フェアリー ソードフィッシュ

登録日:2015/06/03 Wed 17:45:00
更新日:2023/04/20 Thu 15:18:47
所要時間:約 9 分で読めます







出典: Wikipedia



フェアリー ソードフィッシュとは、フェアリー・アヴィエーションが開発した三座複葉雷撃機である。
機体の前にプロペラがついてて、それを上下から挟み込むような形で翼が2枚ついてるアレである。
どこに出しても恥ずかしくない、英国海軍航空隊所属英国面の中でも伝説的に活躍した機体。
伝説的に活躍しただけあって知名度も高く、創作でも時々出てくることがある。
名前の意味はカジキ類のメカジキ。突き出た口が剣に見えるからだってさ。


性能諸元(Mk.II)

全長:11.22m
全高:3.8m
翼幅:13.9m
翼面積:56.39㎡
空虚重量:2,130kg
最大離陸重量:3,406kg
エンジン:ブリストル ペガサスMk.XXX 空冷星型レシプロエンジン560kW(750hp)1基
最大速度:222km/h
巡航速度:167~207km/h
航続距離:880km
実用上昇限度:3,260m
固定武装:7,7mm機関銃2門(前方固定、後方旋回各1門)
爆装:680kg(魚雷、250ポンド爆弾2発、500ポンド爆弾2発、Mk.VII爆雷、60ポンドロケット弾8発)
総精算機数:2,396機


開発経緯

ソードフィッシュの原型となったのは、1930年にフェアリーが自主開発したPVというプロトタイプである。
自社コードがPVだからってアニメやゲームは関係ないぞ。
元はといえばギリシャ海軍向けの輸出型としてチマチマ作っていたのだが、これにイギリス国防省が目をつけた。

国防省「エンジンを換装して多目的雷撃機にするのデース!

こうして生まれたTSR.1は33年7月につつがなく初飛行を行うが、2ヶ月後に事故かなんかで失われる。
その結果をもとに新たな仕様要求書がまとめられ、34年4月17日に改良機が初飛行し、晴れてソードフィッシュと名付けられた。
制式採用は翌35年で、43年からはエンジンをアップデートしたMk.IIに移行している。
また、40年10月以降からは対潜レーダーを装備し、対潜哨戒機として船団護衛も行った。

複葉機最末期の設計だけあって、布張り複葉に開放式コクピットととことん古臭く枯れ切った設計だが、
まさかこの設計のおかげで伝説的英国面と称えられ、時に英国海軍最良の雷撃機とも呼ばれようなど、
当時のフェアリー社一同は想像だにしてなかったに違いないというかできるわけねーだろ、いいかげんにしろ!

一応、原型機開発当時は全金属単葉機は殆ど未知の分野で、当時の英国海軍の空母も色々と難あり艦だらけ*1だったので、枯れた技術で使いやすく仕上げた、
という至極真面目な設計理論に基づいてるのである。結果として英国面カッコガチになったわけだが。


戦歴

敵国たる独伊海軍が航空戦力をあまり重視しておらず空母も艦上戦闘機も戦争に間に合わなかったため、敵の戦闘機に遭遇する機会が少なく、
軍港や沿岸の近くから飛び立つ陸上戦闘機しか敵として計上できなかったために、意外や意外大活躍。
タラント空襲では泊地奇襲を鮮やかに成功させ、イタ公の誇る新鋭戦艦リットリオや魔改造艦コンテ・ディ・カブールなどをボコり、
ただでさえ消極的だったイタリア主力艦隊を文字通りのヘタリア化させた。

ビスマルク絶対ブチのめす大作戦ではアークロイヤル所属機がビス子に雷撃を敢行、見事に舵を破壊している。
が、シャルンホルストと愉快な下僕どものチャンネルダッシュでは待ち構えていたルフトヴァッフェにフルボッコにされ、
文字通り全滅しちゃって、シャルンホルストの艦長に同情されたりしている。まあ、これは護衛機出さなかった上層部が悪い。
……出しても本機じゃ追いつけずにgdgdになるのは密に、密に。
しかし全滅するまで尋常じゃない時間を浪費させて護衛隊を拘束しており、その疲労たるや凄まじいものだったらしい。

雷撃機として運用されていたのはこの辺までで、これ以降は後継機にその任を譲り、船団護衛や対潜哨戒に従事した。
特に複葉ゆえの低速低負荷な性能特性は対潜哨戒機としてはうってつけで、商船改装艦でも運用できる運用性の高さもあって、
旧式機なのに新鋭後継機より重宝がられたというから恐ろしい。

まあ、活躍できたのは大西洋のみで、太平洋に進出した部隊は零戦に美味しく頂かれてるんだけどな!


