奴隷

登録日:2009/11/11 Wed 12:46:06
更新日:2024/04/14 Sun 22:54:20
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【どれい】

戦争の敗戦国民や囚人、借金の片として人間でありながら物や財産、家畜のように所持、売買、譲渡され、家事や農業、工業等に従事し、人権や人格を無視した扱いを受ける人物、またはそのような階級や身分を指す言葉。

主に労働力として取引されるのは前述した通りだが、性行為を強要するために所持される奴隷を性的奴隷と言う。

敵を殺し尽すより他国や他地域から拉致、誘拐した方が利益になるし、場合によっては敵の抵抗を抑えられる*1ため、重要な輸出品として重宝され、無益で過剰な殺戮を抑える役割を果たしもした。

このような奴隷を許容する体制を奴隷制と呼ぶ。
古代日本の奴卑も同様のものとされる。

有史以来世界中あらゆる国がこの奴隷制を取っていたが、16世紀末の日本で豊臣秀吉が伴天連追放令に伴う奴隷売買の禁止を打ち出し、18~19世紀のイギリスによる国際的奴隷制度禁止運動、1948年に国連により採択された世界人権宣言国際的に一切禁止されている。
それでも世界には非合法な奴隷がまだ2700万人もいると言われている。
一部の発展途上国や紛争地域等では人身売買をしたり、個人を拉致監禁し暴力等によって奴隷化したりする犯罪も多数発生している。
そんな強制的な労働でも稼げる、逆にそんな労働でなければ稼げないような社会状況とも無縁ではないだろう。

奴隷=酷い扱いという印象を与えたのは、15~19世紀のアメリカ合衆国において身分差別+人種差別でより陰惨となった黒人奴隷によるものが大きい。

基本は上記の扱いだが、「奴隷」と一口に言ってもその扱いは仕事内容や購入目的などでピンからキリまである。
現代日本で一般に想像されるような奴隷はいわゆる「農場奴隷」や「炭鉱奴隷」と言った単純な肉体労働に従事する者たちで、上記のアメリカの黒人奴隷もこれが大半。彼らは替えの利く労働力として文字通り死ぬまで使い潰されることが多かった。ガレー船の漕ぎ手でも奴隷が使われる事が多かった。
一方で古代ローマ等では高い教養を持つ奴隷は重宝されたり、その活躍によっては市民権を得る事もできたり*2、「奴隷の身分は主人の身分の1/2」とされたイスラム世界などは、平民よりも身分が高い奴隷が宗教的指導者にまで上り詰める例もあった。
旧約聖書によると、イスラエルでは7年ごとに徳政令が出て奴隷は必ず自由にされたとの記述がある。一方、主人や主人から与えられた妻子等に愛着があって自由を望まなければ一生奴隷として仕えることも選択できた。

また、現代でまとまった金になる仕事の大半は専門的な技量や知識経験、それにまつわる各種規格や法規制などをクリアしなければならないものばかりである。
「奴隷で稼ごう」と思えば奴隷にそれなりの専門技能を身につけさせなければならず、鞭でひっぱたいてようやく動くような人間にそのような技能を身につけさせるのは困難である。技能も無いまま無理やりやらせようものなら事故&不良品続発で瞬く間に大赤字である。
また、最低限の衣食住や休息時間を提供しなければ人権以前に医学的に労働不能な状態になるし、器具や材料と言った環境もこちらで整えなければならない。
現代の日本で一番奴隷に近い立場と思われる懲役刑の受刑者でも、刑務作業による収益よりも刑務所の運営経費の方が遙かにかかっている*3

まあ美貌や特殊技能が無いと文字通り一般的なイメージどおりの待遇になるのは間違いないが。

可哀相だからと奴隷商人から奴隷を買ってはいけません。
仮に買った奴隷を幸せに出来たとしても、連中はその資金でまた それ以上の人数を誘拐し、売り飛ばします。 つまり、奴隷を救うどころか奴隷ビジネスそのものの活性化に貢献してしまうだけです。
たとえあなたがどれほどの資産家だったとしても、海外に行っても買ってはいけません。

創作において

とまぁ、世界規模で極めてセンシティブな話題のため、近年の作品ではよほどニッチな形態で販売されていたりCERO:Z級の作品でない限り『奴隷』という表現そのものを悉く自粛される傾向にある。
『奴隷』を扱った過去作品の復刊やリメイク、移植などが行われた場合は該当する表現を変えられたりはもちろん、それだけでは払拭しきれないと判断された場合はその展開や設定そのものが奴隷を彷彿させない形に改変・最悪カットされたりすることも珍しくない。

