人間の苦痛が癒されたり、住んでいたところが一種のセーブポイント的安全地帯になったりする。彼らが作った物などにもその力は反映され、退魔の力を持つようになる。

チート種族なので当然戦闘における強さもハンパではないが、基本的にあまり好戦的ではなく、ごく一部の闘争心に溢れた英雄クラスの人間には及ばない部分もある。
またオーク相手にすら慈悲を示すことがあるので、恐ろしく強いのにあまり戦闘向きの種族ではない。主要な武器は剣、槍、弓などだが、戦が多かった時代は斧や棍棒など重量級の武器も使っている。

~文化~

衣食住は基本的に人間とあまり変わらない文化を持っている(正確には人間がエルフの文化を模倣したというべきだが)。

自然を愛する種族であり、映画の影響で森に住んでいるイメージも強いが、平地や山に石造りの都市を作る氏族の方が本来は主流。ただ前述の通り頑丈な種族なので、野宿でも全然平気なため家屋を持たないこともある。
食事については割りと不明な部分が多く、食べなくても身体の維持には問題ないんじゃないかという描写もある。食事の目的は栄養よりもむしろ活力や楽しみなのかもしれない。よって酒は勿論、歌や詩もこよなく愛する。

氏族にもよるが高い鍛冶技術を保持しており、その技術はドワーフ鍛冶に勝るとも劣らない。古い時代は人工の宝石を作り出す技術も持っていた。また船作りの技術においては圧倒的で、アマンへと向かう船は彼らだけが作ることが出来る。
植物を強く愛する種族なので、鍛冶のために見境なく燃料となる木々を切りまくるドワーフとはそりが合わず、また強欲で物質に執着する彼らを軽蔑している節もあり、基本的には仲が悪い。
ただし、ドワーフは水が苦手にも拘らず、真珠を珍重したので、古代のシンダールエルフとドワーフの王国、特に都市国家ベレゴストはシンダールの輸出する真珠とドワーフの土木技術の交換という形で相利共生していた。
その関係が崩れるのは、シンダール王シンゴルがベレゴストと並ぶ大都市ノグロドから招いた宝石細工師に大甥の遺品に秘宝シルマリルを取り付けるよう依頼して、逆に強盗殺人に逢ってしまってからである。


特殊分類


「三大氏族」
エルフの中での主要な氏族(エルダール)はさらに3つの氏族に分かれる。

一つは『ヴァンヤール Vanyar』。最初にアマンに向かい、それから中つ国に戻ることがなかった氏族。
いわば一番神々に近いエルフといえるが、それゆえに歴史にはまったくと言っていいほど登場しない。空のエルフとも言う。

二つ目は『ノルドール Noldor』。二番目にアマンに向かった氏族だが、初代『冥王 Dark Load』モルゴスに父を殺された王子フェアノールがブチ切れ、モルゴスを追って氏族ごと中つ国に帰還した。
フェアノール以下非常に人騒がせな氏族であるが、それゆえに歴史を豊かに彩ってきた。エルフの中でも博識で技術に優れ、同じ工神アウレに師事したこともあって珍しくドワーフと仲が良い。知恵のエルフとも言う。

三つ目は『テレリ Teleri』。三番目にアマンに向かった氏族だが、途中で王を失いそのままアマンへ向かう集団と、中つ国に残った集団に分かれた。
しかしアマンについた氏族はプッツンしたノルドールに襲われて船を強奪され、中つ国に残った氏族(主に中つ国西部に住んでいたシンダール)はモルゴスとノルドールの戦いに巻き込まれて大打撃を受けるなど、基本ろくな目にあっていない。だいたいフェアノールのせい。
中つ国に残ったエルフは殆どこの氏族だが、この後さらに複数の氏族に分岐する。海のエルフとも言う。

『アヴァリ Avari』
エルフの中で、アマンへ向かおうとした氏族(エルダール)と異なり、最初からアマンへ向かおうとしなかった氏族の総称。早くに歴史から消えたため、殆ど物語には登場しないが、古代の人間たちの師匠は主に彼らであったという。

『上のエルフ High Elves』
かみのえるふ。うえのえるふではない。かみとは古日本語で「むかし・古代」を指す意味であり、「上」という意味とのダブルニーミングとなっている。『光のエルフ Elves of Light』とも言う。
この世界において太陽と月が出来る前の古代、アマンを照らしていた二本の光る木の輝きをその眼で見たことがあるエルフのことを指す。要するに一度神々の地へ行ってまた戻ってきたエルフである。

逆にアマンへ一度も言ったことがないエルフは、その光を眼にしていないということで『闇のエルフ Dark Elves』と呼ばれるが、別にダークな種族という意味ではない。
当然肌も黒くない(映画に出てくるエルフも、2-3人を除いてほぼ全員闇のエルフに分類される)。

上のエルフは二本の木の聖なる光をその身に宿しており、またアマンで神々から直接教えを受けているため、その力は中つ国の闇のエルフに比べぶっちぎり。有名な人物だと、ガラドリエル奥方がこれに当たる。