性能とか評価とか

時化って荒れ狂う大西洋、しかもMACシップ*2からでもホイホイ飛ばせるという、複葉機ならではの離着艦性能に加え、
低速・低負荷・低難度操縦性という三種の神器が三身合体していたこともあって、
哨戒任務や船団護衛に完璧にマッチした性能特性を持っていた。
さらにレーダーやロケット兵器の発展も相まって、軽量で火力もそれなりに確保できたため、昼夜を問わずUボートを狩りまくり、
デーニッツ以下潜水艦隊司令部の胃壁とSAN値をゴリゴリ削り落としている。

ただ、たかが対潜哨戒機として活躍した、という程度では伝説的英国面と称えられはしない。
本機が英国面カッコガチである最たる理由――それはズバリ古すぎて遅すぎたという点に尽きる。

「遅すぎて」追尾できない

上記性能諸元を見れば存分に理解してもらえるだろうが、大戦当時の最新鋭機が速度性能を競っていたのとは真逆で、
本機はとことん「遅い」。爆撃機でさえ最大速度400km/hからの時代に、その半分以下の167~207km/hである。
この「遅さ」がもたらしたある種ギャグ補正のような本機特有の機体特性こそ、「遅すぎて追尾不能」である。

何せ、まともに追っかけて機銃掃射を浴びせようと思ったら、フラップを全開にし、主脚を降ろしてもまだ足りず、
そこまでして追っかけた先に待っている末路は

最悪の場合失速速度を下回り、母なる大地or海に熱烈なキスを敢行

という、敵からしたら悪夢か白昼夢以外の何物でもない光景である。
失速速度ってなんぞ? という諸兄はとりあえずググれ。簡単に言うと、その速度以下では浮いていられないという数字。


世に「速すぎて追尾不能」な機体は創作含めて数あれど、「遅すぎて追尾不能」な機体はコイツ以外おるまい
で、そこまで遅いなら地上や艦上からの対空砲火なら釣瓶撃ちにできる、と普通は思うだろう?
狙い放題当て放題のボーナスタイムだと思うじゃん?違うんだなぁこれが

ビスマルク絶対殺すレンジャーと化した英海軍の例に漏れず、本機がビスマルクの足止めに参加した時のことだ。
単艦でうろついていたビスマルク側も、航空機の迎撃にはそれなりに自信があった。
敵機の進入角に合わせ、至近起爆する最新鋭の対空砲弾を多数用意していたからだ。

が……ダメ!ソードフィッシュが遅すぎて炸裂が機体のはるか前方で起こってしまったのだ!!
何が起こったのかというと、本機の速度が遅すぎて、想定速度の下限値を全力ブッチしてしまっていた
自軍のように近代的な金属外皮の単葉機を使ってくる、と思っていたドイツ技術廠の想定のはるか斜めを、
某太陽の子並みの前方バック中で飛び越えていった結果である。

ちょっとでも間違えれば翼が揚力を失うほどに速度を落として、
訓練どころか見たこともないような激遅飛行機をわずかなチャンスに撃てってそんな無茶な。

「古すぎて」なかなか落ちない

本機は本格的♂複葉機である。つまり鋼管フレームに布張りであり、常識的に考えればひどく脆い、と誰もが思うだろう。
ところがぎっちょん、この「古すぎる」機体構造がアホみたいな耐久性をもたらしたのだ。

具体的に言うと、金属外皮は被弾すると大きな破孔を露呈する。
これはなぜかというと、まあ理由は色々あるのだが、要は周囲を巻き込んでしまうわけだ。
ところが布張りの複葉機はというと、被弾してもただ穴が空くだけ。
被弾が近代的軍用機のように、バコバコ大穴かっ開いて墜落には直結しないのだ。
最悪空いた穴に適当な布をあてればまた飛べる。何かの冗談のようだがガチである。

しかもインテグラルタンク*3なんぞという高尚なものを翼内に仕込んでないので、翼を狙おうが穴が空くだけ。
運悪くフレームに当たればちぎれるかもしれないが、帰還さえできれば鋼管を取り換えるか繋ぎ直し、布を張り替えればあら不思議。
正午に帰ってティータイム後に再出撃だって不可能ではない。
さらに万が一機体に着火したとしても、手の届く範囲なら革手袋で叩きゃ鎮火余裕

