生きている脳

登録日:2014/08/24 (日曜日) 12:47:24
更新日:2024/03/31 Sun 12:46:23
所要時間:約 4 分で読めます





作家・筒井康隆が過去に書いたSF短編小説のひとつ。
1986年にTBSラジオで放送されていたラジオ番組「ミステリー・ゾーン」でラジオドラマ化されており、
現在は講談社から発売された短編集「ウィークエンド・シャッフル」と、角川書店から発売された短編集「くさり」に収録されている。


【あらすじ】

不治の病で余命いくばくもない資産家の男が、
「自分が築き上げた会社や財産が親族や重役の連中に食いつぶされるのが心配でならない。何か延命する方法はないだろうか」と医者に相談する。
医者は「治療は不可能だが、冷凍睡眠の保存でなら延命することは可能だ」と言う。
冷凍睡眠は既にドイツで成功していて、かつ、装置を作るのに途方もない時間がかかるから、脳保存で延命するのはどうだと男に勧める。
男は「脳だけで生きても見たり話したりすることが出来なければ、意味がないじゃないか」と文句を言うが、
医者は技術が発達すれば脳の神経に取り付けるセンサーやマジックハンドが開発されるだろうから心配ないと言い、
さらに「この方法で延命すれば、 理論上、何百年も生き続けていられる 」と語った。
男は医者の「何百年も生き続けていられる」という言葉に釣られ、脳保存で延命することを決意するが……。


【登場人物】

余命わずかな資産家。
若い頃から築き上げた会社や財産が、強欲な親族や重役達によって食いつぶされることが心配でならず、
どうにかして延命する方法はないかと医者に相談した。
医者の言葉に乗せられて、脳保存で生き続けようと決断するが…。

  • 医者
男から延命の相談を受け、功名心に駆られ、今まで前例の無い脳保存を男に勧める。
一応医者としての技術は本物。











【以下ネタばれ】














男の身体から脳が切り離された。
脳神経は後々センサーやマジックハンドを接続するために残された。
脳を培養液に浸すと活発な脳波が観測され、手術は見事成功。
培養層の中で、脳は安楽そうに、ぷかぷかとたゆたっているように見えた。





麻酔が切れて、培養水槽の中で意識を取り戻した時、男を襲ったのは 激痛 だった。

末端の細い神経線維がほんの一本断ち切られただけでも、人間は目のくらむほどの痛みを感じる。

脳だけとなった男が味わっているのは、その 何十倍・何百倍の痛み だった。

全ての抹消神経が断ち切られているからだ。

目のくらむような痛み、と言ったところで、彼には最早目は無かった。

悲鳴を上げたくても、発声器官が無かった。

のたうち回るための五体が無かった。

この世のものと思えぬその苦しみを、他人に訴える手段は一つもなかった。

男は、 痛みだけを感じ続ける存在でしかなかった

『痛いいぃぃぃぃッ!!!!
畜生ッ、あの医者に騙されたあぁぁぁぁッ!!!!
こんなんだったら死んだ方がましじゃああぁぁぁぁッ!!!!
誰か、ワシを殺してくれえぇぇぇぇッ!!!!
この培養水槽をブチ壊して、脳だけのワシをひと思いにグシャッと踏みつぶしてくれえぇぇぇぇッ!!!!
あぁぁぁぁッ、痛いぃぃぃぃッ!!!!

一体、いつまで続くんじゃあッ!!!?
この痛みは、いつまでぇぇぇぇッ!!!?』

男の思考の中で、医者の言葉が何度も繰り返される。

(理論的には、 何百年も生きられます 。ええ、 何百年も





追記・修正は、脳神経につなげるセンサーやマジックハンドを開発してからお願いします。

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最終更新:2024年03月31日 12:46