『灰色エルフ Grey Elves』
テレリ族の内、中つ国西部に残った氏族の一つ。アマンへ渡ることを強く切望していたものの諸事情で断念したグループで、主に中つ国内陸部の森林地帯に住んだ者たちは『シンダール Sindar』、中つ国の沿岸地域に住み航海技術に長けた者たちは『ファラスリム Falathrim』と呼ばれる。
シンダールは中つ国に住み着いたメリアンという強大な精霊(マイアール)の庇護を受けており、ファラスリムは同じく精霊で中つ国近海域を守る任務を帯びていたオッセとウィネンに師事していたため、暗闇のエルフの中では最も洗練された、上のエルフにほぼ匹敵する文明を築いていた。海を渡れなかったそもそもの原因がメリアンやオッセらにあるのでその責任として庇護したという面もある。
しかし、上述したようにノルドールの引き起こした戦禍に巻き込まれて要らぬ被害を被ってきた歴史から上のエルフに対して反感を抱いている者や、
灰色という名称は彼らが光のエルフと闇のエルフの中間の存在である事を意味する他、複数のニュアンスが含まれているとされ、どれが本来の意味なのかははっきりしない。
有名な人物はシンダールだとガラドリエルの夫のケレボルンや闇の森の王スランドゥイル、その息子のレゴラスが該当する。ファラスリムでは指輪物語の最後の章に登場した灰色港の主キアダンが該当する。

「森のエルフ Silvan Elves」
シンダールと同じく、中つ国に残ったテレリ系氏族のうちの一つ。灰色エルフよりもさらに早い段階で旅を中断して『緑葉の森 Wood of Greenleaves(後に闇の森 Mirkwood)』に住む事を選んだ。レゴラスの一族は灰色エルフだが、宝玉大戦の終結後に森エルフに合流して滅亡した国を再興したという経緯から、生活様式のかなりの部分が森エルフの影響を受けている。
創作でよくある「森に住み緑色の軽装な弓使いの軽量キャラ」というイメージは本来この氏族の特徴であり、エルフ全体の特徴ではない。
闇のエルフに属し、一度もアマンへいったことがない氏族なので、実はエルフの中ではかなり原始的で、力も弱いほうに属する。人間に比べればそれでも充分チートだが。

~言語~

いわゆるエルフ語を話すが、詳しくいえば『クウェンヤ Quenya』『シンダリン Sindarin』の二つの言語に大別される。クウェンヤはアマンに渡った上のエルフの、シンダリンはアマンに渡らず中つ国に定住したエルフの言語にあたる。
指輪物語」に登場するエルフは、日常会話ではシンダリンを、改まった場や詩歌にクウェンヤを話す事が多い。また、人間の言語のうちでも外来語としてクウェンヤやシンダリンの単語を使う場合がある。


【ドワーフ】Dwarf

エルフと仲が悪いことで有名な職人種族。これも正確には「英訳された」呼び方であり、本来のエルフ語では『ナウグリム Naugrim』と呼ぶ。
ただこれは始めてドワーフを見たエルフ達がその(自分たちに比べて)醜さに驚いて呼んでしまった差別的呼称であり、「発育不良者」という今だったら規制にひっかかりそうな意味。
その後ドワーフ達への理解が深まるに釣れ、『ゴンヒアリム Gonnhirrim』即ち「石の名匠」とも呼ばれるようになった。
彼ら自身のドワーフ語では『カザード Khazâd』と自称する。

~来歴~

創造神イルーヴァータルに作られたエルフと異なり、神々(『アイヌア Ainur』、正確には精霊もしくは天使に近い)の一人である“工人”『アウレ Aulë』が作り出した種族。
アウレは中つ国があまりに更地なことに心を痛め、中つ国での開発・建築を担当するドワーフを自分で作り出した。イルーヴァータルはドワーフがエルフより先に生まれることは許さなかったものの、その存在を認めて彼らに命を与える。
そのためイルーヴァータル自身が作り出したエルフ・人間に対し、「イルーヴァータルの養子」とも言う。

最初に生まれたのは7人のドワーフであり、彼らはそれぞれの氏族を立ててその王となった。このためドワーフには7つの氏族が存在する。

~外見~

人間に比べて二周りほど小柄で、120~150センチ。後述のホビットよりは大きい。小柄だが頑健な体つきで、見た目にもずんぐりとムッキムキである。肌の色は白く、髪や瞳の色はバリエーション豊か。
ファッションとしては何よりもヒゲを大事にし、一定の年齢になると例外なくヒゲを伸ばす。

そして昨今ののじゃロリ系ドワーフ娘を愛される方には残念なお知らせだが、トールキンのドワーフは外見に男女差がない。
つまり女性もずんぐりむっくり、ひげもじゃである。服装にもまったく性差がないので、ドワーフ以外の種族では見ても男女の違いが全くわからないほど(映画ではさすがに見分けがつくようになっていたが)。

~生態~

寿命はだいたい250~300年ぐらいだが、やや歳のとり方が特殊。
30歳ぐらいで既に戦に出られるぐらいの体格になっているが、成人と認められる時期、結婚適齢期は100歳前後。つまり心身は比較的早く大人になり、その後壮健な状態が長く長く続く……というサイヤ人的な歳のとり方をする模様。

男性に比べて女性の数が著しく少なく、非常に繁殖速度が遅い。しかも女性は外見だけでなく中身も男性にそっくりで、技術の向上に熱心なあまり結婚しようとしない女性も多く、平和に定住していないとたちまち絶滅の危機に瀕する。

死後はエルフのようにアマンへと魂が向かうわけではないが、ドワーフたちは創造主であるアウレがドワーフ用の憩いの場所をアマンに設けていると信じている。

~能力~

アウレがドワーフを作ったとき、中つ国は冥王『モルゴス Morgoth』が支配する世紀末状態。
それに対抗するため体は極めて頑丈に作られ、滅多なことでは死なないしへこたれない。特に鍛冶の種族だけあって熱に対する耐性はものすごく、彼ら自身が鍛えた防具を身につけていれば、竜の炎にすら耐えることができた。

性格的には頑固で独立心が強く、恩を受けても仇を受けても必ず返す律儀さがある。人間やエルフと違いたとえ冥王相手であってもその魔力に屈することはないが、反面強欲で怒りっぽいので煽られて思惑通りに動いちゃうことはよくある。