スパロボではコンバトラーの「どれい獣」が後期の上位種である「マグマ獣」に統合されたうえで、「本当は○れい獣だが、やばいので変更された」と説明された。異世界でマグマがなんちゃら

奴隷になった(或いは奴隷からはじまる主人公がそこから決起して逃げ出し大冒険を始めたり、心優しい王子様な主人公が奴隷制度を廃止させようと奮闘するも奴隷無しでは物理的に回らない社会であるが故逆に主人公が批判されたり、ホワイトな雇い主の元でそれなりに充実して暮らせている奴隷から反発されたり、様々な展開に発展できる便利な設定だったりする。

石ノ森章太郎原作の漫画『サイボーグ009』の008/ピュンマは、奴隷商人に奴隷として連れていかれそうになった所を脱走したという過去がある。*4

トマトスープの漫画『天幕のジャードゥーガル』では、主人公のシタラ(ファーティマ)がイスラム教圏の奴隷。
奴隷ゆえに幼い頃は「元の場所に戻る」事すら出来ない身を嘆くも、良い出会いと主人達を得た事で学問を学び成長。将来恩人の傍に仕える事を願うも、モンゴル軍の襲来で捕虜→モンゴル王族下の奴隷となった事で数奇な運命をたどる事に…。
なお史実ベースで描かれているため、作中では奴隷として「自由」と「権利」こそ制限されているものの、イスラム圏時代・モンゴル時代共に主人達からは普通の召使の様に扱われている。

さちみりほの漫画『銀のヴァルキュリアス』の舞台は、女が支配者・市民、男が奴隷という異世界である。
奴隷を矢の的にする、要らない奴隷は道端に捨てられるなど男は人間以下の扱いで、幼い少女ですら弟は将来自分の奴隷になるからとこき使っている。

また、近年ではネット小説…もとい小説家になろうあたりのファンタジーモノ、異世界モノあたりだと、主人公が奴隷を買うという展開も多い。
(例:「盾の勇者の成り上がり」「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」*5など)
家具家電が現代日本ほど便利ではないので、面倒な家事炊事をやらせよう、とお手伝いさんを雇う気持ちで行うものが大半であり、
元居た現代日本ではブラック企業勤めorいじめやら冷遇を受けた経験があり、そんな主人公が現代人の人権観で奴隷に接するため、死活を握られていて地獄のような日々を覚悟していた奴隷は優しく接してくれる主人公様にベタ惚れ...というのがなろう作品における典型的なテンプレ展開である。なお、当然の如く奴隷は美人な女の子である。*6
もちろん「とんスキ」やら「10年ニート(Web版)」など、この手のテンプレ女性ではないパターンもあったりはするが。

ただ、こういう展開は身も蓋もなく言えば何の実績も無い段階の主人公が手っ取り早く、かつほぼ無条件で女性の信頼・好意を得る常套手段であり*7、作者側としても主人公が自力でヒロインの心を掴む過程の大半をすっ飛ばせるため一時期は魔法やステータスボードに継ぐ頻出ワードで、それ故かなり嫌がられた時期もある。
そして、「現代日本との対比」の象徴として風刺として出てくるものの、自身の死活すら物理的に掌握された史実上の奴隷と、逃げ出す事自体は自由にできる日本の社畜を比較の対象にするなという現実とフィクションを割り切れない厳しいツッコミを受けることが多々ある。特に奴隷界隈に敏感な外国人含め多くの人の目に触れるアニメ化された作品ではこの手の展開は非常に批判されやすい。

更に主人公が現代出身、かつその記憶を継いでいる場合、「奴隷ビジネスに関わってはいけない事は現代では常識で、更に上述したような扱いを受けて奴隷とは何たるかも想像出来る筈なのに、何故ホイホイ奴隷市場に買い手として関わるのか」と、主人公の倫理観についても批判を受ける事があり、主人公が作中でいかに人格者としての立派な姿を見せたり偉業を成し遂げたとしても「でもコイツは普通に客として奴隷買ってたよね」という一定数のケチが末永くついてしまう事も…。
主人公が前世でいじめられ差別された、ブラック企業で搾取されたという辛い経験があった場合、「そんな倫理観の持ち主は嫌われて当然」「その程度の教養ならブラック企業に就職は妥当」と、いじめや差別に否定的な人たちからも手厳しい意見をぶつけられる。
それでも作中で『本来それはいけない事である』とフォローがなされているならやり方次第で中和剤になる事もあるが、それすら無くその展開および奴隷との出会いを是としているとみなされると、最悪作品を通り越して作者自身にさえ批判が及んでしまうという事態になることも…。
異世界転生もの最初期に執筆され、10年越しにアニメ化されたとある作品に至っては、主人公が奴隷を買うという展開を国内外から批判された結果、原作者がTwitterにて弁明する事態にまでなった。