つまりコイツは、エンジンかパイロットを正確に狙わないと撃墜すら不可能な、別の意味で変態じみた耐久力の持ち主なんである。
何せ175箇所被弾しながら帰投したとかいう、ジャグ二式大艇じみた逸話の持ち主もいるくらいだしな……
もうアレだ、ギャグ漫画の登場人物が補正そのままで現界したようなもんだろこれ。

ちなみに、鋼管繋ぎ直して布張り替えるだけ、というテントばりにお手軽かつ極まりすぎた整備性のおかげで、
大量に補修物資を持ち込んでも場所を取らないという、別方向にガチすぎる運用性の高さまで持っていたりする。
零観もそうだけど複葉機ナメたらいかんね、うん。あっちは全金属製だけど。
でも「敵機が落ちにくかったらパイロットを直接ぶち抜けばいいじゃない」とか言う太平洋の変態達には敵わなかったよ……

ロイヤルネイビー式オカンの買い物籠

とまあ、かように対空戦闘以外は全てこなせるという嘘と冗談と英国面を総動員した運用性を見せつけた本機は、
現場から“ストリングバッグ”という一種の尊称を奉られ親しまれた。
“ストリングバッグ”とは、要するに「何でも入る買い物籠」という意味で、
カーチャンが買い物から帰ってきた時、嘘のように色々放り込まれてるのになぞらえた愛称である。

後継機を受領し、機種転換後に本機に差し戻した部隊もある、というから恐れ入る。
当の後継機が黒歴史ばりにgdgdしまくって、使いたがる連中がいなかったってのもあるんだけどな!

とはいえ欠点も

とまぁ想定超えた活躍した軍用機ではあったが、得意不得意や欠点がはっきりしやすい兵器の例に漏れず本気にももちろん問題はあった。
単純に飛行性能と防弾性能が低すぎたこと。上述したようにその低さが逆にメリットとして機能した時はまさに無敵、逆にいえばメリットとして働かない時はただの空飛ぶ的である。

それが躊躇に裏目に…いや表目か?現れたのが日本戦時である。
もともと離着艦性能を重視する傾向の強い帝国海軍機は他国機と比べ頭一つ抜けて失速に強い、つまり追尾するのも比較的容易だった。
さらに日本は何故か対ソードフィッシュ兵装といっても過言ではない実態はこの時期の戦闘機相手ではもはや塗装を剥がすくらいしかできないはずのへなちょこ7.7mm機銃を装備していたことが多かった。
そもそも零戦は雷撃機狩り・艦船の上空援護を任務とする艦上戦闘機なので、開発開始時に第一線に配備されていた雷撃機や開発終了時に配備されているであろう次世代雷撃機の駆逐を最優先任務としており、ソードフィッシュやデバステイター、その次世代機*4を必殺する為に作られているので、最初からソードフィッシュの天敵として作られているのだ。

ソードフィッシュが被弾に強かったのは機体を損壊させる弾丸であって、
例え機体へのダメージは少なくとも、要たるパイロットをダイレクトに潰してくる機銃の雨にはどうしようもなかった。

同様の理由で陸上兵器が装備する機銃にも弱かった。

機体バリエーション

○TSR.1
第一次試作型。初飛行の2ヶ月後に失われた。

○TSR.2
第二次試作型。エンジンが強化型に換装された。

○ソードフィッシュMk.I
初期生産型。主脚を換装して水上機型への転換が可能。

○ソードフィッシュMk.II
43年より生産開始した第二次生産型。エンジン周りを防弾板で保護している。

○ソードフィッシュMk.III
Mk.IIをベースにASVレーダーに換装。より高い索敵能力を得た。

○ソードフィッシュMk.IV
Mk.IIかIIIを密閉式コクピットに改装した機種。その他の変更点は特にない。






追記・修正はソードフィッシュでUボートを海の藻屑に変えてからお願いします。

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最終更新:2023年04月20日 15:18

*1 小型低速のアーガスとハーミーズ、大型だが低速の戦艦改装空母イーグル、離陸滑走距離の短い機体でないと発艦が難しい二段甲板空母のカレイジャス・グローリアス・フューリアス。英国海軍初の近代型空母となるアーク・ロイヤルの就役は、ソードフィッシュ採用の3年後である。

*2 商船改装型超簡易護衛空母

*3 翼内燃料タンク

*4 第二次大戦後期の米主力雷撃機であるアヴェンジャーも初陣のミッドウェー海戦ではミッドウェー島基地航空隊のB-26陸上攻撃機4機と共同戦線を張ったにも拘らず、6機中5機撃墜、B-26も4機中2機が撃墜、逃げ帰った2機も大破修理不能と零戦に大惨敗を喫している