またドワーフといえば、その鍛冶の技術の素晴らしさが知られている。エルフや人間の武器の中にもドワーフ製は非常に多く、アラゴルンの「折れたる剣」ことアンドゥリルも元を辿ればドワーフ鍛冶の手によるものである。
さらに石を加工する技術においてはエルフさえ足元にも及ばないものがあり、人間やエルフの城や都市の建築にも深く関わってきた。

~文化~

鍛冶や建築を何より得意とし、また愛する種族である。
逆にそれ以外のことには殆ど無関心で、住み着いた先でそれぞれの文化に合わせてライフスタイルを変える柔軟さももっている。特に言語はその土地の言葉を速やかに覚えてそれを使いこなす。
彼ら自身、独自の言語である『クズドゥル Khuzdul』を持っているが、これは儀礼的な言葉であって常用することはなく、普通は自分の名前ですらその土地の言葉で名乗る。

エルフ族とは価値観の違いや歴史上のアレコレから伝統的に仲が悪いと思われがちだが、実は良好な関係を築いたことも結構ある。
特に技のエルフであるノルドール族とは幾多の戦争で生死を共にするほどに親密だったが、彼らが殆ど中つ国から去ったので、森に住む系統の仲の悪いエルフ族だけが残ってしまったのである。

貴金属に携わることが多いので、財産として蓄えたそれらが敵に狙われることがよくある。特に財宝を狙う竜との戦いは最早伝統行事レベルで、取ったり取られたり殺ったり殺られたり大忙しである。

とかく竜やらバルログやらに本拠地を襲われて逃げ出すことを繰り返しており、集団としての技術の継承にも熱心ではないため、かつての技術の中には失われたものも多い。特に武器・防具に関する技術は古代のそれに比べ大きく後退してまった。
かつて龍の祖グラウルングと戦った時代のドワーフは、エルフの軍勢を蹴散らしたその炎に耐える防具、あらゆる刃を跳ね返したその鱗をぶち抜く斧を作り出す技術を持っていたのだが、後代になるとグラウルングに比べれば遥かに弱いスマウグにすら手も足も出なくなってしまっている。

特殊分類


『長髭族 Longbeard』
ドワーフの7部族の中で最も高位な王家を戴く氏族であり、物語の舞台となる西方世界の主要氏族。
始祖たる王の名をとって『ドゥリンの子ら Durin 's folk』と呼ばれることもある。「指輪物語」のギムリ、「ホビット」の13人のドワーフなどはこの氏族の出身。

ちなみに他の6部族は、それぞれ『火髭族 Firebeards』『太腰族 Broadbeams』『鉄拳族 Ironfist』『堅髭族 Stiffbeards』『石足族 Stonefoots』『黒巻毛族 Blacklocks』という。


【人間】Man

一応我々と同じ種族ということになっているが、作品世界内での特殊な設定もあるので一応。
「定命の人間と不死のエルフ」という関係性はこの時点で確立され、そのまま現代でもよく使われるモチーフである。

~来歴~

指輪物語世界においては、創造神イルーヴァータルによってエルフの次に作られた種族。「イルーヴァータルの末子」とも呼ばれる。
エルフに比べて性質が善に偏っておらず、モルゴスに利用されて悪の道に堕ちた氏族も多い。
エルフやドワーフ、あるいはモルゴスやオークなど先住者から学びながら文明を作っていき、それら精霊的な存在が次々と中つ国を立ち去り、あるいは衰退していったため、最終的に中つ国の主要種族となる。

~外見~

まあまんま人間である。物語の主役たちが所属する西方世界の主要部族は白人系だが、他地域では身体的特徴で間接的に示唆する程度だがモンゴロイド系、黒人系も登場する。明らかに生物種レベルでホモ・サピエンス・サピエンスとは違うような人間もいる。

~生態~

まあ普通に人間である。ただし寿命にかなりの氏族差・個体差があり、古い時代の人間の中には400歳まで生きた人もいる。オークを除けば増える速度は最も速い。
エルフと違って、その死後魂がどこに行くのかは最もイルーヴァータルに近いアイヌアですら知らない。
死は人間にとって呪いであり、同時に恩寵であると言われている。死んだ後でも魂をアイヌアに管理されるエルフ達と違い、人間の運命はその外にある。

~能力~

やっぱり普通に人間である。体格や能力、知能や人格も様々で個性が強い。
善の力に溢れるエルフ、志操堅固なドワーフに比べて非常に悪に染まりやすく、初めて人間と出会ったエルフ達は「エルフよりドワーフより、むしろオークに似ている」と思ったほど。作中では東方や南方の人間が悪の手先として登場する事が多いものの、西方人の中にも悪に寝返ったり普通に追従している者が多数いるため、物語全体としては八割方の人間は常に善悪の狭間で右往左往しており、ごく少数派であるドゥーナダンの英雄だけが悪を寄せ付けない高潔で勇敢な存在として描かれているという構図になっている。
身体的能力においては殆ど全面的にエルフに劣るが、種族として非常に闘争心が強いため、エルフさえ及ばない優秀な戦士をしばしば輩出する。
オーク同様闘争を好み、またオーク以上に統率が取れているため、あるいは最強の種族であるといえるかもしれない。

~文化~

それぞれの氏族がそれぞれの文化様式を持っており、西方の文化が種族的なスタンダードというわけではない。東方や南方でも、エルフやドワーフの影響を受けて独自の高度な文明を築いた社会も存在しているようだ。
西方世界では特にエルフの影響が大きく、言語や文化は殆どエルフ起源のものといっても過言ではない。また王家の中にはエルフの姫を妻とした半エルフの家系も存在し、特別な尊敬を集めている。