この手の奴隷が存在する作品の多くは「一般奴隷」と「犯罪奴隷」が区分けされている事が多い。
前者は「労働力」を提供する商品として自分を売った存在なので、R18やR18Gのような事をしてしまうと購入した主人の方が罰せられる。
どれかっつーと「住み込み労働者(期間:自分を自分で買い取れるまで)」とかの方が近いかも。
後者は何かしらの罪を犯した人が落ちる階級であり「買った人が何をしても罪に問われない人間以下の存在」という現実の奴隷に近い物となっている。
こちらの奴隷の主な使い道は購入者のストレス解消、及び戦闘の捨て駒である。

なろうファンタジーではこれに加えて「被差別種族だから」という理由でエルフや獣人、モンスター娘などが奴隷落ちする場合もあり、この場合はほぼ犯罪奴隷と同じ扱いを受ける。
(例:勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う
外観は美人な女の子なのに被差別種族だからという理由で雇い主から性的な目では見られず処女であるのは、なろうによくあるご都合主義である*8
そして主人公サマは私たちを差別しないからと、外見で差別され迫害された身なら仕方ないかもしれないが、モンスター娘を差別する理由がない現代人からしたら「しょうもない理由」でベタ惚れするまでが、転生チートもの作品のテンプレである。

奴隷は基本的に人権を無視された存在で、アダルトゲームや漫画等でも度々使われる表現であり性奴隷は肉便器とほぼ同義語。

よくあるメイドもの等とは違い、主人が望めばどんな時でも場所でも体を提供しなければならない。

まれにものすごく愛される幸せな奴隷もいるが、自主的に望んで奉仕するよりは拷問レイプ等の鬼畜系だったり、精神崩壊しておねだりするようになったりする表現が多い。

またサディストな主人だとスカトロ等の変態的なものや、場合によっては手足を切り落とされたり……

特権階級の主人と奴隷の禁断の恋をテーマにしたラブストーリーもある。恋愛に限らず身分を越えた絆を育むことも多い。いずれにしても主人側の部下や関係者が「お前何奴隷なんかに絆されてんだよ目ぇ覚ませ。自分の立場分かってんの?」などと二人を引き離そうとするのがお約束の展開である。

もちろんこれらは犯罪なのでみんなは真似しないように。

近年では流石に展開として使い古されすぎ・主人公の行いとして倫理的によろしくないと判断されつつあるためか、転生したら剣でしたのように奴隷を買うのではなく奴隷商人から逃げた奴隷を保護したり、奴隷組織を倒したときに生き残っていた奴隷を個人的に引き取るなど、奴隷ビジネスに与しない形で奴隷ヒロインと出会う流れな作品も増えつつある。













「奴隷は持たざる者……猶予の無い……虐げられし者……、
 しかし……その何も持たない……どうしようもない奴隷だからこそ……追記・修正ができる……と……!」

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最終更新:2024年04月14日 22:54

*1 皆殺しにされるなら命がけで最後の抵抗を試みるが、命が保障されるなら投降を考えようという者も出てくるし、それで敵が投降と交戦で内部分裂でも起こしてくれれば万々歳。ただし「命は保証する」と言う約束が守られることを示す必要があるため、口だけで保証するのでは意味がない。

*2 そもそも古代ローマにおける奴隷は「市民権を持たぬ者」という意味合いが強く、隷属的な立場という意味合いとは異なる。

*3 令和2年度の懲役刑による収益は年間28億円だが、法務省の矯正関係経費は年間およそ2400億円である。(矯正関係経費は刑務所のみの予算ではなく、少年院等の経費も含まれるが)

*4 アニメ版では当然このくだりは改変されている。

*5 メディアミックスに伴い、「異世界迷宮でハーレムを」に改題

*6 奴隷を商品としてみる場合、客からの需要が高くなければ高値で売れないので、美人な女の子を奴隷として売るのは理に適っているとも言える

*7 中には周囲の実力者などからも『奴隷を丁重に扱い様々な功績を上げる期待の新人』的に一目置かれる展開もついてきたりする。

*8 これについては『確かに見てくれは整ってるが、それでも穢らわしい○○族であることには変わらない。こんなのと肌を重ねるくらいなら人間の安い娼婦を抱いた方が万倍マシ。』という風潮描写が挟まれたりする。人間の性欲の底知れなさを鑑みると相当苦しいのは否めないが…。