数が多く容易に分散するため、その言語は標準語として広い種族間で使われている。

特殊分類


『半エルフ Half-Elf』
エルフ語では『ペレゼル Peredhel』。人間とエルフの間に生まれた子供。歴史上7人存在する。不死のエルフと定命の人間では両者の運命は全く異なるため、アイヌアがそれぞれいずれかの種族に属することを選ばせた。
人間族の運命を選べばエルフの不死性は失われてしまうが、強靭な肉体や美麗な容姿などエルフ的要素の多くはそのまま。寿命も普通の人間より遥かに長い。
有名な人物だとエルロンド・エルロス兄弟がそれに該当する。エルロンドはエルフに、エルロスは人間に属することを選んだ。
なお、作中における半エルフの両親は全て「人間の男とエルフの女」の組み合わせである。男のロマンはいつの時代も変わらないということか。
というか、トールキン自身が年上の奥様と恋愛結婚しており、「高貴な女性/年上萌え」の属性を発現していたフシがある。
なお、人間男性×エルフ女性の他にも、エルフ男性×マイア(下級精霊)女性などの組み合わせも存在した。

『ドゥーナダン』Dúnadan
複数形は『ドゥーネダインDúnedain』
古代において『エダイン Edain』と呼ばれた、エルフの友、同盟者として冥王モルゴスと戦った人間たち、またその子孫のこと。エルフのためにモルゴスから受けた傷の代償として、神々から特別な恩寵を与えられた。
具体的に言うと2m前後のパワー溢れる体、400年を越す寿命といった生物的な強さと、西の海に新たに作られた彼らのための大陸などである。

彼らはエルフから得た知恵と西のアマンからの贈り物によって栄え、また中つ国の人間達を教導して尊敬されたが、時代が下るにつれて徐々に傲慢になっていく。
最終的には捕虜にしたサウロンの口車に乗せられ、永遠の命を求めアマンを侵略しようとしたため、創造神イルーヴァータルによって大陸ごと沈められてしまう。

しかし誠実さを失わなかった一部の人間は生き残って中つ国に帰り着き、そこで再び王国を作り上げ、後世に国家と血脈を残した。彼らをエルフ語でドゥーネダイン、即ち西方の人と呼ぶ。
彼らは中つ国の人と交じり合って徐々にその力を失っていったが、王家などの純粋な家系にはその力が多く残されており、特別な扱いを受けていた。
アラゴルンはこの王家の末裔にあたり彼も長命であった。指輪物語で描かれた時代の年齢は80代頃で結構なお年であったが普通の人間の20代から30代頃の身体・容姿である。

『北方の民 Free Men of the North』
霧降山脈東側のロヴァニオンと呼ばれる地方に住んでいる民。エスガロスや谷間の国(デイル)といった都市を築いて住む者や、闇の森を開拓して住む者などその生活形態は様々。
中でも北国人(ノースメン Northmen)と呼ばれる一派は勇猛な騎馬民族として知られ、絶えず東夷の侵入に悩まされていたゴンドールにとっては心強い同盟者だった。ローハン Rohanとその民ロヒアリム Rohirrimは、東夷との戦いで窮地に陥った執政*2を救援した見返りにゴンドールから割譲された領地に定住した彼らの子孫にあたる。
作中では基本的に味方サイドの存在として描かれているものの、褐色人から土地を奪ったり野人を狩猟感覚で虐殺したりなど善良とは言い難い血生臭い描写も見受けられる。理想化された人物の多いドゥーネダインと比べると良くも悪くも現代とは異なる倫理観を持った普通の古代人・中世人といった所。
古代から中世にかけてのゲルマン系民族が大まかなモチーフで、人名や固有名詞にゴート語やその他のゲルマン語が多用されている。

『ハラドリム Haradrim』
原義はエルフ語で「南の民」の意。一般には西方世界から見て南の異民族を指す。北アフリカ+中東風スタイル。映画ででかい象(ムマキル)に乗ってた兵士達。ゴンドールに比較的近い近ハラドに住む褐色肌の人間(スワート人)とさらに南の遠ハラドから来る人間に大別される。
ヌメノール時代に過酷な植民地支配を受けていた経緯で、その子孫であるドゥーネダインやゴンドールを敵視している。また、サウロンの甘言によって堕落した一部のヌーメノール人が彼らの中に入り込んでより一層悪の影響を受けやすくなっている。
しかしその反面、平時にはゴンドールと交易を行っており、軍隊は立派な鎧兜を身につけているため蛮族とは言うものの、文化や技術の水準自体はそれなりに高い。
遠ハラドの人間は「黒くて半分トロルのような」という現代のコンプライアンスからすると問題にしかならない表現が使われているものの、冥王の使い捨ての駒として駆り出される彼らの姿を見てサムが善悪の線引きに疑念を覚える等、完全に邪悪な存在ではない事も示唆されている*3

『東夷 Easterling』
西方世界から見て東の異民族の総称。ロヒアリムと同じく騎馬や戦車の扱いに長けている。肌の色は浅黒いのが主流らしい。背は西方人よりも若干低く、ドワーフを人間サイズにしたような骨太の体形。
エルフと冥王の双方を恐れている上、ヴァラールの手の及ばない東方に住んでいるためこちらも悪の影響を受けやすく、しばしば冥王に唆されて西方人と戦いを繰り広げてきた。フン族やモンゴル軍団をイメージしたのか異民族の中でも一際強力で、何度かドゥーネダイン諸国を滅亡の淵まで追い詰めたことがある。ただ、古い時代にはエルフに味方する一族が見られた他、ドワーフとは比較的友好的な関係を持っている。また、旗色が悪くなるとすぐに恐慌状態になって逃げ惑うオークとは違い、敗北を悟っても尚臆さず戦いを挑むなど、彼らなりの矜持という物がある模様。
特に、第一紀にフェアノールの息子のマイズロス、マグロール兄弟に忠誠を誓っていたボールは冥王モルゴスの大軍に殿として徹底抗戦して、一族壊滅に追い込まれるも寝返った一部の東夷を道連れにした上で、主君やその弟達が戦場を離脱するまで時間を稼ぐ忠誠心と武勇を見せた。彼等が命を捨てて逃がした連中がシルマリル独占の為に他のエルフの一族を襲撃しまくって、キアダン率いるシンダールの一派とマイズロスの甥であるケレブリンボール達ナルゴスロンドのノルドール残党を除いて壊滅状態に陥らせたのは皮肉としか言いようがない*4
映画ではオリエント+中国風で、兜は日本の具足をモチーフにしているらしい。

『褐色人 Dunlending』
霧降山脈の西麓からゴンドール北部の山岳地帯に住んでいる部族。東夷と同じく日に焼けた浅黒い肌と表現されているため誤解されやすいがゴンドールの建国以前から当地に住み続けていた先住民でれっきとした白人系である。アラゴルンが招集した死者の軍勢やブリー村の人間たちの多くも褐色人と共通の祖先を持つ。
元々住んでいた土地から放逐された歴史からローハンを深く恨んでおり、映画で描かれたようにサルマンやオークと結託してローハンの領内への襲撃を繰り返していた。
モチーフになったのはギリシャ・ローマ等の都市文明と敵対し、後にゲルマン人に土地を追われたケルト人やガリア人等の欧州の先住民族。

【ホビット】Hobbit

「ホビットの冒険」「指輪物語」の二作品で主役を張る有名な種族。
エルフやドワーフのような一般名詞ではなく、トールキンの造語なため、権利上の問題を避けてRPGなどでは別の名前で出ることも多い。
実はこの言葉も造語ながら「英訳された」単語であり、本来はホビット自身が『クドゥク Kuduk』と自称している。
同時代の人間達にはこの種族名はあまり認知されておらず、『小さい人 Halfling』と呼ばれる事が多いが、
ホビットたちは自分たちは半分ではないぞとあまりこれを好まないらしい。

~来歴~

生物的には人間の亜種。かなり早い段階で人間から分かれたらしく、今では自分達を「大きい人たち」つまり人間とは別の種族だと認識している。
長くひっそりと暮らしてきた種族で、「指輪物語」の時代以前は一切歴史の流れに関わってこなかった。
本来は3つの氏族があり、それぞれ違った生活様式を保持していたのだが、徐々に一体化し均質化していった。

~外見~

ちっちゃくなった中世~近世のイギリス農民
身長は成人で100~120センチ。ドワーフに似た体格だが、ムキムキな彼らと違ってぽっちゃり系。歳をとると基本見事な中年太りを披露することになるが、特に恥とはされない。むしろ痩せてる人が不思議がられる。
髪は男女問わず全員天パで、色は茶色系が多い。美形ではないがフランクな顔立ちで、スマイル0円。

また外見上の大きな特徴として、足にもっさもさの剛毛が生えているという点がある。その生えっぷりはさながらもふもふスリッパの如しで(映画だとソフトな感じになっていたが)、これ+足の裏の皮が分厚いため、ホビットは基本的に靴をはかない。

~生態~

中つ国でも『ホビット庄 The Shire』とその近辺にしか生活していない珍しい種族で、住み慣れた土地を離れたがらないためその存在を知る者は少ない。
基本的に人間とほとんど変わらない生態だが、寿命は普通の人間より少し長めで、100歳を越えることも珍しくない。

食べることに人生の9割をかけており、食事は一日6回(ちなみにこれはイギリス流。Breakfast 朝食、Elevenses 午前のティータイム、Lunch 昼食、Afternoon Tea 午後のティータイム、Dinner 夕食、Supper 夜食 という充実したラインナップ)。よく働きよく作りよく食べる働き者である。
傾向としてはお百姓さんらしく保守的で、外から来たもの、新しいものはだいたいなんであれ拒否反応を示す。

~能力~

臆病で平和的な性格といい、小太りでハラペコなところといい、どう見ても強そうな種族には見えない。

しかしいざとなればホビットは目にも止まらぬほど敏捷に動くことができ、生命力や魔法への抵抗性も強く、食料や水を断たれた極限状態に置かれてもそうそう死ぬことはない。
また視力が鋭い上に手先が器用で、エルフほどではないが弓を扱えば優秀な射手になる。しかし最も得意なのは投石で、鋭い一撃を急所に当ててオークや人間ですら一撃で倒すほどの使い手である。

…しかし彼らの勇気は「自分でも気づかないほど心の奥底に眠っている」のがデフォなので、基本的には平和でのんびり、臆病な小動物系キャラである。

ちなみに、うなり牛(バンドブラス)と呼ばれたホビットはかなりの戦闘力を有しており、馬に乗れるほどの巨体(ホビット基準で)を持ち、彼に率いられたホビット達は攻めこんできたゴブリン軍を撃退しているほど。この戦いで彼は敵王ゴルフィンブールの首を棍棒で弾き飛ばし、首を100ヤード先のウサギの巣穴にホールインワンする活躍をしている。おまけにゴルフの起源となりましたとさ。

~文化~

一般的な中世~近世のイギリス人(農民)。人口の殆どが農民であり、素朴で単純な文化を保持している。服装などは足元以外全くそのままイギリス農民。
ただしこれらの純朴な特徴は3大氏族の内最大の種族であったハーフット族の特徴であり、先進的かつ冒険的な狩猟民族系の氏族も昔はいた。
基本的に水は苦手とされており、船にのったり泳いだりはしない。ただし、例外的に船乗りを輩出したり、水を恐れない氏族(ストゥア族)も存在し、子孫にもその血が時々現れる。
またファロハイド族には、冒険好き(大多数のホビットからするとただの変わり者)のところがあるとされる。例をあげれば、ビルボやフロドはファロハイドの流れをくむトゥックの血筋。

本来は住居として、山や丘を掘り抜いた洞窟型の家を好む。ただし建設に向いた地形には限界があるので、現在では平地に家を建てることも一般化してきている。

前述の通りホビットの文化で最も重んじられるのは食であるが、しかし原型が原型なので(彼ら自身はそうは思っていないだろうが)そんな豊穣な食文化と言うわけではなく、基本質より量である。
ホビット庄で地産地消されているのはパン(小麦)、ケーキ、パイ、ベーコン(豚肉)、ソーセージ、鶏肉、乳製品、リンゴ、いちご、ぶどう、かぶ、人参、じゃがいも、トマト*5、茸など。特に茸は大好物。
酒は労働者らしく、ワインよりビールを愛する傾向にある。

特徴的な文化として、『パイプ草 pipe-weed』*6なる喫煙の習慣が知られている。
ホビットはかつてのイギリス人並みにタバコ好きで、常に一服つける機会を狙っている。この習慣はドワーフや人間たちにも伝わったが、ホビットのタバコ好きには及ばない。



【エント】Ent

エルフ語では『オノドリム Onodrim』と呼ばれる。
「物を言う木」というヨーロッパの普遍的な伝承に着想をえてトールキンが作り出した種族。
トールキンの造語ではなく、古英語で巨人を意味する言葉だったが、D&Dをはじめとするその後のファンタジーでは、権利関係の問題で「木 Tree」+「巨人 Giant」の合体語である「トレント Treant」と呼ばれることが多い。
作品内においては、「歩く木」というよりはむしろ「木を思わせる巨人」といった方向性であったが、その後のトレントのイメージに引っ張られたのか、映画では完全なトレントとなっていた。

~来歴~

"工人"アウレが作り出した鍛冶の種族ドワーフを見て、その妻"大地の女王"『ヤヴァンナ Yavanna』は心を痛めた。彼らは鍛冶の燃料とするために、木々を無慈悲に切り倒すに違いなかったからである。
このためヤヴァンナはイルーヴァータルに願い、抵抗できない木々にも守り人を用意することにした。これによって「木の牧人」*7ことエントが生まれることになった。
このためエントは半ば植物であり、半ば動物であるという独特な生き物として完成している。

彼らの生活は木々、そして森林の平和を守ることであり、エルフや人間など、中つ国の情勢に積極的に関わることはほとんどなかった。

~外見~

映画ではほとんど「歩く木」といった感じだったが、原作の描写を読む限りは、もう少し人間型寄りらしい。
肌は樹皮のようで、髪は枝葉のよう、手足は根のようだったと言われているが、逆に言えばそれらの人型らしい部位が存在するということでもある。

木々に近い動物(というかその祖先は木から作られた)なので、外見も体格も個性が非常に豊かなのが特徴。
ただし基本的には「巨人」であり、ほとんどの個体は人間よりはるかに大きい。

~生態~

その独特な来歴同様、生物としても非常に特殊。
まず栄養は動物のような食事ではなく、住居の近くから湧き出している特殊な「水」を飲むことによって得る。これに限らずエントは基本的に綺麗な水、綺麗な土、きれいな空気を好むが、これはやはり植物由来であるためか。

寿命はエルフ同様にとてつもなく長く、基本的には殺されない限り死ぬことはない。
ただし一か所にとどまってずっと座っていると、そのうちに徐々に木々に近づいていき、やがては「意思がわずかに残る巨木」のようになってしまうという。
外部からの攻撃で動き回る望みを失ったエントなどはこうなったりするようだ。

繁殖については動物的な側面が出ており、男性個体と女性個体によって子供が作られる。
しかしある事情から、エントは女性だけが行方不明になってしまっており、新たな子供が生まれなくなって数千年がたつ。*8

~能力~

動物と植物のいいとこどりのような、極めて強力な能力を持っている。

普段は非常に温厚で理知的、かつ我慢強いが、一度怒らせると大変なことになる。
動作はその巨体からは想像もできないほどに俊敏になり、目にも留まらぬ速度で動くことができる。さらに外皮が木のように硬く厚く、毒も効かないので人間やオークが使う武器ではほとんどダメージを与えることができない。
腕力もすさまじく、指でつかむだけで岩壁をぼろぼろに粉砕し、その拳は鉄の塊すら薄い板にプレスしてしまうほど。

個体の戦闘性能においては中つ国でも屈指の存在といってもよく、武器ならばよほど強力で大量の斧、あるいは火などを使わない限り勝ち目は全くない。それらの武器を用いても大抵は余計に怒らせるだけに終わる。

~文化~

ありのままの自然を愛し守る種族なので、他の生き物のように発展した物質文明を築くようなことはなかった。

中つ国に生まれた当初はしゃべることも出来なかったのだが、エルフと接触することで彼らから言葉を学び、それを自己流に改良して「エント語」というものを作り出した。
物を作ることはないが、言葉の技を使うのは好まれていたので、エント語は果てしない時間の末にとてつもない複雑で長大、かつ表現力に富む詩的な言語へと進化している。
これらはエントの文化や生物的特質と密接に関連したもので、多種族ではとても使うことが出来ない。

エルフから言語を教わったこともあり、またエルフ自体が自然を愛好する種族なので、エルフとは基本的にとても仲が良い。窮地に陥ったエルフを救ったこともあるほど。
反面、そもそもの来歴からしてドワーフは(憎むほどではないが)あまり好まない。
相性的に最低なのはもちろんオークで、戯れに動物や植物を殺傷する彼らに対しては一切情け容赦がない。

【オーク】Orc

英訳される前のエルフ語では『オルフ Orch』、オーク自身の言葉では『ウルク Uruk』
実写映画では多分一番活躍していた戦闘員。
そして、創作界隈においては最も原型から変化した種族でもある*9

~来歴~

その誕生に関しては、実は作品内でも二つの説があってはっきりとわかっていないことになっている。
1つ目の説は「捕らえたエルフを拷問の末に損壊・堕落させて作り変えた」という説。映画でサルマンが言っていたので、知っている人も多いだろう。
2つ目の説は「捕らえたエルフを真似て、冥王が人工的に作り出した所謂劣化コピー」という説がある。これは「指輪物語」の原作内で言及されている。
いずれも古代の冥王モルゴスによって、エルフを元に作られた人工的な生命体という点は共通している。そのため生物としての自律性こそあるものの、モルゴスやその後を継いだサウロンには絶対的に服従する。

なお、オークが種族として作られたのは遥か古代(指輪物語の年より約2万7千年前)であり、それ以降に登場するオークは新たに作り出されたものではなく、原初のオークの子孫である。
つまりエルフが闇堕ちしたらオークになるという意味ではないので注意されたし。

~外見~

人間を醜く崩しまくったような外見。無論見た目だけでなく挙措動作も美しくない。
映画では耳が尖っていたが、ホビット同様に原作ではそういう設定はない(ただし、エルフ同様に尖ってないと100%の断定はできない)。
体格は種族によってかなり差があるが、大多数は人間に比べやや小さい。ホビットよりはやや大きく、ドワーフと同程度。
そして何よりも豚型ではないという事であり、創作界隈でオークが豚型としてもデザインされているのはダンジョンズ&ドラゴンズの影響である。

~生態~

何かを期待していた紳士諸兄には残念だが、設定的にはちゃんと牝のオークから生まれる生物。(そもそも設定を鑑みればオークの体の方が拒否反応を起こしかねない)
人間よりさらに繁殖力が高いが、喧嘩や殺人、場合によっては共食いもデフォなのでその性質ほどに増える速度は速くない。生物としての寿命は不明だが、そもそも長く生きられる個体そのものが少ない。

食性は人間同様雑食だが、嗜好として肉、とくに人間の生肉を好む。しかし汚れた水や不衛生な食物でも健康にまったく影響はないようで、兵站的には実にありがたい存在。衣住も極めて不潔だが全く問題ない模様。
トロルのように石になるわけではないが太陽の光は嫌いで、日中は外を出歩くことが出来ない。
ちなみにゴクリによるとゴブリンの肉は「美味い」らしいが、生魚を食って根菜を嫌っているような食生活の奴の感想なので人間の味覚でどうなのかはわからない。

~能力~

肉体的な能力は元となったエルフの足元にも及ばず、せいぜい人間やドワーフと同程度。しかし五感はなかなか鋭く、夜目が利く上に嗅覚も鋭い。
極端に好戦的なため一見戦闘向きに見えるが、強いのは闘争心というより嗜虐心なので、不利になるとあっさり戦意を失う。また戦術的な行動や秩序だった連携は下手で、数で押す戦い方を基本とする。

粗暴すぎるので誤解しがちだが、知識はなくとも知能は人間並みにある。本来手先もそこそこ器用なのだが、オーク社会が世紀末すぎるので伝習や経験の蓄積に深刻な欠陥がある。
自分たちで武器や防具をつくる技術こそあるものの、どれも著しい粗悪品である。

ただし自分達の主人である冥王の力の強い影響下にあり、その直接的な支配下にある場合は比較的まともな行動が取れる。
知能はより狡猾に、弱い意志力は強化され、秩序だった行動もなんとか可能になるし、冥王の指示通りに複雑な攻城機械や火薬などを製作・運用することもできる。

~文化~

非常に好戦的かつ無秩序な種族なので、複数の異なる集団から形成される高等社会構造は作りようがなく、原始的な部族単位で集団を形成している。
その社会は流動性が高く、習俗や言語も絶えず変化している。サウロンは彼らに日常言語として自身が作り出した「暗黒語」を与えたのだが、各部族の間であっという間にスラング化し差が広がってしまった。
そのため他部族間で会話する場合それぞれの暗黒語では通じず、その地方の人間語を共通語にするという本末転倒なことになっている。
冥王の強い制御下にある場合は、本能を押さえてある程度まとまった集団を形作ることも可能になるが、それでも仲間割れや同士討ちは日常茶飯事。

冥王から産み出されたためその力とリンクしている部分が多く、冥王の力が弱るとオークも弱まる。
しかし絶対的な服従こそしているものの、冥王のことを敬愛しているわけではなく、むしろ心中では憎んでいる。
粗暴な気質もあって自発的な忠誠心と言うものはほとんどなく、基本的に厳しい監督下におくか直接的な報酬で釣らないとまともに働かない。

日光に弱いため、洞窟や地下等、日に当たらない場所に部族の居留地を構えることが多い。

特殊分類


『ウルク=ハイ Uruk-hai』
暗黒語でそのまま「オーク達」という意味だが、狭義には「指輪物語」の時代に突如出現した大型のオーク種族のことを指す。
人間並みの大きな体格を持ち、身体能力、知性共に他のオークを上回っている。
しかし何より強化されたのは意志力と社会性で、太陽の光も我慢することができ、衝動性を抑えてまともな集団行動も出来るようになった。人間並みの忠誠心と戦略的思考も持ち合わせており、兵士としての能力はオークより桁違いに高い。

来歴は不明だが、サルマンかサウロンが、オークに人間の要素を加えて作り出した新種族という説が有力。映画では泥沼のような孵化場で大量生産されていた。

『ゴブリン Goblin』
 本来オークの呼び名の一つだが、文脈によっては、通常のオークよりやや小型の亜種を指すこともある。映画ではかなり明確に亜種として設定されている。



【トロル】Troll

暗黒語では『オログ Olog』
トールキン以前の「トロール」は、おおむね北欧における野生的な妖精(決まった外見や大きさが無い)、という定義であり、「悪の大型種族」として規定されたのはこのトロル以降である。
ビジュアル的には非常にわかりやすくまたインパクトがあったため、このモチーフも現代まで殆ど形を変えずに伝わっているが、オークの方が大きく変化してトロルの小型のようなイメージになっている。

~来歴~

オーク同様、上古の冥王モルゴスが作り出した種族。オークがエルフの代用品であるのと同様、トロルもエントの代用品として作られた。

~外見~

オークに比べ、氏族(というか型式?)によって大きく外見・体格が異なるのが特徴。
人間よりは大きく、がっちりしてパワフルな体格というのは共通しているが、それにもかなり幅がある。春麗に対するザンギエフぐらいのサイズのものから、映画に出てきた5-6mもの大きさのものまで。
体色も緑だったり黒だったり白だったり様々な模様。

~生態~

描写が少なく、殆どわからない。雌雄の別があるのか、どうやって数を増やしているのかも不明。オークに比べてもさらに生物としての完成度が低いので、ひょっとするとただ作られるだけで繁殖できない可能性もある。
食性は(作中でわかる限り)オークに似て肉食性。人間の肉もお好きな模様。

~能力~

外見どおり非常にパワフルで、その手にかかれば鋼の鎧もダンボール同然。基本全裸もしくは半裸だが防御力も高く、その表皮を貫いてダメージを与えるのは並の武器では難しい。

そのため一見極めて強力な兵隊に見えるが、知能に致命的な欠陥がある。映画『ホビット』に登場する3匹のトロルも大概アホだったが、あれでもトロルの中では類稀な知性の持ち主である。
大多数のトロルは幼児並の知能しかもたず、会話がギリギリできるかどうかというところ。

またオークよりさらに太陽の光に弱く、直射日光を浴びると体がたちまち石になって死んでしまう。そのため夜間か曇天でなければ外を出歩くことができず、戦争に使える状況は限られる。

~文化~

文化の背景となる社会と呼べるようなものを作れるほど知能レベルが高くない。最高に知的なトロルでも、1人あるいは2-3人で原始狩猟民族的な採集(獲物には人間も含む)生活を送るのがせいぜい。

古い時代は今よりさらに頭が悪く、言葉を話すことさえ出来なかったが、徐々に改良されたのか、ホビット~指輪物語の時代の個体は会話程度なら可能。
しかし自分たちの言葉を成立させるほどではなく、オーク語や人間語をおぼろげにしゃべれる程度である。

日光が大敵なので、日中は「トロル穴」と呼ばれる巣穴で眠ることになる。食料となった人間達の持ち物はその穴に溜め込んだりすることもあるので、トロル穴は他種族にとっては一種のお宝部屋となる。


特殊分類


『オログ=ハイ Olog-hai』
ウルク=ハイと同時期に現れた、戦闘用に改良されたトロル。知能や戦闘能力も多少は向上しているが、何よりウルク=ハイ同様、太陽の光に耐えられるようになっている点が大きい。
これによって通常の戦闘にも投入できるようになり、人間にとってはすさまじい脅威となった。


※追記:修正は『テングワール Tengwar』でお願いします。

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最終更新:2024年04月25日 21:00

*1 人間でホビット並みの大きさは幼児であり、いくら王子クラスでもそのような子供に防具を専用に作るのは考えにくいため。(ミスリル製なのでレプリカとも考えにくい)

*2 当時のゴンドールは王家の血統が絶え、執政家による統治期。

*3 トールキン自身はナチスのアーリア人中心主義を遠回しに批判している他、生まれ故郷である南アフリカのアパルトヘイト政策にも反対の立場を表明している。また、自国イギリスの帝国主義も嫌うなど、差別を助長するイデオロギーに熱中する事に対して冷めた目を向けていた

*4 マイズロスとマグロールはまだしも同族殺しに罪の意識を持っており、エルロンドとエルロスの兄弟の父親代わりとして教育する事で罪滅ぼしをしようとしていたが、ケレゴルムとクルフィンに至ってはシンダール族への逆恨み復讐する気満々を公言していた

*5 中つ国は何千年以上前の旧大陸という設定なのになぜすでにアメリカ大陸原産の植物があるのか不明。トマト(『ホビットの冒険』内でドワーフたちがビルボの家を訪ねた際に食べている)の方はチョイ出で後の版で「ピクルス」になっているので誤記だったのかもしれないが、じゃがいもは『指輪物語』内でゴクリとサムの会話に堂々出てくる。

*6 なお、トマトやジャガイモと同じ理屈で「なんでタバコがあるんだ」というツッコミがあるが、あくまで「パイプ草」であること。並びにリアルでも大麻やアヘンなど他の植物を燃やしてその煙を吸う風習がある地方も存在していたのでそこまでツッコむところではない。

*7 牧人…羊飼いなど、動物の世話を仕事とする人

*8 男のエントが原生の自然を愛するのに対し、女のエントは人工的な畑や庭園を愛する性質がある。この性向の違いから男女で別れて暮らしていたが、女のエントが暮らしていた土地が戦乱に巻き込まれてしまい、以後エント女は姿を見せなくなってしまった。

*9 ただ、「女は犯せ男は殺せ」で邪悪一辺倒な日本の創作に出がちなオークの方が、洋ゲー等に見られる「頑固で偏屈ではあるが誇り高い」というドワーフ像に近いオークよりは原型に近いかもしれない